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第77号
お奨め国内盤新譜(1)
2014.6.17〜2014.8.15


ALPHA



Alpha195
(国内盤・訳詞付)
\2800+税
カプスベルガーの八つのトッカータ、
 およびその他の17世紀イタリア独唱歌
 カッチーニ、モンテヴェルディ...

 ヨハンネス・ヒエロニムス・カプスベルガー(1580〜1651):
  ①『リュートのための奏法譜集 第1巻』〜
   ①-⑧八つのトッカータ ⑨ぼくのアヴリッラ*
   ⑩わたしはもはや虫の息*
 ジューリオ・カッチーニ(1551〜1618):
  ⑪わたしは天から月を落とす者*
  ⑫うるわしのアマリッリ*
  ⑬苦しみと痛みのあいだで*
 クラウディオ・モンテヴェルディ(1567〜1643):
  ⑭この憂いを帯びたまなざしで(独唱による恋文)*
 タルクィニオ・メルーラ(1595〜1665):
  ⑮聖なる唱歌 〜子守唄に乗せて*
 バルバラ・ストロッツィ(1619〜1677):
  ⑯カンタータ「恋するエラクリート」*
   ※曲順は⑯③⑥⑪⑦⑨④⑭②⑩⑤⑫⑬⑧①⑮
トーマス・ダンフォード(アーチリュート)
アンナ・レノルド(メゾソプラノ独唱)*
 Alpha レーベルが、10年以上ぶりに真正面からカプスベルガーとイタリア古楽に向き合った!
 ダウランド盤でも成功をおさめたフランス古楽界のサラブレッドT.ダンフォード、この玄妙なカプスベルガーの音世界には、しずかに心を預ける価値がある...声楽も絶妙、注目古楽盤。

 リュートのアルバムというのは出ているようで意外に出ておらず、巨匠作曲家と目されるルネサンス〜バロックの大家でも、注目すべき曲集を出しているのに録音がほとんどない...という例はかなりあるもの。
 しかしそのなかで比較的恵まれているのが、ローマで活躍したドイツ人リュート奏者、ヒエロニムス(ジローラモ)・カプスベルガーではないでしょうか?
 単体アルバムも折にふれリリースされているところ、それを世界最高の古楽レーベルAlpha のスタッフが知らないはずがない——彼らがカプスベルガーに向き合うとなれば、そうなまじな演奏家と仕事をするわけがないのです。
 今から12 年前、現在では鬼才歌手ジャルスキー(そういえば、彼のディスクデビューもこの頃でした…Ambroisie のベネデット・フェラーリ曲集!)とのタッグで活躍を続けているラルペッジャータのAlpha デビュー盤が出たときも、この作曲家が中軸を占めるアルバム作りでしたが、そのときはむしろ声楽曲に焦点が当てられていたところ、今度は完全にリュート中心。
 そこへ昨今ヨーロッパでの活躍目覚ましいフランスの古楽歌手アンナ・レノルド(ラインホルト)がしっとり、穏やかに歌声を添えてゆく構成もまた実に味わい深く、いかにもリュートは夜の楽器にほかならない...と、イタリア初期バロックの(場合によってはいくらでも仰々しくできてしまう)音楽の深い機微に気づかせてくれる、生音の玄妙さをきれいに余さず収めきった繊細な自然派録音でまとめているのも実に好ましいところです。
 なにしろ録音場所は(ひさびさに!)Alpha の心のふるさと、パリのノートルダム・ド・ボン・スクール病院礼拝堂...エンジニアはこのレーベルと10 年以上仕事を続けている俊才アリーヌ・ブロンディオが一貫して監修まで手掛けているからこそ、このAlpha ならではの、ひっそりした礼拝堂の空気感がみごと立ち現れる録音になっているのかもしれません。
 選曲はカプスベルガーの重要な第1曲集に含まれるトッカータ8曲を中心に、選ばれている同時代人たちの歌がまた絶妙!
 カッチーニの「アマリッリ」をはじめとする3曲にモンテヴェルディの「独唱による恋文」、メルーラの子守唄、ストロッツィの「恋するエラクリート」...と、17 世紀イタリア初期バロックを愛する人たちにとってはもはや定番と言える曲を臆せず盛り込み、えもいわれぬ静かな名演に仕上げてみせているレノルドとダンフォードの阿吽の呼吸感にも、さすがパリ古楽界の俊才同士のことはある...と感嘆せずにはおれません。
 解説日本語訳・歌詞訳付で、バロック芸術が最も勢いよく花ひらいた17 世紀初頭のローマが「今、ここ」に立ち現れる名演を、どうぞじっくりと!
 


