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第60号
2011/10/21〜12/16までの紹介分
お奨め国内盤新譜(1)



AEON


MAECD1095
(国内盤)
\2940
今をときめく超実力派3人グリンゴルツ、コペー、ラウルによるシューベルト!
 シューベルト(1797〜1828):
  1) アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D821(1824)
  2) ソナチネ第1 番 ニ長調 D384(1816-17)
     〜チェロとピアノによる演奏
  3) ピアノ三重奏曲 変ロ長調 D898(1827)
イリヤ・グリンゴルツ(vn)
マルク・コペー(vc)
ピョートル・ラウル(p)
 ソリストたちが続々、ハイクオリティな演奏をくりひろげてみせる「室内楽大国フランス」から今をときめく超実力派3人。
 あまりにも艶やかにチェロと三重奏の世界を織り上げるのは名門イザイSQ出身のコペー、ロシア新世代の優駿ラウル、そして「DGの」グリンゴルツ。

 独墺系が今なお熱烈な支持を集める日本でも、フォル・ジュルネ音楽祭の成功やラ・ロック・ダンテロン音楽祭の知名度向上などが拍車になってか、フランスという国は決して自国文化だけにとらわれない「国際的なクラシック音楽のメッカ」であることが、少しずつ強く意識されるようになってきました。
 そんなわけで、「よいものは古楽から現代まで、何でも紹介」という理想的なポリシーで本当によい音楽をよりすぐって世に届けてきたフランスAeon レーベルから出てくる「クラシック寄り」のアルバムにも、概してこのような国際的本格路線が反映されているケースが多いように思われます。
 この新譜、ご覧ください——フランス随一のイザイ四重奏団で長年チェロ・パートを支えてきたマルク・コペーと、確かな信頼で結ばれたデュオ・パートナーのピョートル・ラウルによる『アルペジョーネ・ソナタ』。
 さらに注目すべきはプログラムの最も大きな部分を占める大曲、ピアノ三重奏曲第1 番。シューベルト晩年のとてつもない音楽的広がりをいかんなく示す、名盤あまたの傑作でアンサンブルに加わるのは、なんとDeutsche Grammophon でも大いに活躍をみせてきたスーパープレイヤー、ロシアの異才イリヤ・グリンゴルツ。コペーとラウルは日本でこそ知名度は低いかもしれませんが、いずれ劣らぬ超実力派にほかならず、グリンゴルツの意気揚々、あるいは絶妙に繊細な弦音の流れと丁々発止と組みあい、艶やかに協和をみせます。
 ピアニストのピョートル・ラウル(来年春頃にはソロ盤も国内仕様でリリース予定)はきわだった個性の持ち主だと思うのですが、グリンゴルツ、グリマル、コルシア、ムルジャ...とクセの強いヴァイオリニストたちと好んで共演を続けており「参加者全員個性派」の室内楽で自己主張するのが好きなタイプなのかもしれません。
 スターの顔合わせというのではない、真に極上の室内楽を聴き極めたい方に、ぜひ本盤をお奨めします。

ALPHA


Alpha600
(国内盤)
\2940
フランス最前線の異才ル・サージュ
 新たに手がけはじめたのは、フォーレの室内楽曲のシリーズ!
  フォーレ:チェロとピアノのためのソナタと小品、ピアノ三重奏曲(初期構想版)

ガブリエル・フォーレ(1845〜1924):
 ①ロマンス op.69 ②チェロとピアノのためのソナタ第1番op.109
 ③エレジー op.24 ④チェロとピアノのためのソナタ 第2番 op.117
 ⑤セレナーデ op.98 ⑥蝶々 op.77 ⑦子守唄 op.16
 ⑧ピアノ三重奏曲 op.120
  (フォーレの当初の構想にあわせ、
   ヴァイオリン・パートをクラリネットで演奏)
フランソワ・サルク(チェロ)
ポール・メイエ(クラリネット)
エリック・ル・サージュ(ピアノ)
 大好評のシューマン・シリーズに続いて、フランス最前線の異才ル・サージュが動いた——
 新たに手がけはじめたのは、なんと嬉しいことに、フォーレの室内楽曲のシリーズ!

 ごらんください——創設12年になろうとするフランスの超・優秀小規模レーベルAlpha がいま、またしても新たな時代を迎えようとしています。
 2006 年から足かけ5年を費やして制作が進められ、日本でも『レコード芸術』特選などを弾みに大いに注目を集め今なお売れ行きが滞らない『シューマン:ピアノ曲・室内楽作品集』シリーズに続き、フランス屈指の俊才ピアニストであるエリック・ル・サージュがこの秀逸レーベルと新たにスタートさせたのは、同じフランスの近代を代表する天才・フォーレの室内楽シリーズ!
 この企画ではパッケージのイメージも斬新に(他のシリーズはこれまでどおりの美しい絵画ジャケで進行)、5作のアルバムを通じ、フォーレとさまざまなフランス文学とのかかわりに注目しながら「聴き」「かつ、読む」喜びを提供してくれるシリーズになるとのことです。絵画のトリミングを使った通常シリーズに「絵画は音楽のごとく、音楽は絵画のごとく」というサブタイトルがついているところ、今回のシリーズは「音楽は詩のごとく、詩は音楽のごとく」だそう...もちろん「読みふける愉しみ」の詰まった解説もすべて日本語訳付でお届けしますが、何はともあれ注目せずにはおれないのが、これまでシューマンのようなドイツ・ロマン派で、あるいはプーランクのような20 世紀音楽で発揮されてきたエリック・ル・サージュの感性が、その間をゆくともいえるフォーレの世界をどのように解き明かしてくれるのか?ということ。
 そしてル・サージュというピアニストはご存じのとおり、深い信頼で結びつけられた室内楽仲間も名手ぞろいですから、出てくるアルバムごとの顔ぶれも楽しみなところ。
 この第1 弾はさっそく聴き手のハートを射止めにかかるかのごとく、最もファンが多いであろうチェロ作品から。
 共演は近年Zig-Zag Territoiresでアコーディオン奏者とのユニークな新作アルバムをリリースしたフランス新世代の最注目株、フランソワ・サルク!伸びやかでノーブル、かそけき線を艶やかに描けるサルクの技量は、圧倒的な技巧的センスとあいまって、落ち着いたたたずまいで音を紡ぐル・サージュとともに、静かに酒でもくゆらしながらじっくり聴き深めたくなる、軽薄さとは無縁な「本場ならではの深いフォーレ」を紡ぎ出してゆくのです!
 傑作「エレジー」や「蝶々」などの小気味よさ、ソナタでの充実度もとびきりですが、もう一つ注目なのが、フォーレがほとんど最晩年になってから初めて書いたというピアノ三重奏曲。彼は最終的に弦楽器ふたつとピアノという通常編成で楽譜出版するのですが、当初はクラリネットとチェロを念頭に置いてこの作品を書いていたとか。贅沢にも俊才P.メイエをゲストに迎え、そのフォーレ当初の構想に立ち戻った編成で聴くと、ブラームスの晩年にも相通じる無駄のない書法が、クラリネット特有の響きを否応なしに引き立て、深く頷かされる説得力を帯びてくるのです。
 フォーレを深く知る人にも発見をもたらしてくれ、かつチェロとフランス音楽の魅力を堪能できる、充実の注目盤!

ARCANA


Mer-A368
(国内盤・訳詞付)
\2940
「本場」イタリア古楽の最前線で多忙な活躍を続けるマスカルディ、待望すぎるソロ制作盤!
 カスタルディ 荒ぶるテオルボの至芸
  〜ルネサンスとバロックのはざま、北イタリアの撥弦楽器芸術〜
ベッレロフォンテ・カスタルディ(1580〜1649):
 ①ラ・フォリア〔狂おしき踊り〕
 ②カプリッチョ「ビスキッツォーゾ」〔酔狂な気まぐれ〕*
 ③パッセッジョ「ルージンゲヴォレ」〔媚びへつらうように装飾演奏を〕
 ④コルレンテ「フリオーザ」〔激怒するかのごときコルレンテ〕
 ⑤ファンタスティカリア、通称「ジョヴィアーレ」〔愉しく酔狂な調べ〕コルレンテ「チェッキーナ」〔目の悪い女のコルレンテ〕
 ⑦コルレンテ「フロリーダ」〔華やぐコルレンテ〕
 ⑧ガリアルダ「アルペスカ」〔ープ風ガリアルダ〕
 ⑨カプリッチョ、通称「チェリモニオーゾ」〔気まぐれに儀式ぶってみせ〕*
 ⑩歌曲「じゃあクロリンダ、きみは」*v
 ⑪ガリアルダ「フェリータ・ダモーレ」〔恋して傷ついたガリアルダ〕
 ⑫カプリッチョ「スヴェリアートイーオ」〔気まぐれでも目は覚めています〕*
 ⑬タステッジョ・ソアーヴェ〔心地良い指ならし〕
 ⑭ソナタI*
 ⑮歌曲「あの頃わたしの人生は」v
 ⑯カンツォーネ「マスケリーナ」〔仮面をつけた女の歌〕
  *はティオルビーノとの二重奏、  vはビズリー参加の歌曲、  無印はテオルボ独奏
エヴァンジェリーナ・マスカルディ(テオルボ)
モニカ・プスティルニク(ティオルビーノ)
マルコ・ビズリー(歌)
 Alphaでもセンセーションを巻き起こした知られざる巨匠、カスタルディの“静謐な大胆さ”を精緻なテオルボ演奏で解き明かす。異才ビズリーを“チョイ役”で呼び出す超・実力派の至芸...!

 古楽演奏も今やさかんになって、ビオンディ、オノフリ、インヴェルニッツィ、アンサンブル・ゼフィーロ、ヴェニス・バロック・オーケストラ...と、今やイタリアからもすっかり世界規模で通用する超一流古楽プレイヤーが続々!嬉しい限りです、なにしろ古楽の“要”である16〜18 世紀には、このイタリアこそがヨーロッパ最大の音楽揺籃の地であり、パレストリーナ、モンテヴェルディ、フレスコバルディ、ヴィヴァルディ、ペルゴレージ...と、ヨーロッパ最前線の大作曲家たちが続々と輩出した地域だったのですから。
 そんなイタリア音楽を聴くのに、古楽解釈をふまえたうえでイタリア人魂まで兼ね備えた演奏家が弾く...となれば、いったい誰がその至芸を凌駕しえましょうか?
 フランスの鬼才古楽プロデューサーが立ち上げ、創設者の急逝による活動休止期間の後、2009 年からイタリアの意欲的な古楽プロデューサーによって復活を遂げたArcana も、今やこのイタリア古楽界の活況を支える一翼を担うレーベルとなり、音楽学・美術・諸芸術にまたがる広範な見識をありったけ解説書に詰め込みながら、心ある本格派の組織として強い存在感を放っています。
 そのArcanaの新譜に登場したリュート奏者は、なんとエヴァンジェリーナ・マスカルディ...!
 ガーディナー率いるイングリッシュ・バロック・ソロイスツを支えてきた彼女のイタリアでの活躍ぶりは今や実にめざましく、アンサンブル・ゼフィーロやイル・ジャルディーノ・アルモニコなど超メジャー系のアンサンブルに参加しつづけているだけでなく、アルゼンチン出身の異才プスティルニクや「あの」声の魔術師マルコ・ビズリーらとも緊密な共演関係を続け、ここでついに本格ソロ盤デビューとなった次第です!
 で、演目がまた驚き。
 小規模古楽レーベルの鑑Alpha の記念すべきリリース第1 弾でル・ポエム・アルモニークがとりあげていた、モンテヴェルディの知られざる同時代人にして卓越したテオルボ奏者でもあった才人、カスタルディが本盤の主役。Alpha 盤では声楽作曲家としての側面を強く打ち出していましたが、本盤ではあくまで「テオルボ奏者であり、小型テオルボ“ティオルビーノ”の発明者」としてのカスタルディの存在感を強調。カプスベルガーやピッチニーニやガリレーイら、17 世紀に入ってからイタリアのリュート芸術を盛り上げた天才たちと並ぶ名匠だったことを、凄腕共演者プスティルニクとの二重奏を交えつつ静かに解き明かしてゆきます。
 ほどよい低域のふくらみ、控え目さと力強さの交錯。弱音の至芸に、寒い夜の室内でじっくり聴き深めるのに最適な深みを感じさせてくれます。

ARCO DIVA


UP0142
(国内盤)
\2940
ヤクプ・ヤン・リバ(1765〜1815):
 1. 降誕祭のチェコ荘厳ミサ(1827 年版)
 2. パストレラ「いとしき子供たち」
 3. 降誕祭の祝典に寄せる讃美の歌「やあやあ、兄弟たち」
ヨハン・シュターミッツ(1717〜1757):
 4. 交響曲 ニ長調op.4-2(牧歌交響曲)
ヴァーツラフ・ピフル(1741〜1805):
 5. 交響曲 ニ長調(牧歌交響曲)
マレク・シュトリンツル指揮
パルドゥビツェ・チェコ室内フィルハーモニー管弦楽団、
チェコ少年合唱団「ボニ・プエリ」
パヴェル・チェルニー(org, cmb)
アンナ・フラヴェンコヴァー(S)
シルヴァ・チムグロヴァー(A)
ヤン・オンドレイカ(T)
ロマン・ヤナール(Bs)
 チェコの古典派、季節感あふれる滋味とピリオド解釈の共存——おもいがけぬ傑作ミサ曲に、シュターミッツの貴重な交響曲と、音楽史の本にしばしば出てくる名匠ピフルの隠れ傑作を。
 トランペットやティンパニもセンス抜群に参入、中欧ならではの充実した古典派解釈をどうぞ。

 寒い季節には、温かい場所で聴き慣れた響きを——といいつつ、聴き慣れた領域の音楽にもほどよい「新しい発見」があれば、なお言うことはありませんね。チェコ・プラハに拠点を置くArco Diva レーベルから届いたのは、モーツァルトやベートーヴェンと同時代を生きたチェコのローカル作曲家リバのミサ曲。もちろん、このリバが誰なのかをご存知の方はめったにいらっしゃらないだろうと思いますが、ここに録音されている『降誕祭のチェコ荘厳ミサ』という曲は、チェコでは知らぬ者とていないほど有名な作品なのだそうで、クリスマスシーズンにはどの教会でも必ず演奏会の曲目に上がる作品とのこと。フランスのノエルや英国のキャロル、スペインや南米のビヤンシーコなどと同じように、チェコ民俗音楽にも「パストレラ」と呼ばれるクリスマスの音楽があるそうです。ここにはそうしたパストレラから転用された音楽があれやこれやのかたちで盛り込まれ、チェコの人々にとってはおのずと「クリスマス!」という気分になってしまう季節感満点な音楽のようです。
 が、私たち日本人にしてみれば、たとえばイタリアで年末年始の風物詩になっているレンズマメ料理が寒い季節ならいつでもしっくりくるのと同じように、ここに録音されている音楽はまったくもってクリスマス限定で聴くなどもったいないほど、他では聴けない独特の魅力にあふれているのです。
 なにしろ、曲の骨子そのものはモーツァルトやハイドンのミサ曲と同じような感じなのに、そこへ独特の雰囲気をもった民俗調の節回しが何ら不自然さもなしに同居しているのですから(モーツァルトでいえば、『魔笛』のグロッケンが醸し出す不思議な感覚や、ヴァイオリン協奏曲第5 番のトルコ行進曲みたいな異国情緒...にちょっと近い?)。さらなる聴きどころとしては、本盤は基本的に現代楽器使用のオーケストラで演奏されているのですが(ご存知パルドゥビツェの気鋭集団)、オルガンは18 世紀の貴重なオリジナル室内楽器(手動ふいご式)、さらに演奏スタイルにピリオド的な意識を随所に取り入れていたり(運弓やアゴーギグ、本格ピリオド系のスタイルと中欧ならではの弦の滋味が共存しているのがなんともたまりません!)そのスタイルで18 世紀中盤と19 世紀初頭の充実した交響曲まで演奏して、古典派好き・室内管弦楽好きなら必ずドキドキしてしまう瞬間がいたるところ。
 中欧の底力をあらためて実感する、本場感あふれる好感度抜群の音楽が詰まった1枚なのです。

ARCO DIVA


UP0139
(国内盤)
\2940
ワルシャワ生まれ、ショパン音大卒&現・教授、
 生粋の「ワルシャワのショパン弾き」が紡ぎ出す「本場のショパンの“いま”」
 フレデリク・ショパン(1810〜1849):
 ①幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66
 ②夜想曲 第16 番 変ホ長調 op.55-2
 ③練習曲第25 番 変イ長調 op.25-1
 ④夜想曲 第26 番 ヘ短調 op.25-2
 ⑤夜想曲 第1番変ロ短調 op.9-1
 ⑥ポロネーズ 変ト長調(作品番号なし)
 ⑦4つのマズルカ(第18〜21 番)op.30
 ⑧アンダンテ・スピアナートと華麗なる大円舞曲 op.22
マリア・ガブリシ(ピアノ)
 ポーランドの首都にして“ショパンの聖地”ワルシャワでは、今や現代ピアノ最前線でも古楽奏法を知らずには済まされない。
 ワルシャワ・・・そこはポーランドの首都であり、ピアノの詩人ショパンが育った場所。今なおショパン国際コンクールの開催地として、揺るぎない“ショパンの聖地”として強い存在感のある象徴的な町。しかし近年、ショパン演奏の現場は急速に新たな時代へと突入しつつあるようです。かつて共産圏だった時代も今は昔、“東側”の厳然たるピアニズムの伝統が脈々と息づいていた頃とは打って変わって、近年ではこの地でも「古楽器演奏」を強く意識しない人はいないとか。世紀の変わり目前後から思わぬ巨匠たちがフォルテピアノを弾きはじめたり、ショパンに関する世界最大の権威ともいうべきワルシャワ・ショパン協会のCD レーベルでも、現代ピアノによる録音よりも古楽器ピアノによる録音の方をむしろ強く前面に押し出していたりします。
 しかし冷戦終結から20 年、意義ある研究がすばらしい音楽演奏につながるのであれば、どうして受け入れない理由があるでしょう。
 そしてショパンの故郷にいる自分たちが、ショパンが知っていた19 世紀のピアノを知らずして、どうして彼の芸術の代弁者といえましょう?
 そんな強い意識が、いまのポーランドにおけるショパン演奏からありありと感じられてなりません。同じく中欧随一の音楽大国である隣国チェコのArco Diva で制作されたショパン・アルバムは、そんなポーランドの新しいショパン演奏のあり方が、現代ピアノにどう息づいているのかを端的に示してくれる1枚。
 ワルシャワ生まれのワルシャワ育ち、ショパン音大でじっくり研鑽を積んだのち今は母校の教授をつとめる“生粋のワルシャワっ子”マリア・ガブリシが、ショパン最初期のポロネーズから晩年の『幻想即興曲』まで、ショパンの生涯のさまざまな時点に書かれた、多彩な形式による名品群を聴かせてくれる充実盤! これほどまでにワルシャワに密着したピアニストであるガブリシの経歴を見れば、米国のペライア、ロシアのガヴリーロフ、ウィーンのブッフビンダー...とさまざまな流派の世界的巨匠たちのマスタークラスに積極的に加わってきたうえ(チェコの名匠クラーンスキーにも学んでおり、本番録音には彼の存在も大きかったようです)、最近ではなんと古楽教育のメッカであるバーゼルのスコラ・カントルムで通奏低音奏法の名教諭J.クリステンセン門下にさらなる研鑽を重ねているといいますから、新時代のワルシャワ人は一味違う!と驚かされます。
 明敏なピアノ・ファンの方々には、テンポ・ルバートの瞬間にみる左手の動き、軽やかなパッセージでのタッチの妙など、どこをとっても聴きどころではないでしょうか。なにしろ録音は(フォルテピアノ奏法の先駆者でもある)バドゥラ=スコダの良きパートナー、ゲムロート&ロウバル&ソウケニークの三人組。残響過不足なし、音の機微を捉えた名録音で、新しい本場のピアニズムをじっくり聴き極めたいものです!

