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第57号お奨め国内盤新譜(1)



AEON

MAECD1101
(国内盤)
\2940
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750)
 1. オルガンのための幻想曲とフーガ ト短調 BWV542
ベーラ・バルトーク(1881〜1945)
 2. 無伴奏ヴァイオリン・ソナタsz.117
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
 3. チェンバロ独奏のための組曲ト短調 BWV822
テディ・パパヴラミ(ヴァイオリン)
ラ・フォル・ジュルネ来日間近——多芸をきわめる知性派パパヴラミが、またもや...
ぴたりと決まるバルトークはもちろん、驚くべきはバッハ作品。なんと「あの6曲」ではない?それは鍵盤楽器と同じくらい、バッハが終生弾き親しんだ楽器。有無を言わさぬ説得力!ご存知の方はご存知、というか日本にも熱狂的なファンが少しずつ増えてきているフランス楽壇最前線のスーパープレイヤー、テディ・パパヴラミ。アドリア海をはさんでイタリアの“かかと”の対岸、ギリシャの北に隣接する小国アルバニアの出身で、この国にまだ共産主義政権があった頃に少年時代を過ごした彼は、フランス随一のフルート奏者アラン・マリオンに見出されてフランスに移住、僅か10 年ほどのあいだにスターダムにのし上がって来たのが20 世紀末のこと。今やヨーロッパではローラン・コルシアやイリヤ・グリンゴルツら同時期にのし上がってきた個性派たちとともに、押しも押されぬ大物になりつつあるわけですが(しかも、今年5月にはラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンでの来日が予定されています)、ありあまる実力一本でも充分勝負できるでしょうに、その腕前ばかりを鼻にかけた活躍に甘んじず、室内楽にも取り組めばユニークな企画も提案してくる、それこそ駆け出しの若者のような好奇心をいつまでたっても忘れないのが痛快なところ。そう——今回のアルバムも、完全な無伴奏でありながら通り一偏のつまらない企画とはおよそ程遠い、思わぬ興奮を約束してくれるプログラムなのです!バッハとバルトーク。無伴奏。しかし軸になるのはバッハ作品ではなく、むしろバルトークの無伴奏ソナタ...パパヴラミはフランスでは文筆活動でも知られるマルチタレントで、とくに同じアルバニア出身の作家イシマイル・カダレの専属仏訳翻訳者もつとめているのですが、今回も自らアルバム内容にいてのエッセイを寄稿しており(もちろん全訳添付します)、それによると「聴き手も弾き手もなぜか虜になってしまうバルトークの無伴奏ソナタを録音しようと思ったのが先」で、バッハ作品の併録はあくまでその後にあれこれ考えた結果だったとか...しかし「バッハ無伴奏」といっても、あの超・有名な「ソナタとパルティータ」などではないのです。2曲選ばれたバッハ作品は、BWV542 の『幻想曲とフーガ』とBWV822 の組曲——そう!かたやオルガン曲、かたやチェンバロ曲、いずれも鍵盤楽器のための作品からの編曲なのです!パパヴラミは以前にもD.スカルラッティの鍵盤ソナタをヴァイオリン独奏で14曲も演奏するという、およそ誰も試みなかったであろう無伴奏編曲をみごとな名演で敢行してみせているのですが(MAECD0644)、ここではさらに一歩進んで、本来なら足鍵盤まで動員される(つまり、譜段が3段も使われる!)オルガン曲までヴァイオリン1 挺で弾いてしまうのですから、もう唖然とするほかありません...なにがすごいって、その演奏結果がびっくりするくらい自然で、痛烈な求心力で私たちを惹きつけてやまない仕上がりになっている点。チェンバロのための組曲も同様で、リズミカルな舞曲などは(作品そのものの珍しさも手伝って)当初からヴァイオリンのための音楽だったかと思うほど(確かにバッハは鍵盤楽器同様、晩年までヴァイオリンを好んで弾いたわけですから、なるほど、と)。これら驚くべき編曲の合間に挟まったバルトークの有無を言わさぬ金字塔的名品は、ただでさえ飛びぬけたクオリティの演奏解釈なうえ、前後の曲との兼ね合いか、まるで初めて聴く作品のようなみずみずしさで響くのです!パパヴラミ、おそるべし——思わず何度も聴き確かめてしまう、痛切な新・名盤!

ALPHA

Alpha176
(国内盤)
\2940
ラモー:『恋の神に驚かされて』
〜ヴィオール二重奏でオペラ=バレを〜
ジャン=フィリップ・ラモー(1683〜1764)/
 ルートヴィヒ・クリスティアン・ヘッセ(1716〜1772)編:
  オペラ=バレ『恋の神に驚かされて』(1748/57/58)
Ens.ドゥ・ヴィオール・エガル
ジョナサン・ダンフォード、
シルヴィア・アブラモヴィチ(ヴィオール [=ヴィオラ・ダ・ガンバ])
ピエール・トロスリエ(クラヴサン [=チェンバロ])
以上、オリジナル古楽器使用
モニク・ザネッティ(ソプラノ)
ステファン・マクラウド(バリトン)
ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)の典雅さと多彩な表現力は、変幻自在のバレエ音楽さえふたつの楽器ですべからく描きあげてしまう——本場フランスの古楽界を牽引する超・実力派ダンフォード、豪華メンバー、そしてAlpha。雅びでスリリングな1時間をどうぞ。
「古楽先進国」といえば、なんといってもフランス——かつてはオランダやイギリスを横目にひどい古楽後進国だったのが、1990 年代を通じてヘレヴェッヘ、クリスティ、マルゴワールらカリスマ古楽指揮者たちが続々活躍、ヴェルサイユ・バロック音楽センターやパリ楽器博物館のように多角的な専門研究機関も発足し、21 世紀に入るやル・ポエム・アルモニーク、コンセール・ダストレ、あるいは前世紀からのレ・タラン・リリークやルーヴル宮音楽隊など傑出した古楽バンドの活躍、あるいはジャルスキー、ピオーらスター歌手の台頭によって、フランスは今や「ヨーロッパで最も古楽が注目されている」国になっています。それはもちろん、この国に中世からつづく音楽文化遺産がたっぷりあればこそのこと。そしてその素晴しさを知らしめるのに一躍買ってきたのが、この国で活躍し、この国の文化人たちに認められてきた外国人芸術家たちでした。フランスにおける古楽復興を支えた重要な古楽奏者のなかにも、クラヴサン(=チェンバロ)奏者のウィリアム・クリスティやスキップ・センペのようなアメリカ人たちが含まれていることは注目に値します。そしてヴァイオリンやチェロにもましてバロック期のフランス人が偏愛した弦楽器、ヴィオール(ガンバ)の演奏家にはジョナサン・ダンフォードというアメリカ出身の大御所が!長らく音盤シーンをご覧になってきたバイヤー様のなかには、この俊才がジョルディ・サヴァールやジェイ・ベルンフェルドらとともに、知られざるフランスのヴィオール芸術の粋を丹念に発掘してきたことをよくご存知の方もいらっしゃることでしょう。外国人だからこそ、人一倍その国の文化への憧れが強い——その愛着が、その国の芸術の真髄をぴたりと探り当てる、ということは往々にしてよくあること。今回ダンフォードは、そうした状況がそもそも18 世紀当時にもあったことを、思わぬ手稿譜の発見によってありありと示してくれました。18 世紀、大バッハの次男エマヌエルを冷遇したことで知られるドイツの有力君主フリードリヒ大王は、若い頃から読書や美術愛好を通じ、ロココ芸術や啓蒙思想に憧れつづけたフランスかぶれ。宮廷は次代フリードリヒ=ヴィルヘルム2世の治世まで、つまり18 世紀末まで「ガンバ芸術の最後の牙城」だったほど...ダンフォードが発見したのは、この宮廷のガンバ芸術を支えていた名手L.Ch.ヘッセが、ラモー後期のオペラ=バレを1編まるまるガンバ二重奏と通奏低音のために編曲した、思わぬ充実楽譜でした。聴き始めてすぐ、あのラモー特有のぶあつく色彩的なオーケストラを、ガンバの繊細な美音のニュアンスはみごと細やかに再現できてしまう、そのことに驚かされずにはおれません。うわついたロココの恋愛情緒を、名盤あまたの俊才古楽歌手ふたりとともに、ガット弦のさまざまな響きが描きあげてゆく、フランスにしかない独特の響き...しかしその旨味をフランス人よりも正しく浮かび上がらせたのが、フリードリヒ大王の宮廷にいたドイツ人音楽家だったというのは、なんとも興味深い話ではありませんか。フランス古楽にこだわりあり・の仏Alpha レーベルも認めた「本物の逆輸入芸術」。アルチザナル(職人芸)的な自然派録音で、艶やかなフランス芸術の薫りそのまま甦るサウンドに酔いしれましょう。
Alpha180
(国内盤)
\2940
J.S.バッハ:イタリア協奏曲とフランス序曲
 〜『鍵盤練習曲集 第2巻』〜
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
 『鍵盤練習曲集 第2巻〜2段鍵盤チェンバロのための』
  1) イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971
  2) フランス序曲 ロ短調 BWV831
バンジャマン・アラール(チェンバロ)
「古楽先進国随一のレーベル」Alphaのバッハ盤は、これまで外れたことがありません。ましてや、いま最もアツいチェンバロ奏者の傑作録音となれば...最初の1音から桁外れの風格。落ち着いた風情からゆっくり描きあげられる、途方もないスケール感...!いわずと知れた「小規模レーベルの革命的存在」、フランスのAlpha から、またしても「ほとんど説明不要」の超・強力盤がお目見えいたします。フランスは1990年代以降、ヨーロッパ随一の古楽先進国として独特の古楽シーンを切り開き、いつしか(日本でいう『レコード芸術』と同じ存在である)影響力の強い音盤批評誌『Diapason』の月間推薦の大半が古楽新譜だった...などということも珍しくない、つまり裏を返せばそれだけ「古楽にうるさい土壌」を育んできた国。だからこそ、この国の古楽シーンで揉まれて世に出てきた俊才には、遠く離れた日本の私たちの心をも強く揺さぶってやまないスーパープレイヤーが少なくありません。しかしそのなかでも、フランスよりも古楽発掘史の長い隣国ベルギーでも高く評価されている名手、古楽奏者の登竜門であるブリュッヘ(ブリュージュ)古楽コンクールでの入賞経験から5、6年で世界レヴェルの知名度を築き上げてきた天才チェンバロ奏者、バンジャマン・アラールの存在感はやはり特別といっても過言ではないでしょう。満を持してAlpha レーベルからバッハ録音を最初にリリースしたのが2009 年。この『オルガン独奏のためのトリオ・ソナタ集』に続く翌年の『六つのパルティータ(鍵盤練習曲集第1 巻)』とともに、軒並み『レコード芸術』特選に輝き続けている彼が、前作につづくバッハ生前の出版譜シリーズ第2 弾をリリースしてくれたのです!その仕上がりの素晴しさは、もはやCD をかけて1音目からすぐに明らか...アラールはいつも基本的にゆったりめのテンポ設定で(スピーディでアクロバティックなセンスを誇る昨今のチェンバリストたちのあいだでは少数派?)、作品の味わいをじわりと浮かび上がらせるのが得意なのですが、ここでも「Alpha の音」を作ってきた天才技師ユーグ・デショーの絶妙な自然派録音がその感性をくまなく捉え、名工アンスニー・サイディ製作によるドイツ18 世紀型のチェンバロから立ちのぼる凛とした美音の温もりは、バッハが織り上げた対位法の綾を、和声の豊かさを、その情感の多彩さを、ひとつひとつ確かめるように、じっくり隅々まで描き出し、とてつもなくスケールの大きな鑑賞体験へと私たちを連れてゆくのです!収録されている 『鍵盤練習曲集』(クラヴィーア練習曲集)は、晩年のバッハが自らの鍵盤作法の集大成を記録して世に出そうと試みた出版譜シリーズ第2 弾で(第1 弾は「六つのパルティータ」、第4 弾は「ゴルトベルク変奏曲」)、チェンバロの2段鍵盤で「弱音」と「強音」の対比を打ち出しながら、オーケストラの響きを模倣し、協奏曲や管弦楽組曲をチェンバロひとつで描ききってみせた2大作が収録されている曲集(俊才ジル・カンタグレルの解説も例によって全訳付)。通常の演奏時間では余白ができるので、他の佳品も収録してある盤は少なくありませんが(たとえば近日発売のデュブリュイユ盤・RAM1001)、このアラール盤は遅めのテンポ設定もあり、潔くこの「第2 巻」所収の2曲のみの録音。しかしその高潔な一貫性こそが本盤の素晴しさなのだ、と、聴き終えたとき誰もが思うはず。本盤の2曲がもたらす鑑賞体験はそれほどまでに深く、途方もないのです。
Alpha173
(2CD)
(国内盤)
\4515
フランソワ・クープラン(1660〜1733):
 『クラヴサン曲集 第3巻』(1722)より
  ① 第14 組曲
  (恋する夜啼鶯、七月*、シテール島の鐘、他 全7曲 )
  ② 第15 組曲
  (摂政夫人、ドードー鳥、ミュゼット*、他 全7曲 )
  ③ 第16 組曲
  (比類ない恩寵、ウェスタの巫女達、大雑把な女、他 全7曲 )
  ④第17組曲
  (フォルクレ、小さな風車、レティヴィル*、他 全5曲 )
 『クラヴサン曲集 第4巻』(1730)より
  ⑤ 第22 組曲
  (戦利品、うなぎ、手品、他 全7曲 )
  ⑥第24 組曲
  (大旦那たち、若旦那たち、美しきおしゃべり女、他 全8曲 )
  ⑦第26 組曲
  (病み上がりの女、きつい女、無言劇、他 全5曲 )
  ⑧第27 組曲
  (絶妙な女、機知、他 全5曲 )*パウラ・エルダス(第2cmb)
フレデリク・アース(cmb/
パリのエムシュ1751 年オリジナル)
古楽大国ベルギーの「いま」を代表する、フランス語圏きっての俊才がフランス随一の誇り高き秀逸レーベル、Alpha とともに世に問う「新時代のクープラン」。
フランス鍵盤楽派の“粋”たる4曲集の後半2集、謎めいたユニークさは「バロックのサティ」。「クープランの生涯について、伝記路線の記述からわかることは実に少なく、逆に音楽のほうが、逐一多くの情報を与えてくれるようである。その音楽の“行間”に、私たち演奏家がつくりだす残響のあいだにこそ、私たちにも理解できる彼の人物像が浮かび上がってくるのではあるまいか(…)そう——彼の曲を弾いてみればよいのだ、余計なことばは語らずに」(演奏者の解説文より抜粋)。チェンバロでなくては語れない音楽——クープランの『クラヴサン曲集』全4 巻は、そうした音楽の集大成というべきものではないでしょうか? 音楽の作りは繊細であるとともに実に明瞭、しかし明瞭でありながら、はてしなく謎めいている。それらはさながらフランス語で綴られた近代詩...いや、見に来た人を「???」と疑問符の嵐に放り出して終わる洒脱なフランス映画のように、誰しもが魅了されずにはおれない美しさに貫かれているのに、その「真意」はなかなか読み解けない。クープランが付したタイトルも、あるときは「恋する夜鳴鶯」とか「(弾き手の両手が)交差するメヌエット」とか、実にわかりやすいものもある反面、未だに学者たちが誰のことか突き止められていない人物の名前が曲題になっていたり、「手品」「うなぎ」「無言劇」など、曲をどう聴いたものか戸惑わせる作法があったり...。そうした不思議な魅力があるからこそ、フランスのチェンバロ音楽について語る時、人はこの楽器をドイツ語でチェンバロと呼ばず、敬意と憧れをこめてフランス語で「クラヴサン」と呼ぶのでしょう。そんなフランス語圏特有の謎めいた魅力を、はっきりわかる、というよりも「その旨味を最もよく引き出して」演奏できるのは、やはり同じフランス語で育ってきた人々ではないでしょうか——かくてフランス随一の、自国の音楽(なかんずく古い音楽)に強い思い入れをもって数々の名盤を制作してきたAlpha レーベルが世に問うクープラン作品集の独奏者に選ばれたのは、古楽大国ベルギーのフランス語圏を代表する知性派チェンバロ奏者のひとり、フレデリク・アース——自ら解説執筆まで手がける知性派(今回の解説も全文日本語訳付…原文だけだと手を焼きそうな難渋さ)でありながら、これらクープランの謎めいた音楽性について彼は、上に引用したようなことをさらっと言ってのけたり。フランス・バロック好きにはおなじみの傑作もちらほらありつつ、意外と限られた曲しか演奏されていないクープランの全体像を浮かび上がらせるべく、選曲はあえて珍しめの音楽が中心。曰く「まずは弾いてみること——誰も弾かなければ、音楽は存在していないのと同じ」。作者と同じ言葉で生まれ育ち、その作品を弾き込んできた人がたどり着いた結論として、まあ何と説得力のあることでしょう——そして実際、彼の解説を読み解きながら、ゆっくりめにテンポをとった演奏に身を任せていると、生のままの18 世紀フランスがふわっと浮かんでくる感じ。1751 年製の古楽器から引き出される粒立ちの良い美音が、作品の魅力を否応なしに引き立てます。
Alpha528
(国内盤)
\2940
近代作曲家たちとフランス民謡
 〜フランス中南部の歌さまざま、
  ショパンの頃から、カントルーブの頃まで〜
 ①こんばんは、栗毛色のかわいいお嬢さん(伝承曲)〜
  ジャネート、どこに羊たちを(ラヴェル)
 ②いこう、陽気な牛たちよ(ティエルソ)
 ③ねえママ、恋神があたしを苦しめてるの(伝承曲)
 ④ブーレー(ショパン)〜ブーレー(ルメーグル)〜
  羊飼いの娘と狩人(シャブリエ)〜
  羊飼いの娘と狩人(伝承曲)
 ⑤あの緑なす草原に(シャブリエ)
 ⑥アングラールの行進曲(伝承曲)
 ⑦カッコウとヒバリは、結婚したくてたまらない(ティエルソ)
 ⑧朗読:風吹きすさぶ馬車道で(アンリ・プラ作詩)
 ⑨月の光に、女たちよ(オーギュスタ・オルメース)
 ⑩ノアン組曲(伝承曲):
  アンダンティーノ〜オロール・サンドのブーレー〜
  平野を抜けて、山々を超え
 ⑪わたしの恋人は遠くに行ってしまった(ビゼー)
 ⑫胡桃を手にしていたあいだは〜
  森に行こう、おちびさん(伝承曲)〜
  胡桃を手にしていたあいだは(エマニュエル)
 ⑬ブーズに住んでいる男たちは(エマニュエル)
 ⑭『巡礼の年』より パストラーレ(リスト)
 ⑮走れ犬、はしれ!(カントルーブ)
 ⑯あなたの優美な立ち姿を眺め(ヴィアルド=ガルシア)
 ⑰ヴィラジョワーズ〜ブーレー(ルメーグル)〜
  古い小唄(ヴィアルド=ガルシア)
 ⑱オーヴェルニュの子守唄(カントルーブ)
 ⑲アントワーヌ・シャブリエのブーレー(伝承曲)〜
  どこへ連れてって見張ろうか(カントルーブ) 
レ・ミュジシャン・デュ・サン・ジュリアン(古楽器使用)
フランソワーズ・ティラール(エラール・ピアノ19世紀中盤製)アンヌ=リズ・フォワ(ヴィエラルー)
バジル・ブレモー(vn)
フランソワーズ・マセ(歌)
フランソワ・ラザレヴィチ(ft、各種バグパイプ、歌)
古楽器演奏でもあり、ワールドミュージックでもある...の流れも、いつしかロマン派後期へ——
バグパイプやヴァイオリンの「高雅な素朴さ」に、今回はエラール・ピアノが自然に加わります。
フランス民謡はいつしかフランス歌曲へ、そしてまた民謡へ。魔術的美質はAlpha ならでは!
Alpha レーベルの白ジャケット・シリーズは、口伝えで残ってきた地方民謡(伝承曲)や即興演奏など「楽譜にならない音楽」をテーマに制作されています。即興に重きを置いていたルネサンス=バロック期の音楽と民俗音楽のクロスオーヴァーなどは特に多いのですが、伝承曲といっても基本的には今もなお存続しているものですから、芸術音楽にロマン派や印象主義などの動きが起こってきた19〜20 世紀であっても、そうした流れとは無関係に続いてきたわけで。古楽先進国にして諸民族の坩堝でもあるフランスで、多くの古楽指揮者たちから絶大な信望を置かれている古楽系バグパイプ奏者フランソワ・ラザレヴィチが世に問うたこのアルバムは、ショパンの頃からラヴェルやカントルーブの時代、つまり19〜20 世紀初頭におけるフランス中南部の民謡のありかたを、私たちがよく知っているクラシック世界の語彙とのからみで解き明かしてみせましょう、というもの——なんて書いてしまうとえらくかしこまった感じですが、さにあらず。ほんのり素朴さをたたえた歌声、19 世紀中盤の古いフルート、民俗音楽シーンの本格的なこだわりをもって選ばれたバグパイプやミュゼット(ふいごを使うタイプのバグパイプ...実はこれ、バロック期の宮廷を離れて19 世紀以降にもさまざまな発展をみた楽器なのです)...といったいかにもAlpha 白シリーズな民俗音楽系の極上サウンドで始まったかと思いきや、今回の隠れた主役は「ヴィンテージ・ピアノ」。かつてリストやベートーヴェンら大作曲家たちも愛したエラール・ピアノ(19 世紀中盤製のオリジナル)の古雅で煌びやかな響きが絶妙な合いの手を入れるのも、演目のなかに、フランス民謡をベースにした19 世紀末の歌曲が多く含まれているから。なかにはピアノ独奏トラック(リスト『巡礼の年』からの一編)やアレンジぬきの歌曲サウンドもあり、農村部に息づいていた生のままの伝承曲と、そこから限りないインスピレーションを得てきた大作曲家たちの名品とが、「当時の響き」を大切にした古楽的アプローチのなかでごく自然に、不思議な交錯と融合をみせるのです。解説充実(全訳添付)、こんな妙音と出会えるのも、マーラーやラヴェルの古楽器演奏が出てくる昨今ならでは——しずかな詩情、浮き立つ霊感、これぞ「白Alpha」の真骨頂です!