Alpha196
(国内盤)
\2800+税
ハイドン:鍵盤のためのソナタ3編、アダージョと変奏曲
 ヨーゼフ・ハイドン(1732〜1809):
  ①ソナタ ヘ長調 Hob. XVI:23
  ②ソナタ 変ホ長調 Hob. XVI:28
  ③ソナタ ハ長調 Hob. XVI:48
  ④アダージョ ヘ長調 Hob. XVII:9
  ⑤アンダンテと変奏 ヘ短調 Hob. XVII:6
   *各ソナタの後に、演奏者による即興演奏付き
ボビー・ミッチェル(フォルテピアノ)
使用楽器:
 シュタイン・モデル18 世紀末製オリジナル(修復:クリス・マーヌ)
 フォルテピアノ系の録音にも適性抜群のAlpha、新たに世に問う名手は“ブルージュの覇者”!
 作曲家生前のウィーンで造られたオリジナルの銘器をあざやかに弾きこなし、ハイドンがいかに面白い音作りをしていたかを端的に伝える逸品——曲間の即興演奏も雰囲気満点!

 古楽を中心としたラインナップで「小規模レーベルの革命」ともいうべき成功をおさめ、欧州の音盤シーンの常識を大きく塗り替えたフランスのAlpha レーベル。早くも創設15 周年を迎えた今もなお、彼らはなお古楽器録音にすぐれた実績をあげつづけ、玄人たちをうならせつづけてくれるのだ...!と、このハイドン・アルバムであらためて実感せずにはおれません。
 そもそもAlpha は17 世紀以前のバロックものでも高い評価を博してきた一方、今や老舗Accent レーベルでも活躍をみせているアルテュール・スホーンデルヴルトを筆頭に、現代ピアノよりも前からヴィンテージ楽器ばかり弾いていたという異才パトリック・シャイダーによる、19 世紀製プレイエルの限界すれすれをゆくリスト作品集、Zig-Zag Territoires レーベルにも名盤あまたのロシア・ピアニズムの大立者アレクセイ・リュビモフのベートーヴェン傑作選...と、フォルテピアノ(ピアノが現代式のかたちに定まる前の、18〜19 世紀のモデルのピアノ)による古楽器録音では確実に注目度の高いアルバムばかりをリリースしてきたところ。
 そこで突如あらわれたボビー・ミッチェルなる若きアメリカの俊才は、ショスタコーヴィチやラフマニノフなど近代ものでも現代楽器で名演を聴かせ、ロックやジャズのミュージシャンとも即興演奏をくりひろげる一方、チェンバロやヴィンテージ楽器などを弾く古楽器奏者としてのまごうことなき適性は昨年、世界的な古楽演奏家たちの登竜門たるブリュッヘ(英名ブルージュ)国際古楽コンクールでの華々しい受賞で立派に証明されたばかり。
 Youtube にも19 世紀のピアノを使っての録音や即興演奏のようすがいくつかUP されているところ、堂々Alpha からリリースされたこの新譜では、ピアノという楽器の発展のさなか、独自の鍵盤語法を確立していった“交響曲の父”ハイドンの作品をひとわたり...と、ある意味で自信満々のプログラムでの登場!聴きはじめてすぐに、その自信が伊達ではなかったことがすぐにわかります。そもそもハイドンの鍵盤ソナタは、この作曲家の音作りの妙を(ある意味、四つの楽器が使われる弦楽四重奏曲や、もっとたくさんの楽器でドラマが紡がれる交響曲よりも)最も端的に示す、面白さがわからなければ形をなさない演奏にもなりかねない難曲ぞろい...
 しかしボビー・ミッチェルは縦横無尽、18 世紀末オリジナルの楽器の繊細な音の変化をよくとらえつつ、流麗かつ端正にハイドンの音の造形をわかりやすく「いま」に甦らせてゆくのです。しかも当時のピアニストたちの流儀どおり、ソナタとソナタのあいだで自由磊落かつスタイリッシュな即興演奏まできめてみせる芸達者ぶり——ベン・ファン・オールト、ロバート・ヒルら「楽器のつくり」にも詳しい名匠たちの薫陶を受けた俊才だけのことはある名演になっています。
 解説も充実、もちろん日本語訳付でのお届け——隅々までじっくり味わいたい逸品、どうぞお見逃しなく!

ARCO DIVA



UP0143
(国内盤)
\2800+税
ヨセフ・スーク(1874〜1935):
 ①悲歌 作品23(ピアノ三重奏版)
ベドジフ・スメタナ(1824〜1884)
 ②ピアノ三重奏曲 イ短調 作品15
シルヴィエ・ボドロヴァー(1954〜):③ピアノ三重奏のための「予感」
グスタフ・マーラー(1860〜1911):
 ④ピアノ四重奏曲 イ短調(=冒頭楽章)
 ⑤スケルツォ(ピアノ四重奏のための断章)