輸入盤発売済み
UP 0139-2
\2300→¥2090
ショパン(1810-1849):ピアノ作品集
  幻想即興曲嬰ハ短調 Op.66/夜想曲変ホ長調 Op.55 No.2
  練習曲変イ長調 Op.25 No.1/練習曲ヘ短調 Op.25 No.2
  夜想曲変ロ短調 Op.9 No.1/ポロネーズ変ト長調 Op.posth.
  4つのマズルカ Op.30; ハ短調/ロ短調/変ニ長調/嬰ハ短調
  アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ変ホ長調 Op.22
マリア・ガブリシ(ピアノ)
録音:2010年8月21-22日、プラハ、リヒテンシュタイン宮

ARS MUSICI


AMCD232-600
(国内盤)
\2940
フランスの色調、ポーランドの抒情
 〜越境・ヴァイオリン・近代の名品 シマノフスキ、ドビュッシー、そして...〜

 シマノフスキ(1882〜1937):
  ①ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ニ短調 作品9
 ドビュッシー(1860〜1918):
  ②ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(1916〜17)
 ショーソン(1855〜1899):③詩曲 作品25
 ルトスワフスキ(1913〜1994):④スービト(ただちに)〜
  ヴァイオリンとピアノのための(1992)
 マスネ(1842〜1912):⑤タイースの瞑想曲
ヨアンナ・ヴロンコ(ヴァイオリン)
フランク・ファン・ド・ヴァール(ピアノ)
 才能豊かな音楽家の宝庫・ポーランド——繊細な芸術を艶やかに磨いてきたフランス。
 「音楽芸術の本場ドイツ」をはさんで、ポスト・ロマン派世代の音楽家たちは何をみたのか?ポーランド新世代随一の俊才が描き上げる、とびきりの「ヴァイオリンの室内楽」をどうぞ。

 二つの文化が対面するとき、そこには必ず新たな面白さが生まれるもの。そもそも日本の私たちが西欧のクラシック音楽を聴いている、ということ自体がすでに「文化交流」にほかならないわけですが、その「西欧」が一筋縄ではいかない、いくつもの言語や民俗、憧れ、好悪、喜怒哀楽といったものの入り混じる文化混在地域なのですから、クラシック鑑賞の楽しさはいつまでたっても尽きることがありません。
 さて、古楽から現代音楽まで、意識の高いアルバム作りを続けてきたフライブルク・ムジークフォールムというドイツの組織が母体となって運営を続けてきたArs Musici は、経営体制が2009 年に変わってからも相変わらず充実した企画が多いのですが、ここでテーマになっているのは「フランスとポーランド」。
 もしお手元にヨーロッパの地図があったらなんとなく眺めていただきたいのですが、北のスカンジナビア半島(北欧)と南のイタリアやスペインのあいだ、ヨーロッパの最も大事な部分のうち最も大きな面積を占めているのが、西から東へフランス→ドイツ→ポーランドと続く3国(ポーランド、実はドイツやフランス並に広いんです)。そして音楽史をふりかえってみれば、フランスの作曲家たちとポーランドの作曲家たちは、どちらも絶えず「大きな隣国」、ソナタ形式や交響曲やワーグナー様式などを育んできたドイツの楽壇に、さまざまな思いを抱えてきた点で共通しています。そのうえ近代になると、ポーランドの作曲家はフランスの新しい音楽様式に強い関心を寄せ続けた(その好例がポーランド近代最大の作曲家シマノフスキ)...そういった図式を浮き彫りにしながら、近代ヴァイオリン音楽のいちばん聴きごたえある要素をじっくり味あわせてくれるのが、ポーランド出身の俊才ヨアンナ・ヴロンコによるこの新譜なのです。
 彼女は長いあいだドイツを拠点に活躍を続け、その後オランダの多芸な俊才フランク・ファン・ド・ヴァール(本盤の共演者)とデュオを組むようになってからはオランダでみるみるうちに多忙になっていった、まさに今が旬の新世代実力派。同郷の名匠シマノフスキの傑作や、この作曲家が大いに影響を受けたドビュッシーなど、フランス近代様式をよく理解していないと弾けない名品をいとも艶やかに、しかし甘さに堕さない芯の通った解釈で聴かせてくれる頼もしさ。こんな厄介なプログラムでデビュー盤を作ってみせ、あまつさえ「フランスとポーランド」というコンセプトをきれいに浮き彫りにする絶妙の名演(そのカンタービレの玄妙さ...)で仕上げてみせるのですから、将来も実に楽しみです!
 マスネやショーソンのような聴き古された傑作も上品な歌心で奏でる一方、ポーランド現代の最重要作曲家ルトスワフスキが生涯最後に完成させた作品「スービト」では完璧な技巧を武器に、圧巻の求心力で迫る・・・この多芸さは何?と思い来歴を見れば、師事してきたヴァイオリニストにはG.シュルツ(アルバン・ベルクSQ)、K.ブラッハー、P.アモイヤル、Y.ギトリス…と仏・独両語圏の名匠がずらり。キャリア形成にも周到な知性が窺えますね。

CONCERTO


CNT2064
(国内盤)
\2940
誰だ、この男・・・
 ケルビーニとベートーヴェン、“ほとんど幻想のように”
  ダヴィデ・カバッシ〜ソナタ第13番・第14番「月光」、練習曲=奇想曲〜

 ベートーヴェン(1770〜1827):
  1) ピアノ・ソナタ第13番変ホ長調op.27-1
 ルイージ・ケルビーニ(1760〜1840):
  2) ピアノのための奇想曲または練習曲(1789)
 ベートーヴェン(1770〜1827):
  3) ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調op.27-2「月光」
ダヴィデ・カバッシ(ピアノ)
 CD だからこそ、できることがある——現代ピアノを過不足なく、絶妙のあわいで鳴らしながら時代を超えて有効な、ベートーヴェンのうつろいやすい“幻想”=空想力の真髄へ。
 絶美の「月光」解釈は、この流れだとまるで初めて聴くような新鮮さ。ぜひご体感下さい!

 21 世紀に何を今更・な話ですが、確かにCD はLP ではありませんから、ジャケットもそれほど大きくはありませんし、むやみやたらに詰め込もうと思えば75 分以上も収録できてしまうため、余計なトラックを増やしてとりとめのない内容にすることだってできます。また音源データというのとも違いますから、ひとつの製品の単位はおのずと無理にでも「CD1 枚分」にしなくてはなりません。しかし何よりすばらしいのは、1枚かけるとLP のように裏返す手間もなければ、1枚ちょうどで止めなくても終わる...ということ——ミラノのConcerto から届いた最新アルバムを何気なく聴きはじめ、気がついたら圧倒的な印象を受けて驚きのうちに聴き終えていたとき、このことをあらためて痛烈に実感しました。あるんですね、CD だからこそできる、いやCD でしか伝えることのできない独特の物語というものが。収録時間56 分41 秒、それ以上は余計なトラックなど一切付加しない。だからこそ輝き始める音楽が、ここに凝縮されているのです。
 曲目の軸になっているのは、ベートーヴェンが作品番号27 のもとに楽譜出版した、2曲のソナタからなる曲集——現在のピアノ・ソナタ番号で言えば第13番と第14番、つまり後ろの方は「月光ソナタ」ですね。ところでベートーヴェンのこれほど有名なソナタともなれば、もはや「飽きるほど、曲がすりへるくらい」聴き倒して、あの冒頭部の美しさにもそう簡単には反応できなくなっている方も少なくないと思います。そんな方にこそ、ぜひこのアルバムを1枚通して聴いてみていただきたい...
 ベートーヴェンはこの「作品27」に収めた2曲のソナタそれぞれの表題を「ソナタ・クヮジ・ウナ・ファンタジア」、つまり「ほとんど幻想曲のようなソナタ」としており、本来は形式感覚を追求して構築感ある音楽としてつくられるはずのソナタを、既存の楽曲形式にあてはまらない器楽曲をさすものだったはずの「ファンタジア(幻想曲)」に近いかたちで仕上げるという、非常に斬新な試みを実践してみせたわけですが、今ではベートーヴェンのソナタ群そのものが聖典的傑作の扱いになってしまい、この種の自由磊落さや、あるいは自由すぎないぎりぎりの形式感覚は、ともすれば作者の意図したところから遠く隔たってしまったりするもの。
 しかし異才カバッシは、あえて辛うじて知名度がやや低い第13ソナタでアルバムを始め、そのあと「月光」へと移る前に、なんとフランスで活躍したオペラの大家でパリ音楽院初期の学長もつとめたイタリア人、L.ケルビーニ初期の意外なまでに自由な形式感覚による鍵盤楽曲をはさみ(後年あんなに杓子定規な古典美へと傾倒するケルビーニが、こんなに自由な音楽を書いていたなんて...!と古典派ファンなら驚愕するに違いありません。)、そのあとでようやく「大トリ」として「月光」を披露してくれるのです。
 18世紀末のピアニストによる即興演奏をさんざん聴いたような感覚になっている耳でこの有名曲を聴くときの、なんという新鮮さ、なんという傑作の威力...!現代ピアノを使いながらも余計なペダルに甘んじない絶妙のタッチが、この驚きを幾倍にも増幅させてくれます。多分、一見した印象よりもずっと強烈な内容のアルバムだと思います。

FUGA LIBERA

Chopin: Selected Works
MFUG579
(国内盤)
\2940
エフゲニ・ボジャノフ
 ショパン:ピアノ・ソナタ第3番他
  〜ワルツ、ポロネーズ、即興曲、バラード、舟歌〜
フレデリク・ショパン(1810〜1849):
 ①舟歌 嬰ヘ長調op.60
 ②ポロネーズ第9番 変ロ長調 op.71-2
 ③即興曲第3番 変ト長調 op.51
 ④ワルツ第8番 変イ長調 op.64-3
 ⑤ワルツ第5番 変イ長調 op.42「新しい大ワルツ」
 ⑥バラード第3番 変イ長調 op.47
 ⑦ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58
エフゲニ・ボジャノフ(ピアノ)
 全き存在感と、内面性——いま最も注目すべきコンクール戦士、いや来たるべき時代の担い手。
 ブルガリアから彗星のごとく現れたボジャノフ、Fuga Libera レーベルで録音制作された圧巻のショパン盤が、ついにヴェールを脱ぐ!

 ピアノ・コンクールの世界はいつだって圧倒的天才や桁外れの異才が続々出てくるもので、もう今更何が出てきても驚くまい...と食傷気味になっていたとしても、その人を誰にも責められはしないでしょう。しかし「コンクール覇者」というのは、なにしろ途方もない競争を(実力と運と人脈とで)勝ち抜いてきたことは確かで、少なくとも「飛びぬけた人間力」があることだけは確か。だからこそ、何はともあれコンクールを勝ち抜いてきたピアニストの演奏というのは、必ずや人を振り向かせるだけの求心力を持っている、という結果がついてまわることになるのでしょう。
 さて、2010 年あたりから日本でもピアノ事情通のあいだで静々と下馬評が高まりつつあるブルガリア出身のピアニストがいます。
 エフゲニー・ボジャノフ——ドイツのエッセンとデュッセルドルフで研鑽を積み(後者での師匠は近代ものに強い異才G.F.シェンク)、2006 年エッセンのベヒシュタイン・コンクールでの優勝を皮切りに、カーサグランデ、クライバーン、エリザベート、ショパン国際...と世界的なコンクールで続々入賞、もう誰にも否定できないような確かな実績を積みつつあります(一回の華々しい優勝というのではなく、入賞歴のあるのが軒並み世界的コンクールばかりなのが凄い)。Youtube でも映像がいくつか見つかりますが、その演奏はとにかく圧倒的な存在感!ベルギーで制作されたとおぼしきとあるエリザベートの実況テレビ(仏語中継)でも「彼の演奏は外面的に終わるなんてつまらないものとは大違い。私たち聴き手まで、彼ならではの音楽世界に包み込んでしまう」などと司会者がコメントしていますが、まさにそのとおり。
 そんな彼のベルギーFugaLibera レーベルから待望のソロ・デビュー盤が、オール・ショパン・プログラムで登場!
 しかもプログラムは初期の大作ポロネーズから晩期の舟唄まで、小さなワルツから壮大なソナタ第3番(!)まで、およそショパンという芸術家のありとあらゆる側面をたどるかのような内容。それをひとつひとつ、思わず耳をそばだててしまう内的威力(とでもいいたくなるような深みとカリスマ性...)に満ちた解釈で仕上げてゆくのですから、やはりじっくり聴き深めてその感性に浸らずにはおれません。
 少年時代には身近にアコーディオン(東欧では最もポピュラーな楽器のひとつ)があったとかで、明敏なピアニズムは幼少期から自然と育まれてきたのでしょうか。いやいや、そのあたりは聴き確かめて頂くのが一番でしょう。ぜひご注目を!

FUGA LIBERA


MFUG588
(国内盤)
\2940
ラチャ・アヴァネシヤン/ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲!
 指揮はデュメイ!

  ドヴォルザーク(1841〜1904):
   ①ヴァイオリン協奏曲 イ短調 op.53
   ②ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンツェ
   ③四つのロマンティックな小品
ラチャ・アヴァネシヤン(ヴァイオリン)
オーギュスタン・デュメイ指揮
シンフォニア・ヴァルソヴィア(室内管弦楽団)
マリアンナ・シリニヤン(ピアノ)
 ハチャトゥリヤンの国からやってきた東欧の異才の音色はあでやかに、そして気高く。
 師匠デュメイの精緻な解釈で冴えわたる銘団体の技量もすがすがしいほど...泥臭くならない高雅な精悍さ、これぞドヴォルザークの醍醐味。

 ベルギーFuga Libera レーベルが、最近アツいです。
 かつてCypres にいたセンス抜群のプロデューサーが、申し分ない人脈と豊かな経験を活かして制作を続けてきたこのレーベルは、芸術大国ベルギーの筋金入り芸術愛好家が好みそうな磨き抜かれた良盤をほどよいペースでリリースし続けてきましたが、今年のラインナップはどうしたものか、偉大な作曲家の名作、日本でも興行的に成功して名を売ってきた演奏家、来日間近の演奏家と、日本のマーケットでも“隠れメジャー”な雰囲気を醸し出してくれる良盤が続々。・・・そんな勢いに乗じて今回登場する指揮者が、なんとフランコ=ベルギー派の正当な後継者たるヴァイオリニストとして名盤あまたの巨匠オーギュスタン・デュメイ!久しぶりの登場です。
 しかし頼もしいのはアルバムの主役——そのデュメイの門下で新時代へ向け実力を養ってきたアルメニアの俊才ラチャ・アヴァネシヤン。彼は、今年初めに同じFuga Libera からリリースされたヴュータンの第2協奏曲であざやかな名演を聴かせてくれました。
 そして今、同じロマン派路線ながら曲の個性はまるで違う、古典的・オペラ的なヴュータンの世界から一転、ドヴォルザークへ。しかし「東欧の血」をひく個性と「ベルギーでの修練」の成果は、なんと理想的なかたちでこの異色の名作に結実してくれたのでしょう。
 冒頭すぐに登場するあの有名なソロ部分で申し分ない気高さを印象づけたあと、ともすればいくらでも泥臭く(そしてそれを魅力にも)できるこの協奏曲を、管弦楽ともどもあくまで高貴なたたずまいを崩さず、峻厳な魅力たっぷりに織り上げてゆく、だからこそ、しなやかに歌うところでテンションをやさしく弛緩させても品格が失わわれない、繊細なピアニシモはひたすら透明に美しく。コントラストの妙、ここに極まれりぱというような引き締まった名演なのです。なにしろオーケストラは巨匠メニューインが育てたポーランドの超・実力派シンフォニア・ヴァルソヴィア。一糸乱れぬタイトで緊密な演奏は、この室内管弦楽団ならではの境地かもしれません。
 秋に聴くのがぴったりな「ロマンス」でも、無駄な涙はこぼさない艶やかな高貴さがひたすらに美しい。そしてアヴァネシヤンと同じくアルメニア・イェレバン出身の新世代シリニヤンをパートナーに迎えての名曲「四つのロマンティックな小品」では、ソロの独壇場に終わらない室内楽的共感で聴き手を魅了してやみません。
 無駄なトラックは皆無。ドヴォルザークの抒情を気高く味あわせる新名盤です。