ARCO DIVA

UP0138
(国内盤)
\2940
チェロ奏者、北欧から中欧へ
 〜スウェーデンとチェコの無伴奏チェロ作品さまざま〜
 エアラン・フォン・コッホ(1910〜2009):
  ①モノローグ 第17 番
 ミロスラフ・ペトラーシュ(1948〜):
  ②フクフラディ幻想〜ヤナーチェクへのオマージュ
 ヤン・カールステット(1926〜2004)
  ③バラード
 オンジェイ・クカル(1964〜):④狂詩曲 作品6
 ミカエル・エリクソン:
  ⑤ドブルー・ノッツ(おやすみなさい)〜ピアッティに捧ぐ
  ⑥タンゴ「ブエナス・ノーチェス
   (おやすみなさい)」⑦無伴奏チェロによる
   「おおヴェルメランド、愛しく美しき土地」⑧タンゴ「ターセルード」
  ⑨リラックス
ミカエル・エリクソン(チェロ)
チェロは「歌う楽器」。チェロは「弦が4本」——親しみやすさと知的なセンスのあいだ、しなやかな美音を綴ってゆくのは、「弦の国チェコ」で活躍するスウェーデン人奏者。一度聴いたら誰でも好きにならずにはおれない、掛け値なしの充実無伴奏アルバム!「ミカエル・エリクソンて、誰?」という疑問、もっともです。「なんでチェコにスウェーデン人?」そんな疑問も、まったく当然。「作曲家、ひとりも知らない…」、そうでしょう。しかし結果的にそこに詰まっていたのは「誰もが好きにならずにおれない無伴奏チェロの名品群」——予備知識なんて、無意味でした。チェロひとつでここまで多彩な世界を紡がれてしまうと...。それはいわば、聞いたこともないヨーロッパ人監督による単館系映画を何気なしに見たら、すごく印象的な素敵な作品だった(で、後で調べてみたら監督も主演俳優も「祖国では超有名人」クラスの人だったり)...とか、知り合いの知り合いがなじみの店というので入ってみたイタリア料理店が、実は日本のイタリア人たちもひいきにする筋金入りの地方料理専門店で、何を食べても美味しかった...とか、そんな嬉しい驚き。それもそのはず、調べれば調べるほど、このアルバムには「筋の通った本物」の息吹が宿っているのですから。弾き手のミカエル・エリクソンは、弦楽四重奏王国ともいえるチェコのプラハ・ヴラフ四重奏団で長年チェリストをつとめてきた実力派——「実力派」という言い方は地味かもしれませんが、なんでしょうね、チェロ奏者が勢いあまったときに感じさせる鷹揚さ(わかりますかね)が全くない、本当にブレない腕前の持ち主で、この表現が本当にしっくりくる腕利きなんです。その来歴を紐解けば、師匠にはミュンヘンの異才クリストフ・ポッペンやら、泣く子も黙る往年の巨匠、グレーゴル・ピアティゴルスキーらの名前が...あとヴラフSQ といえば、中東欧の室内楽に強いNAXOS で祖国随一の大家ドヴォルザークの弦楽四重奏曲全集を録音したグループ...といえば、どのくらい故郷で名声があるかわかっていただけるでしょうか。そんな彼が自ら書き下ろした解説(全訳添付)によれば、彼にとってはチェコが第2の故郷である一方、スウェーデンの故郷ヴェルメランド地方の文化も忘れることのできないルーツなのであって、自分の出自をはっきり自覚しながら異文化を受け入れてゆくことに長けたヨーロッパ人らしい生き方を感じずにおれません。そんな両文化への愛着が、このアルバムに結実をみせ、私たちを魅了してやまないのです——選ばれた作品はみなチェコとスウェーデンの現代作曲家ですが(エリクソンの自作自演もあり)、プラハ室内管のコンサートマスターとして有名なO.クカル、スウェーデン近代の俊才コッホなどのように、聴き手を怖がらせる「現代的」な接しにくさを避け、あくまで触感確かな形式感覚、美しく奥深い弦音の味わいを大切にした音楽を志す作曲家たちが揃っているのが、成功の秘訣なのでしょう。ギターかと思うほど巧みなピツィカートの連続も、渋めの低音も、艶やかな高音も...ヨーロッパに旅したら「ガイドに載っていない小さな町」に行きたいタイプの方なら、特に気に入って頂ける気がします。
UP0130
(国内盤2枚組・歌詞日本語訳付)
\4515
ドヴォルザーク(1841〜1904):
 レクィエム 変ロ短調 作品89(1890)
ペトル・フィアラ指揮
チェコ国立ブルノ・フィルハーモニー管弦楽団、
ブルノ・フィルハーモニー合唱団
独唱: シモナ・シャトゥロヴァー(S)
ヤナ・シコロヴァー(A)
トマーシュ・チェルニー(T)
ペトル・ミクラーシュ(B)
番号がUP0141からUP0130に変更になりました。
音楽大国チェコの「いま」、加速度的に塗り変わってゆくもの、静かに積み重なるもの——
ドヴォルザーク晩年の超・大作に、チェコ楽壇の粋を結集した「本場もの」の新録音が!気鋭の歌手陣と、充実のきわみともいえる老舗楽団をまとめる、圧巻の名匠の底力...諸般の事情でこちらもサンプル未着の段階ですが、これも非常に重要なリリースなので、急ぎご案内させていただきます。「イギリス交響曲(第8番)」と「新世界より(第9 番)」の間、ピアノ三重奏曲の傑作『ドゥムキー』と同じ頃に作曲された巨匠ドヴォルザーク晩年の大作、各種打楽器まで含めた壮大なオーケストラ編成がいかんなく魅力を発揮する『レクィエム』——ヴェルディやフォーレの名品と並び称されてもおかしくない19 世紀後半屈指の重要作であるにもかかわらず、この曲はどうしたものか、つい最近まで古い録音(アンチェル、サヴァリッシュ、ケルテス...)ばかりで新録音がなかったのですが、ここ近年になってヤンソンス&コンセルトヘボウ、N.ヤルヴィ&LPO...と思わぬ新名盤が続出。特に後者の録音は、この曲が1891 年に英国バーミンガムで初演されたことを思えば、同じ英国における録音(これが意外とあるようでなかった...他はケルテス&LSO盤くらい?)として注目すべきリリースだったものです。しかし!これはヤナーチェクの『グラゴル・ミサ』などにも言えることなのですが、あの音楽大国チェコ、今や国際的名匠や地元一徹の巨匠から古楽器奏者・新進気鋭の若手にいたるまできわめて層の厚いチェコ楽壇からは、この大作の名録音というものが長らく生まれていないのです。そう——その意味で、チェコ有数の音楽事務所を母体とするArco Diva レーベルが満を持して送り出してくれるこの録音は「ドヴォルザークの祖国チェコならではの最新盤」として、日本にも数多いチェコ音楽愛好家たちの心をそそらずにはおかないリリースなのです!近年Orfeo レーベルからハイドン・アリア集をリリース、グラモフォン・エディターズ・チョイスに輝いた名花シャトゥロヴァー(S)から隣国スロヴァキアとチェコをまたにかけて大活躍の超ヴェテラン・ペトル・ミクラーシュ(B)まで、独唱陣の層の厚さも頼もしければ、オーケストラが、その歴史を1870 年まで遡る、巨匠ヤナーチェクともゆかりの深い名盤あまたの老舗楽団というのもワクワクするところ。しかしチェコの楽壇を真に愛する方であれば、このアルバムの総指揮者が名匠ペトル・フィアラである点にこそ心踊るのでは——ブルノ・フィル合唱団を創設し、数多の名演を影で支えてきたチェコきってのたたき上げ合唱指揮者フィアラが全編をまとめるシェフとなり、気心の知れた合唱団と長年積み重ねてきた経験をフルに形にするからこそ、この新録音は真に「待望の本場もの」たりえるのです。深く聴き極めたい逸品、心してお待ちを!
UP0136
(国内盤)
\2940
〜室内管弦楽と古典派・ロマン派・近代〜
ベートーヴェン(1770〜1827):
 1. 交響曲 第2番 ニ長調 作品36
スメタナ(1824〜1881):
 2. 祝祭交響楽 作品6
マルティヌー(1891〜1959):
 3.シンフォニエッタ・ラホヤ
  〜ピアノと室内管弦楽のための(ピアノ:朝日奈智子)
マルコ・イヴァノヴィチ指揮
パルドゥビツェ・チェコ室内フィルハーモニー管弦楽団
積み重ねられてきたものと、新鮮なサウンド作り——こういう音作りは、チェコならでは!
手堅い編成だからこその響きが、三つの時代の音楽のうまみを浮き彫りに。貴重なスメタナ初期作品の痛快名演をはじめ、選曲も絶妙。多角的に楽しめる充実盤。古くはルネサンス期から現代にいたるまで、チェコはすぐれた音楽家が活躍し、世界へと羽ばたいてゆく名手も少なくない「音楽大国」。国土は小さいけれど、だからこそ団結力も強く、それが個々の才能をさらに増幅させるアンサンブルの素晴しさへと繋がっているのでしょう。
晩期ロマン派時代のボヘミア四重奏団に始まり、スメタナSQ、プラジャークSQ、ターリヒSQ、ヴィハンSQ、パヴェル・ハースSQ...と、世界に誇りうる弦楽四重奏団も枚挙に暇がないあたり、そうしたチェコ楽団の特性がよくあらわれているのではないでしょうか。さらに言うなら、チェコ・フィルを筆頭にプラハ交響楽団、ブルノ・フィル、ヤナーチェク・フィル...と国土面積に比して世界的に有名なオーケストラが多いのもまた事実。そして室内楽と巨大なシンフォニーオーケストラの中間をゆく「室内管弦楽団」も、弦楽10 人程度の小編成から2管50 人程度の団体まで、昔から素晴しい団体に事欠きません。チェコ中部の古都パルドビツェを拠点とするチェコ室内フィルも、そのひとつ——チェコのローカル系レーベルで妙にレヴェルの高い古典派演奏をくりひろげていたかと思えば、俊才ボストックの指揮で妙に気の利いた北欧作品の録音を残していたりと、音盤シーンでは「気になる録音でクレジットされている団体」だったと思いきや、近年はArco Diva レーベルでドヴォルザーク、ベートーヴェン、マルティヌー...と王道の作曲家たちの思わぬ傑作を拾いながら「室内管弦楽団のレパートリーはバロックと古典派だけではない」ということを如実に示す小気味良いアルバム作りを続けてくれています。
ここにお届けする最新アルバムは、CD1枚でそんな彼らの方向性を端的に示してくれる好感盤!
「弦の国」チェコならではの深みある弦楽サウンドをベースにしていながら、コントラバス2本の小編成で、しつこさとは無縁の意気揚々とした音楽作りが聴かれるベートーヴェン(こういうのは「積み重ね」がものをいいますよね)に始まり、比較的小さな編成とは思えないくらい芳醇な響きを愉しませてくれるマルティヌーの逸品へ——近代チェコを代表する大家マルティヌーの作品はとりわけ聴きどころ満載、独奏ピアノもまるで小合奏のように多彩な音を繰り出す合奏協奏曲風の作品美がじっくり愉しめるのも、「見通しのよい室内管弦楽」がソリストとともに「楽譜を隅々まで吟味」していればこそ成り立つ境地なのだと思います(そのうえ「同郷の作曲家への思い入れ」も強く働いている?弾き手の音楽愛は名演への好条件なのですね)。
そして何より見過ごせないのが、数々の傑作オペラでチェコ国民楽派の大家となる前、30 代のスメタナが書いた初期作品「祝典交響楽」!スケルツォかメヌエットか、といった拍子で続く7分程度の曲ながら、古典派風の語法のなかに「わが祖国」にも通じる切ないメロディが織り込まれたこの逸品こそ、同楽団の、いやチェコ楽壇の奥深さを何より端的に示すトラックでしょう。聴きどころも楽しみ方もさまざま、たっぷり詰まった充実盤!