   
クリスティナ・フィアロヴァー(va)
エベン・トリオ ロマン・パトチカ(vn)
マルケータ・クビーノヴァー=ヴルプコヴァー(vc)
テレズィエ・フィアロヴァー(p)
 “チェコ生まれ”のマーラーへの限りない共感が生んだ、みずみずしい作品解釈から立ち上る若き芸術家の、ぎりぎりの自意識。同じく若き日に綴られた、チェコ新旧世代の大家たちの記念碑的名作...
 室内楽大国チェコ発、退廃と復活のあでやかなロマン派室内楽の数々ぱ中欧随一の室内楽大国・チェコで音楽事務所と楽譜出版社も運営するArco Diva レーベルから、さらなる室内楽の名盤が届きましたぱこの国に19 世紀からつづく国民楽派の系譜をひく二人の巨匠たちが若き日に書いた世界的傑作と、同じ“チェコ出身”の大作曲家マーラーの「あの名曲」——若き日のマーラーが、まだ指揮者として世界に認められるよりも前に綴った若書きのピアノ四重奏曲(冒頭楽章とスケルツォ楽章の一部だけが残っており、ほとんどの場合は冒頭楽章のみ演奏)がこのアルバムの核になっているのはごらんのとおり。
 そこにチェコ国民楽派の立役者ともいうべき『わが祖国』の作曲家スメタナが、革命の鎮圧で故郷に失望するかたわら家族を相次いで亡くし、遠く離れたスウェーデンに向かおうとしていた頃に書かれた「ピアノ三重奏曲 ト短調」と、祖国を代表する大画家の死に寄せ、ドヴォルザークの愛弟子で娘婿でもあった作曲家スークが書いた「悲歌」がカップリングされた、19 世紀後半の中欧の音楽的充実をあざやかに示すプログラムぱ若い世代のソリストから巨匠クラスの演奏家たちまで室内楽奏者の層が厚いチェコで、若い世代の注目株として日々ますます演奏会の機会を増やしつつあるエベン・トリオの演奏は、隅々までみずみずしくありながら阿吽の呼吸でくりひろげられるアンサンブルの息もぴたりと合い、室内楽をじっくり聴き深める喜びにあふれた充実度を誇っています。
 ちなみに彼らのアンサンブル名は、チェコ現代の巨匠ペトル・エベンにあやかった命名——本盤には登場しないのですが、このエベンという作曲家の多岐にわたる活躍ぶりが日本ではあまり知られていないことを思うにつけ、この国にはまだまだ知られなくてはならない現代作曲家も多いのだ...と強く思わされるところ、嬉しいことに本盤にはシルヴィエ・ボドロヴァーという、Arco Diva レーベルには録音作品も少なくない現代チェコ随一の作曲家が新作をひとつ寄せてくれています。
 1954 年生まれの女性作曲家ボドロヴァーは民主化以降のチェコを代表する4 人の作曲家たちによるグループ「クワトロ(チェコ四人組)」の一員で、4人のなかでは唯一存命中の人物。アメリカでの活躍歴も長く、世界中の現代音楽の語法をよく知りながら、聴き手を阻害しない、前衛に偏りすぎない触感確かな音を綴る才人でありつづけている人でもあり、本盤に寄せられた「予感」にもそうした傾向がよくあらわれていて聴きごたえ充分ぱ結果、このアルバムのプログラムは19世紀から現代にいたる室内楽の歴史を四つの傑作で(しかも筋の通った名演でぱ)概観できる内容に——
 ともあれ、マーラーのピアノ四重奏曲を原作のまま、スケルツォ断章まで収録している新録音も(とくに国内仕様では)意外に出ない…という一点からも、見過ごせないリリースなのです。

ARS MUSICI



AMCD232-386
(国内盤)
\2800+税
キルンベルガー×バッハ父子×ヘンデル
 〜フルートと通奏低音のためのソナタさまざまと
 「五度圏」の世界〜

 ヨハン・フィリップ・キルンベルガー(1721〜1783):
  ①フルートと通奏低音のためのソナタ第3番 変ホ短調
  ②同 第9番 ト短調
  ③「音楽の環」〜フルートと通奏低音のための
 カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714〜1788):
  ④フルートとオブリガート・チェンバロのための
  ソナタ ニ長調 H.505/Wq.83
 ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685〜1759):
  ⑤フルートと通奏低音のためのソナタ ト長調Op.1-5 HWV363b
 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
  ⑥フルート〔原作ではヴィオラ・ダ・ガンバ〕と
   オブリガート・チェンバロのためのソナタ ニ長調 BWV1028(H.ヴィーゼ編)
     ※曲順は①②④⑤⑥③
ヘンリク・ヴィーゼ(フルート)
アニコー・ショルテース(チェンバロ)
イヴ・サヴァリ(チェロ)
 まるでフラウト・トラヴェルソ?と聞き違えるほど、ふわり自然な「音の置き方」がたまらなく美しい...
 ぜひ実演で聴きたくなる!バイエルン放送響の名手ヴィーゼ、素晴しきフルートの多元性。
 あざやかなArs Musiciでの「隠れ名盤」、解説付にて堂々登場...広く聴かれたい逸品です!