MFUG585
(国内盤)
\2940
ひたすらに美しい室内楽・・・ドホナーニとペンデレツキの六重奏曲
 〜20世紀のふたつの時代、ふたつの「晩期」〜
 エルネー・ドホナーニ(1877〜1960):
  1) 六重奏曲(1935)〜クラリネット、ホルン、
  ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとピアノのための
 クシシュトフ・ペンデレツキ(1933〜):
  2) 六重奏曲(2000)〜クラリネット、ホルン、
  ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとピアノのための
アンサンブル・ケオプス
ムヒッディン・デュリュオイル(p)
グラフ・ムルジャ(vn)
リズ・ベルトー(va)
マリー・アランク(vc)
ロナルド・ヴァン・スパーンドンク(cl)
エルヴェ・ジュラン(hr)
 ロマン主義よ、永遠に——“20世紀”に怯えるのは筋違い、ひたすらに美しい室内楽のとびきりの作例をふたつ、お届けします。
 20世紀の前半と後半、申し分ない経験をたっぷり注ぎ込んで、ふたりの名匠が「なぜか同じ編成」で残した艶やかな名品を奏でる、超実力派たち。

 「20 世紀の音楽」と聞くと、ひょっとしてワケのわからないものを聴かされるのでは…という恐怖がよぎる人も少なくないかもしれませんが、それはとても勿体ないことです。「怖い現代音楽」は、すくなくとも20 世紀前半まではまったくの少数派だった…と言い切ってもたぶん大筋では全く間違っていないはず。
 考えてみてください——たとえば1930 年代。確かに新ウィーン楽派の実験も順調に進んでいましたし、ヴァレーズや初期メシアンもこの時期に活躍を始めてはいますが、彼らが当時どれほどの影響力をヨーロッパ音楽界に持っていたでしょうか?欧州楽壇の主流は依然、晩期ロマン派か新ザッハリヒ系かのせめぎあい。1930 年代はむしろ「フルトヴェングラーの、トスカニーニの、フラグスタートの、ハイフェッツの、ルービンシュタインの、あるいはヴォーン=ウィリアムズの、ラヴェルの“左手”の」時代だった、と考えた方が、ずっと視野は開けてくるはず。
 そしてよく考えてみると、20 世紀に「前衛」が流行ったのもまた、1950〜80 年代の僅かな期間にすぎなかったのでは?とも思えてきます。
 80 年代以降のジャンル越境系ミニマリズムの波とか、グレツキの交響曲やペルトの声楽曲に代表される“美”への回帰とか、世紀末には世情がすでに「わかりやすい音楽」に飢えはじめていたのですね。
 このアルバムを聴いていると、そんな「20 世紀=実はもうひとつのロマン主義の時代」がひしひしリアルに感じられてくると思います。かたやハンガリー出身、マーラーやレーガーと同じ時代にピアニスト=作曲家として充実したキャリアを歩んできた巨匠ドホナーニ(いわずもがな、大指揮者クリストフ・フォン・ドホナーニの祖父)。かたや超・前衛としてデビューしながら、しだいに深みあるネオ=ロマン主義へと回帰していったポーランドの異才ペンデレツキ——ふたりとも、晩年の作風は「経験豊かなロマン主義者」のそれにほかなりません。
 よいものを見分けるセンス抜群のプロデューサーが主宰するベルギーのFuga Libera からリリースされた本盤は、古楽も現代ものも、ソロも室内楽も大好きな名演奏家が多々活躍しているベルギーならではの贅沢なソリスト陣営による、二人の巨匠が晩年に残した、奇妙な組み合わせなのに偶然どちらも同じ楽器編成をとる六重奏曲。ピアノと弦楽三重奏に、クラリネットとホルンがひとつずつ。高音・低音に偏らず、音域の広いクラリネットがあざやか・艶やかに立ち回るそば、ホルンの響きが交響的な厚みと味わいを全体に与え、弦は細やかに、ピアノは巧みにアンサンブルと絡んでゆく。解釈も合わせも相当にむずかしい編成だと思うのですが、いやさすが本場の達人たち、録音経験豊富な連中だけあって、あまりの面白さにどんどん聴き進めてしまうこと必至。
 深まる秋冬シーズンに「充実した音楽鑑賞を」と思われるなら、本盤を見過ごす手はありませんよ!

GRAMOLA


GRML98900
(国内盤)
\2940
バドゥラ・スコダ&イェルク・デームス共演!
 モーツァルト:2台のピアノ、および連弾のための精選傑作集
  〜ウィーンの巨匠たちと、18世紀のピアノ〜
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756〜1791):
 1. 2台のピアノのためのソナタ ニ長調 KV448
 2. ファンタジア(幻想曲)ハ短調 KV396
 3. ファンタジア(幻想曲)ニ短調 KV397
 4. ピアノ連弾のための変奏曲 ト長調 KV501
 5. 2台のピアノのためのラルゲットとアレグロKV deest
 6. ファンタジア(幻想曲)ハ短調 KV475
パウル・バドゥラ・スコダ、
イェルク・デームス(fp/ヴァルター工房オリジナル)
 モーツァルト作品の盲点、意外と正面勝負の古楽器録音に恵まれない「ふたりピアニストもの」。
 その決定的名盤を作ってくれたのは、ウィーンの空気を吸い、その空気を作ってきた偉大なピアニストふたり。阿吽の呼吸、18世紀楽器を知り尽くしたタッチ、天国的快楽。

 「作曲者の知っていたとおりの楽器と奏法で」という考え方にもとづく古楽器演奏も今ではすっかりその基本理念が演奏家たちのあいだに浸透して、すでにブラームスやリストなどロマン派の大家たちの作品でさえ、古楽器による録音が珍しくなくなってきた昨今。
 しかし盲点というのはあるもので、たとえば19 世紀の弦楽四重奏曲は(とりわけベートーヴェン含め)ほとんど古楽器録音されていませんし、オペラもロッシーニとドニゼッティとワーグナーに数える程度の例外があるくらいで、あとは全滅。さらに驚いたことに、18 世紀にもまだまだ「ほぼ古楽器未踏」の領域があるのです——なんと、モーツァルトでさえ!
 ピアノ独奏ソナタはもうすっかりフォルテピアノ奏者たちの定番演目ではありますが、なにしろフォルテピアノは演奏に慣れるのが容易でありません。録音して残すほどの名演を聴かせるには専門的な研鑽を長く積まなくてはならない楽器だけに、その奏者をふたりも必要とする連弾曲や2台のピアノのための作品は、これまで意外に古楽器奏者たちの視線から外れてきたジャンルだったわけです。
 しかし幸い、音楽の都ウィーンには歴史的ピアノに通暁した偉大な名手がふたりもいて、互いに旧来の知己同士・・・そう!かつて半世紀以上前にF.グルダとともに「ウィーンの三羽烏」と呼ばれた今や最大級の巨匠ふたり、P.バドゥラ=スコダとJ.デームスが、この連弾&2台ピアノのための作品ばかりを集めて残してくれたのです!
 嬉しいことに、両者それぞれの独奏も傑作幻想曲KV475 およびKV397で味わえる、という信じられないくらい贅沢なおまけ付。
 20世紀半ばに楽譜が再発見されたのち、このふたりの手で蘇演されたKV 番号のない「ラルゲットとアレグロ」、2台ピアノの超・定番にしてなかなか新録音にも恵まれないKV448 など、ウィーンの中心にあるGramola レーベルの活躍をしみじみ嬉しく感じずにはおれない逸品に仕上がっています。
 18世紀ウィーン製のフォルテピアノが響かせる、なんと典雅な響き...これ以上は望みえないほどの、本場の秀逸名演!

GRAMOLA


GRML98921
(国内盤)
(Multichannel SACD-Hybrid)\3150
ハンス・ガール
 〜両対戦間に息づいていた、美しきウィーンの晩期ロマン派芸術〜
ハンス・ガール(1890〜1987):
 1.ヴァイオリン協奏曲 op.39(1932)
 2.ヴァイオリンとピアノのためのソナタ op.17(1920)
 3.ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ニ長調(1933)
トーマス・アルベルトゥス・イルンベルガー(vn)
エフゲニー・シナイスキー(p)
ロベルト・パーテルノストロ指揮
イスラエル室内管弦楽団
 1920〜30年代に、全盛だったのは「美」であって「前衛」ではなかった——
 近代音楽の語法で、ほんのわずかの薄化粧。あまりにもうつくしすぎるロマン派芸術...録音時代に静々と再発掘されてきた「知られざる名匠」ハンス・ガール。

 Hans Gal——日本語で「ガール」と書くとまだ馴染薄な感じもしますが、ヴァイオリンの異才として知られたトーマス・ツェートマイアーが指揮者となってAvie に熱心に交響曲を録音していたのが・・・この「ハンス・ガル」。ここではあえて「ガール」と呼ばせていただきますが、ここ15年ほどのあいだにガールの作品は次から次へとその魅力が再発見され、室内楽を中心にディスコグラフィを増やしてきています。
 彼はベルギーのジョンゲン、オランダのディーペンブロックやレントゲン、ハンガリーのドホナーニなどと同じく、20 世紀前半になおロマン派音楽のスタイルを大切にしつづけた世代の作曲家であり、このタイプの作曲家たちの常どおり、20 世紀中盤に「誰もやっていないことをやろうとしない現代作曲家は無意味」という無慈悲なまでの“前衛流行”のあおりを受け、楽壇からほとんど無視されてきた人だったのです。
 しかし、その音楽の美しさときたら少年時代、マーラー指揮するウィーン・フィルの演奏会を聴いて育ち、その圧倒的な美しさを心に刻んできたガールの書く音楽は、晩期ロマン派の爛熟した美を、濃厚すぎる歌い口に堕することなく、すっきりとした造形に仕上げた極上の音楽。しかも深みにも事欠かなければ決して聴き疲れることもない、じっくり付きあいたい音楽内容。
 ともあれ、細かな室内楽では敷居も高い...という方には、ヴァイオリンの魅力とオーケストラ芸術の精巧さを心ゆくまで味あわせてくれる、オーストリア楽団の俊才たちが集うこのアルバムが断然おすすめ。
 なにしろ主役であるヴァイオリン奏者は、デームスやバドゥラ=スコダ、あるいはザルツブルク・モーツァルテウム音楽院の恐ろしき教授陣からも愛されている、およそ若手とは思えない深さと広がりある解釈能力をみせる俊英T.A.イルンベルガー。彼と古楽器でブラームスのソナタを録音した曲者ピアニストのシナイスキーと綴った2曲のソナタも、引き締まった音作りが最高に気持ちいい。
 室内管弦楽団と綴られる協奏曲も、ブラームスが「中期のスタイルで」もう30 年生きていたらもしやこんな感じ・・・?といった充実度をひしひしと感じさせてやみません。コルンゴルトの名品から前衛的なアクを抜き、かわりに極上の19 世紀的エッセンスを加えたような仕上がりです。
 ガールの生涯とその作品・復興にまつわる詳細解説(全訳付)も資料として貴重。美しい冬景色のジャケットも、鑑賞気分を否応なく盛り上げます。

GRAMOLA


GRML98914
(国内盤)
\2940
シューマンと連弾
 〜クララ編曲/連弾版「ピアノ五重奏曲」〜
 ローベルト・シューマン(1810〜1856):
  1. ピアノ五重奏曲 変ホ長調 op.44
   〜クララ・シューマンによる連弾版(1857)
  2. 東方の絵 op.66〜ピアノ連弾のための
ハラルト・オスベルガー、
クリストス・マラントス(ピアノ連弾)
 シューマンが室内楽ジャンルで初めてピアノを使った傑作に、作曲者の没後まもなく妻クララの手で編曲された「連弾版」があった。
 シンフォニックな作品の魅力を十全に引き出した異色作を、後期シューマンの隠れ名作とともに、「音楽の都」の名タッグの秀演奏で。

 シューマンという作曲家が、若い頃は作曲家よりもむしろプロのピアニストになろうとしていて(猛烈に練習しすぎて手を故障し断念)、本格的に作曲家として始動してからも、かなり長いあいだピアノ曲しか書いていなかったのはご存知のとおり。そんな彼が歌曲や管弦楽曲など「ピアノ曲以外」の音楽を書くようになったのは、師匠の娘クララとの悲恋がついに実ったあとのこと、とりわけ1842 年は「室内楽の年」と言われ、彼はこの年、初めて室内楽曲を本格的に作曲し、次々と完成させていったのでした。
 今日でも、弦楽四重奏団のリサイタルにピアニストがゲスト出演するとき非常によく演奏される傑作・ピアノ五重奏曲も、まさにこの年の産物。
 作曲家=ピアニストだった妻クララをはじめとする面々での初演は上出来だったようで、「ピアノ+弦楽四重奏」という演奏編成のために生み出された最初の傑作とみなされています。
 しかし作曲家が1856年に早世した翌年、妻クララの手で、この作品のピアノ連弾用編曲版が作られていたのは、いったいどのくらい知られている史実なのでしょうか。
 この「クララ編曲版」連弾版五重奏曲と、シューマンの隠れ名作「東方の絵」とともにあざやかに織りあげてみせるのは、「音楽の都」ウィーンで腕を磨き続ける若手とその師匠である名教諭のデュオ!
 五重奏曲の編曲版では、音の種類が均一になった結果むしろ作品そのものがオーケストラ音楽的な広がりまで感じさせ、弦楽器だと響きの美しさに隠れがちな副旋律のえもいわれぬ官能性がきわだつなど、作品そのものの魅力を再発見せずにはいられません。
 夫の死後もその作品ができるだけ広まるように...と考えたであろうクララがこの五重奏曲を選び、丹念な作業で編曲に臨んでいた・・・有名曲の編曲版は何かと人気ですが、これはまさに掘り出し物です。

GRAMOLA


GRML98873
(国内盤)
\2940
スペインとアルゼンチン、19世紀と20世紀
 〜アルボス&ピアソラ、ピアノ三重奏の世界〜

 ◆アストル・ピアソラ(1921〜1992):
  ①ブエノスアイレスの四季 ②オブリビオン(忘却)
  ③天使のミロンガ ④天使の死 ⑤グラン・タンゴ
   * ホセ・ブラガート編/** トリオ・ダンテ編
 ◆エンリケ・フェルナンデス・アルボス(1863〜1939):
  ⑥スペイン様式による三つの舞曲
トリオ・ダンテ
ドンカ・アンガチェヴァ(p)
ヴァーリャ・デルヴェンスカ(vn)
テオドラ・ミテヴァ(vc)
 スペインの19世紀ロマン派サウンドから、エッジの効いたスパイシーなピアソラへ——
 スラヴ系の名手って、どうしてこうもタンゴが決まるんでしょうね。ゾクゾクする絶妙演奏、ブルガリア出身の美女3人は、「音楽の都」ウィーンがいま最も注目する気鋭なのです!
 アルゼンチンの国民的音楽たるタンゴは20 世紀後半、鬼才バンドネオン奏者アストル・ピアソラが始めたジャンル越境型の「ヌエボ・タンゴ」というスタイルで世界中のプレイヤーを巻き込み、今やクラシックの演奏家たちにもピアソラ作品を積極的にとりあげる名手が少なくありません。そしてこの種のヌエボ・タンゴで面白いのは、その世界的ブームを盛り上げ支えてきたのが、必ずしも本場アルゼンチンのプレイヤーではないというところ。考えてみてください——この「タンゴ×クラシカル」のクロスオーヴァーを成功させてきたのは、ラトヴィア出身のギドン・クレーメルであり、フランスのアコーディオン奏者リシャール・ガリアーノであり、あるいはアメリカの中国人ヨーヨー・マだったではありませんか!なぜでしょう...それはきっとアルゼンチンという国そのものが、タンゴ発祥の時代から移民大国でありつづけてきたことと、ひょっとすると無縁ではないのかもしれません。
 そしてタンゴ系作品を弾く非アルゼンチン系プレイヤーのなかでも、とりわけタンゴと相性がよいのは、なぜか東欧のスラヴ系諸国の演奏家たちなのです。しかし実のところ、この種のヌエボ・タンゴの時代をまたずとも、ラテン文化とスラヴ文化の不思議な相性はすでに19 世紀から、多くの人を不思議がらせていたようです。たとえばロシア国民楽派の父グリンカも、スペインの民俗音楽に触発され素晴らしい交響詩『マドリードの夜』を書き、リムスキー=コルサコフも「スペイン奇想曲」という傑作を作曲して「なぜロシア人はスペイン音楽と相性が良いのか?」ということが真剣に論じられたりしていたのですね。
 ウィーンの中心部に本拠を構えるGramola レーベルからの新譜は、そんな「スラヴ×ラテン」の素晴らしい相性をあらためて痛感させてくれる1枚——雑味いっさいなしのクラシカルなピアノ三重奏編成で、ブルガリア出身ながら今はウィーンを拠点にしてイキのいい活躍を続けるトリオ・ダンテが痛快なピアソラ演奏とあわせて聴かせてくれるのは、知る人ぞ知るスペイン・ロマン派の大作曲家アルボスの代表作「スペイン様式による三つの舞曲」。
 アルボスはアルベニスの「イベリア」の管弦楽編曲者として昔からレコード・ジャケットをひそかに彩る名前ではありましたが(いわば「スペインのギロ」といったところでしょうか)、この舞曲集はスペイン国民楽派の先駆けをなす象徴的傑作で、サン=サーンスあたりの堅固なロマン派的作風のままスペインの民俗的語法を取り込んだその音楽の魅力が映えるのも、派手系クロスオーヴァーで集客を狙う・というのとは全く違う、トリオ・ダンテの筋金入りの実力があればこそ。
 ふだんタンゴ系音盤を聴かない本物志向のクラシックファンにもぜひお薦めの、気合の入った逸品なのです!

INDESENS!