ARS MUSICI

AMCD232-905
(国内盤)
\2940
〜ウィーンとプラハの初期ロマン派、早世の天才ピアノ芸術家ふたり〜
ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェク(1791〜1825):
 『12 のラプソディ』 作品1より
  ①第1番 嬰ハ短調 ②第2番 ホ長調
  ③第4番 ヘ長調 ④第6番 変イ長調
  ⑤第7番 ニ短調 ⑥第8番 ニ長調
  ⑦第9番 ト短調 ⑧第10番 ハ長調
フランツ・シューベルト(1797〜1828):
 即興曲集 作品90/D899(全4曲)
ゲルリント・ベッチャー(ヴィオラ)
「ラプソディ」と「即興曲」——ロマン派の愛する作曲形式を、最初に盛り上げた名匠たち。シューベルトはウィーン、ヴォジーシェクはプラハで。そして二人とも「早世の天才ピアニスト」。新時代の到来を告げる才能を、彼らと同じように若いピアニストが鮮やかに伝えてくれます。
ピアノ独奏曲は、「個人的な気持ちの告白」の手段——というわけで、ロマン派の作曲家たちはピアノ独奏のために無数の傑作を残してくれたわけですが、そのなかでも「つかの間の感興」を何より大切にして書かれるのが、この「ラプソディ」と「即興曲」というジャンル。音楽を書く・ということが「古典派的なルールを守って作曲する」ということとほぼ同義だった19 世紀初頭に、この二つのジャンルは静々と生まれ、その後さまざまな大作曲家たちも愛好するジャンルとなっていったのでした(ブラームスやリストのラプソディ、ショパンやフォーレの即興曲...)。かつては本場ドイツの音楽研究の牙城、ドイツ・ハルモニア・ムンディの母体でもあったフライブルクのムジークフォールムが企画運営していたArs Musiciレーベルは、最近になって経営母体が変わったものの、新たに企画・リリースしてくる新譜にはやはり、こうした音楽史上の「知られざる珠玉の逸品」を本格的に再発見しようとする意欲が窺え、非常に好感が持てますね。
さて、ここに集められた作品の作曲者は、どちらも初期ロマン派時代、ピアニスト=作曲家としてそれぞれの道を歩んだ「早世の天才」。かたやプラハの天才ヴォジーシェク、かたやウィーンの天才シューベルト、いずれも30 代前半で亡くなっていますが、その音楽にはどちらも甲乙付けがたい魅力が。もちろん、シューベルトの「即興曲集」の魅力はいまさら繰り返すまでもないでしょうが、注目すべきはやはり、ヴォジーシェク。彼の師匠トマーシェクがピアノ曲のジャンルとしての「ラプソディ」を最初に発表した人だそうですが、実は彼も彼で「即興曲」というジャンルはこのヴォジーシェクが発案したという説も。ともあれここに録音されているラプソディは全12 曲からなる彼の処女出版曲集からの作品で、クリスピーなスケルツォ風の軽快さと、ほんのり漂う叙情性とのバランスが絶妙な逸品ばかり。演奏時間だいたい5〜7分と小品にしてはかなり長く充実した作品ばかりで、仕事の合間など気分転換したいときに1曲だけ聴くにはうってつけかも。
しかしこのアルバムのいいところは、それをシューベルトの傑作群と同列で並べてみせ、同じアルバムに収録してみせたこと——後半の「即興曲集」はそれ自体かなり聴きごたえある味わい深い名演なのですが、それと同じテンションの愛を注いだ名演で、これらヴォジーシェクの侮りがたい傑作群を聴けるのは嬉しい限り!
演奏はドイツ新世代を担う俊才、ゲルリント・べッチャー——ベルリンのアイスラー音楽院出身で、すでに母校で教鞭をとる立場になっている「本場で信頼されている」名手だけあって、選曲の妙もさることながら、そのコンセプトにしっかりした存在意義を与えるクオリティの演奏に仕上げてくれたのが嬉しいところです。単なる秘曲発掘にとどまらない、新たな音楽の発見に寄与する充実盤...Ars Musici、今後のリリースも目が離せません!

CYPRES

MCYP7612
(国内盤)
\2940
フランク(1822〜1890):
 1. 交響詩「呪われた狩人」
 2. 交響詩「ジン」〜ピアノと管弦楽のための
 3. 交響詩「アイオリスの人々」
 4. 交響的変奏曲〜ピアノと管弦楽のための
フランソワ=グザヴィエ・ロート指揮
ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団
セドリック・ティベルギアン(ピアノ)
俊才指揮者ロートは、すでにベルギーの老舗楽団とここまで充実した関係を築いていた——
美食大国ベルギー生まれの大家フランク、その最もおいしいところが詰まった4傑作を、風格を増しつつある名手ティベルギアンとともに、高雅にして緻密、ダイナミックな名演で。
フランスとドイツの間にはさまれ、上にオランダという「小さな大国」が隣接しているヨーロッパの小国ベルギーは、同じ国のなかに公用語が三つ(フランデレン(=オランダ)語、フランス語、ドイツ語)並存し、首都ブリュッセルには欧州連合(EU)の本拠が置かれている、文化交流のまっただなかにある不思議な国。事実「ベルギーはひとつで小さなヨーロッパ」などと言われたりもしますが、そうした器用な環境からすぐれた文化も多々生み出してきました。
フランス料理でさえフランスより美味しいのでは?と思われるほどの美食大国であり、古くはファン・エイクやルーベンス、近年でもマグリットやクノップフといった美術史上最重要の画家たちを輩出してきた美術大国でもあり——しかしその文化がある意味最も輝いていたのは、産業革命の末に飛ぶ鳥を落とす勢いで国力が増した19 世紀後半だったかもしれません。はては植民地経営にも成功し、周辺諸国と並ぶ「列強」と呼ばれるまでに至った当時のベルギーでは、音楽界も驚くほどの高水準——フランスのオペラ文化とドイツ・ロマン派の管弦楽・器楽芸術への適応性が理想的なかたちで結実し、管弦楽法にも長じたヴァイオリン芸術家ヴュータンや、フランスに帰化してこの隣国の近代音楽を大きく推進させたフランクのような大作曲家も続々輩出しているのです。
さて、そんなベルギーのフランス語圏を代表する中心都市のひとつリエージュ(ドイツ国境のすぐそば)に、創設以来半世紀の歴史を誇るリエージュ・フィルという老舗楽団があるのはクラシック・ファンもご存知のとおり——近年では長年の功績が王室に認められ「王立 Royale」の名も冠するようになったこのオーケストラの新録音を定期的にリリースしている同国の気鋭レーベルCypres から、今回はまさにベルギー的でありがら、同時に新時代的メジャー感も漂う痛快アルバムが登場いたします!
同国のロマン派〜近代を代表する大家フランクの、傑作交響詩4編!
昔から名盤あまたの「呪われた狩人」や「交響的変奏曲」のほか、意外と録音があるようでない傑作「ジン」、そしてフランク晩年の快進撃を予告する、この作曲家初の交響詩「アイオリスの人々」...と絶妙の選曲もさることながら、ゾクゾクするような管楽器の音色を生かした色彩感、堅固な作品構造をがっちり把握してのエッジの効いたコントロールなど、この老舗楽団の魅力を十全にふまえたうえで瑞々しいライヴ感たっぷりに各作品の味わいを堪能させてくれるのは、すに同楽団と数々の名盤を世に送り出してきた新世代のホープ、古楽奏法にまで通じた多芸な天才F-X.ロート!客演ピアニストにはharmonia mundi で名盤続出のフランスの鬼才ティベルギアンが登場、まさに「好タッグ!」と嬉しくなる瞬間続出の、しなやかでスリリングな音作りがたまりません。
21 世紀らしい鋭角的な音作りが、緻密な解釈でロマン派特有の薫り高さとまったく矛盾しないのは、本当に小憎らしいかぎり!
MCYP1661
(国内盤)
\2940
J.S.バッハ:四つのチェンバロ協奏曲
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750)
 1. チェンバロ協奏曲 イ長調 BWV1055
 2. チェンバロ協奏曲 ニ短調 BWV1052
 3. チェンバロ協奏曲 ヘ短調 BWV1056
 4. チェンバロ協奏曲 ホ長調 BWV1053
ベアトリス・マルタン(チェンバロ/ツェル1737年オリジナル&復元楽器)
パトリック・コーエン=アケニヌ(vn・指揮)
Ens.レ・フォリー・フランセーズ(古楽器使用)
仏Diapason誌 金賞受賞!「各パートひとりずつ」そのものは、今更珍しくはない。その魅力は、圧倒的な音楽性にあり!
フランス古楽界の奥深さがたどりついた、さりげなく艶やか、奥深いバッハ——
現存する他の協奏曲の編曲ではない、“バッハ創案”のチェンバロ協奏曲の極意、ここに。フランスという国は、20世紀最後の10年くらいのあいだに、急速に古楽シーンが成長した国。それまでオランダやイギリスなど諸外国の活況をよそに、古楽器なんて...とクールな態度を決め込んでいたフランス人たちも、ウィリアム・クリスティやJ-C.マルゴワールのような明敏かつこだわりの強い古楽指揮者たちが1980年代にじっくり時間をかけて「フランスならでは」の古楽のあり方を育んだあと、90年代に「めぐり逢う朝」や「カストラート」といった古楽系音楽映画が成功をおさめると、それまでのマーケットの反応はみるみるうちに覆り、あっというまにヨーロッパ最大級の古楽先進国になってしまいました。今や、フランスほど古楽が一般レヴェルのリスナーにまで浸透している国はどこにもない、とさえ言えるでしょう。あたりまえのように古楽が息づいているベルギーやオランダとも違い、この国では古楽や古楽器演奏が「魅力的な要素」として機能しているのです。とはいえ、ひとくちに古楽演奏と言ってみても、単に速くてキレがいいだけのものを甘やかしたりするほどフランス楽壇が浅薄なはずもなく——たとえばカフェ・ツィマーマンのバッハ(Alpha)にしても、その演奏はスピーディでスリリングなようでいて、よく聴けば聴くほど、頑迷実直なまでに一つ一つの音を磨き上げ、どっしり堂に入った解釈をみせている。あるいはエマニュエル・アイムのコンセール・ダストレはたおやかさ・艶やかさで他の追従を赦さず、ルーヴル宮音楽隊はリズム作りに天成のセンスがある…という風に、人気の古楽バンドはそれぞれ独自の飛びぬけた個性をちゃんと磨き上げているのです。そしてその点でやはり見過ごせないのが、W.クリスティのレザール・フロリサンで長年コンサートマスターをつとめてきた筋金入りのヴェテラン実力派コーエン=アケニヌ率いるレ・フォリー・フランセーズ! Alpha で録音してきたルクレールやモーツァルトでは「まさにフランス!」というほかない、さりげない妖艶さが魅力でしたが、同団のチェンバロ奏者ベアトリス・マルタンを主役に据えての今回の新譜のテーマは「室内楽らしさ」。1パート1人ずつの編成で、演目はバッハの傑作チェンバロ協奏曲4編——で、実はこれらが音楽史上ほぼ初めてのチェンバロを独奏楽器に据えた協奏曲でもあるわけですが、なにしろチェンバロという楽器は音が小さいため、当初は弦楽合奏よりも1パート1人ずつの室内楽編成で弾かれていたようなのです。この点は昔から古楽奏者たちに認識されてきたことで、古くはレオンハルト・コンソートのTeldec 録音からして1パート1人編成だったくらい——しかしそのうえでなお、レ・フォリー・フランセーズの本盤は「所有し、聴き深める」だけの価値があると。作品構造の綾をくっきり浮かび上がらせながら、一糸乱れぬアンサンブルが互いに聴きあい、しなやかに伸縮する。さりげなくぴちぴちと魅力を放ってやまない響きは、バッハも愛したミートケ工房の系譜をひくCh.ツェルの銘器(と、その素晴しい復元楽器)の美音とあいまって、聴けば聴くほど新たな魅力が感じられるのです!フランス人特有の匂いたつような洗練が、磨き抜かれた堅固な解釈の上に、くつろいだ親密さを体現している——いや、まずは音源請求の上ぜひお試しを。こう書いているのが何の誇張でもないと(早々とDiapason 金賞を得ている事実が示す通りではありますが)すぐにわかるはずですから!

FUGA LIBERA

MFUG576
(国内盤・2枚組)
\4515
リース:フルート四重奏曲全集
 〜ベートーヴェンの愛弟子は「知られざる巨匠」〜
フェルディナント・リース(1784〜1838)
 1.四重奏曲ニ短調WoO.35-1 2.四重奏曲ト長調WoO.35-2
 3.四重奏曲イ短調WoO.35-3 4.四重奏曲ハ短調 作品145-1
 5.四重奏曲ホ短調作品145-2 6.四重奏曲イ長調作品145-3
アンサンブル・オクサリス
トーン・フレット(フルート)
シャーリー・ラウプ(ヴァイオリン)
エリザベト・スマルト(ヴィオラ)
マルテイン・フィンク(チェロ)
ここ数年、急速にその独自性と真価が音楽ファンを瞠目させつつある、初期ロマン派の異才。「ベートーヴェンが目をかけただけはある」どころの話ではない? この独特のロマン情緒!古典派語法への通暁も、心ざわつかせる情感も、じっくり味わえる卓越したピリオド系録音。
大作曲家の愛弟子や息子たちが作曲した音楽を「師匠には及ばない」と、あまり聴かないうちに切って捨てるのはとてもたやすいこと——ただ、それで喜びのチャンスが大いに減っているとしたら、まったくもったいない話ではありませんか。師匠があまりに偉大なせいで影に隠れてしまった作曲家の作品というのは、師匠の存在と切り離して耳を傾けてみると、実に侮りがたい名品が意外に潜んでいるもの。その意味で、ベートーヴェンの門弟としてチェルニーと並ぶ重要人物だったフェルディナント・リースはまさに注目株中の注目株!すでにドイツその他では21 世紀に入ったころから急速に再評価が進んでおり、かつて細々と室内楽作品のCD がリリースされるくらいだったこの作曲家の総体が見えてくるほど録音も増えてきました(交響曲、協奏曲、大規模声楽曲、そして無数のピアノ・ソナタまで!)。
ウィーンで名声をものにしたベートーヴェンは、少年時代の師匠のひとり、ボンのチェロ奏者フランツ・リースの息子フェルディナント・リースが彼を頼ってウィーンに来たのを手放しで歓迎し、秘書として仕事をしてもらいながら、この大都市でピアニストとしてデビューできるまで手助けしてやります。後年ベートーヴェンは「リースはわたしをあまりにもうまく模倣しすぎる」と語ったという逸話があるせいで、聴いたことのない秘曲には耳をふさぎたいロマン派時代の批評家たちが「リース=模倣だけの群小」という人物像をやっきになってでっちあげたそうですが、裏を返してみれば、当時それだけリースの人気が高かったせいもあるのでは?実際、この作曲家は1813 年にはもうロンドンに拠点を移しており、そのキャリアの大半を師匠とは無縁の土地で重ねたのですから、その作風の円熟とベートーヴェンはもはやあまり関係なかったはず! そのことをありありと証明してくれるのが、後期作品を中心にそのフルート四重奏曲を6曲集めた本盤なのです。演奏はアンサンブル・オクサリス——古楽と現代音楽に強いベルギー随一の、シェーンベルクも弾ければピリオド奏法もこなす超・実力派集団!プログラム作りにひとくせあり・の演奏会をこなす彼らが、なぜわざわざ「全部同じ編成で6曲」などという一見芸のない録音を作ったのか?それはリースのフルート四重奏曲が、全曲録音するに足る多彩な魅力を秘めているからにほかなりません。作曲年代は推定1825〜30 年頃、精緻な古典派語法をあざやかに使いこなしながら、時に仄暗い情念を、時にとめどない喜びを、あるときは流麗に歌いあげ、あるときはじっくりと練り上げてみせる芸術性は、明らかに彼独自のもの。そもそもフルートを、弦楽器にまったくひけをとらないくらいロマン派特有の深みをみごとに代弁する楽器として使ってみせた例が、他にあったでしょうか?どの曲も、それこそホルンにとってのブラームスの三重奏曲、オーボエにとってのシューマンの小品、クラリネットにとってのウェーバーのソナタ…といえるくらい、フルート奏者にとって宝物となりそうな名品なのです。それぞれの作品美を綺麗に浮き上がらせる、ノンヴィブラートめの精緻な解釈も魅力的!じっくり聴き込み続けたい2枚組…お奨めです!