 「古い音楽は、作曲家が知っていた当時の楽器と奏法でこそ、作品の本質に迫れるもの」——古楽器演奏の考え方は21 世紀の今やひろく浸透していて、ベートーヴェンの交響曲を演奏・録音するさいにはわざわざナチュラル金管を使うなど、現代楽器奏者たちにとってもピリオド奏法はもはや他人事ではない時代。
 それだけに、現代楽器を使って古楽器さながらの演奏結果を導き出してしまう逸材も、いつのまにか各地に続々と現れているところ。本盤はまさにそうした「現代楽器による18 世紀音楽」の理想的再現!ともいうべき演奏結果がじっくり味わえる名録音—

 ミュンヘン・フィル→バイエルン国立歌劇場→2006 年よりヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団のソロ奏者をつとめる名手ヘンリック・ヴィーゼが銀製の現代楽器で奏でてゆくのは、バッハの門弟とも言われている18 世紀ドイツ語圏屈指の音楽理論家キルンベルガーのソナタ群と、その同時代を生きた名匠たちの傑作3曲!
 まさに「現代フルートで18 世紀の音楽をどう再現できるか」を味わうにはうってつけの選曲です。というのも、バッハの熱烈な信奉者でもあったキルンベルガーは、この『平均律クラヴィーア曲集』の作者が残したコラールの楽譜をいくつも保管していただけでなく、自らも独自の調律法を編み出し、今日の演奏家たちのあいだでもそれが折にふれ着目される人物…つまり音の間隔のニュアンスに非常に敏感だったわけですが、彼が活躍したのはちょうど、玄妙かつ柔和な横吹式フルートの調べがひときわ愛されたロココ時代。本盤にも1曲のソナタが収録されているC.P.E.バッハの作風にもどこか通じるところのある、そのえもいわれぬ美しくも切ない旋律美を、ヴィーゼはさながらフラウト・トラヴェルソかと思うほどの、ヴィブラートを抑えた、ふわりと音を置いてゆくような美音で自然に聴かせてくれるのです(使用楽器はマスターズAG970 モデル)!
 バッハやヘンデルの名品も収録されているので、この名手がどのような音楽性の持ち主なのか、十全に味わえる内容でもある——そう、彼はそういうことを堂々とやってのけられるくらい、深い芸術性を誇る名手にほかならないのです!
 共演者たちとの阿吽の呼吸、彼らの好サポートも絶妙そのもの。本人の公式ウェブサイトによれば、ヴィーゼは共感覚(音と色とを同時に認識するなど、別の五感同士が通じ合っている感覚)の持ち主とのことで、そうした独特の感性もまた、キルンベルガーと和声の五度圏に対する意識を養ったのかもしれませんね。
 何はともあれ、古楽器ファンにもお奨めしたい充実の1枚なのです。
 


AMCD232-412
(国内盤・訳詞付)
\2800+税
マルティーニ神父 古典派を育てた作曲家
 〜協奏曲、テ・デウム、マニフィカト...〜

ジョヴァンニ・バッティスタ・マルティーニ神父(1706〜1784):
 ①マニフィカト op.15 〜独唱、合唱、
  弦楽合奏と通奏低音のための(1747)
 ②チェロ協奏曲 ニ長調*(1745)
 ③6声の入祭唱 〜聖痕の祝日のための(1753)
 ④4声の入祭唱
  〜フランチェスコ会の祝日のための(1751)
 ⑤チェンバロ協奏曲 ヘ長調*(年代不詳)
 ⑥テ・デウム 〜8声の合唱と管弦楽のための(1740)
ノルベルト・デュフテル、
マルクス・ウルツ*指揮
Ens.ラルパ・フェスタンテ(古楽器使用)、
カンティッシモ声楽Ens.
独唱:
 アリス=アンナ・デッケルト、
 アーニャ・ビットナー(S)
 アレックス・ポッター、
 クラウス・ヴェンク(C-T)
 ディーター・ヴァークナー、
 ジュリアン・プレガルディエン(T)
 マンフレート・ビットナー、
 マルクス・シュミートル(Bs)

 モーツァルト少年時代の伝記など、名前ばかりが時折でてくる「マルティーニ神父」とは何者だったのか?
 その実態が、名前をみつけたら曲を聴いた方がよいセンス抜群の前古典派だったことを、さまざまな作品の古楽器名演であざやかに伝えてくれる——日本語解説付、その魅力を端的に知る素敵な1枚。

 天才モーツァルトの伝記をひもとくと、その神童ぶりをあらわすエピソードのひとつとして、必ずと言ってよいほど「1770 年、齢14 の若さでボローニャの由緒正しきアカデミア・フィラルモニカの門をくぐることを許された」うえ、そこで「名教師マルティーニ神父の教えを受ける栄誉に浴した」云々、という話が出てきます。なんでも、このマルティーニ神父なる人物はたいへんな対位法理論の大家で、その教えを受けられるのは非常にありがたいことだったとか...実際、モーツァルトのほかにもグレトリーやミスリヴェチェクなど、その門下からは18 世紀半ば以降の人気をさらった偉大なオペラ作曲家が続々出てきているのですから、確かに名教師だったのだろうということはわかるのですが——

 しかし、その本人はいったいどのような人だったのでしょう?