INDE036
(国内盤)
\2940
エネスクの室内楽
 〜傑作短編・中編さまざま〜
 ジェオルジェ・エネスク(1881〜1955):
  ①パヴァーヌ〔p〕〜組曲 第2番op.10 より(1903)
  ②演奏会用即興曲 変ロ長調〔vn,p〕(1903)
  ③バラード〔vn, p〕(1895)
  ④ヴィオラとピアノのための協奏的断章〔va,p〕(1906)
  ⑤カンタービレとプレスト〔fl,p〕(1906)
  ⑥夜想曲とサルタレッロ〔vc, p〕(1897)
  ⑦パストラーレ、悲しいメヌエットと夜想曲〔vn, p 連弾〕(1900)
  ⑧伝説〔tp,p〕(1906)
  ⑨朝の歌〔vn, va, vc〕(1899)
  ⑩遠くのセレナーデ〔vn, vc, p〕(1903)
  ⑪タランテッラ〔vn, p〕(1895)
タチヤーナ・サムイル(vn) ジェラール・コセ(va)
ヴァンサン・リュカ(fl) ユストゥス・グリム(va)
フレデリク・メヤルディ(tp) カルメン・ロタル(p)
クラウディア・バーラ(p)
 生まれはバルカン半島。ウィーンとパリで、ドイツ音楽とフランス音楽の粋を身につけヴァイオリンとピアノの名手として活躍しながら、なんという素晴らしい作曲センス...!エネスクの粋は、1900年前後にあり。
 きわめて豪華な欧州勢で、その美質をじっくり堪能!

 レーベル主宰者より「すごいアルバムが出来たんだ!」と意気揚々と贈られてきた資料を見てみれば——なんという贅沢な面子での、なんと注目すべき企画!
 エネスク——フランス音楽が最も面白い展開をみせていた19 世紀末から20 世紀初頭、ドビュッシーやラヴェルを横目にパリで研鑽を積みはじめた頃にはすでにウィーン音楽院をとうに卒業しており(13 歳の頃!)あっというまに稀代のヴァイオリニスト=作曲家として第一線に躍り出たこの天才ルーマニア人音楽家、なんと実はピアニストとしても第一級の腕前を持っていたとか。
 実際にはヴァイオリニストや指揮者としての活動が増え、作曲に打ち込めたのはほとんど若い頃だけだったようですが、それでも私たちは充分すぎるほど、この作曲家のセンス抜群な名品を味わうことが出来るのでした。なにせ早熟の天才、初期作品からして完璧な技量がみごと円熟していたことは、有名な『ルーマニア狂詩曲』(1901〜02)ひとつとってもよくわかるでしょう。
 しかし、やはり二つ異なる楽器ができると心そそられるのは「室内楽」なのでしょう。これが意外に体系的に録音されず、楽器別のアンソロジーでのみ有名な名品も、あるいは3、4の楽器を使う傑作も、いまひとつ「エネスクの才能」を強く印象づける機会が少ないような気がします。・・・というところへ、すでに「サン=サーンス:管楽器のための室内楽曲全集」のような痒いところに手が届く企画を実現してきた仏Indesens から、非常に贅沢な顔ぶれで、エネスクのこの種の室内楽中・短編をばかりを集めたアルバムが発売されることに。
 「管の国」フランスの最前線ソリストたちをはじめ、超実力派の名演ばかり聴いてきた&録音物の選別にはうるさい制作者が「すばらしい出来。毎日聴いてる!」と興奮するくらいですから、彼のプライドにかけて立派な仕上がりだろう、と思いつつ演奏者リストに目をやれば、なんとベルギー王立モネ劇場のコン・ミスたる超名手タチヤーナ・サムイルに、泣く子も黙る現代ヴィオラ界の重鎮中の重鎮ジェラール・コセ、リュカ(fl)にメヤルディ(tp)といったパリ管の凄腕ソリストたち。およそ望みうる限り最高の顔ぶれではありませんか!
 室内楽に長けた彼らが、世紀末情緒と引き締まった形式感覚の相半ばするエネスクの音世界をどう聴かせてくれるか・・・素晴らしい逸品にどうぞご期待ください!

JB RECORDS


JBR011
(国内盤)
\2940
赤いクラリネットと、旅仲間〜情熱の音楽、温もりの音楽〜
 パキート・ドリベラ(1948〜):①ベネズエラのワルツ②ダンソン
 アストル・ピアソラ(1921〜1992):③タンゴしながら
 アメリカーレ・ポンキエッリ(1834〜1886):
  ④出会い〜2本のクラリネットとピアノのための
 ヤカ・プツィハル(1976〜):⑤クラリネットとピアノのためのソナタ
 ジョゼフ・ホロヴィッツ(1926〜):
  ⑥遅く、ほぼ歩く速さで〜クラリネットとピアノのためのソナチネより
 リシャール・ガリアーノ(1950〜):⑦クロードに捧ぐタンゴ
 ピアソラ:⑧忘却
 ガリアーノ:⑨フレンチ・タッチ(フランス風味)
 セルジオ・アサド(1952〜):
  ⑩青紫のニュアンス ⑪石蹴り鬼遊び ⑫伊達男
 ピアソラ:⑬眠りに落ちて&眠り〜タンゴ・センセーションズより
ヤン・ヤクプ・ボクン(クラリネット)
①〜⑥マグダレナ・ブルム(p)
②バルトシュ・ボクン(va)
④ギィ・ダンガン(2nd cl)
⑦〜⑨ミハウ・モツ(acc)
⑩〜⑫クシストフ・ペウェフ(g)
⑬⑭クシシュトフ・マシインゲル指揮
ポズナン室内管弦楽団
 ポーランド随一のクラリネット奏者は、稀代のアンサンブル奏者。
 気の置けない仲間たちはみな圧倒的な技量と感性の持ち主。さりげなく愛が深まること必至、ふれあう音ごとにクラリネットの音色まで変わる、このユニークなアルバムのコンセプトは「旅」と「仲間」。

 「赤い」と言っても、もはやボクン氏の出身地ポーランドは「赤い」国ではないわけですが、親ソヴィエト政権がなくなって早くも20 年が過ぎようという今、この国はももはや民主主義を重んじる先進国となって、連帯感と自己主張のどちらをも大切にするポーランド人気質が続々、確かな「かたち」を生み続けています。
 精鋭部隊ポーランド祝祭管のメンバーとしても知られる超・俊才クラリネット奏者ヤン・ヤクプ・ボクン氏も、この民主化の流れとともにヨーロッパ各地へと活動範囲を広げ、フランスからロシア方面まで、さらには南米大陸でさえ演奏を続けている、いわば新世代型ポーランド人演奏家。
 自主制作レーベルJB Records も順調に新譜制作を続け、こうして秋の紅葉のように鮮明な赤が映える美麗ジャケットで、新たなアルバムを届けてくれました。
 彼の同世代には同じようなキャリア形成を続けてきた腕利きのポーランド人奏者も多いため、これまで仲間たちと世界ツアーをくりかえし、着実に演奏技量と足場とを確たるものにしてきました。ここに登場したアルバムはそんな彼の圧倒的腕前と、それぞれに主役と対等、親密かつレヴェルの高い対話をくりひろげてくれる音楽仲間たちの語らいを通じ、クラリネットという楽器の思わぬアンサンブル能力、思わぬ適応力と表現力の幅広さを改めて痛感させてくれるのです。
 注目すべきはやはり、トラックごとに共演者がまちまちである点。
 クラリネットはどのチャプターでも明らかな主役でありつづけるのですが、そこへ加わるのがギターであったり、アコーディオンであったり、はたまた弦楽合奏であったりすると、ソリストであるボクンのクラリネットには何ら基本的変化がないはずなのに、共演楽器ごとに音の感じが大きく変わるのが不思議!クラリネットという楽器の実に広い可能性を端的に示してくれているのです。
 選曲のセンスがまた絶妙で、ピアソラやガリアーノら「おしゃれ系クラシック周縁」の小気味よい小品群や、『ジョコンダ』の「時の踊り」で有名な19世紀のオペラ作曲家ポンキエッリのロマン派らしい隠れ名曲(演奏家のあいだでは結構有名?貴重な2本クラリネットとピアノのための佳品)、スロヴェニアの作曲家プツィハルのしなやかで優美なソナタ...と時代もさまざまなのに、曲順の妙でしょうね、ついつい通して聴いてしまう気持ちの良さ。秋の空気をしっとり彩ってくれそうな、センス抜群の1枚です!

NCA


NCA60192
(SACD Hybrid)
(国内盤・訳詩付)
\3150
驚異の53声部!17世紀バロック、ひとつの頂点
 ビーバー:53声部の『ザルツブルクのミサ』
ハインリヒ・イグナーツ・フランツ・ビーバー(1644〜1704):
 ※楽譜校訂:セルジオ・バレストラッチ
 1. ザルツブルクのミサ〜53 声部のための
 2. 53 声部の讃歌「太鼓を鳴り響かせろ」
セルジオ・バレストラッチ指揮
ラ・スタジョーネ・アルモニカ&
アンサンブル・ティビチネス(古楽器使用)
 「17世紀バロック」の曲では、コレッリのクリスマス協奏曲くらい親しまれてきた?異形の名作。
 天才ガンバ奏者の父にして比類なき古楽合唱指揮者バレストラッチが、頼れる演奏陣と壮麗にうつくしく織り上げるのは、53声部ものメロディが同時進行する超・大作!!

 「ミサ・サリスブルゲンシス」——ラテン語で「ザルツブルクのミサ」の意。ザルツブルク大聖堂の聖歌隊・奏楽隊が奏でるための演目として作曲されたため、このように呼ばれているわけですが、大司教と大喧嘩してザルツブルクを飛び出したモーツァルトとはあくまで無関係。この天才少年はおろか、父レーオポルトもまだ生まれていない17世紀半ば、バロック時代全盛の頃の音楽です。
 で、その音楽内容がすごい——そもそもミサ曲といえば、無伴奏の「祈りの節回し」程度のメロディだったグレゴリオ聖歌に飽き足らなくなった聖職者たちが、対旋律をつけて2声にし、さらに3声、4声...と増やしていって、ルネサンス期にだいたい全4〜5パートで歌いあわせるア・カペラのミサ曲が増えていったわけですが、ここではそのように同時進行するメロディラインが、なんと53パートもあるのです!
 「バロック」という言葉は本来「いびつな真珠」をさす言葉、癒しでも何でもないわけで、ルネサンス期の均整のとれた美術品や建築物に対し、17 世紀の美術家・建築家たちが躍動感あふれる新表現を提案したら「昔の巨匠のほうがずっといいじゃないか。あんないびつなもの...」と揶揄する人が出てきたところから使われるようになった言葉ですが、いかにも、パート数を一気に通常の10倍くらい増やしてみせた過剰さは「バロック」と呼ぶにふさわしいキッチュな表現語法といえるかもしれません。
 あまりに例外的な存在ゆえ、バロック音楽が注目され始めた20 世紀半ばからこの曲の存在は秘かに有名で、古くはコレギウム・アウレウムから近年ではサヴァール、マクリーシュ、コープマン...と録音もよりどりみどり。現存楽譜に作者が明記されていないため、昔はビーバーの作品であるという説が検証されず、べネヴォリという作曲家の名前で知られていた時期も長かったようです(DHM 盤は今でもべネヴォリ扱い?)がともあれ、それだけ録音が多いのはなぜかというと、それが実際に響かせてみると、魑魅魍魎系でもなんでもなく、さながら「バロック期のフルオーケストラ」ともいうべき壮麗な美しさをたたえ、誰しもを魅了せずにはおかない名曲になっているところがまたすごい。
 全53 パートは八つの小聖歌隊・小奏楽隊に別かれ、30 パート近くもの器楽隊(バロック期としては異例中の異例!モーツァルトの『ジュピター』だって20 パートもないのに…)が整然と金管を響かせ、弦をたおやかに鳴らし、優しいリコーダーの音を重ね、ティンパニを轟かせ、オルガンで合唱を支え...と、教会堂のあちこちから響いてくる妙音を、この録音では(環境さえあれば)マルチチャンネルSACD 仕様でも愉しめるという嬉しさ。
 しかしその仕上がりも、肝心の演奏がしっかりしていなければ無意味でしょう。欧州古楽界の腕利き合唱指揮要員として辣腕を振るってきたセルジオ・バレストラッチ率いる精鋭集団は、空間的な広がりを感じさせる教会録音でその美声や古楽器の妙音を交錯させ、重ねあわせながら、しなやか&壮麗にバロック的音響空間を味わいたっぷり満たしてゆきます。
 モンテヴェルディの『晩課』が好きな方なら100%おすすめですし、ふだんブルックナーやマーラーなど聴きつけているオケ派にも、この名演は「本格バロック入門」にぴったりかも。

PAN CLASSICS


PC10229
(国内盤・訳詞付)
\2940
ジェズアルド:第6マドリガーレ曲集(全曲)
 〜晩期ルネサンス、作曲家・貴族にして殺人者〜

 カルロ・ジェズアルド・ダ・ヴェノーサ(1566〜1613):
  第6マドリガーレ曲集(1613 年刊・全23 曲)
   〜ア・カペラ重唱と器楽合奏による演奏
アラン・カーティス(指揮・スピネット)
Ens.イル・コンプレッソ・バロッコ(古楽器使用)
エレーナ・チェッキ・フェーディ、
ロベルタ・インヴェルニッツィ(S)
ロベルト・バルコーニ(C-T)
ダニエラ・デル・モナコ(A)
ジャンパオロ・ファゴット、
ジュゼッペ・ザンボン(T)
ジョヴァンニ・ダニーロ(Bs)
パブロ・バレッティ、
カルラ・マロッタ(vn)
アンドレア・アルベルターニ(va)
ガエターノ・ナジッロ(小型vc)
アンドレア・フォッサ(vc)
マラ・ガラッシ(トリプルhrp)
ピエル・ルイージ・チャッパレッリ(テオルボ)
 殺人者にして、芸術家——ルネサンス末期からバロックへ、これだからマドリガーレは面白い。
 何かと話題に上る作曲家でありながら、日本語解説付・訳詞付のアイテムは壊滅状態。
 Symphoniaの幻音源、堂々復活。なにしろ演奏陣にはカーティス以下、精鋭ソリスト続々!

 稀代の古楽レーベルSymphonia が惜しまれながら看板を畳んで以来、古楽復興のうえで欠かせない名盤の多くが長らく廃盤状態になっていましたが、幸いにしてGlossa とPan Classics の2レーベルから、往年の名録音が続々とカタログ復活を遂げつつあります。そんな折、長らく準備が待たれていた待望の新タイトルがここに登場いたします。
 ここ数年前からArchiv やVirgin などメジャー・レーベルでも大いに活躍するようになっていた、イタリア古楽界屈指のアンサンブル、異能の知性派チェンバロ奏者アラン・カーティス率いるイル・コンプレッソ・バロッコの、非常に貴重なジェズアルド録音。
 ジェズアルドといえば、不義密通をしていた妻を相手もろとも惨殺し、晩年には悪魔につけ狙われているという妄想から必ず誰かに抱きしめていてもらわないと眠りにつけなかった...など数々の奇行で知られるイタリア・ルネサンス末期の貴族=作曲家。ルネサンスというより活躍年代は1600年前後で、むしろバロック初期のカヴァリエーリやモンテヴェルディらと時代が重なる人なのですが、はざまの時代を生きた芸術家の常どおり、ふたつの時代にまたがる非常にユニークな書法をみせ、大胆な不協和音や異形というほかない半音階進行もいとわず、しかもそれが音楽表現として非常にツボを押さえたという天才。
 なにしろジェズアルドの作風を指し示すために、わざわざ美術史や文学史の専門用語まで持ち出してきて(他ではめったに持ち出されない)「マニエリスム音楽」などという分類を提唱する学者もいるくらい。時に空間のねじれを感じるほどに聴き慣れない音作りをしながら、その奇妙さが私たちの耳をどこまでも惹きつけてやまない一連のマドリガーレ作品に親しもうと思ったなら、実はよほどの演奏家でないとただの騒音に堕しかねないところなのでしょう。しかし、本盤がなによりかけがえのない録音になっているのは、その難曲をものともせず、異名同音用の別鍵盤までそなえ1オクターヴ内に20 ほどの鍵盤があるチェンバロさえ弾きこなす異才カーティスが、イタリア古楽界最前線で活躍をみせる超・精鋭陣と本気でこのプロジェクトに取り組んでくれたから。
 ドキっとするような表現をあらがいがたい音楽的魅力へと昇華させ、古いイタリア絵画のように透明感ある響きのなかに強いニュアンスのこもった不協和音の陰翳をしのばせてゆく手腕には、今なお驚きを禁じ得ません(そしてカーティスはこの録音の後、Virgin やArchiv で続々と名盤を世に送り出してゆくのでした)。
 よく見ればカフェ・ツィマーマンのP.バレッティや名家インヴェルニッツィら、とんでもない異才ばかりが居並ぶ面子での演奏なのですから、素晴らしい演奏になるのも当たり前。演目の第6マドリガーレ集はジェズアルドが生涯最後に刊行した曲集で、彼の作風の集大成として、曲集全体の流れも重要、とはカーティスの言。楽譜通りの曲順による演奏で、歌詞(全訳付)の味わいも含め、じっくり付き合える超・充実企画。ぜひお見逃しなく!