GRAMOLA

GRML98846
(国内盤)
\2940
バッハ(1685〜1750):ゴールトベルク変奏曲 BWV988 イングリット・マルゾーナー(ピアノ)
バッハの音楽のなかで、飛びぬけて後世人を魅了したこの傑作に、好感触の名演がまたひとつ——音楽大国オーストリアから世界へ羽ばたくマルゾーナーが、シューベルトと並んで演奏会で磨き上げてきた『ゴールトベルク』の、穏やかな美しさへ。
音楽大国オーストリアの「いま」を世界に発信する、ウィーンの中心街グラーベン広場にある老舗レコード店を母体とするGramola レーベル。とりわけピアニストの俊才はこのレーベルに多いのですが、2009年にシューベルトのソナタでGramola デビューを飾ったイングリット・マルゾーナーは、すでに11 歳の頃、20 世紀前半を代表するバッハ解釈者のひとりエートヴィン・フィッシャーの系譜をひく名手、ゼバスティアン・ベンダのマスタークラスに参加していたそう。その後さまざまなコンクールで入賞歴を重ねながら、バドゥラ=スコダやタチアナ・ニコラーエワなどの巨匠たちのもとで彼女が培ってきた得意曲目が、シューベルトをはじめとするロマン派系の王道作品群と、ほかでもない、この『ゴールトベルク変奏曲』なのでした。
生まれは巨匠カール・ベームを輩出したオーストリア南部の文化都市、グラーツ。まだ「若手」と言っても充分通用する世代だとは思うのですが、ここで堂々録音された『ゴールトベルク変奏曲』は、すでに演奏会シーンでは彼女の看板芸として定着、ロマン派作品だけでなくヤナーチェクやプロコフィエフなどの近代作品もこなす彼女の音楽性の深まりを、いっそう強く印象づける充実の曲目として注目されているとのこと——オーストリアの音楽家たちの常どおり?すでにアメリカでもかなり広範な演奏活動を展開しつつある彼女のリサイタルでこのバッハの傑作を聴いたレイ・スティル御大(ご存知、シカゴ響の名オーボエ奏者)は「第一級の演奏でした、ぜひともまた聴きたい!」と絶賛を隠し切れなかった、とは彼女のプロフィール情報に寄せられたコメントの一つ。確かな未来へと歩み続ける彼女のキャリアの「前半の山場」の一つとなったに違いないこの得意曲目の録音は、かつてブラームスがしばしば保養に訪れたバート・イシュルの湖畔で、秋の深まりゆく2009 年10 月にじっくり録音されています。
もともとバッハが二段鍵盤チェンバロのために書いた『ゴールトベルク変奏曲』を、今あえてピアノで弾く演奏家たちは、しばしば非常に濃密な仕掛けをいたるところで感じさせる刺激的な解釈を展開したりするものですが、マルゾーナーの音楽性というのは——さきのシューベルト盤(GRML98808)でも示されていた通り——穏やかなタッチのなか、ふと「ああ、なんて良い作品だ!」と感じ入らせる、決して声を荒げない作品愛に満ちた解釈につよく現れているようで(だからこそ、彼女の演奏会は桁外れの充実感を残して終わり、多くの聴き手がリピーターになりたくなるのでしょうね)。この録音も、何か特別なことを期待しながら聴き進めたとすれば、あまり満足は得られないかもしれません。しかし、もしバッハにこの作品を書かしめたカイザーリンク伯爵が「不眠症を克服するため」この曲を弾かせたという逸話が本当なら、このマルゾーナーの穏やかな演奏こそ、作品美を何より際立たせる絶妙の解釈ということになるはず。ゆったり、身を任せてください——この安心感は、他の演奏ではなかなか味わえない境地だと思います(録音環境も効果的だったのでは)。
聴くほど好きになってくる、構えずに向き合いたい親密なバッハ盤です。
GRML98916
(国内盤)
\2940
ヴァイオリンと、チェロ 野趣と洗練のハンガリー
 〜コダーイ、バルトーク、エルンスト...〜
 コダーイ(1882〜1967):
  ①ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 作品7
 バルトーク(1881〜1945):
  ②六つのルーマニア民俗舞曲Sz56 **
 ヨハン・ハルヴォルセン(1864〜1935):
  ③ヘンデルの主題によるパッサカーリャ ト短調
 パガニーニ(1782〜1840):
  ④奇想曲 第5番(無伴奏チェロ版)*
 ヘンリク・ヴィエニャフスキ(1835〜1880):
  ⑤奇想練習曲 イ短調 作品18-4(無伴奏チェロ版)*
 ハインリヒ・ヴィルヘルム・エルンスト(1812〜1865):
  ⑥無伴奏ヴァイオリンのための練習曲第6番
  「夏の名残りのバラ」
 ハチャトゥリヤン(1903〜1978):
  ⑦剣の舞(バレエ『ガイーヌ』より)*
 リムスキー=コルサコフ:
  ⑧熊蜂の飛行(歌劇『サルタン皇帝の物語』より)**
   */** ヤーヴォルカイ編(**は二重奏版)
シャーンドル&アーダム・ヤーヴォルカイ
(ヴァイオリン、チェロ)
これぞ「本場の音」!さながら民俗音楽のようにスパイシーで魔術的、なのに稀有の洗練度。中欧の伝統がストレートなまま「いま」に伝わる、この痛烈な芸術性...妖艶なカンタービレのなかで熾烈な交錯をみせる、磨き抜かれた「ハンガリー情緒」!何もかもがグローバル化し、あらゆる演奏が国際基準へと均質化してゆくような風潮のなかでも、本当にすぐれた演奏家たちは明らかに否みがたい個性を放っている…というのは、どちらかといえば近未来型な前項のアンサンブル・コントラストの音作りにも言えることではありますが、逆に古めかしい大時代的な地方性をストレートに出しても「一流」にたどりつくやり方があるのだ、ということを教えてくれるのが、このヤーヴォルカイ兄弟!かつてブダペストSQ、ヴァイオリンのシゲティやヴェーグ、チェロのシュタルケルやペレーニ...と桁外れの世界的名手を続々と生んできた「弦の国」ハンガリーの最前線で活躍するこの兄弟は、同じ音楽大国である隣国オーストリアでも非常な人気で(2009 年には若手の登竜門であるオーストリア銀行が「アーティスト・オヴ・ザ・イヤー」に兄弟揃って輝いた、中欧という伝統あるクラシック競争社会で“若手市場”の最前線をひた走る俊才なのですが、その音楽は昨今流行のスマート路線とはかけ離れた、妖艶なヴィブラートをたっぷり盛り込んだ大時代的なサウンドが特徴。しかし、それが決して古めかしく響かないのはなぜなのでしょう? 本当に驚くべきことに、彼らはいわばベルリンやパリの最前線で活躍する移民系ヴィルトゥオーゾたちと同じく、土臭さを最良の高雅さへと変えてみせる一流の、いや稀有ともいえるセンスに恵まれているようです。特に顕著なのが、バルトークの『ルーマニア民俗舞曲』...これ、昨今の民俗テイストたっぷりなラテン系古楽が好きな方々にも逆にすんなり歓迎されるのでは?天性のリズム感覚で決して乱れぬリズム、熱気ムンムンの漢気が艶やかな“東の妖しさ”とないまぜになる、抗いようのない弦音の魅力...。同じハンガリーのコダーイ作品の堂に入り具合はいわずもがな、SP 時代の名手たちも録音してきたハルヴォルセン作品や、作品像を塗り替えるユニークなチェロ版パガニーニ、中欧旅行の旅情さえ感じさせるヴァイオリン無伴奏——締めくくりのアンコール風に配された、圧巻の超名曲2編をヴァイオリンとチェロだけで、信じられないくらい多元的な音響世界で描いてみせる技量はもはや、言葉もありません。「昨今どの新人も同じに聴こえる」という玄人ユーザーにも、新鮮さを求める方々にも、不思議と共通しておすすめできる秀逸盤!
GRML98884
(国内盤)
\2940
カミーユ・プレイエルの音楽世界
 〜ショパンを世に知らしめた芸術家〜
カミーユ・プレイエル(1788〜1855):
 ①奇想曲「水夫」作品38 〜
  デュシャンゲ夫人お気に入りの歌にもとづく(1824)
 ②「ベアルンの吟遊詩人」による変奏曲(序奏とフィナーレ付)作品1(1816)
 ③フィールド風の夜想曲 変ロ長調 作品52(1828)
 ④アリアさまざま、ロッシーニのオペラから
  (デンマークで出版された楽譜による)
 ⑤序奏つきロンドー ハ短調 作品2(1817)
 ⑧オベールの歌劇『石工』の楽想にもとづくメランジュ 作品46(1825)
 ⑨ポーランドの歌による変奏曲 作品3〜
  ベーレル兄弟の奏でたポーランドの調べに、新しい変奏をつけて(1817)
マーシャ・ドミトリェヴァ
 (フォルテピアノ/プレイエル1831年製)
ショパンという芸術家が世に出られたのも、出資者や理解者がいたからこそ——19 世紀のパリ社交界で彼を有名にした功労者のなかでも、この「ピアノの詩人」が深く愛したピアノの製造者、プレイエル社は非常に大きな存在だったといえるでしょう。1807 年に創業したこのピアノメーカー、実は創業者自体が卓越した音楽一家だったことは有名な話...とくに、初代オーナーでもあったイグナス・プレイエル(1757〜1831)はもともとオーストリアの出身で(だから本名はドイツ語読みで「イグナッツ・プライエル」...オーストリア→フランス、というのはマリー・アントワネットと同じ来歴ですね)、若い頃には「交響曲の父」ハイドンの門下で学び、ロンドンではこの巨匠の対抗馬としてかつぎ出されたほどの人気作曲家になっていたのでした。この「父プレイエル」の作品は昨今そのとほうもないクオリティがどんどん再評価されつつあり、実際すばらしい録音も多々発売されてはいるのですが、その影で名前ばかりが有名なものの、どういう人物だったのかがまったく知られていないのが、イグナスの息子、カミーユ・プレイエル。おそらく多くの人が「ピアノメーカーのオーナーで、プレイエル・サロン(のちのサル・プレイエル音楽堂)にショパンを招いて彼を有名にした人物」としてか、あるいは「ベルリオーズのもとを去ったマリー・モークが結婚した相手」...というくらいの認識しかないと思うのですが、やはり蛙の子は蛙。若い頃には稀代のピアニストとして腕を磨き、ショパンが活躍をはじめる直前まで、約50 もの作品を作曲家として発表していたのです——そのみずみずしい作曲家としての才能が、その音楽性をあざやかに浮かび上がらせる古楽器演奏でたっぷり味わえるとは、なんと贅沢な時代になったことでしょう! 弾き手はマーシャ・ドミトリェヴァ、せんだって父プレイエルの(これも室内楽作品の影に隠れてめったに演奏されない)ピアノ独奏曲を、作曲者生前に造られたピアノで鮮やかに紹介してくれた俊才です。本盤で紹介されている一連の作品の演奏時間は、だいたい5分から10 分くらいのもの...作曲年代は1815〜28 年、つまりちょうどシューベルトと同時代のピアノ曲ということになりますが、彼が生きたのは「ショパン登場直前のパリのサロン」。古典派芸術がつねにそばにあったウィーン楽壇とはやや趣が違い、その音楽はむしろ「ロッシーニとボイエルデューの時代」、つまりベル・カント・オペラやそれに類するフランス歌劇がパリをにぎわせていた頃を髣髴とさせる、愛すべき洒脱さと華やかさに貫かれているのです!カルクブレンナー(カミーユの師匠でもあったそうで)やシマノフスカといった1820 年代の忘れがたいピアノ芸術家をご存知ならその路線、あるいはロッシーニの傑作オペラの抗いがたい勢いと歌心をピアノに翻案した感じ、というべきでしょうか——こういった音楽は「ただ弾いただけ」だと本当につまらなく感じたりもするのですが、変奏曲といいポプリ的接続曲といい磨き抜かれた小品といい、なんとも素敵な「知られざる傑作」らしさを感じさせてやまないのは、プレイエル社オリジナルのフォルテピアノ(煌びやかな美音のアンティーク的艶やかさ…)を美しく響かせ、カンタービレも急速パッセージも思いのままに操ってみせる、そんなドミトリエヴァの才気煥発なピアニズムあればこそのことでしょう。見落としがたい新録音!
GRML98919
(SACD Hybrid)
(国内盤)
\3150
シューベルト:ウィーンの古楽器演奏による「ます」他
 シューベルト(1797〜1828):
  1) ピアノ五重奏曲 イ長調 D667「ます」
  2) ピアノ四重奏のためのアダージョとロンド ヘ長調D487
  3) 「三つの小品」より第2曲 D946-2
イェルク・デームス(fp/シュヴァイクホーファー1835年製オリジナル)
トーマス・アルベルトゥス・イルンベルガー(ヴァイオリン)
マルティン・オルトナー(va)
ハイディ・リッチャウアー(vc)
ブリッタ・ビュルクシュヴェントナー(5弦cb)
そしてここにも「本場もの」——ウィーン古典派の故郷、音楽の都ウィーンを支える新旧世代の名手たちが、オーストリア人ならではの呼吸感そのままに、古楽器を操るならいったい誰が彼らに勝ち得ましょう——これぞ「生粋の本物」。名曲と秘曲、ご堪能あれ。・・・って、音楽は「勝負」ではないわけですが、この1枚のアルバムを聴いているかぎり「ああ、ウィーンの名手たちが古楽器をここまで弾けるなら、降参だ!」と、やはり思ってしまいます。オーストリアの首都ウィーンは長年にわたる「音楽の都」で、それこそモーツァルトやベートーヴェンやシューベルトの生きていた18〜19 世紀からその伝統は続いていますが、かつて「古い音楽は、作曲当時の古楽器と奏法で弾いてこそ、その本懐に触れることができる」という主張のもと、古楽器演奏やピリオド解釈というものが盛り上がり始めた頃、その中心地はイギリスやオランダなど、古典派の聖地とは遠い北の国々だったと思います。ホグウッドやブリュッヘンのベートーヴェン交響曲、マルコム・ビルソンの弾くフォルテピアノによるモーツァルトやベートーヴェンのソナタ…そんな時代にあって、本場ウィーンの音楽家たちは「ウィーン古典派の呼吸感は、ウィンナワルツと同じようにウィーンで暮らす人間にしかわからない部分もあるんだ」と言い続け、事実、この町やオーストリアの音楽家たちによるモーツァルトその他の音楽には、本当にユニークな魅力と「本場感」が宿っていたわけですが…時代は過ぎて21 世紀、今やピリオド奏法なり古楽器奏法は現代楽器プレイヤーたちにとっても無視できないものとなり、アバドやシャイーが古楽器オーケストラを振り、チェロの名手はバロック楽器を弾けないと始まらない、といった空気さえある昨今、「本場ウィーン」の音楽家たちもすっかり古楽器に親しみ、そのうえで「ウィーンならでは」のセンスを十全に発揮するというのですから、もうこれ以上「本場の本物」と呼べるものはないでしょう。そう——ここに集まった演奏家たちは、20 世紀半ばから現代ピアノの名手として確たる地位を築き上げながら、フォルテピアノ演奏のパイオニアとしても長年にわたる研究と実践・実績を積み上げてきた巨匠イェルク・デームスと、オーストリア楽壇の最先端をゆく若き名手、古楽器奏法でロマン派音楽までもこなす俊才イルンベルガーを中心とする、「ウィーンの空気を吸って生きる古楽器奏者」たち。余裕綽々の「ます」はのどかで静かなコントラバスも、比類ない魔法のような空気感で重なり合う弦楽器も、そして粒立ちといい和音のまろやかさといい、シューベルトのセンスをこれ以上みごとに伝えられるピアニズムがあるだろうか?と思われるデームスのフォルテピアノ奏法も…どこをとっても極上そのものです!滅多に演奏されないピアノ四重奏のための「アダージョとロンド」の併録も、巨匠デームスのフォルテピアノ独奏トラックがあるのも魅力(そういえば、本盤は昨年12 月録音、この大家の最新録音でもあります)。聴き手を気負わせずに、この風格——「本物」ならではの逸品です!Multichannel SACD-Hybrid

INDESENS!

INDE030
(国内盤)
\2940
フランス近代のクラリネット音楽さまざま
 〜ドビュッシー、ピエルネ、ヴィドール...
  クロード・ドビュッシー(1860〜1918):
   ①第1狂詩曲 〜クラリネットとピアノのための(1911)
  ブルーノ・マントヴァーニ(1974〜):
   ②連合条約 〜無伴奏クラリネットのための(2007)
  カミーユ・サン=サーンス(1835〜1921):
   ③クラリネットとピアノのためのソナタ 作品167(1921)
  ガブリエル・ピエルネ(1863〜1937):
   ④カンツォネッタ 作品19 〜クラリネットとピアノのための(1888)
  フランシス・プーランク(1899〜1963):
   ⑤クラリネットとピアノのためのソナタ 作品184(1963)
  シャルル=マリー・ヴィドール(1844〜1937):
   ⑥序奏とロンド作品72〜クラリネットとピアノのための(1898)
  ジョアキーノ・ロッシーニ(1792〜1868):
   ⑦序奏、主題と変奏 〜クラリネットとピアノのための(1809)
フィリップ・ベルロー(クラリネット)*パリ管弦楽団ソリスト
ピアノ:①④クレール・デセール
③パスカル・ゴダール
⑤エマニュエル・シュトロッセ
⑥⑦ニコラ・ドセンヌ
余裕綽々、なのに端正、そこから匂いたつ高雅さと、最先端のインスピレーション。品揃えばっちりなパリのワイン・バーのように。柔軟でありながら筋の通った「本場らしさ」。管楽器の王国フランスの「いま」を支える、絶好調の俊才ベローが奏でるフランス芸術!「フランスは、管楽器の王国…」——いまさら繰り返すまでもない事実ですが、こうした圧倒的な名盤に出会ってしまうと、やはりそんなことを口走らずにはおれませんね。何なのでしょうか、この国で暮らす人にしか醸し出せない、独特の機微というのがあると思います...管楽器演奏は特に「はなしことば」とも大きな関係があるのでしょうか、フランス語で(さらに言うなら、パリのフランス語で)生きている管楽器奏者たちが吹くフランス音楽は、その音色に華があっても、決してうるさくならないニュアンスがある。テクニックが完璧なのに、無機質にならない温もり、人肌の存在感がある。そうしたことがなくては、再現できない境地というものがある——そんなことを強く感じさせてくれるのが、フランス最先端の管楽器プレイヤーたちと密接な関係を築いてきたIndesens!レーベルからのこの新譜なのです。演目の大半は「フランス近代」、つまりサン=サーンスたちが国民音楽協会というのを立ち上げて「フランスならではの音楽」をめざしはじめた頃から、ドビュッシーが印象主義やネオ・バロック主義で「フランス発」の音楽様式を発信し、フランス六人組たちが「パリのエスプリ」を世界に知らしめた、そんなフランス音楽がとりわけ輝いていた時代の傑作ばかり。その吹き手は、この国を代表する超・名門パリ管弦楽団のトップ奏者、フィリップ・ベルロー! このオーケストラはご存知の通り、ゴベール、ミュンシュ、クリュイタンス...といった巨匠たちのタクトのもと、数々の伝説的名手が活躍してきたパリのコンセルヴァトワール演奏協会管弦楽団を前身として、今もパーヴォ・ヤルヴィやクリストフ・エッシェンバッハらとともに世界的な活躍を続けていますが、頑迷なまでに伝統気質を保ちながら最先端の国際シーンへ!というスタイルはまさしくフランス特有の洗練のあり方。ベルローの吹くクラリネットに息づく味わいもまさにその通りで、完璧すぎるほどのテクニックで吹きこなされる名曲の数々・というレヴェルは他の国の人々でも彼と競い合えるかもしれませんが、さりげない吹き口の「間」に宿る、ふわっと息を抜く瞬間などのえもいわれぬ薫り高さは、やはり「管楽器の王国」の血脈なしには体現できない境地としか言いようがありません。そして本盤をさらに磨き抜かれたものにしているのが、4人のピアニストたち——彼らもみなフランス人奏者であるとともに、稀代のソリスト=室内楽奏者。フランス語の呼吸、会話の呼吸、自分をぶつけあいながら高度な協和をつくってゆく、独特の協調性のあり方...そんなものまで息づいている「室内楽アルバム」としても、聴きごたえある1枚としてお奨めできます!