 録音シーンでは20 世紀末以来、意外にもこの「大先生」の曲をとりあげてきた演奏家が思いのほか少なくないのですが、ドイツ屈指の音楽研究機関が母体となって創設されたArs Musici レーベルが比較的最近、経営体制転換直前に制作していたこの声楽・器楽作品集は、そんなマルティーニ神父の真髄をCD1枚でかなり多角的に、しかも1曲ごと充実のきわみともいえる古楽器名演で聴かせてくれる重要なアルバムのひとつ!

 なるほど“神父”というだけあって教会音楽作品にも注目すべきところはあるのですが、しかし他の協奏曲2編とあわせて聴けば聴くほど、マルティーニ神父の作風は概して流麗、古典派オペラにも通じる「歌うアレグロ」の精神を心に宿した、きわめて耳なじみの良いものだったことに気づかされるのです——
 冒頭の「マニフィカト」こそ古風な対位法様式で書かれてはいるものの、その短調の響きも実にしっとり心になじむ美しさ。厳格な教会音楽のいかめしいとっつきにくさなど、彼の作例にはまったく皆無と言ってもよいのではないでしょうか?

 金管サウンドが頼もしい壮麗な「テ・デウム」、18 世紀半ばらしいテンポの良さと優美さに貫かれたチェンバロ協奏曲、チェロとオーボエの活躍が面白いチェロ協奏曲...独唱者にも近年躍進めざましいアレックス・ポッターやジュリアン・プレガルディエン(名匠クリストフの息子)がさりげなくクレジットされているのもさることながら、オーケストラはCPO やCarus、OehmsClassics に名盤あまた、地元ドイツではフライブルク・バロックo.やベルリン古楽アカデミーなどと並ぶ活躍ぶりがめざましい古楽器集団ラルパ・フェスタンテ!どうりで名演になるわけです。

 名前ばかりが有名なマルティーニ神父の単体アルバムが、解説訳付の国内仕様で入手できるのも滅多にない機会。これも見過ごせない1枚なのです!




素敵な旧譜を二つ後紹介しておきましょう


モーツァルト&マルティーニ神父
ボローニャのモーツァルト
〜様々な作曲家のオルガン作品集
DIVOX CDX-70903 1CD\2300→\2090


 おそらくモーツァルトがその人生で最も成功していた時期。

 1769年から1771年にかけてミラノ、ボローニャ、ローマを巡ったモーツァルト親子。
 バチカンのシスティーナ礼拝堂で門外不出の秘曲アレグリの『ミゼレーレ』をたった一度聴いただけで暗譜で書き記したという伝説はこのころの話。
 ローマ教皇から黄金拍車勲章を授与されたのもこのころ。この勲章を取った音楽家は過去ラッススとグルックだけで、しかもグルックは第2階級だった。
 さらに超難関で知られるボローニャのアカデミア・フィラルモニカ入会試験に合格。20歳以上でないと受けられない試験だが、当時対位法の最高権威とされていたマルティーニ神父によって特別に認定された。
 そしてミラノでは初めてのオペラ『ポントの王 ミトリダーテ』が大絶賛され、新作「アルバのアスカーニョ」の作曲依頼を受ける。
 前年までにウィーンで受けた屈辱を晴らすに十分すぎる成果。まさに人生最高の時期。

 さて、そんな14歳のモーツァルトが成功を体験した18世紀のボローニャは、傑出した学園都市・音楽都市として知られていた。10 世紀に創立された世界で最も古いとされる大学、また、先ほどお話した、音楽を愛好する貴族、聖職者と音楽家から構成されるアカデミア・フィッラルモニカ(楽友協会)があり、活発な活動をしていた。そんなわけでここには数々の名音楽家たちも集まり、教会では日々オルガニストたちが腕を競っていた。そうした進んだ文化都市ボローニャで少年モーツァルトは多くの刺激、影響を受けるわけである。
 今回のアルバムは、そのボローニャで18世紀に活躍していた作曲家の作品を集めたもの。先ほども話した、ボローニャではモーツァルトの師でもあった大音楽家ジョバンニ・バッティスタ・マルティーニ神父の作品も3つ収録。音楽史では名前をよく聴くのにその音楽を聴く機会は滅多にない。