PAN CLASSICS


PC10255
(国内盤)
\2940
“ヴィヴァルディアーナ”
 〜18世紀ヴェネツィア、ヴィヴァルディと同時代人たちのリコーダー芸術〜
 アントニオ・ヴィヴァルディ(1678〜1741):
  ①リコーダーとファゴット[および通奏低音]のためのソナタ イ短調 RV86
 フランチェスコ・マリア・ヴェラチーニ(1690〜1768):
  ②リコーダーと通奏低音のためのソナタ イ短調(1716)
 トマゾ・アルビノーニ(1671〜1750):③教会ソナタ 第1 番 ホ短調 作品4-1
 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
  ④前奏曲とフーガ ホ短調 BWV951(アルビノーニの主題による)
 ヴィヴァルディ/イグナツィオ・シエベル(1680以前〜1757頃)編:
  ⑤リコーダーと通奏低音のためのソナタ ヘ短調
 ベネデット&アレッサンドロ・マルチェッロ(1686〜1739/1669〜1747):
  ⑥リコーダーと通奏低音のためのソナタ ニ短調
 ヴィヴァルディ:⑦リコーダーと通奏低音のためのソナタ ヘ長調 RV52
 B.マルチェッロ:⑧チャッコーナ(シャコンヌ)ヘ長調 作品2-12
ミヒャエル・フォルム(各種リコーダー)
ディルク・ベルナー(チェンバロ、オルガン)
メラニー・フラオー(バロック・ファゴット)
デルフィーヌ・ビロン(バロック・チェロ)
 絶品リコーダー、ここにあり——カフェ・ツィマーマンでも活躍する俊才ふたりを軸に、欧州古楽界の“巧まざる高水準”をありありと印象づける。
 素材感が心地良いなめらかな美音もスリリングな掛け合いも、思いのまま。
 バロック・ファゴットの仕事人ぶりにもニヤリとさせられます。

 「プロが吹くソロのリコーダー」というだけでも、まず確実によいものに出会える予感はするものですが(実際、CD 録音するくらいのプロならここは滅多に裏切られません)、その先が単純にかわいらしい癒しサウンドとして過ぎてしまうか、それともリコーダー慣れしない人にまで印象を残すクオリティになるかは、やはり俄然「吹き手しだい」ということになってくるものです。
 近年の体制変更でドイツのレーベルになったPan Classics が新録音で世に送り出すこの『ヴィヴァルディアーナ』なるアルバムは、その点で軽やかに一線を越えた仕上がりを誇る1枚になっています。
 Pan Classicsの広報担当の方が、「正直なところ自分はリコーダー聴くのはあまり気乗りしない方だけれど、これはとてつもなく素晴らしい音」と珍しく興奮を隠しきれない様子。なにしろ、演奏の主役ともいえるリコーダー奏者と通奏低音鍵盤奏者が、完結編Vol.6 のリリースで今まさに人気沸騰中のカフェ・ツィマーマン『バッハ:さまざまな楽器による協奏曲』シリーズで大活躍のソリストたちなのですから、ハズレるわけがありません。やっぱり本当によいものは、どう接しても自ずと良さが滲み出るものなのかもしれません。
 演目はタイトルが暗示するとおり、ヴィヴァルディが活躍していた18 世紀初頭のヴェネツィアで、この町独特のスタイルで欧州全体を魅了してきたイタリア人作曲家たちの厳選ソナタ。これが知れば知るほど曲者選曲で、一聴したところ、伸びやかでオーガニックなリコーダーの美音が、時にまっすぐなカンタービレを、時にスリリングな超絶技巧を聴かせる...というバロック・ソナタ特有の魅力をいかんなく味わえる・・・だけかと思いきや、どの曲も単純に誰もが吹いている既存の印刷曲集から探してきたのではなく、貴重な手稿譜だけで伝わる曲あり、ヴィヴァルディの仕事仲間であるオーボエ奏者シエベルの私家版あり、古楽に精通した演奏者たちによる「18世紀流ソナタ編作」も1曲あり。
 詳細なからくりはもちろん、独奏者ミヒャエル・フォルム自身によって書き下ろされた解説(全訳付)で詳述されています。カフェ・ツィマーマンが繰り出す音のクオリティをご存知の方、あのセンスでヴィヴァルディが聴けたら...と思うだけでワクワクしてくるでしょう。

PAN CLASSICS

CPE Bach & CF Abel: Sonatas for Viola da gamba & Fortepiano
PC10252
(国内盤)
\2940
C.P.E.バッハ & C.F.アーベル
 ヴィオラ・ダ・ガンバと鍵盤楽器のためのソナタ
 カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714〜1788):
  ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための三つのソナタ
   1. ソナタ ニ長調 Wq.137/H559
   2. ソナタ ト短調 Wq.88/H510
   3. ソナタ ハ長調 Wq.136/H558
 カール・フリードリヒ・アーベル(1723〜1787):
 4. 三つの無伴奏小品 WK186, 187, 190
 5. ヴィオラ・ダ・ガンバまたはチェロと鍵盤楽器のためのソナタ ホ短調 WK150
レベッカ・ルソー(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
ゼバスティアン・ヴィーラント(フォルテピアノ/ヴァルター型)
 誰よりも切なく、悩ましい音楽を書いた作曲家ふたり——その感性は、他の誰よりもヴィオラ・ダ・ガンバに似つかわしかった。
 社交の影で自らを見据えつづけたアーベルと、言わずと知れた大バッハの次男。21世紀を代表する超・実力派の、美しき名演でどうぞ。

 よく思うのですが、ヴィオラ・ダ・ガンバという楽器は本格古楽を聴かない人にとって、どのくらいリアリティのある楽器なのかなあと。
 ルネサンス英国音楽やフランス・バロック、シュッツやブクステフーデあたりの声楽曲みたいな音楽に興味がないと、出遭う場所は『ブランデンブルク協奏曲第6 番』や『マタイ受難曲』のチョイ役、バッハのガンバとチェンバロのためのソナタ3曲くらい・・・。そもそも他に聴きやすい音楽がないのです・・・なんとも勿体ないことに。
 でも実はガンバの音って、モーツァルト直前あたりの音楽とすごく相性がいいですよね。だから、古いところで聴くのはバッハやヘンデルくらいまで、という方に「ガンバって実際どう?」と尋ねられたなら、迷わずこの時期の音楽をおすすめしたいもの。
 その中心にあるレパートリーが、父とは大きく作風の異なる「大バッハの次男」カール・フィリップ・エマヌエル・バッハの傑作ソナタ3曲(本盤収録作)。18 世紀半ばは「感傷的」とか「不安的な激情」といった、主情的な人間の気持ちを芸術表現に取り入れる、ということがロマン派に先んじて秘かなブームになった時代で、その動きをいち早く音楽シーンで体現してみせたのがC.P.E.バッハ。ガンバの音はチェロよりも倍音が多いのか、羊腸弦がふくよかに艶やかに音をふくらませ、そうしたエマヌエル特有の音作りにすごくしっとり寄り添うのです。
 そして、もうひとり、バッハの友人の息子で、ロンドンに行きJ.C.バッハ(これもまたバッハの息子、末子)と共同で演奏会を開きつづけ、華やかな社交場向けの協奏曲や娯楽的交響曲を書いていたかたわら、自ら最も得意とする楽器ガンバの無伴奏作品を書くときには一転、バロック的古風さも漂わせながら、内向的な深みと繊細さの漂う名品を残した男、C.F.アーベル! 本盤の嬉しいところは、C.P.E.バッハのガンバ・ソナタの余白を埋めるのに小品がいくつか選ばれたりするアーベルを、次男バッハと対等の主役にして、無伴奏作品のほか立派な二重奏ソナタまで収録してくれている点。
 さてここで信じられないくらい高次元の「上質ガンバ音楽」を提案してくれたのは、現代屈指のガンバ界の異才P.パンドルフォのアンサンブルで片腕をつとめてきた超・俊才、レベッカ・ルソー!
 彼女のサポートはR.ヤーコプスのオペラで通奏低音をつとめるなど昨今活躍めざましいドイツの優駿、ゼバスティアン・ヴィーラント。
 申し分ない、というか、ふたりの新たな出世作になりそう。ロココ内装の城館で撮影したDigipack ジャケの美しさとあいまって、ガンバっていいなあ…としみじみ思わせてくれる逸品です。

φ(Phi)


LPH003
(国内盤・訳詞付)
\2940
古楽指揮者ヘレヴェッヘ、自主制作レーベルP`hiでの第3弾はまたしても「ドイツ・ロマン派」!
 ブラームス 管弦楽を伴う声楽作品集
  〜アルト・ラプソディ、運命の歌、葬送の歌...〜
 ヨハンネス・ブラームス(1833〜1897):
  ①運命の歌 op.54 〜合唱と管弦楽のための
  ②狂詩曲 op.53 〜アルト、男声合唱と管弦楽のための(アルト・ラプソディ)
  ③モテット「どこで光は生まれたのか」op.74-1〜
   無伴奏混声合唱のための
  ④葬送の歌 op.13 〜混声合唱と管楽合奏のための
  ⑤運命の女神たちの歌 op.89
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮
シャンゼリゼ管弦楽団(古楽器使用)、
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(合唱)
 経験豊かなソリスト満載の古楽器楽団、伸縮自在の合唱団、新たな名盤が求められる重要演目...話題騒然になること必至、そのからくりを解き明かす充実解説とともに、ブラームス芸術の真髄へ!

 今秋最大の注目盤のひとつ、フィリップ・ヘレヴェッヘの自主制作レーベルPHI(フィー)の最新新譜は、なんとドイツ・ロマン派の真っ只中、ブラームスの注目作品群!
 もともとレオンハルト&アルノンクールによる「世界初の古楽器によるバッハ・カンタータ全曲録音」で合唱指揮者として起用され、そのまま古楽演奏の最前線をひた走ってきたヘレヴェッヘは、その後 “作曲当時の楽器と奏法で”古い音楽を演奏するピリオド解釈路線を誰よりも早く19 世紀以降のロマン派音楽に応用しはじめましたが、本人は交響曲などの管弦楽作品よりも、おそらく自分のルーツである合唱の世界に近い音楽のほうが活き活きしてくるのでしょう。そしてその精神こそが、19 世紀ドイツ・ロマン派音楽の真髄を理解するうえでも非常に大切なのです。なにしろ19 世紀のドイツ語圏では、市民オーケストラと同じくらい市民合唱団が多く結成され、文学性の高い名作詩などを歌詞にとる合唱曲が楽壇随一の大作曲家たちによって書かれ、それがロマン派音楽の進展に大きく寄与したのですから。
 「管弦楽伴奏つきの声楽作品ほど、19 世紀の人々にとって贅沢なものはなかった」とは、本盤に寄せられた充実解説(訳詞も含め全訳付)の書き出しの言葉ですが、ベートーヴェンの「第九」や「ミサ・ソレムニス」をひとつの頂点として多くの作曲家がそうした大規模音楽を手がけ、バッハの受難曲やヘンデルのオラトリオがこの世紀にも連綿と演奏され続けたという事実もまた、そのことを裏書きするものでありましょう。
 本盤に集められているのは、古くからメゾ&アルト歌手の最重要レパートリーだったアルト・ラプソディを中心に、合唱にも精力を注いできたブラームスが生涯のさまざまな時点で作曲してきた、いずれ劣らぬ注目作ばかり。欧州各地の一流歌劇場でも18 世紀以前のレパートリーでも快進撃を続けてきたスウェーデンの多忙な実力派ハレンベルクを独唱に、合唱はもちろんヘレヴェッヘがデビュー当初から共演を続けてきた柔軟&緻密な室内合唱団コレギウム・ヴォカーレ・ヘント。二重合唱1パート6〜7名の拡大編成が、ヘレヴェッヘならではの精緻な指揮でこれらの名作の機微を比類ない演奏で引き出してくれるのかと思うと、一刻も早く音が聴きたくなってきます!
 弦編成は10/10/8/6/5、名手揃いの管打楽器勢も頼もしい顔ぶれ。透明なブラームスの美質の奥にひそむ滋味、ヘレヴェッヘならひたすら奥深く、何度も聴き深めたくなる解釈で浮かび上がらせてくれるでしょう。超・注目のリリースです!

RAMEE


RAM1103
(国内盤)
\2940
エーベルル 才能あふれるモーツァルトの門弟
 〜大六重奏曲、ピアノ三重奏曲、三重奏によるポプリ〜
 アントン・エーベルル(1765〜1807):
  1. ピアノ三重奏曲変ロ長調 op.8-2(1798)
  2. 三重奏によるポプリ op.44(1803)
   〜ピアノとクラリネットおよびチェロのための
  3. 第六重奏曲 変ホ長調 op.47(1800)
   〜ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、クラリネットとホルンのための
トリオ・ファン・ヘンゲル(古楽器使用)
ニコール・ファン・ブリュッヘン(cl)
トーマス・ピット(vc)
アンネケ・フェーンホフ(fp)
+アリダ・スハット(vn)
ヴァップ・ヘラスヴオ(va)
バルト・アールベイト(hr)
 モーツァルトが認めた数少ない才人は、すでにロマン派の作法を見据えていた——!
 ベートーヴェンの七重奏曲とほぼ同時代。管・弦・鍵盤の軽やかな交錯が新時代の響きを描き出す...古楽器演奏だからこそ生きる、埋もれていたこの才能。モーツァルトの愛から、ハイドンの面白さから、18 世紀の古典派の響きがすっかり好きになってしまう。そして同時代に素晴しい作曲家たちが多々いたことに気づかされて、古典派音楽のさらなる傑作を探らずにはおれなくなる。
 そんな古典派フェティシズムを十全に満たしてくれる新譜が、「歴史に埋もれていた、思いがけない素晴らしい響き」を発掘してくることにかけては右に出る者のいない秀逸小規模レーベルRamee から登場いたします!
 かつてメンバーだったものの、2008 年に急逝したバロック・チェロ奏者バス・ファン・ヘンゲルを偲んでこの団体名になったというトリオ・ファン・ヘンゲルは、古楽大国ベルギーや英国、ポーランドなどの最前線で活躍する古楽器奏者の集まりですが、どうやらモーツァルトまわりの事情にはひときわ深く通じているようで、今年もすでに春先の時点でモーツァルトの「クラリネットとピアノのための大ソナタ」なる驚くべき楽譜(!)を発掘(RAM1002 )、シーン最前線にいる俊才たちならではの飛びぬけた水準の演奏でその内容を余すところなく愉しませてくれたところです。
 が、今回はモーツァルトの数少ない「才能ある」愛弟子、エーベルルの作品集!
 Teldec にもコンチェルト・ケルンのぱりっとした交響曲集がありますが、このエーベルルは生前から豊かな才能を開花させていた人で、ピアノ曲を書いては師匠モーツァルトの名で楽譜出版し、楽譜が飛ぶように売れても師匠モーツァルトは抗議さえしなかった...というほどだったそうです。事実、先が読めるようで読めない、時折むわっと情緒豊かなロマン派風味さえ垣間見せるその作風は、たんなるモーツァルトのコピーどころでは済まされないセンスを感じさせてくれます。
 今回はピアノ三重奏にヴィオラ・クラリネット・ホルンが加わる「大六重奏曲」のシンフォニックな魅力(ベートーヴェンの七重奏曲などにも相通じる、意気揚々とした世界!)をはじめ、ロシアで書かれたピアノ三重奏曲や初期ロマン派の人気ジャンルでもあったポプリ(メドレーのようなもの)も含め、ピアノのまわりに加わる楽器の違いがこれほど音楽の様相をヴァラエティ豊かにするものなのか、いや、室内楽の多様さをこれほど自然に使いこなせたのがエーベルル随一のセンスか!と驚かざるを得ません。
 とりわけ中音域を絶妙の逞しさとしなやかさで彩るナチュラルホルンが活躍する大六重奏曲は、アルバム原題を飾るにふさわしい存在感で耳を魅了してくれるはず!
 バロック・ヴァイオリン奏者がふたりもエンジニア陣に加わっていることも、エーベルルが「当時の楽器」で思い描いた響きを理想的なバランスで「いま」に甦らせるのに奏功しているようです。見過ごせない古楽器録音です!

RAMEE


RAM1106
(国内盤)
\2940
レオン・ベルベン〜オルガン独奏による
 〜バッハ:フーガの技法(全曲)

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
 フーガの技法BWV1080(全曲・バッハ自身の未完成稿)
レオン・ベルベン(オルガン)
使用楽器:ヨアヒム・ヴァークナー1742〜44年建造のオリジナル楽器、
アンガーミュンデ(ドイツ東北部ブランデンブルク)、聖母教会
 ムジカ・アンティクヮ・ケルンの俊才奏者ベルベン——傑作『トッカータ集』に続く、驚きの企画!
 たおやかに、気負わず、隅々まで丁寧に。ありのままの作品そのものと向き合う名手の伴侶は、バッハがこの大作を綴っていたのと同じ頃に建造された、ドイツ屈指の歴史的銘器...!

 1751 年。
 前年に亡くなったバッハが未完成のまま残した『フーガの技法』が出版されたとき、その絶筆部分にはあえて誰も補筆をせず、書きかけの音符だけが拾われ印刷譜に掲載されました。そこに付された次男C.P.E.バッハの注意書きは「この、対旋律にBACH の主題が現れたところにいたって、作曲者の命は尽きてしまった」とあります。このため『フーガの技法』は、あたかも衰えゆく作曲家が最後の創作力をふりしぼって、命と引き換えに綴り続けた音楽であったかのように信じられてきました。
 とはいえ、バッハ研究の最先端にいる研究者や欧州古楽界の名演奏家たちのあいだで、いまだにこの説を信じている人はいないと思います。というのも、楽譜に対する科学的・様式的研究が進められた結果、この書きかけの最終楽章はすでにバッハが亡くなる前の年、1749 年に書きつけられていたことが判明しているからです。
 いったい、この曲集は本来どんな存在だったのでしょう?はっきり判っていることは、ただひとつ。楽譜上に楽器名をいっさい記していないのは、バッハがこれが実際に公の場で演奏されることなど考慮せず、音楽学に通じた玄人たちに「読んで愉しむ楽譜」にしてもらいたい、と考えていたからに違いない、ということ。
 しかしそれが演奏され鑑賞される作品としても至高の名作であることは周知のとおりで、では何で弾くか?と考えたとき、最も好適なのがおそらくオルガンなのです。複数の人間で弾きあわせるより、ひとりの脳と体で綴られる方が音楽の性質に合っているでしょうし、かといって管や弦では音が足りない、畢竟鍵盤ということになるけれど、チェンバロやクラヴィコードでは音符の長さをちゃんと示せない。となれば、バッハ自身が最も得意としていたオルガンこそが最適ではありませんか。
 ただ昨年『レコード芸術』で特選を取るなど絶賛を博したB.フォクルールの2枚組のような数十年ぶりの?例外を除き、名手によるオルガン版新録音はなかなか出ないもの・・・と思っていたら、古楽大国ベルギーの最前線を担うバロック・ヴァイオリン奏者だった録音技師・プロデューサーが主宰する秀逸古楽レーベルRamee が、やってくれました。ドイツの伝説的古楽集団ムジカ・アンティクヮ・ケルン(Archiv の名盤群…)で最後の通奏低音奏者をつとめ、近年ソリストとして破竹の躍進をみせる名手ベルベンが、ちょうどバッハが(最晩年ではなく)実際に「フーガの技法」を作曲していたのと同じ1740 年代半ばに建造された歴史的オルガンで、いつわりの伝説の向こうにある“真実の『フーガの技法』の姿”を解き明かしてくれたのです。
 無駄に勿体つけず、CD1枚に入ってしまう速度で端正に織り上げられてゆく音世界は実に気持ちよく自然体。滋味あふれる歴史的オルガンの妙音に聴き惚れ、メロディラインの交錯と変容に心を奪われていると、ふと音楽が途絶える。最後の絶筆部分の、なんという余韻。
 ベルベン氏、前作『トッカータ集』でのバッハ奏者としての高評価はやはり、幻ではありませんでした。『フーガの技法』の真相を問う、バッハ研究の権威P.ヴォルニー教授の解説(全訳付)も、実に興味深いところ。見過ごせない1枚です!