JB RECORDS

JBR-007
(国内盤)
\2940
ポーランド 心の故郷とヴァイオリン
 〜ヴィエニャフスキ、クライスラー、ショパン…
  ヘンリク・ヴィエニャフスキ(1835〜1880):
   ①笛吹きの歌 ②マズルカ「ポーランドの歌」
  ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844〜1908)/クライスラー編:
   ③インドの歌
  アレクサンデル・ザジツキ(1834〜1895):④マズルカ
  ジュール・マスネ(1842〜1912):⑤タイスの瞑想曲
  フリッツ・クライスラー(1875〜1962):⑥前奏曲とアレグロ
  ヘンリク・ヴィエニャフスキ:
   ⑦クヤヴィアク ⑧マズルカ「田舎風」⑨オベルタス
  パブロ・デ・サラサーテ(1844〜1908):
   ⑩ロマの調べ(チゴイネルワイゼン)
  フレデリク・ショパン(1810〜1849)/へルマン編:
   ⑪マズルカ op.17-2
   ⑫マズルカop.24-1 ⑬マズルカop.24-3
バルトシュ・ボクン(ヴァイオリン)
カタジナ・ノイゲバウアー(ピアノ)
ヴァイオリン音楽の「故郷」は、ここにもあり——ヨーロッパを魅了したヴィエニャフスキのほかスラヴ民族の心を語り、スラヴ民族のことばで名曲を紡ぐ。こんなところにも「本場もの」が!ポーランド発の小規模レーベル JB Records が送る、極上の「地元音楽」のあり方。「本場もの」をもうひとつ——弦楽器、なかんずくヴァイオリンという楽器がイタリアで生まれたのが16 世紀なら、この楽器は19 世紀にはもう、ヨーロッパ津々浦々のいたるところで「故郷の楽器」になっていました。たとえばベルギーにはド・ベリオやヴュータンらの「フランコ・ベルギー派」のヴァイオリン芸術流派が築かれつつありましたし、その流れとも無縁ではないスペインのサラサーテ、あるいはドイツのヨアヒム、ノルウェーのオーレ・ブル…といろいろな国に「この国ならでは」の名匠が生まれもすれば、彼らの弦のために素晴しい傑作が次々と生み出され、ドヴォルザーク(チェコ)のユモレスク、サン=サーンス(フランス)の序奏とロンド・カプリチョーゾ、バルトーク(ハンガリー)の44の二重奏曲、ワクスマン(アメリカ)のカルメン幻想曲…と、この楽器と切っても切り離せない小品やショウピースが世界中の作曲家によって書かれているのは、言うまでもない事実でしょう。そう、ヴァイオリンというものはすでにピアノ同様、ユニヴァーサルな楽器になって久しいわけですが、このアルバムを聴いたなら、おそらくそんな事実がすべて吹き飛んで「ポーランドはヴァイオリン音楽の(ひとつの)故郷」、と強く認識せずにはおれないでしょう! フランコ=ベルギー派のヴァイオリン伝統がベルギーやフランスなどのフランス語圏を中心に育ちつつあった19 世紀半ば、ショパンと同じくポーランドからヨーロッパ西方へと姿を現した天才ヴァイオリン芸術家=作曲家ヴィエニャフスキの傑作群を中心に、圧倒的に艶やかな音、「魅惑の魔術」というような言葉がぴったりくるようなヴィブラートとノンヴィブラートの交錯、スリリングな急速フレーズも濃密なカンタービレも思いのまま...とヴァイオリン芸術の至芸をたっぷり堪能させてくれるのは、ヴィエニャフスキと同じくポーランド出身、故郷を中心に手堅くキャリア形成を続けている知られざる名手、バルトシュ・ボクン——JB Records の主宰者ヤン・ヤクプ・ボクン(クラリネット)の弟です。圧巻の技巧だけなら彼より如才ないプロは多々いるでしょうが(って、こんなヴィルトゥオーゾ系の曲ばかり選んでいるくらいですからボクンも充分みごとな腕なのですが)、ここで聴き手を魅了してやまないのはやはり、このいわくいいがたい「スラヴ情緒」というのですかね...ヴィエニャフスキ作品に漂うあの妖艶さを、ここまで見事に引き出せるのは、やはりポーランド人の心あればこそなのだと思います。ヘルマン編曲によるショパンのマズルカも、同じ理由からかゾクゾクするような仕上がり!ポーランドのウォツカを垂らしたコーヒーをゆっくり飲みながら(もちろんウォッカだけでもOK ですが)弦の魅力にじっくり酔いしれたい1枚なのです。

PAN

PC10238
(国内盤)
\2940
ヴァイス:2挺のリュートのためのソナタ集
ジルヴィウス・レオポルト・ヴァイス(1687〜1750)
 1) ソナタ イ長調 2)ソナタ ハ長調
 3) ソナタ 変ロ長調 * 4)ソナタ ニ長調
  楽譜復元:カール=エルンスト・シュレーダー
カール=エルンスト・シュレーダー(リュート)
ロバート・バルト(リュート)
ガエターノ・ナジッロ(バロック・チェロ)*
 Symphoniaのへヴィヒッター、Pan Classicsから待望の復活(もちろん国内盤初出)——
 古楽奏者たちから絶大な信頼を集めていた故K=E.シュレーダーの忘れ形見、バッハも敬愛したリュートの巨匠ヴァイスの秘蔵作品復元版を、ヴァイス復権の旗手とともに。
 ヨーロッパの古い音楽を奏でるさまざまな古楽器のなかでも、意外と知られているようで知られていないのが、リュートという楽器ではないでしょうか。
 それはまず何より、日本で最も聴かれている古楽領域である「18世紀前半」に、すでにリュートそのものが大幅に廃れかかっていたせいなのかもしれません(かつては小さな室内でひっそり愉しまれていたのに、オペラ劇場や合奏などで大きな音を出す必要が出てきたため、共鳴弦の数を増やして音を増幅していったら、リュート奏者は調弦だけで人生の大半が費やされてしまうようになったから...というのが衰退の原因だそう)。ダウランドの傑作群をはじめとする英国ルネサンスのリュート音楽は、確かに誰をも魅了する普遍的な味わいがあるのですが、他の重要レパートリーであるフランス17 世紀の音楽はそもそも巧みに弾きこなすのが難しいせいか、そもそも注目される度合が少ないくらい(昨今の例外は、Ramee レーベルでの巨匠アンスニー・ベイルズの録音)。
 しかし本当に幸いなことに18 世紀のドイツ語圏、つまりバッハと同時代の音楽世界にも、たったひとり「誰が聴いても間違いなく巨匠」といえるほど魅力的な音楽を書くリュート芸術家がいました。S.L.ヴァイス・・・ドレスデン宮廷に仕えていた彼のリュート演奏を聴いた大バッハは、この楽器の至芸に大いに触発され、自らリュートの音が出せる鍵盤楽器を作らせ、それを奏でて多くの鍵盤作品を書いたばかりか、リュート独奏を見込んでの音楽まで作ったほどでした。実際ヴァイスのリュート独奏曲は、バッハやテレマン、ヘンデルらの室内楽曲などとも相通じる親しみやすい曲調や静かな抒情にあふれ、私たちが聴きやすい音楽内容になっているうえ、静かなピアニシモや和音の妙味、分散和音奏法その他のリュート特有の魅力ある作法にも事欠かず、リュートをじっくり聴く充実感を味あわせてくれるものが多い...ということは、古楽ファンには今さら繰り返すまでもない常識?ともあれ、そんなヴァイスの作品の大半が手稿譜でしか残っていない中、さらに滅多に演奏されない貴重なレパートリーもあります・・・それが、本盤に収録されているソナタ群!
 それらは2挺のリュートで弾く音楽らしい楽譜ではあるものの、欠損が多く専門的な楽譜復元が必要不可欠。ドレスデンの図書館にあった手稿譜がその原資料なのですが、本盤で何より嬉しいのは、かなりの数に上るヴァイス作品の現存資料を丹念に比較検討し、演奏不能と思われた欠損部分をみごと復元させたのが、2003 年に惜しまれつつ亡くなったリュート界の名匠、経験豊かな大ヴェテラン奏者カール=エルンスト・シュレーダーだったということ——そして、それを弾いているのもまた、腕前確かに多忙な活躍を続けていたシュレーダー本人と、確かな信頼で結ばれたアメリカ古楽界の俊才ロバート・バルトという遺憾なきタッグであるという点。そう、本盤はもともとイタリア随一の古楽レーベルSymphoniaで制作され、その後同社の休止とともに入手不可能となっていたものの、日本でも大いに求められてきた「幻の傑作盤」のひとつだったのです。国内仕様ではもちろん完全初出、シュレーダー本人が残してくれた作品解説も全訳付でお届け。まるでヴィヴァルディの協奏曲のように、合奏にも比しうる多彩な響きを織りなす名手ふたりの立ち回りは、夜のしじまに静かに聴くもよし、仕事の合間に雑事を忘れるために聴くもよし。俊才ナジッロの弾くチェロ入り作品も含め、ガット弦の響きにあらためて魅了されずにおれない金字塔的名盤です。
PC10241
(国内盤)
\2940
ジェミニアーニ:合奏協奏曲集 作品2(全曲)
 フランチェスコ・ガスパリーニ(1668〜1727):
  1) 歌劇『アンティオーコ』序曲
 フランチェスコ・ジェミニアーニ(1687〜1767):
  2) 六つの合奏協奏曲 作品2(1732 年ロンドン刊)
アンサンブル・アウゼル・ムジーチ(古楽器使用)
Symphonia レーベルの傑作盤&隠れ名盤が、Pan Classics に続々登場——まずは楽譜の売れ行きでヘンデルと人気を二分した「本場イタリア」の天才、ジェミニアーニから!ロンドンの音楽愛好家を熱狂させたコンチェルトを、イタリア古楽最前線のグループで。音楽の本場から、古楽のメッカへ——という意味では、イタリア古楽界も注目せずにはおれない大事なシーン。なにしろこのブーツ型の半島は、16 世紀末にオペラが発祥して以来、他のどの国にもまして「音楽の本場」と重視されてきた場所。イタリア人たちの天性の音楽センスはもはやいうまでもないことで、天才的な作曲感覚で仕上げられたバロックの名品群を、同じイタリアの古楽奏者たちが奏でるとき、その仕上がりはまず他の追従を許さない魅力を放ってやまないわけです(最も象徴的なのは、ファビオ・ビオンディやジュリアーノ・カルミニョーラの弾くヴィヴァルディ、あるいはコンチェルト・イタリアーノやラ・ヴェネシアーナ(「ヴェネクシアーナ」じゃなく。x=シ、はヴェネツィア方言です、このグループ名——Glossa のカルロス・セステルに聞いたら、そう名言してました)の歌うモンテヴェルディ...)。この国の古楽界の興味深いところは、イタリア本土では古楽の土壌が必ずしも育っているわけではないのに(意外と保守的なのがイタリア楽壇)、イタリア人奏者たちはフランスやオランダ、ベルギーなどの古楽教育機関やアンサンブルでどんどん活躍し、イタリア人にしか達成できないユニークな「本場もの」の演奏結果を出していること。エウローパ・ガランテやアッコルドーネなどの「世界随一のイタリア古楽バンド」を有名にしたのは何よりフランスやドイツ語圏の聴衆でしたし、その現象はいまも変わらず、屋号を畳んだ伊Symphonia レーベルの充実音源がこうしてドイツ語圏の新生Pan Classics レーベルから再登場したり。さて——ここに堂々登場してくれた音源は、ヘンデルと同じ時代にロンドンで大活躍をみせたイタリア・バロック最大のヴァイオリン芸術家のひとり、ジェミニアーニの「作品2」。コレッリ人気とあいまってロンドンでは合奏協奏曲が大人気、ヘンデルも金欠にさいし大急ぎで合奏協奏曲集「作品6」を作曲・出版して急場をしのいだのは有名な話ですが、そのヘンデルと楽譜の売上で人気を二分し、他の作曲家と文字通りひとけた違う販売部数を誇ったのが、このジェミニアーニ。「作品2」はホグウッド&AAM の名盤で知られる続刊「作品3」とともに、ナポレオン戦争の頃まで延々再版されつづけた超・人気曲集でしたが、その魅力はやはり「同じイタリア出身」の古楽奏者たちによるスポンタニアスな演奏でこそ映えるもの!独奏楽器群にヴィオラを織り交ぜた充実のサウンドを、今やオランダやフランスでも活躍中の俊才が続々と名を連ねるイタリアの実力派集団があざやかに料理——コレッリの堅固さにヴィヴァルディ的流麗さをたっぷり盛り込んだようなエキサイティングな音響世界に、当時としては最新流行の楽器だったフラウト・トラヴェルソがソロをつとめる作品もいくつか興を添え、なるほど18 世紀当時に延々と人気を誇ったわけだ、と納得せずにはおれない見事な演奏結果がたまりません。解説充実(全訳付)、2002 年リリース当初から市場ではほとんど見かけなかった「幻の名盤」の魅力を、じっくり日本でも知って頂きましょう。注目です!
PC10237
(国内盤)
\2940
テレマンと『音楽の武具庫』(1719)
 〜ライプツィヒ大学の音楽生活〜
 ラインハルト・カイザー(1674〜1739):
  愛されしアドニス(1697)、ヘルクレスとヘベ(1699)
 ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767):
  笑うデモクリトゥス(1704)、
  はかないマーリオ(1709・4曲)、
  不幸なアルクメオン(1711・4曲)、
  シリアは落ち着かず(1711)、アリアドネ(1712)、
  溺れたエポペウス(1715)、
  王室の女羊飼い
  マルゲニス(1715)、アルカディアの半羊神たち(1718)
 メルヒオール・ホフマン(1679〜1715):
  エコーとナルキッソス(1712・2曲)、
  アジアのバニーゼ(1712・3曲)、
  イスメニエとモンタルド(1713)、
  レア・シルヴィア(1714)
 ヨハン・ダーヴィト・ハイニヒェン(1683〜1729):
  忠実な女羊飼いダフネ(1710・2曲)
 作者不詳:
  導入曲・独唱アリア(2曲)・合奏アリア・メヌエット(6曲)・ブーレー
ユナイテッド・コンティヌオ・アンサンブル
ヤン・コボウ(テノール) (古楽器使用)
母のたっての願いを叶えるため、ライプツィヒ法科大学に入学したテレマン。しかし音楽への情熱やみがたく、明けてもくれても音楽三昧、オペラ三昧——そんな憎めない天才作曲家の青年時代を、ドイツ屈指の古楽歌手があざやかに振り返ります。テレマンといえば、器楽の大家——どんな楽器でも自分で弾きこなし、それぞれの楽器に最もふさわしい音楽を綴ってみせ、ヨーロッパ中にその名を轟かせた、バロックきっての器用で多作な大作曲家。とはいえ、なにぶん18世紀は声楽こそがすべての音楽の頂点、という時代。音楽にハマる、ということはつまり、その声楽芸術の頂点でもあるオペラにハマる、ということとしばしば同義でした。実はテレマンも、聖歌隊に出入りしていた少年時代からずっとオペラに憧れ、最初に公の場で演奏された彼の音楽は、師匠である聖歌隊長の監修をへて完成へと導かれたオペラ 『ジギスムンドゥス』(驚くなかれ、作者テレマンは当時まだ12歳!)。幼くして父を喪くし、しっかり者の母親に育てられたテレマンは、やがて将来を案じる母を安心させようと一念発起、法科大学として有名だった名門ライプツィヒ大学に入学します。しかし、場所が悪かった...そこには全ドイツで3番目に古いオペラハウスがあったうえ、教会音楽も大家クーナウがとりしきっており、すでに音楽環境が充分すぎるほど整っていたのです!こうして、我らが未来の巨匠はあれよあれよといううちに音楽活動の方へと道を踏み外してゆくのですが、このときも彼の活躍の場は仲間うちの学生合奏団(コレギウム・ムジクム)とのほか、オペラハウスにあったのでした(若き学生作曲家の歌劇場での人気に嫉妬した巨匠クーナウは、やっかみ半分に彼を「オペラうたい」と呼んだそう)。近年の研究で、ライプツィヒ市立図書館にあった『音楽の武具庫』なる手稿譜集が、実はまさにこの時代のライプツィヒ歌劇場で人気のあったオペラからの抜粋選集だったことがわかったのですが、なんとも嬉しいことに、そこにはカイザーやホフマン、ハイニヒェンといった同時代の大作曲家たちと並び、テレマン初期の貴重なオペラ群からのアリアが無数に掲載されていたのです——ドイツ古楽界の最先端をひた走る超・実力派ヤン・コボウは、この歌集から周到に作品を選び、これまでほとんど知られていなかった「テレマンの青年時代」のみずみずしい息吹を甦らせてくれました。歌が続いているあいだは伴奏は通奏低音のみになる、というパターンの多い18 世紀初頭のドイツ・オペラの特性上、伴奏は通奏低音だけで事足りるのですが、コボウのサポートにはガンバ、テオルボ、バロックギター、アーチリュート、チェンバロ、ハープ...と実に多彩な古楽器奏者が名を連ね(テオルボのA.ヴォルフをはじめ、ドイツ古楽界きっての俊才揃い!)、器楽トラックもいたるところに続々! 多彩でオーガニックな音色をフル活用、なめらかでニュアンス豊かなコボウの歌を精彩あざやかに盛り上げます。各トラック1〜4分程度、人声が恋しくなったときにつまみ聴くもよし、順序入り乱れて並べられた4名匠の作風に驚き、じっくり通しで聴くもよし。意外な逸品です!