CDX-70903
\2300→¥2090
ボローニャのモーツァルト〜様々な作曲家のオルガン作品集
 1-4.マルティーニ(1706-1784):ソナタ Op.2 No.9/
 5-9.モーツァルト(1756-1791):ピアノ・ソナタ第4 番変ホ長調 K282(オルガン編)/
 10-11.モデネージ:オッフェルトリウムのためのソナタ/
 12.プレディエリ(1678-1760):ソナタ/
 13-14.マルティーニ:ソナタ・ダ・オルガノ/
 15-16.マルティーニ:ソナタ Op.3 No.6/
 17.マッティ(1750-1825):ラルゴ/
 18-22.モーツァルト:幻想曲ハ短調 K475
ステファノ・モラルディ(オルガン)
 モーツァルトの時代。ボローニャは1770 年、14 歳のモーツァルトは初めてこの都市を訪れ、多大なる感銘を受けます。その時に出会ったのがジャン・バティスタ・マルティーニ神父で、彼は楽友協会のリーダーであり、イタリアきっての理論家、教育者でもありました。そんな偉い人がモーツァルトの演奏を褒め称えたというのです。モーツァルト父子の喜びはいかばかりだったことでしょう。このアルバムはそんな時代の音楽を一堂に集めました。モラルディの華麗なオルガンでお聴きください。(なお、モーツァルトのK282 が5 トラックあるのは、メヌエットを3 つのトラックに分けているからです)


マルティ−ニ神父の作品集
超特価!
ARS MUSICI 232381 1CD¥1700→¥1490

 CDがあまりないマルティーニ神父。あってもオルガン作品ばかりだったりするのだが、このアルバムは鍵盤作品、声楽作品がいい按配で並べられていて知られざる大家の魅力をたっぷり味あわさせてくれる。
 チェンバロ・ソナタの中にはちょっとチャーミングで素敵な曲もあったりします。意外。


ARS MUSICI
232381
¥1700→¥1490
ジョヴァンニ・バティスタ・マルティーニ(1706-1784):
 オルガン、チェンバロ、声楽のための作品集

  トッカータ (オルガンのための)
  幸いなるかな、その人は
  カンターテ・ドミノ(主にむかいて新しき歌をうたえ)
  チェンバロ・ソナタ第1〜6番
  正しき者の唇は知恵を語る
  ソナタ「聖体拝領後の祈願」よりアレグロ
  フルート・ソナタ
  神よ、御身の友は大いに
  20の創作作品集(抜粋)
N.デュヒター(Org)
オスカー・ミラーニ(Cemb)
フライブルク大聖堂聖歌隊




CALLIOPE



CAL1313
(国内盤)
\2800+税
ヴィヴァルディ:
 ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ 作品5(全4曲*)、
 リュートを伴うソナタと協奏曲
 (*同一曲集のトリオ・ソナタ2曲は除く)

 1.ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ヘ長調op.5-1 RV18
 2. ヴァイオリン、リュートと通奏低音のためのトリオ・ソナタ ト短調RV85
 3. ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ イ長調op.5-2 RV30
 4. ヴァイオリン、リュートと通奏低音のためのトリオ・ソナタ ハ長調RV82
 5. ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ 変ロ長調op.5-3 RV33
 6.リュート協奏曲 ニ長調 RV93
 7. ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ト短調op.5-4 RV35
マルコ・ペドローナ(vn)
マッシモ・マルケーゼ(アーチリュート)
グイダントゥス合奏団
 意外なまでに音盤が少ない、ヴィヴァルディの“盲点”—-歴史的奏法とイタリア最先端の演奏陣で録音機会に恵まれない「作品5」のソナタ集のあでやかな魅力を、たっぷりと!
 リュート協奏曲は“本来の姿”での室内編成演奏、珍しい「リュート+ヴァイオリン」のトリオも魅力!