RICERCAR


MRIC314
(国内盤)
\2940
テレマンと、ファゴット
 〜独奏ソナタ、トリオ・ソナタ、四重奏ソナタ、同時代人たち〜
 ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767)
  ①四重奏ソナタ ニ短調〜『食卓の音楽』第2集より
  ②ファゴットと通奏低音のためのソナタ 〜
   『忠実な音楽の師』(1728〜29)より
  ③トリオ・ソナタ ヘ長調 〜『六つのトリオによるソナタ』
   (1718、フランクフルト)より
  ④トリオ・ソナタ イ短調*
  ⑤トリオ・ソナタ 変ロ長調(ヤン・ディスマス・ゼレンカ(1671〜1745)作曲)
  ⑥トリオ・ソナタ 変ロ長調*
  ⑦ファゴットとオブリガート・チェンバロのための二重奏曲 ト短調
  (クリストフ・シャフラート(1709〜1763)作曲)
 *:ダルムシュタット、ヘッセン州立図書館の手稿譜より
ジェレミー・パパセルジオー(バロック・ファゴット)
Ens.シンタグマ・アミーチ(古楽器使用)
ジェレミー・パパセルジオー(ファゴット)
エルザ・フランク(オーボエ、リコーダー)
リュート・ファン・キルレーヘム(リコーダー)
ステファニー・ド・ファイー(ヴァイオリン)
ベルナール・ヴォルテーシュ(チェロ)
ギィ・パンソン(チェンバロ)
 木材が震えて鳴る、素朴な中低音の味わい——バロック・ファゴットの魅力を最大限に引き出せるのはやはり、どの楽器も知り尽していたテレマンでした。
 絶品リコーダーやヴァイオリンとの交錯のなか曲の面白さを誰よりもあざやかに・・・。.欧州古楽界のご意見番、パパセルジオ—の面目躍如です。

 バロック・ファゴット!
 聴けば聴くほど深い世界です。
 この楽器、名手と名録音技師がいないと良さが伝わりにくいものの一つだと思うのですが、その点をみごとにクリアした素敵なアルバムがここに登場します!
 古楽大国ベルギーの最前線で活躍し、エルヴェ・ニケ『水上の音楽』プロジェクトでも古いファゴットについていろいろ情報提供したという研究家肌であり、プレイヤーとしても小規模編成から古楽器オーケストラまでいたるところで大活躍中の凄腕バロック・ファゴット奏者、ジェレミー・パパセルジオーが丹精こめて制作した、素晴らしい室内楽アルバム!
 録音技師は30 年来ベルギー古楽界から信頼を得て活躍を続ける自然派録音の達人、ジェローム・ルジュヌ氏。つまりRicercar の主宰者たるエンジニア音楽学者プロデューサー。
 私たち日本人も大好きなバロック後期に焦点をあて、リコーダーやバロック・ヴァイオリンの達人たちが各楽器のうまみたっぷりに共演者としてからむ、欧州古楽界のさりげない質の高さを思い知らされる1枚。正直、彼らの音楽性の豊かさは往年のブリュッヘン&クイケン初期を彷彿させるような、純然たる「音楽をする喜び」を全身から感じられるところが、演奏の魅力につながっているのかもしれません。しかしそんな卓越した音楽性も、アルバムの企画性が弱かったらまず、威力を発揮するチャンスもないでしょう。本盤のいいところは、テレマンという、どんな楽器でもうまみを最大限に引き出せたセンス抜群の作曲家を選び、(ともに隠れファンの多い?)同時代のゼレンカや18 世紀半ばのベルリン楽派の名匠シャフラートなどの曲を盛り込みながら、あるときはファゴット独奏を、あるときはリコーダーやヴァイオリンとのからみを、またあるときは低音側の仕事人としてのファゴットの面白さを...と、バッハ前後の耳なじみのよいバロック・サウンドのなかで、この楽器の魅力をどこまでも多角的に味合わせてくれるところ。
 聴き始めたら、ついいろいろ聴き込んでしまうこと請け合いです。
 パパセルジオーのほかにも経験豊かな仕事人古楽鍵盤奏者ギィ・パンソン、自ら別のアンサンブルも主宰するステファニー・ド・ファイーら、共演者たちの立ち回りがまたセンス抜群で実に巧み!Ricercarの常どおり、ファゴットのなりたちやテレマンとのかかわりを詳述した解説(全訳付)も面白く、情報満載です。

RICERCAR


MRIC286
(国内盤・2枚組)
\4515
俊才ヴェルダンが満を持して録音した「オルガン交響曲」
 ヴィドール:オルガン交響曲第1〜4番
  〜史上初の「オルガン交響曲」、第1稿世界初録音〜

シャルル=マリー・ヴィドール(1844〜1937):
 『四つのオルガン交響曲』作品13(1872)
 1. オルガン交響曲 第1 番 ハ短調
 2. オルガン交響曲 第2 番 ニ長調
 3. オルガン交響曲 第3 番 ホ短調
 4. オルガン交響曲 第4 番 ヘ短調
ヨーリス・ヴェルダン(オルガン)
使用楽器:ロヨモン修道院のカヴァイエ=コル・オルガン、1864年建造
 フランクのハルモニウム盤も、その前のギルマン盤も『レコ芸』特選——ベルギー随一、いやロマン派以降のフランス音楽にかけては世界屈指のスペシャリスト! 俊才ヴェルダンが満を持して録音した「オルガン交響曲」の超・本命レパートリーの「初版世界初録音」!!
 ひとくちに「オルガン音楽」といっても世界は意外に幅広いもの——バッハの死とともになくなってしまったジャンルではありません。サン=サーンスやホルスト、R.シュトラウスの管弦楽作品に盛り込まれていたり、メシアンが傑作を多々書いていたり、近現代にも注目のレパートリーが多々ある楽器です。とりわけブルックナーやフランクなど、19 世紀ロマン派の大作曲家たちのなかにも、この楽器をよく奏でた人物がいることは、今更くりかえすまでもないかもしれません...
 しかし!巷でブラームスやフォーレやヴェルディらが盛んに傑作を発表していた頃、最も注目すべきオルガン芸術は、秘かにフランスで培われていたのです。それまで音色こそ多彩に弾き分けられはしたものの、ピアノのように微妙な音量差のニュアンスを奏でられない、クレシェンドやデクレシェンドのような表現が苦手だったオルガンに、スウェル装置という新機構が盛り込まれて新たな表現が可能になった頃、フランスの名工カヴェイエ=コルがこの種の新型オルガンの銘器を続々と建造したため、これに触発された作曲家たちが、まさにロマン派ならではの表現語法で、オーケストラ音楽にも匹敵する斬新で多彩・壮大なオルガン音楽を書きはじめたのでした。そんなフランスの“交響的オルガン楽派”を代表する大家のひとりが、本盤の主人公であるCh.M.ヴィドール。19 世紀以降までレパートリーに持っているオルガニストの演奏会に行かれた方なら、このヴィドールの「オルガン交響曲」のどれかからの抜粋楽章を聴いてびっくりされた方も多いのではないでしょうか。
 ヴィドールはパリ屈指のオルガン芸術のメッカである聖シュルピース教会で正規奏者をつとめ、オルガン独奏のために「交響曲」という呼称の壮大な作品を10 曲も残したことで音楽史上に名を残し(実はもっと多彩なジャンルで才能を発揮した大物だったのですが、それはまた別の機会に…)それらの交響曲があまりの素晴しかったため、ヴィエルヌ、フリュリ、ラングレ、デュプレ…と後続世代のフランス人オルガン芸術家たちも多くこの種の作品を残すようになったのですが、ヴィドールの作品はやはり格別・というわけで、今でもしばしば演奏される機会が多いようです。
 とりわけ有名なのは第5番のトッカータ楽章。しかし、そんなヴィドールがこのジャンルで初めて発表した第1番から第4番までの4曲は、その歴史的重要性はともかく、素晴らしい名品にもかかわらず意外に演奏されてきませんでした。
 そこへ画期的な名録音を残してくれたのが、古楽大国ベルギーの名門小規模レーベルRicercarと、今やその看板アーティストのひとりになりつつあるヨーリス・ヴェルダン。しかも演奏には聖シュルピース教会の銘器と同じカヴァイエ=コル建造のオリジナル楽器が使われているうえ、使用楽譜も周到に検討。通汎版ではなく、ヴィドールが最初に刊行した「作品13」の番号をもつ楽譜で演奏に臨んでくれたのです!
 ヴェルダンは2年前のギルマン(同じく19世紀フランスの大家、サン=サーンスの友人)の作品集(MRIC267)でも、また近年ようやく日本発売あいなったフランクのハルモニウム作品集(MRIC213)でも「レコード芸術」特選に輝き、日本での評価もたいへん高いロマン派演奏の達人。このアルバムでも、フォーレやグノーにも通じる天上的な美、サン=サーンスにも通じる逞しさと色彩感、まさしく「交響曲」の名にふさわしい作品の魅力を十全に解き明かす、求心力あふれる演奏を聴かせてくれるのです!
 解説も版の説明含めかなりの規模(全訳付)、DigiPack ジャケットはいつもどおりの美しさで、演奏のクオリティを十全に引き立てる充実の逸品に仕上がっております。玄人ファンも納得のアイテム、ぜひご注目を!

RICERCAR


MRIC312
(国内盤・訳詞付)
\2940
サンチャゴへの巡礼路
〜スペインとフランスの古楽さまざま〜

 ◆使徒ヤコブの祝日
 ◆①道すがら、イェスはヤコブと(グレゴリオ聖歌)
  ②おお、めざましき神の戦士ヤコブ(ウルバニ・ロート17世紀前半頃に活躍)
 ◆ローヌ地方を通って…
 ◆③巡礼歌3題:祝うべきは、次のような魂〜歌うのです、主なるかたへ向け〜
  わたしを何より喜ばせるのは
  ((ラ・トゥールのギヨーム・シャスティヨン 1550頃〜1610頃)
 ◆街路の交わるところ
 ◆④歓迎されるべき魂とは(作者不詳)
 ⑤「ある若い娘が」による3声のファンタジア(ウスターシュ・デュ・コーロワ 1549〜1609)
 ⑥使徒なる大ヤコブのラウダ(讃歌)(マッテオ・コフェラーティ 1638〜1703)
 ◆南フランス 〜ラングドック地方とガスコーニュ地方
 ◆⑦期待するな、わが両の目よ(エティエンヌ・ムリニエ 1599〜1676)
 ⑧フランス王のカンシオンを、エコー式に(作者不詳)
 ⑨心と口もて、いざ祝おうぞ、皆の衆(作者不詳)
 ◆スペインへ 〜アラゴン王国とカスティーリャ王国
 ◆⑩スペインのガイタ(作者不詳)
 ⑪カンツォーン〜高音部と低音部のための
  (バルトロメオ・セルマ・イ・サラベルデ 1638頃活躍)
 ⑫ハカラ〜さあハカラを踊ろう(バルトロメウ・デ・オラゲ 17世紀に活躍)
 ◆レオンの教会で
 ◆⑬レオンの教会の鐘が鳴る(ムリニエ/ヤーコプ・ファン・エイク 1590〜1657)
 ⑭歌いかけたのは小鳥が二羽、太陽の子に(フランシスコ・エスカラーダ 17世紀後半に活躍)
 ◆ガリシア地方に入り…
 ◆⑮ぼくの小舟は岸辺にある(ガブリエル・バタイユ 1575〜1630)
 ⑯フランスのガイタ(作者不詳)⑰まわせ小舟を(作者不詳)
 ◆そしていま、サンチャゴ大聖堂の扉の前
 ◆⑱カンツォーン「ラ・ベネデッタ」(アンドレア・ファルコニエーロ 1585〜1656)
 ⑲ガスコーニュ、アラゴン、カタルーニャの諸国民のビヤンシーコ
 (フランシスコ・ソレル 1768〜) 
アリアンナ・サヴァール(歌・中世ハープ)
Ens.ラ・フェニーチェ(古楽器使用)
ジャン・チュベリー(コルネット、リコーダー、ガルベ)
メラニー・フラオー(ドゥルツィアン、リコーダー、オルガン)
マルタン・バウエル(ヴィオラ・ダ・ガンバ、リコーダー、オルガン)
ミカエル・エル(チェンバロ、オルガン、リコーダー)
フアン・セバスティアン・リマ(テオルボ、バロックギター
 見過ごし難い古楽界のサラブレッド——ジョルディ・サヴァールとモンセラ・フィゲーラスの娘アリアナはなんと伸びやかでピュアな美声の持ち主!
 スペイン古楽と相性抜群のレーベルRicercarで巡礼地サンチャゴをめざした17世紀人たちの音楽を、超実力派たちと艶やかに織り上げます!
 Alia Vox レーベルを自ら運営、続々名録音を歴史に刻み続けている巨匠ガンバ奏者=指揮者ジョルディ・サヴァールと、永遠の歌姫モンセラ・フィゲーラス。現代古楽界に冠たるこのふたりのスターから生まれたアリアンナ・サヴァールは、21 世紀以降着実に「すばらしい歌声をもち、古楽ハープもあざやかに奏でる」稀代の古楽パフォーマーとしての存在感を強めつつあります。すでに名盤と呼べる音盤もいくつかありますが、嬉しいことに今回は欧州古楽シーンの“柱”ともいうべきRicercar レーベルで、筋の通ったアルバムを制作してくれたのです。テーマは「サンチャゴ巡礼」。
 サンチャゴ・デ・コンポステラ修道院は昔からキリスト教徒たちが「いつかは詣でたい!」と願ったスペイン北西部の巡礼地で、今でもよくスペイン観光パンフレットの表紙を飾るくらい有名な観光名所(今でも巡礼そのものがタフな徒歩旅行として半ばレジャー化しているようで)。畢竟、ヨーロッパ側からこの地へ抜ける古い巡礼路もいくつかあります。
 本盤ではレーベル主宰者ルジュヌ氏がたまたま見つけた1648 年の古地図に、フランスからのサンチャゴ巡礼路を示したものがあったそうで、それを出発点に、1648 年頃の巡礼者たちが歌い親しんでいたであろう17 世紀音楽を中心にした選曲で「スペインとヨーロッパ諸外国の結びつき」をふりかえってみよう、という趣旨のアンソロジーにしてみた...という次第。
 折々に鐘の音やグレゴリオ聖歌なども織り交ぜながら、アリアンナ・サヴァールの妙なる美声(ほんのり色香ただよう、まっすぐに伸びる古楽歌唱...なんてみずみずしく美しい!)がいや増しに引き立つような素朴で繊細な小品が連なり、そこへ絡むのがツィンク(木管コルネット)の超絶的名手ジャン・チュベリーをはじめとする欧州古楽界のスーパープレイヤーたちなのですから、美しい仕上がりにならないほうがおかしいわけです。
 サンチャゴ巡礼路の地図についての話題を皮切りに、収録作品を説明しながら17 世紀音楽の面白さを説いてゆくルジュヌ教授の解説(全訳付)も、古楽ファンならずとも一読の価値あり。もちろん訳詞つきです。温もりの欲しい季節にもぴったりな、素朴で深い古楽サウンド…Digipack ジャケも美麗、長く付き合えそうな1枚です!