Φ(PHI)

LPH002
(国内盤・訳詞付)
\2940
バッハ:六つのモテット BWV225〜230
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1685〜1750):
 ①新しい歌を主に向かって歌え BWV225
 ②来てください、イエス、来てください BWV229
 ③イエスはわたしの喜び BWV227
 ④すべての国よ、主を賛美せよ BWV230
 ⑤恐れることはない、わたしはあなたと共にいるBWV228
 ⑥聖霊は、弱いわたしたちを助けてくださいますBWV226
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(古楽器使用)
【独唱】
ドロシー・ミールズ、
ジュジ・トート、マリア・ケオ
ハネ、アンヌリース・ブランツ(S)
ダミアン・ギヨン(CT)
トーマス・ホッブズ、ハンス=イェルク・マンメル(T)
ペーター・コーイ、
ステファン・マクラウド(Bs)
【器楽】ブルース・ディッキー(ツィンク)
北里孝浩、
マルセル・ポンセール(オーボエ・ダ・カッチャ)
アヘート・ズヴェイストラ(バロック・チェロ)
モード・グラットン(オルガン)他
ヘレヴェッヘ自主制作レーベル——マーラーに続く待望の第2弾は、原点回帰のバッハ!この隠れた人気曲目を、あらためて「多重合唱」として見つめなおした、この超・充実解釈。器楽陣の充実、作品への深い愛。本人執筆解説も含め、あまりにかけがえのない1枚!昨年晩秋ついに発足、「古楽器でマーラー」という予想外の取り組みによって明敏なクラシック・ファンの話題をさらった、天才古楽指揮者フィリップ・ヘレヴェッヘの自主制作レーベル「φ(フィー)」。故郷である古楽大国ベルギーとフランスをまたにかけて活躍、長年にわたりharmonia mundi france でフランス古楽やネーデルラント楽派、バッハの傑作群、さらにメンデルスゾーンやブルックナー、ベルリオーズなどのロマン派作品...と多方面にわたる名盤を連発、古楽演奏に対する通念を静かに覆してきたこの異能の指揮者は、昨年から自主制作レーベルを発足させ、独特のセンスそのまま、自らの活動経験の集大成をそこに注ぎ込むこととなりました。昨年末にリリースされたマーラー録音の問題提起が各方面に巻き起こした興奮さめやらぬなか、予想よりも素敵なペースで第2弾リリースが登場いたします! さきのマーラー盤では、彼が創設したアンサンブルとしては最も新しいシャンゼリゼ管弦楽団が主役でしたが、今度はいろいろな意味で「原点回帰」。ヘレヴェッヘがまだ医学生だった頃に故郷ヘント(ベルギー北西部の古都)に創設、40年近くタッグを組んできた少数精鋭古楽合唱団コレギウム・ヴォカーレ・ヘントとともに、彼が敬愛してやまない大バッハの傑作を新録音へ!合唱こそが主役となるこの傑作中の傑作は、日本でもアマチュア合唱関係の方々を中心に根強い人気を誇っているレパートリーですが、ヘレヴェッヘは今回、信頼の置ける少人数の器楽陣を起用、歴史的検証をふまえつつ、各パート一人ずつからなる「弦楽合奏」・「オーボエ&ファゴット合奏」・「トロンボーン合奏」と三つの合奏隊を参加させ、二つの合唱隊が歌い交わす二重合唱の技法をふんだんに取り入れたバッハの書法をよりいっそう明確に際立たせます。こういった“仕掛け”はしかし、音楽性が伴わなければ企画倒れに終わるところ——しかしヘレヴェッヘも合唱陣も器楽陣も、ただでさえ音楽性は申し分ないうえ、あふれんばかりのバッハ愛がそうさせるのか、一音一音の、その音の連なり・重なりが醸し出す豊かさと深みはまさに桁違い...クイケン兄弟やルネ・ヤーコプスら往年の古楽演奏にある、比類ない滋味が好きな方(日本の古楽ファンの大半がそうではないでしょうか?)には無条件でおすすめ。独唱陣にも新時代の名手が続々、楽器ごとの音色の違いが醸し出す微妙な諧調もまた絶妙。ジャケット美麗、指揮者自身の書き下ろしにバッハ研究の権威P.ヴォルニーの作品解説も収録(全訳付)、作品をより深く味わうにも最適。同曲の演奏史をさりげなく覆す、新定盤と呼ぶにふさわしい名演です!

RICERCAR

MRIC301
(国内盤・訳詞付)
\2940
シャイト『聖なる歌さまざま』(1620)
 〜「ドイツ三大S」の名にふさわしく〜
ザムエル・シャイト(1587〜1654):
 ①救世主は甦る、今日この日
 ②わたしを導いてください、神よ
 ③届けてください、あなたの光を
 ④エフライムはわたしのかけがえのない息子*
 ⑤詩編第148 編「ハレルヤ!天において主を賛美せよ」*
 ⑥「主の祈り」によるコンチェルト⑦主を賛美せよ、すべての国よ*
 ⑧みどり児がお生まれになった、ベツレヘムに
 ⑨古き年は過ぎ去った
 無印:
  『聖なる歌さまざま(サクレ・カンシオーネス)』(1620)/
  *:『宗教的コンチェルト集 第3巻』(1635)
リオネル・ミュニエ(Bs)指揮
Ens.ヴォクス・ルミニス(古楽器使用)
バッハ以前のドイツ音楽を支えた「三大S」って知ってます? シュッツ、シャイン、シャイト...シュッツだけが辛うじて飛びぬけて有名ですが、実はあとの二人も相当にすばらしい大家。スマートなセンスと凄味が相半ばするシャイトの名品群、極上古楽演奏でどうぞお愉しみを。音楽史の本などをひもとくと、なにぶんドイツ語圏の音楽史というものはたいへん詳しく書かれているものが多いわけで——というのも、ワーグナーやモーツァルトといったユニークな名匠たちのかたわら、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスという「ドイツ三大B」があまりにも偉大な活躍をみせたせいで、音楽史がドイツ中心になってしまったせいでもあるのでしょうが——ともかくもバッハ以前、17世紀におけるドイツ最大の巨匠として「三大S」なる呼称に出くわすことがあります。研究家たちや古楽愛好家たちのあいだでは、ここ半世紀ほどで大幅に知名度が快復したハインリヒ・シュッツ(1585〜1672)が辛うじて有名ではありますが、他のふたりについては、その音楽をまったく聴いたことがない!という方が大半ではないでしょうか。あとの二人は、齢44で早世しながらも世俗・宗教曲両面でルネサンスとバロックの橋渡しをなしたJ.H.シャイン(1586〜1630)と、オルガン奏者としても名声を博しながら、シュッツと同じく最新のイタリア様式をあざやかに使いこなした声楽作品も残している名匠ザムエル・シャイト——シュッツと比べると劇的なまでに音盤の少ない二人ですが、幸い古楽大国ベルギーが誇る碩学プロデューサーが運営するRicercar レーベルが、CD まるまる1枚をシャイトに割いた充実至極のアルバムを世に送り出してくれました。そもそもRicercar はレーベル発足当初から『ドイツ・バロックのカンタータ』シリーズによってこの種のバッハ以前ドイツ声楽には非常に経験値が高いのですが、このたびのアルバムは全面的に最新録音! 超実力派集団ナミュール室内合唱団やバッハ・コレギウム・ジャパン、ラ・プティット・バンド、ドゥス・メモワールなど、さまざまなアンサンブルで活躍する実力派古楽歌手たち、オランダやベルギーを拠点に活躍を続けてきた俊才古楽器奏者たちが集い、この大家の代表的曲集のひとつ『聖なる歌さまざま(サクレ・カンシオーネス)』からの多彩な傑作群をじっくり味あわせてくれます。シャイトの作風の軸になっているのは、ヴェネツィア様式の複合唱形式であったり、歌声がつくりあげるメロディラインを工夫して音描写的な効果をつくりだす手法(いわゆるマドリガレスコ)であったり...絶妙なステレオ効果や阿吽の呼吸などが、ほとんど歌声だけで織りあがってゆくのは実に快感!そしてこれらの手法、実はのちに大バッハが(あの超傑作・六つのモテットをはじめ)いたるところで模倣することになる技巧でもあるのです。実際、バッハはシャイトの『新しいオルガン曲集(タブラトゥーラ・ノヴァ)』を自ら筆写して持っていたといいますから、それも故なきことではなく。何にせよ1パート1人を基本とするOVPP 編成での演奏そのものが素晴しいので(上記ロゴにみる通り、フランスの厳しい批評界も熱狂を隠せなかったほど!)、バッハの傑作と聴き比べて愉しむにも最適なのです。お見逃しなく!
MRIC310
(国内盤)
\2940
エリザベート・ジャケ・ド・ラ・ゲル(1665〜1729):
 ヴァイオリンとクラヴサン[=通奏低音]のための6つのソナタ
  (1707 年パリ刊)
アンサンブル・レ・ドミノ(古楽器使用)
フローランス・マルゴワール(バロックvn)
グイード・バレストラッチ(vg)
ジョナサン・ルービン(テオルボ/バロックg)
ブランディーヌ・ランヌー(クラヴサン)
仏Classica誌CHOC(ショック!)受賞!
フランス人、いやルイ太陽王を「ヴァイオリン独奏のすばらしさ」に開眼させた、傑作曲集!
なんと弾き手は「4人とも超・ヴェテラン」...今や大御所のクラヴサン奏者ランヌーのほか、名盤あまたのバレストラッチと名脇役ルービン、そして主役は「幻のソリスト」マルゴワール!1980 年、フランス楽壇がまだ古楽を億劫がっていたころ——この年にフランス語圏ベルギーで発足した古楽レーベルRicercar は、創設からしばらくは(ドイツ国境からそう遠くないという地の利を生かして)ドイツ・バロックの知られざる音楽世界を開拓してきた一方、ドイツやオランダ、英国などのレーベルとは違う「フランス語圏からフランス・バロックを発信できる専門レーベル」として、他のレーベルに先んじてノウハウを培い、同語圏ならではの本気度をこの分野で発揮してきました。そうしたフランス音楽への適性は、21 世紀の今もなお衰えることがありません。同レーベルから久々にフランス・バロックの器楽ものが出てきたと思ったら、演奏陣の豪華さはおよそ他の追従を許さないほどの充実盤でした。というより、まず演奏曲目がすばらしい——バロック期のフランス人は、自国の芸術に誇りを持つあまり、イタリア音楽がヨーロッパ全土で人気だったのが面白くなく、イタリア出自のジャンルであるヴァイオリン独奏ソナタなどは「ふん!」と聴きたがらない人が多かったのですが、その状況を打開した重要人物のひとりが、本盤の女性作曲家ジャケ・ド・ラ・ゲル。太陽王ルイ14 世晩年の愛人モンテスパン夫人に気に入られ、ほどなく王室に出入りを許されるようになったこの俊才は、フランス音楽の粋である「舞踏組曲」のセンスをたくみにイタリア式ソナタと織り交ぜたユニークな独奏ソナタ集を発表、あまりの面白さにルイ14 世自らが「これはみごとな音楽だ!」と絶賛したのですから、イタリア音楽嫌いを標榜していた国王近辺の芸術愛好家たちもさぞや当惑したことでしょう。このソナタ集、音楽史では話題に上るものの滅多に全曲録音などされず、こういう作品に目をつけてくれるRicercar の慧眼にも脱帽なのですが、なにしろ注目は演奏陣! 昨今も『レコード芸術』でフォルクレ全集が特選に選ばれ、その稀有なセンスをあらためて印象づけたクラヴサン(=チェンバロ)奏者ランヌーを筆頭に、カフェ・ツィマーマンの面子にもなっているバレストラッチ(Alpha)や俊才ルービンら文句なしの超・実力派に加え、主役であるヴァイオリン奏者は大御所古楽指揮者J-C.マルゴワールの愛娘にして、レザール・フロリサンでも活躍をみせてきた天才奏者フローランス・マルゴワール!そのむかしPierre Verany レーベルで数々の見過ごしがたい18 世紀秘曲を発掘してくれた彼女、その後あまりソロ盤を作らないと思っていたら、やおら登場した本盤では艶やかさや深みがさらに増したようで、羊腸弦のたわみや張りを繊細に生かした運弓の妙は、阿吽の呼吸で個性を重ねあわせる他の3名手とともに、過渡期ならではの作品美を否応なしに印象づけてやみません。古楽弦好きなら必聴の1枚です。ご注目を!
MRIC315
(国内盤)
\2940
ハイドン:ヴィオラ、バリトン、チェロのための三重奏ディヴェルティメント
 1) 三重奏曲 イ長調 Hob.XI-66
 2) 三重奏曲 ニ長調 Hob.XI-113
 3) 三重奏曲 ロ短調 Hob.XI-96
 4) 三重奏曲 ト長調 Hob.XI-70
 5) 三重奏曲 ト長調 Hob.XI-59
 6) 三重奏曲 ニ長調 Hob.XI-42
 7) 三重奏曲 ハ長調 Hob.XI-101
グイード・バレストラッチ(バリトン...共鳴弦付ガンバ)
アレッサンドロ・タンピエーリ(va)
ブリュノ・コクセ(vc)
・・・あまりの豪華さに、言葉を失う顔ぶれ。曲は「ハイドン好き・古楽好きの大好物」!
「弦楽四重奏の父」ハイドンが、主君の愛奏する弦楽器「バリトン」のために残した傑作群。のっけから煌びやかな弾弦もフル活用。これを聴かずして古典派室内楽は語れない!「バリトン」——ヴィオラ・ダ・ガンバの指板の中に金属製の弦をいくつも通してあり、羊腸製の演奏弦をこすって振動させるとこの金属弦も共鳴して、音の増幅がえもいわれぬ妙音を生む不思議な弦楽器。オーストリアの一部で18世紀にほんの少しの間だけ流行したこの「幻の古楽器」は、交響曲の父にして弦楽四重奏曲の父、ウィーン古典派の巨匠ハイドンの主君エステルハージ侯が愛奏していたことで、かろうじて音楽史に記憶されることとなりました。この楽器はとにかく演奏がむずかしいらしく、ハイドンも弾きこなそうと長いあいだ苦労して(仕事を終えてから夜のプライベート時間に練習していたせいで、奥さんに激怒されたとか…)みたものの、その成果を披露してみたら侯爵に「おまえはもっとこの楽器をよく知らねばならぬ」とダメ出しをくらったほど。ともあれ、ハイドンがそうやって楽器の機構を研究してくれたおかげで、私たちはこの楽器の機能をフル活用した天才の逸品を120曲以上、じっくり味わうことができるのですから、なんとも嬉しい話ではありませんか。現代においても、このバリトンを弾きこなしてみせる古楽器奏者は時折いるのですが(著名なところではリチェルカール・コンソートの主宰者フィリップ・ピエルロ...本盤の三重奏ディヴェルティメントよりもさらに珍しい八重奏ディヴェルティメントの全曲録音(MRIC206)は、2枚組にもかかわらず安定した売れ行きをみせています)、古楽大国ベルギーで30年以上音盤制作を続け、古楽器録音と古楽奏者コネクションではもはや他の追従を許さないRicercar レーベルがいま新たに世に問うた三重奏ディヴェルティメント集は、なんとチェロに「Alpha の看板」ブリュノ・コクセ(!)を配し、さらに主役であるバリトンを弾くのが、イタリア出身の超絶ガンバ奏者、セルジョ・バレストラッチ(!!)というからたまりません(大人気シリーズ「カフェ・ツィマーマンのバッハ」の最新新譜Vol.5で、ブランデンブルク第6番のガンバを弾いている異才です。近日、他の傑作新譜もご紹介予定)!演奏結果はもう申し分ない出来...ハイドンのバリトン・トリオをわざわざ録音するのは、関係者一同が十全に納得できるくらいの腕前になってからのことで、そもそも駄盤はまず出にくいジャンルなのですが、それでも担当は今回の録音をあえて「桁外れの出来」と推薦させていただきたい——いや、演奏陣の豪華さは伊達じゃなかったのです。バリトンは中低音域なので、ハイドンはこれを邪魔しないよう高音弦をヴィオラにとどめ、チェロを加えて独特の三重奏編成にしているのですが、各パートの旨味はかつてないほど個々に際立ち、響きのなじみ具合も圧巻のうつくしさ...。選曲も絶妙で、共鳴弦を指板裏の露出部分から親指ではじく特殊奏法をうまくあしらった名品(これがバリトンの良さ!)も多く、さらに非常に珍しい短調作品まで...。あの「リチェルカール古楽器辞典」の著者による明快・詳細な解説(全訳付)も含め、本当に贅沢な音楽鑑賞の時間を約束してくれる、聴きどころ満載の傑作盤なのです!