 ファビオ・ビオンディの鮮烈な『四季』から早くも20 年以上の時は過ぎ、ヨーロッパでは2000 年前後からオペラ・シーンでの盛り上がりも火付け役になって、さらにはDeutsche Grammophon からも「マックス・リヒターによる再構成」なる『四季』の鮮烈アルバムが出てきたりと、古楽シーンなどにとても収まりきらないヴィヴァルディ熱はますます盛り上がりをみせつづけているところ...
 しかし、続々と未知の協奏曲や声楽曲が発掘されつつあるいま、そんなヴィヴァルディの作品にも意外な盲点がいくつかありまして。とくに印象的なのは、ヴィヴァルディ自身が弾きこなした楽器であるヴァイオリンが主役をとる小編成の室内楽作品(つまり、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタやトリオ・ソナタ)が、びっくりするくらい録音されてきていない...という事実!
 ものによっては、リコーダーやオーボエが活躍する室内協奏曲やソナタのほうが、よっぽど録音が見つかりやすいくらい...
 作曲家のデビュー作である「作品1」のトリオ・ソナタ集や「作品2」のソナタ集はどうにか輸入盤リリースが増えてきたものの、いまだになお盲点に甘んじつづけているのが、その後このヴェネツィアの“赤毛の司祭”が協奏曲集「調和の霊感」作品3で全ヨーロッパにまたがる成功をおさめた直後、1716 年頃に同じ出版社から刊行された、作品番号5の独奏ソナタ集—-全6曲からなるこのソナタ集はしかし、おそらく作品3や4の協奏曲集に含まれる独奏協奏曲のソロ・パートでヴァイオリンがみせる縦横無尽の超絶技巧のようなものがあまりなく、むしろローマの先達コレッリのソナタのような、均整を重んじる曲作りになっているうえ、そもそも「作品3」の売れ行きに目がくらんだ出版社がヴィヴァルディの承認なしに刊行したもの...との疑義も出されており、本当に日の目を見る機会がない曲集になっているのです。
 実際に聴いてみれば、それらを耳にしてこなかったのがどれほど勿体ないことだったか、すぐにわかるでしょう——そう、ヴィヴァルディの音楽性は(のちのタルティーニやパガニーニと同じく)離れ技的な超絶技巧だけでなく、イタリア人ならではの「うたごころ」においてもすぐれていたのであって、その艶やかな旋律美はどんな瞬間に聴いても、私たちの心をただちにヴェネツィアの運河の静謐な水面へ、南国の穏やかな夕暮れへ、つよく引き込まずにはおかないのです。
 現代楽器を使いながらバロック奏法を徹底的に究めるイタリア流儀の古楽演奏スタイルで、折々本職古楽系のリュート奏者なども交えながら、歴史的に確かな演奏スタイルでこれらの傑作の魅力を伝えてくれるのは、演奏会での痛快な盛り上がりでイタリア中を湧かせつづけるマルコ・ペドローナ&グイダントゥス合奏団。しかも折々、ラテン系古楽シーンで多忙な活躍を続けている手練のリュート&バロックギター奏者マッシモ・マルケーゼが主役格の立ち回りをみせるトリオ・ソナタも2曲、協奏曲も1曲あり、作品5からの4曲では通奏低音パートで活躍しているアーチリュート(大型リュート)の南国情緒もきわだつ曲目構成が好感度大。
 作品成立事情の解説(全訳付)も含め、注目度の高いアルバム内容なのです!

COO−RECORDS


COO-038
(国内盤)
\2800+税
悠久のペテル 〜ホルンのための小品集
 ロシアの音楽を中心に〜

  ミハイル・グリンカ(1804〜1857):①北方の星(A.ウーソフ編)
  ボリス・アニシモフ(1907〜1997):②詩曲
  アレクサンドル・スクリャービン(1872〜1915):③ロマンス
  ピョトル・チャイコフスキー(1840〜1893):
    ④ユモレスク(E.カルプーヒン編)
  ゲオルギー・サルニコフ(1923〜):⑤詩曲
  セルゲイ・ラフマニノフ(1873〜1943):⑥エレジー(A.ウーソフ編)
  アレクサンドル・ボロディン(1833〜1887):⑦セレナード
  ヴィタリー・ブヤノフスキー(1928〜1993):⑧狩風スケルツォ
  ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906〜1975)
   ⑨ポルカ(バレエ組曲「黄金時代」作品22より/古野淳編)
  セルゲイ・プロコフィエフ(1891〜1953)
   ⑩ロメオとジュリエットの別れ
    (バレエ組曲「ロメオとジュリエット」
     (ピアノのための10 の小品)Op.75 より/古野淳編)
  成田為三(1893〜1945):⑪浜辺の歌(外山雄三編)
  外山雄三(1931〜):⑫ホルンとピアノのためのファンタジー(2013 年委嘱作品)
  ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844〜1908)
   ⑬4本のホルンのための夜想曲
  アレクサンドル・グラズノフ(1865〜1936)
   ⑭夢想 作品24
古野 淳(ホルン)
②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑫⑭奥谷恭代(ピアノ)
①⑪奥田恭子(ハープ)
⑨⑩黒尾文恵(クラリネット)
⑬JAMS ホルン四重奏団
(古野 淳、大東 周、阿部 麿、木村 淳)
 ホルンとロシア、思わぬ相性。サンクトペテルブルクで研鑽を重ねた東京フィルの名手・古野がムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルの名匠ブヤノフスキーへの憧れをこめて綴るホルン近代名品のたおやかな魅力。ハープやピアノなど、アンサンブルも絶妙の多彩さべオーケストラの響きの支え役として美しい和音を響かせるホルンですが、単独で活躍するのは大管弦楽中のソロだけではありません。