SAPHIR


LVC1173
(国内盤)
\2940
Calliopeの名盤復活!
 レジス・パスキエ/チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
チャイコフスキー(1841〜1904):
 1. ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
 2. 懐かしき土地の思い出op.42(瞑想/メロディ)管弦楽編曲:グラズノフ
 3. 憂鬱なセレナーデ op.26
 4. ワルツ=スケルツォ op.34
レジス・パスキエ(ヴァイオリン)
エマニュエル・ルデュク=バローム指揮
バルト室内管弦楽団
(サンクトペテルブルク・フィル選抜メンバー)
 巨匠パスキエ、深まるロマンぱ圧倒的な余裕から生まれる、この比類ないチャイコフスキー像...
 ロシア屈指の凄腕ぞろい、精鋭室内管弦楽団が織りなす「爛熟一歩手前の高潔さ」とともにチャイコフスキーがヴァイオリンに込めた音楽の味わいを、いかんなく味わいつくすひととき。

 パリの中心部に本拠をかまえるSaphir レーベル、恐るべし。
 レジス・パスキエといえば、言わずと知れたフランス現代を代表するヴァイオリンの巨匠のひとりであり、オイストラフやスターンら世界的な巨匠奏者たちに師事、フランス派の伝説的名匠ジーノ・フランチェスカッティにも愛されるなど、若い頃から欧州楽壇ではとにかく第一線で活躍しつづけてきた大家ですが、なんとここへ来て、いきなりロシアの精鋭集団とチャイコフスキーの協奏曲その他を録音したアルバムがぽん、と出てまいりました。
 2007 年、今や旧オーナーが引退したばかりのCalliope レーベルで録音され、市場にあまり出回る機会を得られないまま廃盤になっていたこの傑作録音。ここには、かのロシア人作曲家がヴァイオリンと管弦楽のために作曲した3作に加え、グラズノフが後年管弦楽伴奏に編曲した「懐かしき土地の思い出」が収録。まさに寒い季節にはぴったりのロシア情緒と、フランス派のヴァイオリニストならではの類まれなまでの艶やかな歌心との融合をどこまでも心ゆくまで味わえる内容になっているのです。
 とくに「憂鬱なセレナーデ」や「ワルツ=スケルツォ」など“余白収録”があるようで意外と多くはないこれらの名品が、パスキエ特有の絶対的な存在感と艶やかな節回しが共存する弓さばきでじっくり聴けるのが嬉しいかぎり。
 そして協奏曲。
 パスキエの演奏は技巧的にもう申し分ないほど完璧なのはいうまでもありませんが、そのうえで余裕綽々と弾きこなしてみせる、ほどよい鷹揚さが風格につながるのでしょう。
 バックに控えているのは、サンクトペテルブルク・フィルの精鋭プレイヤーたちが集まって結成された戦意充分の緻密集団、バルト室内管弦楽団。やや小規模なオーケストラでチャイコフスキー作品の緊密な浪漫を浮き彫りにするのですが、その踏み込み加減が実に絶妙。ひたすら思い入れたっぷりロマンたっぷり濃厚に・・・というのではなく、どちらかといえば整然とした演奏解釈と言ったほうがよさそうな弾き方なのですが、ぴしっと揃ったアンサンブルで縦横無尽に動き回るその音楽からは、明らかに「奥に秘めた限りないチャイコフスキー愛」がひしひしと伝わってきます。
 ああロシアの腕利きたちはなんと旨味あふれる音楽を作ってくれるのだろう、とドキドキさせられてしまいます。
 名匠グラズノフがピアノ・パートを管弦楽に編曲した『懐かしき〜』(一部、ヴァイオリン協奏曲の緩徐楽章の初期稿を独立させた楽章も収録)の併録も嬉しいところで、冬にじっくり聴きたい、心も体も熱くなる傑作盤なのです。

SAPHIR


LVC1170
(国内盤)
\2940
知られざる曲者的名曲/
 ドミトリーエフ&アレクサンドル・パレイ
  エネスク:チェロとピアノのためのソナタ(全2曲)

 ジェオルジェ・エネスク(1880〜1955)
  1. チェロとピアノのためのソナタ 第1番 ヘ短調op.26-1
  2. チェロとピアノのためのソナタ 第2番 ハ長調op.26-2
アレクサンドル・ドミトリーエフ(チェロ)
アレクサンドル・パレイ(ピアノ)
 さて上記に続いてエネスク。
 ルーマニア最大の作曲家にして指揮者、メニューインの師匠たるヴァイオリニスト...のエネスクはピアニストとしても一流、そして・・・さらにチェロまで弾けた。
 カザルスに献呈された「第2番」、19世紀末の天才的若書き「第1番」、超・充実の隠れ傑作を、申し分ない完璧ライヴで。

 20 世紀を代表する世界的大ヴァイオリニストのエネスク(パリでの活躍が長く、フランス人は今でも「エネスコEnesco」と書きます)が、作曲家としても超一流で、ルーマニア史上最大の作曲家と目されていることは、いまさら断るまでもない事実。そのうえ彼はチェロやオルガンもひとまずは弾けたそうで、その天才ぶりには唖然とさせられます。ヴァイオリンはなにしろ4歳から学びはじめていて、5歳の頃には作曲を開始、7歳でウィーン音楽院に入学して、考えうるかぎりの賞をすべて総なめにして卒業したとき、彼はまだ11 歳だったとのこと...。この間に「ベートーヴェンに心酔」し、さらに「ワーグナーの素晴らしさにも開眼」したという彼が17歳で作曲したチェロとピアノのためのソナタ第1番に、すでに立派な名匠の風格が漂っていたとして、何の不思議がありましょう?
 しかしエネスクは、それから30年近く過ぎてから第2の本格的なチェロ・ソナタを書くまで、この初期作品を楽譜出版することすら思いも寄らなかったといいますから、自己評価の厳しさも相当なものだと思います。ともあれ幸いなことに、この第2ソナタの楽譜を発表したさい、エネスクは第1ソナタも同じ「作品番号26」の冊子に併録してくれました。おかげで、同じ作曲家の初期名作と円熟期の傑作とがひとつの作品番号を共有するというややこしい事態にもなったわけです。
 ところが、この2曲、いずれ劣らぬ長さを誇る難曲で、ちょっと聴いただけでも「本気でかからないと素晴らしさは伝えられない」だろうな...と強く思わせる曲者なのです。だからこそこうして手ばなしで歓迎したくなる痛快な名解釈での傑作録音が登場してくれれば、多くの音楽ファンにぜひとも聴いていただきたいもの。
 パリの真ん中に劇場を持つフランス楽壇通のプロデューサーが主宰するSaphir レーベル、ほんとうによくやってくれました。
 本盤の演奏者は、ウクライナ出身でバシュメット率いるモスクワ・ソロイスツで活躍したのち冷戦終結頃に渡仏、モンペリエ国立管でソロ奏者をつとめてきた達人A.ドミトリエフと、Brilliant にあるバラキレフのピアノ作品全集(旧KOCH 音源)やNAXOS のウェーバー・ソナタ全集など昨今日の目を見にくいジャンルに惜しみなく才能を費やして実績をあげてきた隠れ名手、アレクサンドル・パレイ。
 パレイの出身地はモルドヴァ(旧ソ連に組み込まれたルーマニア語圏の国…エネスクの故郷はルーマニアの国土で最もモルドヴァに近い地域にあります)で、エネスクに共感が強いであろうことは熱意あふれる演奏ぶりからも伝わってきますが、ドミトリエフ共々「東欧の故郷を離れフランス暮らし」であるだけに、異国で生きてきたエネスクには深く思うところあるのでしょう。
 大ヴェテラン充実の名演、お見逃しなく!

SAPHIR PRODUCTION


LVC1094
(国内盤・2 枚組)
\4515
メンデルスゾーン(1809〜1847):オルガン作品集
 ①オルガン・ソナタ第1番ヘ短調op.65-1
 ②アンダンテ ニ長調 ③前奏曲とフーガ ハ短調op.37-1
 ④オルガン・ソナタ第2番ハ短調op.65-2
 ⑤前奏曲とフーガ ト長調op.37-2
 ⑥オルガン・ソナタ第3番イ長調op.65-3
 ⑦オラトリオ『パウルス』序曲(R.シャープ(1817〜87)編)
 ⑧オルガン・ソナタ第4番変ロ長調op.65-4
 ⑨コラール変奏曲「何と偉大なことか、全能の善」
 ⑩オルガン・ソナタ第5番ニ長調op.65-5
 ⑪前奏曲とフーガ ニ短調op.37-3
 ⑫オルガン・ソナタ第6番ニ短調op.65-6
 ⑬後奏曲 ニ長調
エドアルド・オガネシアン(オルガン/リガ大聖堂)
 ドイツ・ロマン派の伝統のなかで、着実に巨匠たちから愛され続けていた楽器——彼らとバッハとを直接むすびつけるこの楽器のために、メンデルスゾーンが綴った素晴らしい6曲のソナタ。
 俊才オガネシアンによる、荘厳にして雄大・優美な絶妙解釈で!

 ヴァイオリン・ソナタ、チェロ・ソナタ、ピアノ・ソナタ...ベートーヴェンからブラームス、レーガーへと至る19 世紀ドイツ語圏の音楽界でも、ソナタは連綿と書き続けられていました。しかし「オルガン・ソナタ」となると話は別——この楽器のために「ソナタ」と呼びうるほど(ないし、ソナタの形式を使っての)充実した音楽を書いたドイツ・ロマン派の作曲家が、いったいどのくらいいたことでしょう? レパートリー開拓に意欲的な演奏家であれば、ここでラインベルガーやラハナーのソナタについて話題にするのかもしれません。あるいは世紀前半に素晴しいオルガン・ソナタ群を書いたA.G.リッターの名をあげたり、詩編第94 編にもとづくオルガン・ソナタを書き、将来を嘱望されながら死んでいった新ドイツ楽派の優駿J.ロイプケに話題がおよぶかもしれません...ともあれ少なくとも、私たちがドイツ・ロマン派の音楽をイメージするとき、あれほど彼らの芸術性と相性がよさそうでありながら、ほとんど意識する機会を与えられていないのが、このオルガンという巨大楽器ではないでしょうか。
 しかし実のところ、19 世紀のドイツでも、幾人かの有名作曲家たちはオルガンと深いかかわりを持っていました。最も有名なところでは、今年生誕200 周年を迎えたフランツ・リスト。ブルックナーも若い頃からオルガニストとして仕事をしていましたし、どうやらシューマンもオルガンと無縁ではなかったそう。
 そしてその親友メンデルスゾーンにいたっては、英国への演奏旅行をへてオルガンという楽器に開眼し、なんと6曲もの充実したオルガン・ソナタを残してくれているのです。完全なソナタというよりは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタのように変則的な曲構造をとるものも含め、多彩な音世界をかいま見せてくれるそれらの傑作は、19 世紀以降のレパートリーに敏感なオルガン奏者以外には意外と知られていないもの。人あたりのよい初期のメンデルスゾーンらしさよりも、むしろ『スコットランド』やオラトリオ『エリア』に聴くような、壮大にして緻密な音の伽藍を織り上げてみせるメンデルスゾーンが、ドイツ流儀の深い聴きごたえを約束してくれる傑作6曲が、本盤ではリガ大聖堂の素晴らしい楽器でじっくり織り上げられてゆきます。
 その弾き手はエドアルド・オガネシアン・・・。そう、『レコード芸術』で準特選に輝いたブラームスのオルガン作品全集(!)を録音した新世代ロシアの俊才なのです。
 ラトヴィアの首都リガは長らくドイツ系住民が多かった町(そういえばワーグナーも歌劇場で働いていましたね)、バルト海東部で最もドイツらしい伝統を誇る地の大聖堂のオルガンは、荘厳に、清らかに、作品の美質をありありと伝えてやみません。ドイツ・ロマン派の意外な真髄、どうぞお見逃しなく!

TRIART


TA001
(国内盤)
\2940
ベートーヴェン:ピアノとチェロのためのソナタ第2・3番
ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770〜1827):
 1. ピアノとチェロのためのソナタ第2番 ト短調 op.5-2
 2. ピアノとチェロのためのソナタ第3番 イ長調 op.69
 3. モーツァルトの歌劇『魔笛』のアリアによる変奏曲op.66〜ピアノとチェロのための
イトカ・チェホヴァー(ピアノ)
ヤン・パーレニーチェク(チェロ)
 この国ほど、確たる伝統を保っている国があるでしょうか。
 音楽大国チェコで新たに発足した録音スタジオ系レーベルTriart発、チェコ楽壇の超・実力派デュオ。

 これほど手ごわい王道レパートリーを、直球解釈で、ぐいっと深くのめり込ませてくれる・・・。
 ドヴォルザーク、スメタナ、ヤナーチェク、マルティヌー...いや古くはシュターミッツ、ゼレンカ、シュメルツァー...と、チェコという国は昔からヨーロッパ随一の「音楽家たちのメッカ」でありつづけてきましたが、その伝統は今もまったくブレる気配をみせません。
 時代の流れにもほどよく機敏に対応しながら、今では古楽アンサンブルも数多く、現代音楽やクロスオーヴァーにも適性をみせる音楽家は少なくありませんが、ここにお届けする新しいベートーヴェン録音を聴くにつけ、そうした世界に冠たる音楽大国としての地位はやはり、地元の音楽シーンがあまりに高水準だったからこそだなと痛感せずにはおれません。
 このたびArco Diva レーベルの肝煎りで新たに登場したTriart(トリアルト)レーベルは、プラハにある録音スタジオを母体に、同国の豊かな音楽シーンで活躍する超・実力派たちの音楽性を世界に広めるべく発足したレーベル。その第1弾録音として登場したのは、すでに同国の小規模レーベルのいくつかで確たる録音経験を積んでいる実力派デュオ・ユニット、チェホヴァー&パーレニーチェク。
 チェロのヤン・パーレニーチェクは父がチェコ20世紀を代表する作曲家のひとりで、Supraphon でもスメタナのピアノ作品集で大いに世界的名声を博している俊才中の俊才。このふたりが作り出すベートーヴェンのまあ、なんと緻密で充実していることか。
 それは「極上の手堅さ」とでもいうべきでしょうか。
 古楽解釈をとりたてて意識したとか、新校訂版の楽譜を使っているとか、そうしたディスク先進国では当たり前のようになっている「手練手管」にいっさい頼らず、真正面からこれらベートーヴェンの傑作(選曲もばっちり王道ど真ん中です)に向き合って、驚くべき演奏成果を達成してみせ、それで凡庸な印象をいっさい与えず聴きこませてしまう奥深さとパワーに満ちている、そんな好感度抜群の演奏解釈なのです。
 クラシック大国で生音の極上音楽に慣れた耳を持ち、録音エンジニアリングにも長けたプラハのスタッフが録音にあたっていることも、ことによるとこの飛びぬけた極上感の演出に一役買っているのかもしれません。質実剛健なパッケージもほどよく「本物感」を演出していながら、年寄り臭さとも無縁——なんとなく、看板も大きく出さずにやっている、極上肉を出すステーキ店か曲者ヴィンテージだらけのワインバーか...といった頼もしさがひしひしと伝わってくる感じ。
 こういう録音が突如出てくるあたり、チェコはすごいですね。

ZIG ZAG TERRITOIRES


ZZT111101
(国内盤・3枚組)
\5040
ランソワ=フレデリク・ギィ
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集第1巻
  ソナタ第4番〜第14番 「作品7」から「月光」まで

ベートーヴェン:
《CD I》
 ①ソナタ第14 番嬰ハ短調op.27-2「月光」②ソナタ第9番ホ長調op.14-1
 ③ソナタ第10 番 ホ長調op.14-2 ④ソナタ第11 番 変ロ長調op.22
《CD II》
 ⑤ソナタ第8番 ハ短調op.13「悲愴」⑥ソナタ第5番 ハ短調op.10-1
 ⑦ソナタ第6番 ヘ長調op.10-2 ⑧ソナタ第7番 ニ長調op.10-3
《CD III》
 ⑨ソナタ第13 番 変ホ長調op.27-1「幻想曲風」
 ⑩ソナタ第12 番 変イ長調op.26「葬送」⑪ソナタ第4番 変ホ長調op.7
フランソワ=フレデリク・ギィ(ピアノ)
 あの傑作リスト盤から半年——Naiveでベートーヴェン協奏曲録音を続けてきた静かなる名匠F-F.ギィが、ついに「ピアノ音楽の新約聖書」の録音に乗り出した。
 どこまでも闊達、ほんのわずかのニュアンスで壮大な構築感を綴る。先々まで重要な全集が完成してゆくこと必至!

 フランスという国からは、次から次へと異才ピアニストが出てくるもの。ヌーブルジェ(1986 年生まれ)、カドゥーシュ(1985 年生まれ)、ファヴル=カーン(1976 年生まれ)、ティベルギアン(1975 年生まれ)、と昨今勢いのいい世代はもう70〜80 年代生まれの人ばかりですから、1969 年生まれのフランソワ=フレデリク・ギィが名匠らしい風格を漂わせてきたとしても、考えてみれば何の不思議もないのかもしれません。
 ここ数年のあいだNaive レーベルで連続リリースしてきたベートーヴェンのピアノ協奏曲全集(フィリップ・ジョルダン指揮フランス放送フィル)は点の厳しいフランスの批評各誌から絶賛され軒並み最優秀賞、Naive レーベルでは他にベートーヴェンのチェロ・ソナタ全集を天才アンヌ・ガスティネルと録音、他にブラームスの第2協奏曲やプロコフィエフのソナタ第6&8番など、骨太のレパートリーでことごとくヒットを飛ばしてきたギィは、今年からZig-Zag Territoires と本格的な仕事を開始。リスト生誕200周年にさいしてリリースされた意外に全曲録音の少ない傑作『詩的で宗教的な調べ』は、静々とその鮮烈な存在感をあらわにし、『レコード芸術』での特選をはじめ大きな評判を日本でも巻き起こしつつあります。
 しかし、彼がZig-Zag Territoires とのタッグで最も力を注ぐプロジェクトとなる予感のシリーズがスタートしてしまったのです。
 どんなに偉大なピアニストでも、一生のうちに出来る人はほんとうに限られている「ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音」!
 どうやら数枚ずつをBOX でリリースしてゆく意向のようで(1枚ずつリリースするより、ある種の総合性と全曲録音としての企図を打ち出せる、歓迎すべきスタイルだと思います)、第1弾となる3枚組がさっそく届きました。
 いや、とほうもないです。
 ギィというピアニストは「艶やかさを備えた硬派」、本格的にベートーヴェンの音楽世界と組み合えるだけの力量をそなえているうえ、音の仕上がりをただ質実剛健なだけにしてしまわない、絶妙なセンスで言葉を選んでみせる魅力的な話し相手のような、そんな作品解釈を縦横無尽、思うがままに展開してみせるのです。
 「悲愴」「幻想曲風」「葬送」「月光」、確かに今回の3枚には綽名つきの傑作も少なからず含まれてはいるものの、収録されているのは第4番から14番(あえて最初の曲集「作品2」にまとめられた第1〜3 番を外しているのがもう、ものすごく意図的でワクワクするじゃありませんか——シリーズ後続刊、どんな手で攻めてくるのか?)、作曲年代にして1796〜1802 年ときわめて短期間に集中していますから、作風的にはかなり似通ったものばかりになっているはずなのに、ひとつとして同工異曲な印象を与えない。ごらんのとおりの意図的な曲順もあるのでしょうが、曲構造をがっちり打ち出しながら、微妙な間、繊細なタッチの妙ひとつで曲のリアリティというか、身近さがぐいっと強くなる。
 いや、これは聴いてみていただくのが一番でしょう。曲配列・音楽内容についてわかりやすく解き明かす解説文(全訳付)も圧倒的な読みごたえ。先々まで愉しめる、否「新たな決定盤」になること必至の全曲録音のスタートです!

ZIG ZAG TERRITOIRES


ZZT111002
(国内盤・5CD特価)
\5250
ブランディーヌ・ランヌー/バッハ3枚組セット
 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ:
 CD1-2:イギリス組曲BWV812〜817(全6 編)
 CD3-4:フランス組曲BWV806〜811(全6 編)
 CD5: トッカータBWV910〜916(全7 曲)
ブランディーヌ・ランヌー(チェンバロ)
 仏Diapason金賞(ディアパゾンドール) 仏Classica推薦 仏Le Monde de la Musique CHOC(ショック)賞 etc…
 おそらく、21世紀フランスでは最大級のチェンバリストではないでしょうか。異才ランヌー、驚くべきしなやかさで描き出した、バッハ鍵盤楽曲の超・王道レパートリー2シリーズとバッハ鍵盤芸術の「原点」たる初期トッカータ群。名盤まとめてBOX化、国内初出!