SAPHIR

LVC1103
(3CD)
(国内盤)
\4515
レーガー:チェロとピアノのための作品全集
マックス・レーガー(1873〜1916):
 ①アリア 作品103a(編曲:レーガー)
 ②ロマンツェ イ短調(編曲:R.ランゲ)
 ③奇想曲 ロ短調 作品79e-1
 ④心の契り 作品76-5(編曲:V.レンギン)
 ⑤菩提樹の花さくとき 作品76-4(編曲V.レンギン)
 ⑥マリアの子守唄 作品76-2(編曲V.レンギン)
 ⑦奇想曲 イ短調 ⑧ちいさなロマンツェ 作品76e-2
 ⑨ロマンツェ ト長調 ⑩子守唄 作品79d-1
 ⑪チェロとピアノのためのソナタ 第1番 ヘ短調 作品5
 ⑫チェロとピアノのためのソナタ 第2番 ト短調 作品22
 ⑬チェロとピアノのためのソナタ 第3番 ヘ長調 作品78
 ⑭チェロとピアノのためのソナタ 第4番 イ短調 作品116
 ⑮三つの無伴奏チェロ・ソナタ 作品131c
  (第1番 ト長調・第2 番ニ短調・第3 番イ短調)
 ⑯交響的幻想曲とフーガ(編曲:R.エングル)
アレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)
エドアルド・オガネシアン(ピアノ)
ロシア現代、最前線! 惜しくも来日は逃したものの、クニャーゼフ人気は衰えようもない。
バッハ無伴奏で盛り上がった2010年に続き、ドイツ・ロマン派最後の巨匠レーガーの思わぬ多彩さを縦横無尽に——無伴奏ソナタも二重奏ソナタも「全曲」とは、何と贅沢!アレクサンドル・クニャーゼフはまず間違いなく、現代ロシア・チェロ界の最前線をゆく、そして最も偉大な名演奏家——そのことは、とくに私たちの日本の音楽シーンでこそ強く認識されているのではないでしょうか?昨年は他レーベルから出ていた満を持してのバッハ「無伴奏チェロ組曲」全集が好評を博していたと記憶していますが、このチェロ奏者のすごいところは、ドヴォルザークの協奏曲やバッハの無伴奏といった「チェロの王道」をゆく傑作を堂々たる風格で弾きこなすだけでなく、室内楽にも強い情熱を捧げ、さまざまな一流演奏家(ベレフスキー、ルガンスキー、レーピン、コルシア...)の信頼も厚く共演を続けている点。室内楽を大切にする演奏家ほど、自分の世界をしっかり持っているように思うのですが、それは本作のような思いがけない企画に喜んで携わり、熱心に作品解釈にいそしんで、ひとつひとつ丹念に、磨き抜かれた演奏で録音してみせるあたりからも、よくわかることでしょう。なにせ、ここで彼が「チェロのための室内楽・器楽作品すべて」を録音したのは、ほかでもない、短い生涯のあいだに驚くほど多くの作品を書いた作曲中毒の晩期ドイツ・ロマン派、マックス・レーガーの音楽なのですから! 古くはアーベントロートからハンス・ツェンダー、ホルスト・シュタイン...と、ドイツ旧世代の指揮者にはこの作曲家を偏愛していた人も少なくはありませんし、庄司紗矢香も最新のバッハ・アルバムに堂々レーガーの無伴奏作品を盛り込んでいたり。ハマればハマるほどに奥深いレーガーの世界を端的に教えてくれ、しかもCD3枚にわたって末永く聴き込める内容に作り込んでくれたクニャーゼフの素晴しい音楽性と音楽愛には、本当に感謝の念が尽きない...聴きはじめれば、すぐにそのことがわかるでしょう。というのも、レーガーは晩期ロマン派らしい風格たっぷり濃厚・長大なソナタを書いても一流(においたつようなロマンティシズム!)である一方、意外と知られていないことですが、クライスラー流儀の小品では一転、驚くほど小粋なセンスを発揮し、ドイツ人特有のユーモアや詩情にも事欠かない思わぬ世界を紡ぎ出していたりして、チェロとピアノで綴られるそうした音楽がこれまた比類なく忘れがたい逸品揃いなのです。豪放・雄大、さらに繊細・洒脱——チェロが好きなら、このアルバムでぜひレーガーという未踏の大陸を発見していただきたいもの。クニャーゼフの絶品解釈は、その価値が充分にあることを強く印象づけてやみません。無伴奏ソナタ3曲で描き出される、俊才オガネシアン(p)の小気味良い個性もさることながら、深々とした三つの小宇宙は「必聴」といってもいいくらい。3枚組2枚価格でお求めやすくなっています、ご注目を!
LVC1129
(国内盤)
\2940
ショパン:ピアノ協奏曲第1番(室内楽版)
ショパン(1810〜1849):
 1) バラード 第1番 ト短調 作品23
 2) バラード 第3番 変イ長調 作品47
 3) ピアノ協奏曲 第1 番 ホ短調 作品11
レベッカ・シャイヨ(ピアノ)
ジャック・サンティヴ、
マチュー・ネヴェオル(ヴァイオリン)
カロル・ドーファン(ヴィオラ)
アラン・ムニエ(チェロ)
マチュー・プティ(コントラバス)
ナウモフの秘蔵っ子。弾きだしたとたんに何かが違う、その風格には息を飲むばかり——
これぞ「フランスのショパン」、そしてこれぞ「フランスの室内楽」。侮りがたい謎の天才レベッカ・シャイヨ、共演陣もさりげなく豪華な「室内楽版」で、ショパンの深みを十全に堪能。
聴き始めたとたん「何かが違う」と感じるピアニスト、いますよね(ピアニストに限らずですが)。アルゲリッチ、グリモー、アンデルシェフスキ…みんな登場した時から何かが違う、そんな風格を感じさせていたような。個性というのはいろいろあって、録音を聴いているだけでもショパンひとつでこうも違うのかと、どんなピアニストでも思う部分はあるものですが、じわっと来る人、終局部分で盛り上がる人、何度も聴いているうちクセになる人...と色々いるなか、本盤の主人公は最初に聴きはじめた瞬間、音を出した瞬間から「あ、違う!」と感じさせてくれる人。パリ1区の小劇場=映画館支配人にして楽壇通のSaphir オーナーが、さしたる紹介もなしに送ってきた本盤の主人公レベッカ・シャイヨは、まさにそんな人物なのでした——フランスからは折々そういう異才がひょいと出てくるもので、昨年はクロード・ベスマンというペルルミュテール門下の異色ラヴェル弾きがTutti Records から(TUT003)、また今年初頭にはフローランス・ドラージュというコルトー最後の弟子が(INDE020、最新盤「24 の前奏曲」はINDE031)いきなり私たちの耳目を驚かせてくれたわけですが、シャイヨもその流れを勢いづけてくれる人物!そもそも初のショパン盤を、あの長大な第1 バラードで開始してみせるのも大した自信のあらわれですが、そこで紡ぎ出されるスケール感、ダイナミックなのに大味とは程遠い精緻な構成センス、「指が廻っていることを感じさせない」技巧の確かさ、そしてなんとも言葉で形容しがたい、圧倒的な存在感...音楽の濃密度が、明らかに桁違いなのです(ホント、なんでこういう人が埋もれてるんでしょうね、ヨーロッパって...)!師匠は稀代のフォーレ解釈者にしてナディア・ブーランジェ最後の弟子のひとり、エミール・ナウモフというのも何となく頷ける気がします。
後半の「室内楽版」によるピアノ協奏曲第1 番の共演者にはさりげなく超・名手や異才タイプが名を連ねていて、いうまでもなくチェロにアラン・ムニエ御大(!!)がさりげなく鎮座されているのに驚かされるわけですが、第1vn のサンティヴは俊才揃いの異能集団Ens.ケフェウスのソロ奏者、第2vn のネヴェオルはジプシー系音楽もこなす異才、ヴィオラのドーファンはパリ国立地方音楽院の名教師、コントラバスのプティはリル国立管のソロ奏者...と、全員クセモノ揃いのクインテットが弾き始める冒頭の総奏がまた、むせかえるようなフランス的高雅さ・濃密さに彩られた鮮烈な響き...ブルゴーニュ地方ディジョン音楽堂での一夜、ライヴならではの緊張感が最高の形に昇華した1 枚。
LVC1116
(国内盤)
\2940
セヴラックの『セルダーニャ』を、パイプオルガンで
デオダ・ド・セヴラック(1872〜1921):
 『セルダーニャ』〜五つの絵画的練習曲
  (オルガン編曲:ジャン=フィリップ・オダン)
ジャン=フィリップ・オダン
(チューリヒ・トーンハレのクロイカー&シュタインマイアー・オルガン)
幻の秀逸レーベル「3D」から、奇跡の復活——Saphirオーナーも個人的に大推薦、カルト的人気のフランス近代作曲家セヴラックの思わぬ魅力を浮き彫りにした「幻の名盤」!日本語解説には、原文解説にない演奏者自身のコメントも掲載。音楽創造の最先端、ここに。「なんでわざわざオルガンで『セルダーニャ』を?」なんてわかりきったこと、聞かないでくださいね…というか、一聴すれば、そんな野暮な疑問はもう忘れてしまうと思います——と、先々週まったく同じ書き出しで「オーボエで奏でる、アルベニスの世界」(LVC1113)という新譜をご案内しましたが、同じSaphir レーベルから、またも一瞬目を疑う、そして聴いたあと強く頷かずにはおれない編曲盤の登場。聴いたらたぶん虜になりますよ、これも。輸入盤の広大な世界を昔からチェックされてきた方なら、インターネットなどない時代、時折見かける「幻のレーベル」に心躍った経験もおありなのでは。フランス音楽好きの方々なら、あの国で一瞬だけ名盤群を作ったあと消えていった秀逸なレーベルをいくつかご記憶でしょう(なつかしのAdda やREM、近年ではAssai にOgam、あのCalliope も休止と聞きましたし、ああFnac レーベルなんてのもありましたね…)。1990 年代の前半、秘曲発掘の天才C-M.ジローの弾くピアノでフランス近代の知られざる名品群を掘り起こしていた3D レーベルも、そうした「失われた名レーベル」のひとつ。廃盤となったアイテムには、入手機会を逸した方々が血眼担って探しておられるものも少なくないでしょうが、幸いパリ楽壇の業界通がオーナーのSaphir が、この3D レーべルから厳選アイテムの音源を取得、オリジナルジャケットを生かしながら少しずつ新装発売を続けてくれています。昨年は名フルート奏者P.ガロワのドビュッシー三重奏ソナタ(LVC1104)、ストラヴィンスキーの室内楽作品集(LVC1106)と2作の名盤で好評を頂きましたが、今度はフランス近代ファン垂涎の「南仏国民楽派」(?)、セヴラックの意外な編曲もの...!ご存知のとおり、セヴラックは南仏トゥルーズに生まれ、パリのスコラ・カントルムでダンディやマニャールに学んだのち、フランス北部とは異なる伝統をもつ南仏に自らのルーツを見出し、フォーレやドビュッシーらの響きにも通じる独特の音響センスを発揮、『セルダーニャ』『日光浴する娘たち』『ラングドックにて』など、南国特有の陰影や素朴な情景を想起させずにはおかない魅力的なピアノ曲を数多く書きました。それらはレコード時代から名盤も多く、熱狂的な愛を捧げてやまないフランス音楽ファンは日本にも少なくありません——そうしたセヴラック偏愛は幸いにして一部のヨーロッパ人演奏家たちにも見られるのですが、意外と知られていないのが、この作曲家が19 世紀末の大家ギルマンのもとで本格的にオルガンを学んでいたという事実。20 世紀の偉大なオルガニスト=作曲家マルセル・デュプレの系譜をひくフランス人奏者オダンは、セヴラックの代表作のひとつ『セルダーニャ』の全編をオルガン独奏のために編曲、作曲家像に一石を投じる名録音を上記3D に残してくれたのでした。一聴すれば「そうか、フランス派のオルガンか!」とただちに納得がゆくはず——管弦楽作品にも似た色彩感覚がこの作品に潜んでいたことを再確認させてくれつつ、素朴派絵画をステンドグラスにしたような、えもいわれぬ「朴訥な信仰心」のようなものを呼び覚ます独特の美は、原作を知らずとも引き込まれてしまうでしょう(というより、ドビュッシーと同時代のオルガン作品としても注目すべき「誰にも似ていない」響きだと思います)。初夏の澄みきった夕暮れにも、夏の夜にもぴたりと似合いそう——フランス音楽ファン必聴の逸品です。