 古楽先進国フランスにはチェンバリストが多士済々ではありますが、ブランディーヌ・ランヌーという大御所の認知度は21 世紀に入ってから日本でも着実に上がっているようです。おそらくAlpha やZig-Zag Territoires など、ここ最近におけるフランス古楽界の盛り上がりを支えてきた秀逸レーベルのプロデューサーたちからの信頼が厚いのでしょう。そしてラモーやバリエール、フォルクレなどフランス人らしいお国ものレパートリーでも「本場ならでは」のセンス抜群な即興装飾を交えた演奏を聴かせる一方、そのセンスそのままに、バッハの超・王道レパートリーでも卓越した録音を残してきた、両軸ともに対応できる幅広い感性あればこそ、なのでしょう。
 発売されたばかりの最新録音『ゴールトベルク変奏曲』(ZZT111001)でも、全ての繰り返しをきっちり守り、再度演奏する箇所では必ず装飾変奏する、というバロック期には当たり前だった演奏習慣を的確に、このうえない説得力で実践、CD2枚にまたがる録音でじっくり聴かせてくれました。
 そんなランヌーの認知度向上に大きく貢献してきたのが、Zig-Zag Territoires で録音されてきた3タイトルのバッハ録音。同レーベルもプレスが切れると再プレスまで間が長く、一連のバッハ録音も入手困難な状態が続いていましたが、なんとも嬉しいことに今回、過去3タイトルすべてが驚くほどお手頃な価格のBOX ヴァージョンで、しかも完全日本語解説付でお届けできることになりました!
 バッハにとってはチェンバロ音楽を自分で書く手習いにもなった最初期の傑作トッカータ群と、フランス様式をみごとイタリア風の音楽スタイルとかけあわせてみせた二つの傑作組曲集。バッハがチェンバロでやりたかったことは、このBOX でかなりの部分が網羅されているといっても過言ではありません。そんな充実したプログラムを、ランヌーはたおやかな装飾音も美しく、堂々とした作品美の風格がさりげなく浮かび上がるような、頼もしいことこのうえない解釈でじっくり聴かせてくれるのです。
 チェンバロの新録音が、出ているようで出ていないジャンルでもありますが、この1セットで「21 世紀のバッハ演奏のあり方」を問い直されることは必至。ドイツ語圏・オランダ語圏・英語圏などゲルマン系の古楽奏者とは、やはりセンスのあり方が一味違うところ。何かと点の辛いフランス批評各誌の絶賛ぶりからも、そのクオリティは推して知れるというものでしょう!

ZIG ZAG TERRITOIRES


ZZT041101
(国内盤・訳詞付)
\2940
ハインリヒ・シュッツ(1585〜1672):
 ①おお、いと慈しみ深きイエス SWV309*
 ② 讃美をお受けください、マリア様SWV333*
 ③オラトリオ『救世主イエス生誕の物語』SWV435
 ④マニフィカト SWV468
 ⑤来たれ、聖なる霊 SWV475
 ⑥詩編第150編「ハレルヤ!聖所で神を賛美せよ」
*『宗教コンツェルト集 第2集』(1639)より
フランソワーズ・ラセル指揮
アンサンブル・アカデミア(古楽器使用)
ヤン・ファン・エルサッケル(T・福音書記者)
ナーニャ・ブレーデイク(バロックハープ)ローラン・ステヴァール(org/cmb)他
 「モンテヴェルディの同時代人」でありながら、17世紀後半まで現役でありつづけたシュッツ。その晩期を代表する傑作のひとつを、ヨーロッパ古楽界最先端のグループがみずみずしい演奏で「いま」に息づかせます。
 たおやかで晴れやか、今冬はこれで決まり。

 ハインリヒ・シュッツ——古い資料などでシャイト、シャインという二人の(悲しいかな、今や半ば無名になりかかっている)昔日の巨匠たちとともに「ドイツ三大S」と並び称され、音楽史の本には必ず出てくる、ドイツ17 世紀の最も重要な作曲家。
 ドイツ語圏にあって、イタリア風の声楽曲をいちはやく的確に使いはじめ、多くの弟子たちとともにドイツ語圏の音楽世界をルネサンスからバロックへと塗り替えた、と言ってもまず過言ではないその功績の大きさは、計り知れないものがあります。
 ところがどうしたものでしょう、このバッハ以前のドイツ最重要ともいえる作曲家は日本ではいまひとつ、その存在意義が広く知られているとはいいがたいかもしれません。それなら、できるだけ良い盤を良い機会に広めてゆくのが一番ひというわけで、Alpha と並ぶ古楽先進国フランス屈指の小規模レーベルZig-Zag Territoires にあるこの秀逸盤を、きちんと解説訳・歌詞訳までつけて紹介してみようではありませんか。なにしろ演目は『救世主イエス生誕の物語』...クリスマスシーズンにぶつけるにはもってこいの題材です。
 作曲はなんと1663年。シュッツはバッハのちょうど100 年前、1585 年に生まれていて、おもな作品はだいたい1620 年前後くらいから出てくるのですが、そう考えると1663 年にまだ現役で、これほど充実した作品を書いていたというのはびっくり(考えてもみてください、18 世紀で言えば「モーツァルトの少年時代にバッハが書いた大作」、19 世紀で言えば「グリーグやチャイコフスキーの躍進期にベートーヴェンが書いた曲」というのと同じようなもの)。作風からすれば明らかに古風なはずなのに、あふれんばかりの慈愛をこめてみずみずしい古楽歌唱で歌われるその作品美は、シュッツ初期の、あのモンテヴェルディをゴツゴツさせたような峻厳さよりもむしろ、ビーバーやストラデッラなど17 世紀後半の、つまりまさに作品そのものと同時代の名匠たちのスタイルに近いようにも感じられ、シュッツが晩年まで過去の自分に満足せず、飽くなき探求をつづけていたことにも驚かされます。
 演奏はフランス随一の古楽アンサンブル「アカデミア」。通奏低音陣にはAlpha やMirare などの古楽レーベルで大活躍中の俊英奏者ばかりが居並び、それは歌唱陣も同じこと。事実上「ル・ポエム・アルモニークとラ・レヴューズの混成メンバー」といっても過言ではないかもしれません(それだけ実力派揃い、ということなのです)。
 中期の傑作宗教曲、うるわしのマニフィカトなど併録曲も充実、すんなりシュッツ世界に親しめる秀逸盤です!
Bach, J S: Goldberg Variations, BWV988
ZZT111001
(国内盤・2枚組)
\3885
今年最高のアルバムのひとつ
 ブランディーヌ・ランヌー
  J.S.バッハ:ゴールトベルク変奏曲
ブランディーヌ・ランヌー(チェンバロ)
 チェンバロで、一音一音、たしかめるように弾く・・・。
 これが成功すると、バッハの音楽はどれほど圧倒的な存在になるのか。変奏してゆくということ、弾き替えてゆくということ。『ゴールトベルク変奏曲』の演奏史は、きっとこの1枚で、静かに塗り替えられてしまうかもしれません。

 ゴールトベルク変奏曲——グレン・グールドを引き合いに出すまでもなく、この曲はピアノでもチェンバロでも、さらにはもっと違う楽器でも、あるいは諸々の編曲でも、驚くほどたくさんの名盤に恵まれてきたのは、いうまでもありません。そしてこの曲を知る人の数だけ、心の名盤やいつまでも思い出す名演があることでしょう。
 しかし、そのうえであえて言います——フランス古楽界きっての大御所になりつつある異才、パリ音楽院を卒業後レオンハルトとボブ・ファン・アスペレンの2巨頭に師事した後、明らかにユニークな存在感を放ちながら「古楽のメッカ」フランスで充実したキャリアを積み重ねてきたブランディーヌ・ランヌーが、ここに満を持して録音した『ゴールトベルク変奏曲』は、それら既存の演奏をすっかり忘れさせてしまいかねない、おどろくべきユニークな1枚である、と。
 否、1枚ではないのです...2枚組。
 快速をきわめたグールド55 年盤なら40 分もしないで終わってしまうあの曲に、CD2枚が費やされている。前例がないわけではありませんが、それはつまり、30 の変奏すべてにおいて、前半・後半の繰り返しをきっちり守っているうえ、冒頭のアリアの演奏がとてつもなくゆったりとしているから。その冒頭部分を聴いただけで、この曲を深く知っている人であればあるほど驚嘆し、そして感動することでしょう。
 だって、弾いているのはチェンバロなんです。
 ピアノじゃない。
 ピアノならペダルがあって音を伸ばせるから、ものすごく遅い演奏でも音楽的に成り立つけれど、チェンバロはペダルで音を伸ばせないうえ、どんなタッチで弾いても同じ音量ですから、「ゆっくり弾く」という行為はこの楽器の特性をほんとうに知り尽くしていないと、まず不可能なのです。でもこのCD をかけたら、1音1音がとほうもなく含蓄ゆたかに響いてくるのです(これはZig-ZagTerritoires 特有の、直接音と残響がほどよく溶け合う自然派録音に負うところも大きいのでしょう)。
 なのでその魔術的な、ほとんど永遠につづくような遅さのアリアに、まちがいなく耳が吸い寄せられてしまうはず。
 そしてランヌーがなぜ全ての変奏を前半・後半きっちりリピートするかというと、そこまでが「チェンバロ音楽としては当たり前」の作法だから。チェンバロはピアノとは違いニュアンスを細かく弾き分けるのではなく、曲の「元のかたち」と「即興で装飾を入れたかたち」を両方弾き示して、その変化の妙を味あわせる、というのが、バッハの時代にも行われていた最もオーセンティックな演奏スタイルだったのです。
 先日『レコード芸術』で特選に輝いたフォルクレ作品集でも、ランヌーは18 世紀当時の流儀に従い、録音セッションの場で即興的に音を加えるという、チェンバロ本来の正統的な演奏スタイルを貫き、それがフランス音楽ならではの美質をいや増しに引き立て、音盤を名盤たらしめていたわけですが、そうした即興性はこの「2 枚組ゴールトベルク」ではもはや「本質」。何もかもが尋常ではない、けれどもそれはすべて「歴史的蓋然性(オーセンティシティ)」を追求しつくしたがゆえのこと。
 それと余談ながら『ゴールトベルク変奏曲』を改めてイチから解き明かしてくれる(そもそもなぜ「アリア」なのか?くらいのところから...)解説書がこれまた静々と革命的で(例によって全訳付)、読み進めながら聴けば作品理解はさらに深まり、曲のイメージに新たな側面が加わること必至。圧倒的な『ゴールトベルク』新名盤の登場、絶対に見過ごされませんよう!

ZIG ZAG TERRITOIRES


ZZT090202
(国内盤)
\2940
フランス『ディアパゾン』最高点の「ディアパゾン・ドール(金賞)」
 キアラ・バンキーニ&アンサンブル415

  アルビノーニ:5声のシンフォニア作品2(全6曲)
   トンマーゾ・アルビノーニ(1671〜1751):
    『5声のシンフォニア集』作品2(1700)
      〜2挺のヴァイオリン、2挺のヴィオラと通奏低音のための
キアラ・バンキーニ(バロック・ヴァイオリン&指揮)
アンサンブル415(古楽器使用)
 昔から根強い人気——イタリア・バロックの“はざまの異才”アルビノーニ登場!
 超・充実の演奏団体によるこの録音、プレス切れ廃盤になる前にぜひ確保を!

 アルビノーニという作曲家は、実際どのくらい認知されているのでしょう。これが数十年前なら、シンプルに「アルビノーニのアダージョ」を話題にして、実はこの曲はアルビノーニが書いたわけではなくて、現代の作曲家が勝手に名前を使ったも同然...というようなことを言っていればよかったのかもしれませんが、もちろんそれでは当のアルビノーニは浮かばれませんよね。
 もっとも、古楽演奏が今ほど盛んでなかった頃も、「アルビノーニのアダージョ」以外でこの作曲家の名前を見かけることは結構あったと思います。ヴィヴァルディと同じ頃のヴェネツィアで活躍し、独奏協奏曲様式をヴィヴァルディとともに盛り上げ、とくにオーボエ協奏曲に名品が多いことは、パリ音楽院の銘教授ピエール・ピエルロやモーリス・ブールグ、スイスの巨匠ハインツ・ホリガーらの名録音でも広く知られてきました。
 とはいえアルビノーニ自身の本職は確か賭博カードの製造販売か何かで、これで莫大な財をなしたため、作曲は趣味で打ち込むものであって職業としてやることではない、くらいに考えていたとか。
 ・・・以上がアルビノーニの名とともに語られる基本情報だと思います。しかし、古楽演奏の最先端の現場は、そんなことでは満足していません。なにしろアルビノーニはヴィヴァルディと同じ頃、オペラ作曲家として非常な人気があったので、声楽系のパフォーマーたちは少しずつ録音も増やしてくれている昨今。しかし、アルビノーニの美質は「均整と中庸」なのだと思います。その点で、現代の聴き手にはヴィヴァルディのそれほど派手ではない声楽作品よりも、むしろヴィヴァルディの作例とはまったく異なる美質が魅力の、端正な器楽作品のほうが向いているのかもしれません。
 最前線の研究家たちにとっては、アルビノーニという作曲家が実はヴィヴァルディ「とともに」協奏曲などのヴェネツィア器楽芸術を盛り立てていたのではなく、実はヴィヴァルディ「よりもずっと早く」器楽合奏曲を出版しはじめていた、ということはもう、いうまでもない事実。そしてここに堂々、日本語解説付で登場する本盤は、そんなアルビノーニがヴィヴァルディの「作品1」に先立つこと数年前、早くも作品番号2を冠して出版していた傑作曲集『六つの協奏曲と六つのシンフォニア』から、シンフォニアだけをすべて集めて聴かせてくれるというもの。
 ヴィオラと通奏低音のあいだに「テノール」というパートを設けた全5パートの弦楽編成を、各パートひとりずつの曲小編成で端正に仕上げ、イタリア的な情感もたっぷり盛り込んだ名演に仕上げてくれたのが、古楽教育の牙城バーセル・スコラ・カントルムで長くヴァイオリン科の主任をつとめた名手キアラ・バンキーニと、その門下で刺激的な実践経験を積んできた新世代の俊才たち。丁々発止、というよりもむしろオトナの対話、といった感じで、ああバロックっていいなあ、と思わせるその作風は、ヴィヴァルディとその大先輩コレッリの間をゆく忘れがたい美質に満ちています。
 アルビノーニの存在意義が、皆様のなかでも「ヴィヴァルディの影的存在」から大きく格上げするに違いない傑作録音、点が辛いことで有名な仏Diapason が金賞をもって迎えたのも頷ける名盤です!

ZZT110902
(国内盤・2枚組)
\4515
フランス『ディアパゾン』最高点の「ディアパゾン・ドール(金賞)」
 アマンディーヌ・ベイエールのバッハ無伴奏

  ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
   『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』BWV1001〜1006
  ヨハン・ゲオルク・ピゼンデル(1687〜1755):
   無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ
アマンディーヌ・ベイエール(バロック・ヴァイオリン)
 古楽最前線ヨーロッパで、いつしか新たな「大御所」のポストを獲得——バンキーニ引退後バーゼル・スコラ・カントルムのバロック・ヴァイオリン科を占めているのは、この異才。
 パッションの塊にして桁外れの理知センス。ラテンの英知を極める古楽バッハ、登場!

 さきほど「欧州古楽の牙城」バーゼル・スコラ・カントルムで長年教鞭をとってきたキアラ・バンキーニについてご紹介したさい、2010 年から後継をアマンディーヌ・ベイエールに任せ…というような話題にも少しふれました。
 キアラ・バンキーニはharmonia mundi france にも名盤数多だったのでその名をご存じの方も多いと思いますが、アマンディーヌ・ベイエールはことによると、ソリストとしてよりもむしろ「カフェ・ツィマーマン初期盤で2nd を弾いていた名手」として名前を見てきた方が意外に多いかもしれません。
 そんなベイエールは2004 年頃から独自のアンサンブル「リ・インコニーティ」を結成し、フランスやイタリアの俊才たちとZig-Zag Territoires で旺盛な活躍を続けてきました。南仏人らしい情熱を絶妙のコントロールで至芸へと昇華してゆく、かそけき羊腸弦のたわみが絶妙の味わいを醸し出すその明確な個性は、ヴィヴァルディや「ヴェネツィアのドイツ人」ローゼンミュラー、あるいはナポリのヴァイオリン芸術家マッテイスの作品など、“南”を感じさせるバロック楽曲で申し分なく発揮されるとともに、故郷フランスのエスプリなくしては弾けないフランス・バロックの名品群でも多くの名盤をつくってきました。
 そう——彼女はこれまで、むしろあまり知名度の高くない作曲家の隠れた傑作をあえて掘り出し続けてきたのですが、そんな彼女曰く「学生時代から弾き続けてきたバッハ無伴奏が、あるとき突然、腑に落ちる...それが“録音しよう”と思い立つとき」・・・かくして、ごく自然にこの超・王道レパートリーと向き合うときが来たというわけです。
 そうして仕上がったのが、このかけがえのない新たな「無伴奏」の決定盤。
 点の辛いこと身震いするほどの辛辣なレビューも続々出てくるフランスの『ディアパゾン』も早くからこの企画に注目、最新号では最高点の「ディアパゾン・ドール(金賞)」をもって迎えたというのが、すばらしい幸先を予感させてくれるではありませんか。バーゼル・スコラ・カントルムの新時代を担う名手のバッハ、というだけでも注目度が高いのに、演奏内容が素晴らしいとあっては、なおさらです。
 さっそく届いたサンプル盤から流れてきたのは、泰然自若のたたずまいで、気負うことなくバッハが塗り込めた情感の推移を浮き彫りにしてゆく、しみじみと聴き深めたくなるバロック的解釈…同曲の録音を多々お持ちの方にも聴いていただきたいガヴォットが、長大なフーガが、そしてシャコンヌが、この2 枚組からひとつ、またひとつ...と耳に届くときの深い快感を、ぜひ今から楽しみにしていただきたいものです。
 ベイエール自身が寄せている解説(全訳添付)が解き明かす「“無伴奏”の思わぬ側面」も面白ければ、秘曲への適性充分な彼女が参考曲として併録してくれた、ドレスデン宮廷楽団の俊才たるヴィヴァルディの門弟ピゼンデルの思わぬ無伴奏作品も絶妙。
 周到にして本格派、今最も聴き逃せない古楽奏者の快挙、どうぞご注目を!





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