ZIG ZAG TERRITOIRES

ZZT110302
(国内盤)
\2940
フォーレ(1845〜1924):
 1) ピアノ四重奏曲 第1番 ハ短調 作品15(1880)
 2) 連作歌曲「良き歌」作品61(1892〜94)
アンサンブル・コントラスト
ジュヌヴィエーヴ・ロランソー、
モード・ロヴェット(ヴァイオリン)
アルノー・トレット(ヴィオラ)
アントワーヌ・ピエルロ(チェロ)
ヤン・デュボスト(コントラバス)
ジョアン・ファルジョ(ピアノ)
カリーヌ・デエー(メゾ・ソプラノ)
このうえなく繊細、しなやかに精緻——フランス勢が描き出すフォーレは、やはり一味違う。
デュロゾワール盤が印象的だったロランソー、ブルッフ盤で成功したファルジョ&トレット、そして近年続々と名盤を連発するデエー...艶やかさと鮮烈な表現力で、21世紀へ!「フランス音楽」と聞くと、私たちはどうしても、フランス語圏の演奏家による演奏には抗えないものがあるのかもしれません(もちろん、同じ「本場感」は他の国々の音楽にも言えるのですが。英国人の弾くエルガーやヴォーン・ウィリアムズ、チェコ人の弾くヤナーチェクやスメタナ...)。しかし、フランスの演奏家と言っても全て同じセンス、というわけではないところが面白い——移民大国ならではの民俗的歌いまわし、洒脱な呼吸、知的なセンス...と色々なパターンがあるからこそ、私たちはいつまでも音楽の愉しみから抜け出られないわけで。そう、ハイドシェックもチッコリーニもアレクサンドル・タローもみんな「フランス・ピアニズム」、ミュンシュもマルティノンもブーレーズもみんな「フランスの指揮者」、フルニエもフェラスもプーレもカピュソンもコルシアもケラスもみんな「フランスの弦」というわけです。全部違う。その意味で見過ごせないのが、この音楽大国の最前線で、室内楽が最も面白い「近現代もの」を主戦場にユニークな活躍を続けるアンサンブル・コントラスト!てっきり現代音楽の専門団体かと思いきや、あにはからんや——Ircam の現代作曲家データベースにドビュッシーやラヴェルが含まれているとおり、フランス現代音楽シーンでは「フランス近代」までひとつづきの同胞音楽とみなす向きがあるのか、こうしてフォーレの極上録音を世に問うてきたりするわけです。しかしこのグループ、よく見れば昨年すばらしいブルッフの協奏曲録音をCypres から出してくれたヴィオラ奏者アルノー・トレットとピアニストのジョアン・ファルジョ、「幻のフランス近代作曲家」デュロゾワールを発掘した(Alpha レーベル)稀有の才能の持ち主ロランソー(vn)など、すでにロマン派〜近代で実績をあげているフランスきっての俊才が多々参加していたり。名盤あまたのピアノ四重奏曲も、彼らの手にかかると1音目から堂に入った響き具合、スマートな曲設計でありながら弦の音はあくまで繊細、折々にふわりと香るフランス風味はやはり抗いがたい魅力。さらにフォーレ連作歌曲の粋「良き歌」では、こちらも近年名盤あまた、オペラに歌曲に現代音楽・古楽に大活躍中の俊才デエーをゲストに迎えつつ、提案してくれたのは「ピアノと弦楽五重奏のための室内楽編曲版」。フォーレ自身も最初の2曲まではこの形式に編曲したことがあったとのことですが、すでに(フランスものにはめっぽう点の辛い)本場フランスの批評誌が絶賛しているとおり、彼らが織り上げる響きの旨味は出色の仕上がり!フォーレならではの繊細さを生かしながら精緻な作品構造も浮き彫りにしてみせる名編曲が、「本場の“いま”」を印象づけてやまないのです。仏Classica誌4 ポイント賞仏Diapason誌5ポイント満点賞
ZZT041102
(国内盤)
\2940
フランツ・リスト(1811〜1886):
 ①死の舞踏 〜「怒りの日」によるパラフレーズ S.126
 ②ハンガリー狂詩曲 第1番 ヘ長調 S.244-14
 ③交響詩第3番『レ・プレリュード』S.97
 ④ハンガリー狂詩曲 第3番 ニ長調 S.244-9
 ⑤交響詩第13番『揺り籠から墓場まで』S.107
 ⑥交響詩第6番『マゼッパ』S.100
ヨス・ファン・インマゼール指揮
アニマ・エテルナ・ブリュッヘ(管弦楽団/古楽器使用)
リアン・ド・ヴァール(p/エラール1886年オリジナル)
生誕200周年のいま、この作曲家の真相を新たに問い直す——
19世紀の楽器と演奏法でなくては、リストがどう管弦楽のあり方を覆したのかはわからない…圧巻の音楽性で迫る、桁外れの1枚!
古楽大国ベルギーでチェンバロ奏者としてキャリアを歩みはじめ、やがて古楽集団「アニマ・エテルナ」とともに18 世紀のみならず19 世紀ロマン派...否、今やプーランクやラヴェル、ガーシュウィンなど20 世紀初頭の音楽まで「当時の楽器と奏法で」再現してしまう異能の指揮者、ヨス・ファン・インマゼール。2002 年以降はもっぱらZig-Zag Territoires レーベルで録音を続け、ベートーヴェンやベルリオーズなど今や古楽器オーケストラとしては「必ず通る道」となってきたレパートリーでさえ、音盤界を騒然とさせる入念かつ痛烈な存在感を放ってやまない録音を連発するこのタッグ。
今回、そのタッグの録音のなかでこれまで輸入盤のみの流通だった重要アイテムを国内仕様リリース。
本年が生誕200 周年となるフランツ・リストの管弦楽作品集。
若い頃には凄腕ピアニストとして鳴らしたリストは、1849 年からヴァイマール宮廷の楽長となって以来、従来の通念をくつがえす斬新な管弦楽語法でオーケストラ音楽の概念を刷新、とくに管弦楽によって詩的情緒や物語、思想などを表現する「交響詩」という新ジャンルを切り開いたことは周知のとおりですが、19 世紀当時のオーケストラが本来どのような響きのものだったか、その真相を知らなければ、彼がどれほどの革新者だったか、どれほど私たちを興奮させてくれる存在だったか、その魅力を十全に味わえようもありません。
ファン・インマゼールはグレゴリオ聖歌にもとづく協奏的作品「死の舞踏」でプログラムを開始、19 世紀のエラール・ピアノと独特のアクセントを響かせる低弦・打楽器がいきなり「生のままの19 世紀」へと私たちを誘う、強烈な演奏解釈でアルバムコンセプトを明確に打ち出します。
その後につづく嵐のようなハンガリー民族舞踊、抑揚あざやかに聴き手の心をふりまわす「レ・プレリュード」、そして晩年(もうストコフスキーやブルーノ・ワルターが生まれている頃!)の異色作「揺り籠から墓場まで」さえ圧倒的な解釈で聴かせてしまう...アニマ・エテルナ盤の常どおり、その仕掛けを解き明かす解説書には今回ファン・インマゼール自身の解説に加え、コンサートマスターや管楽器奏者ら、古楽器演奏のプロである楽員目線のコメントも満載。
耳で驚き、読んで納得、どこまでも鑑賞体験を深めてくれる充実至極のアルバム!
ZZT110403
(国内盤)
\2940
フランシス・プーランク(1899〜1963):
 1) 2台のピアノと管弦楽のための協奏曲(1932)
 2)田園のコンセール**〜チェンバロと管弦楽のための(1929)
 3) フランス風組曲(1935)*
ヨス・ファン・インマゼール(cmb*・p・指揮)
アニマ・エテルナ管弦楽団(古楽器使用)
クレール・シュヴァリエ(p)
カテジナ・フロボコヴァー(cmb**)
「古楽器オーケストラ」が、ついにこんなレパートリーに踏み込む時代がやってきた!
本職としてルネサンス&バロックに取り組んできた古楽器奏者たちが、20世紀のネオ・バロック様式と正面から向き合うとき...異能集団アニマ・エテルナ、話題沸騰必至!あまりに驚いたので、サンプル到着前ですが、とにかくリリース情報をお届け致します——Zig Zag Territoires の看板ともいえる、古楽大国ベルギー最前線の腕利き古楽器奏者が集うアニマ・エテルナ管弦楽団が、世に問う新企画は、なんとポスト・ドビュッシー世代のフランスを代表する多芸な異才、「フランス六人組」のひとりプーランク! そしてプログラムには、この作曲家が「前衛」から新古典主義&ネオ古楽様式へと傾倒してゆくターニングポイントを飾った「2台のピアノと管弦楽のための協奏曲」のほか、20 世紀初頭にヴァンダ・ランドフスカらによって忘却の淵から救い出された“いにしえの楽器”チェンバロを用いての2作が選ばれているというのですから、がぜん注目せずにはおれません。というのも、プーランクがこれらの作品を作曲したとき、「バッハを弾くならピアノではなくチェンバロで」とばかりに用いられていた20 世紀式のチェンバロは、今の感覚からすればおよそバロック時代の楽器に忠実ではない、さまざまな新機構をそなえた20 世紀ならではの楽器だったから。そしてこの「古楽復興の黎明期」は奇しくも、フランス独自の音楽的アイデンティティを探るべく、ドイツ・ロマン派への反発も手伝いながら、現代作曲家たちがバロック以前の音楽の作法をさまざまなかたちで導入していた時期と重なるのです。プーランクが知っていたのは、変音ペダルや金属フレームのついた20 世紀の「モダン・チェンバロ」——しかしたった今制作元から入ってきた続報によると、インマゼールはあえて「1749 年パリ製の復元楽器」、つまり「本物の古楽器」で弾いたとのこと...このあたりのこだわりも、解説(全訳添付)できっちり解き明かしてくれるそうです。またプーランクがこれらの作品を書いた1930 年前後のフランスで使われていたオーケストラの楽器もまた、さまざまな点で現代のそれとは微妙に異なる趣きがあったわけで(たとえばドイツ式ファゴットではなくフランス式バソンを使っていたり、弦楽器の金属弦使用率が低かったり...)ラヴェルの「ボレロ」(1928)を、使用楽器と奏法にこだわりぬいて録音してみせたインマゼール&アニマ・エテルナは、今回もそうしたこだわりを貫いたとのことで、飛びぬけた音楽的感性とあいまって稀有の演奏を生み出すであろうことは疑い得ません。そして何より、このオーケストラは「ルネサンス=バロックの専門家」たちで結成されている...プーランクの感性でルネサンス様式を取り込んだ「フランス組曲」やバロックの作法を強く意識した「田園のコンセール」を、それらのルーツにまったく別ルートで通暁してきた古楽専門家が弾くと、どうなるのか? 鍵盤楽器の選択も含め、これはもう、21世紀の今しか生まれ得ない「歴史的新境地」にほかなりません。そのうえ、一部インマゼール自身がチェンバロやピアノを弾くとなれば...興奮必至の決定的リリース!
ZZT080702
(国内盤)
\2940
ベートーヴェン(1770〜1827):
 1.弦楽四重奏曲 変ホ長調 作品74「ハープ」
ショスタコーヴィチ(1906〜1975):
 2. 弦楽四重奏曲 変ロ長調 作品92(1952)
アトリウム弦楽四重奏団
アレクセイ・ナウメンコ、
アントン・イリューニン(vn)
ドミトリー・ピトゥリコ(va)
アンナ・ゴレロヴァ(vc)
弦楽四重奏史は、どんどん塗り変わる——古びようのない鮮やかな名演が、またひとつ!
創設2000年、ロシアの伝統を「いま」に伝えながら、明らかに新しい音響美学。
スタイリッシュな触感の奥に、じわりと響く音楽性。四重奏史の2巨頭の風格、ひしひしと。
大手メーカーによる20 世紀の金字塔的名盤はやっぱりどうしても素晴しいものですから、ついそこから入るのが常道のようなイメージがあるかもしれません、弦楽四重奏の世界。とはいえ、それはあくまで音盤シーンに限った話——当然、演奏会シーンには今やアマデウスSQ もメロスSQ もアルバン・ベルクSQ もスメタナSQも今ではいないのですから(その意味では彼らはもはや、ロシアのベートーヴェンSQやベルギーのプロ・アルテSQ、いやベートーヴェンの四重奏曲群を初演し、シューベルト作品にケチをつけたというシュパンツィヒSQ などとも同じ“歴史的存在”ということになりますね)、せっかくなら日進月歩で続々とあらわれる新世代の四重奏団と、末永くじっくりつきあって行きたいもの...「もはや大御所」のアルテミスSQやハーゲンSQなどドイツ勢、ソリスト集団アルカントSQやイザイSQなどのフランス勢の活躍もさることながら、やはり見過ごせないのが芸術家大国ロシア! 2000 年結成という非常に若いグループである本盤のアトリウム弦楽四重奏団は、結成数年でモスクワ、クレモナ、ヴァイマール、ロンドン...と世界的なコンクールに入賞・優勝を続け、2007 年には弦楽四重奏シーンにおけるエリザベートかショパンかARDか、というくらい重要なボルドー国際コンクールで華々しい優勝を飾り、その存在を華々しく印象づけることとなりました。コンクール破りの時代にはEMIからも若手シリーズで録音が出ていましたが、そうした新人紹介盤で売り込まれる時代をとうに過ぎ(2000 年結成なのに…なんという劇的キャリア!)、ヨーロッパ楽団最前線の超・実力派の集うZig-ZagTerritoires からこれほど完成度の高いアルバムを堂々リリースするとなれば、俄然注目せずにはおれません。この秀逸盤も、いわば日本では広告媒体がほとんどないため埋もれてしまう、そんなタイプの逸品——弦楽四重奏曲の歴史を語る上ではハイドンに次いで重要な二人、いずれ劣らぬ多作な巨人ベートーヴェンとショスタコーヴィチの、それぞれの芸術生涯における転機を彩った作品を選んできたのが、彼らの侮りがたさを印象づけてやみません。アトリウムSQ の師匠は旧タネーエフSQ のチェロ奏者ヨシフ・レヴィンソンで、この団体はショスタコーヴィチ後期作品の初演もつとめてきた歴史的団体——つまりアトリウムSQ にはロシア生粋の室内楽伝統が注ぎ込んでいるわけですが、そのサウンド作りはきわめて明瞭かつ新鮮、ショスタコーヴィチ作品の軽妙さをあざやかに際立たせながら、重すぎも暗すぎもしない、しかし何やら只者ならぬ奥深さを感じさせてやまない演奏は、あらためて「形式主義者」の烙印を押されソ連の演奏会シーンから締め出され続けた頃のショスタコーヴィチ作品の「紆余曲折」をあざやかに浮かび上がらせてくれるのです。またピアノ・ソナタでいえば第28〜29 番に相当する「中期末期」のベートーヴェン作品「ハープ」も、曲設計を周到に見据えてスマートに立ち回りながら、静かにドラマティックな抑揚を艶やかに盛り上げるシックな音作り。曲の深みをじっくり堪能させてくれる「格の違い」に、レーベル主宰者の慧眼をあらためて感じずにおれません。
ZZT110102
(国内盤・訳詞付)
\2940
ダウランド:リュート伴奏歌曲集
ジョン・ダウランド(1563〜1626):
 ①彼女は許してくれるだろうか
 ②恋とは嘆くだけのものなのか(フィリップ・ロシター作曲)
 ③来たれ、甘き恋 ④サー・ジョン・スミスのアルメインLT
 ⑤悲しみよ、留まれ ⑥涙よ、迸れ ⑦涙のガリアードLT
 ⑧流れよ、わが涙 ⑨エグランタイン、薔薇の枝LT
 ⑩羊飼いは木蔭にて ⑪去れ、自己愛にみちた娘たち
 ⑫ナデシコの花(作者不詳)LT
 ⑬愛していると言ってくれ、一度でもその通りだったなら
 ⑭アルメイン(ロバート・ジョンスン作曲)LT
 ⑮女性たちに、すてきな小物を ⑯目覚めよ、恋心
 ⑰好きな女性が泣いていた ⑱ダウランド氏の真夜中LT
 ⑲いとしい人、あなたが変わってしまったとしても
 ⑳ああ、もう時間だ、行かなくては
 (21)来たれ、重き眠りよ
  (※LTはリュート独奏トラック)
ダミアン・ギヨン(カウンターテナー)
エリック・ベロック(リュート)
「フランス人による英国もの」は、かなりの確率で素晴しい名盤になるもので——。
歌い手は日本でもどんどん知名度を上げつつある(バッハ・コレギウム・ジャパンとの共演でその美声をよくご存知の方も多いはず!)フランス新世代随一のカウンターテナー歌手、ダミアン・ギヨン!早くからヴェルサイユ・バロック音楽センターでフランス古楽界の躍進とともに研鑽をかさねてきたあと、「三大カウンターテナー」のひとりアンドレアス・ショル門下でじっくり技量を磨いてきたこの名歌手、一語ごとの、詩行一行ごとのニュアンスを丁寧に拾い上げながら、しなやかに、機微たくみにそれを綴ってゆく歌い口は魅力たっぷり、多角的に作品の面白さを味あわせてやみません。大事な曲も的確に収録、リュート独奏トラックも六つ——頼れる共演者はクレマン・ジャヌカン・アンサンブルの屋台骨、俊才エリック・ベロックというからたまりません。楽音の張りを的確に拾いつつ「響き」を大切にした自然派録音も好感度大。夜のしじま、小さな音で聴くのもお奨めです。
ZZT110301
(国内盤・2枚組)
\4515
リスト(1811〜1886):
 1) 詩的で宗教的な調べ(1853/全10 曲)
 2) ピアノ・ソナタ ロ短調(1852)
フランソワ=フレデリク・ギィ(ピアノ)
圧倒的なカリスマ性と他の追従を許さない極度の超絶技巧で一躍名を馳せた若き日のあと、ワーグナーの才能をいち早く見抜き、ともに他の誰にも似ていない独自の音楽語法を編み出して「新ドイツ楽派」なるものを切り開いた、異色の天才芸術家——しかしクラシック音楽に大作曲家は数多しといえど、リストほど「伝説」が先行して、その芸術性の全体像がひどくいびつな形で伝わっている巨匠もいないのではないでしょうか? 最も有名な作品のひとつ「ラ・カンパネッラ」はパガニーニの協奏曲の編曲にすぎませんし、あとは一連のハンガリー狂詩曲や『超絶技巧練習曲集』、ピアノ協奏曲といくつかの限られた交響詩、ロ短調ソナタ、愛の夢...と、知られている作品はほんのわずか。けれどもこの大家はむしろ多作をもって知られた人でもあり(Hyperion レーベルのレズリー・ハワードによるピアノ作品全集の巻数でも、そのことは一目瞭然ですね)、私たちは概して「氷山の一角」しか見ていないわけです。記念年である今こそ、その重要な作品をどんどん再発見したいもの!
そこへZig-Zag Territoires レーベルから届いたのは、収録作が単独で演奏されることが多いため名前こそ有名ながら、全曲録音などめったに出てこない『詩的で宗教的な調べ』!
1853 年に楽譜出版されたこの曲集は、若きリストが心酔したフランスの詩人、ラマルティーヌの同名詩集をインスピレーション源とするピアノ作品集で、ごく数分の作品から1曲で20 分近くかかる大作まで、大小さまざまな逸品が10 曲収められた大曲集。若き日のリストにラマルティーヌの生き方が与えた影響は非常に大きく、彼の政治思想や宗教観はこの詩人に根ざしていたといっても過言ではないほどだったそうで、リストは1853 年にこの曲集を楽譜出版するまで、実に20 年近く当該の詩集にもとづく大作を書こうと思索を続けていたのでした。いたずらに超絶技巧に頼らず、リスト特有のあのユニークな和声言語がいかんなく発揮された傑作ひとつひとつ、それぞれたいへんな充実作ですが、『巡礼の年』と同じく、うっかり手を出すと「何を弾いているのかさっぱり」といった結果にもなりかねなそうな不思議な曲も——それを、圧巻というほかない構成力、静々と聴き手に迫ってくる有無を言わさぬ存在感、一瞬の「間」ごとに潜む艶やかさで見事に描ききってくれたのは、Naive レーベルでベートーヴェンの協奏曲やチェロ・ソナタを録音しつづけてきた現代フランスきっての超・実力派、ますますの充実をみせる感性の持ち主フランソワ=フレデリク・ギィ!
しかも同時期に出版されたロ短調ソナタまで収録(これ1曲を核にCD ひとつ出来るくらいの、めざましい仕上がりです)、ラマルティーヌ作品の引用などを盛り込んだ解説も充実(全文訳付)、記念年にこの金字塔的曲集をじっくり聴きつくすには最適なセットというほかありません。目をひくジャケットも美麗、棚に「格」を添えてくれる本物の逸品です。




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