 ナチュラルホルンの時代からサロン向けの歌曲などでもホルン独奏が加わる曲は意外に多かったのですが、室内楽の分野で大きな躍進をみせたのは19 世紀後半、ヴァルヴ機構付きの楽器が広く用いられるようになってからかもしれません。よく知られたサン=サーンスやシャブリエ、デュカスなどの小品をはじめフランス系の作品も数多くありますが、ホルン演奏に関して独自の伝統をもつロシアにも、ホルンのための逸品、あるいはホルン独奏用に編曲されて定着した名品などが数多くあったことを、東京フィルの名手・古野淳氏がしなやかな吹奏でじっくり教えてくれるのが、この最新録音——
 早くからムラヴィンスキー指揮のレニングラード・フィルで数々の名演を披露してきた名手ブヤノフスキーに憧れ、民主化直後に自らサンクトペテルブルクへ飛び、かの地の演奏伝統に学びながら数々の名曲を演奏、その味わいを肌身に沁みこませてきた氏がここで披露するのは、チャイコフスキーやグリンカなどロシア屈指の大家たちの小品、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチらの傑作バレエを彩る名旋律、あるいはグラズノフ、リムスキー=コルサコフ(ホルン四重奏のための夜想曲)、スクリャービン(管弦楽曲のほか、ピアノ以外の楽器を主役にした作品はおそらくこの「ロマンス」が唯一べ)の貴重なオリジナル・ホルン作品...とロシア屈指の大家たちの曲はもちろん、ブヤノフスキーが作曲家として残した逸品やアニシモフ、サルニコフらソ連時代の作曲家たちの名曲など、この楽器とロシアの結びつきを感じる傑作や美しい秘曲ぞろいべ「浜辺の歌」と外山雄三書下ろし新作など、かの地での故郷への郷愁を思い起こしての邦人作品の美しさも格別です。
 その味わいを絶妙に引き出すピアノ伴奏だけでなく、ロマン派初期を思わせるグリンカの名品はハープとの共演、バレエ作品の編曲ではクラリネットが登場、ホルン四重奏もあり...と、ホルンの魅力をきわだたせる多彩な演奏編成も魅力のひとつ。演奏楽器は名工房Ed.クルスペで20世紀半ばに作られたセミダブル(およびエンゲルベルト・シュミットのセミトリプルも一部使用)で、時代の息吹の引き立つ美音は優美な吹奏を得てふくよかに、心に沁みいる美しさ。室内楽的魅力あふれる1枚なのです。

FUGA LIBERA



MFUG598
(国内盤)
\2800+税
デュセック、ベートーヴェン、メンデルスゾーン
 〜19世紀のオリジナル楽器と、四つの傑作でたどる
  ピアノ音楽史 古典派からロマン派へ。〜

 ヤン・ラディスラフ・デュセック
  (本名ヴァーツラフ・ヤン・ドゥシーク 1760〜1812):
   ①ピアノ・ソナタ 嬰へ短調 op.61
    「プロイセン王子ルイ・フェルディナントの逝去に寄せる、
     器楽による哀歌」*
 ベートーヴェン(1770〜1827):
  ②七つのバガテルop.33*
  ③ピアノ・ソナタ 第32 番 op.111**
 メンデルスゾーン(1809〜1847):
  ④真面目な変奏曲 ニ短調 op.54**
オリガ・パシチェンコ(フォルテピアノ)
使用楽器:
ウィーンのドナート・シェフトース 1812 年製作オリジナル* /
ウィーンのコンラート・グラーフ1826 年製作オリジナル**
 2台の楽器は、どちらもベートーヴェン生前のウィーンの銘器...これぞ、オリジナルの響き!
 「ロシア・ピアニズム→古楽器」の系譜をひく、リュビモフの門下から、才人R.エガーのもとへ欧州古楽新世代は、ますます確かな適性でフォルテピアノを弾きこなす——発見の連続!

 欧州各国のシーン全体のあり方は、21 世紀の今や、前世紀とは確実に変わってきているようです。
 メジャーレーベルがスターを育て、オーケストラとレーベルとの契約ゆえ、大指揮者が自ら音楽監督をつとめるオーケストラで傑作を録音できない...とか、同じレーベルから別の演奏家が何かしらの全集録音を続けているところ、どんなに得意な曲目でも録音してもらえない...とか、そういった話はもう過去のこと。
 実力ある意識の高い演奏家のほうが自分のプロジェクトをどんどん売り込んで音盤制作シーンを活気づけている昨今、最もエキサイティングなヒントの宝庫は、演奏家のまわりにあるのかもしれません。
 さらに言うなら、シーンの変化は古楽器演奏への無駄な抵抗感が消えつつあるところにもうかがえるところ——大物演奏家たちが古楽器やピリオド解釈による演奏を怖がって忌避する...などという状況は世界的に見ても皆無になりつつあるようで、現代ピアノの牙城だったロシアやポーランドの重要なコンクールまわりのピアニストたちさえ、最近ではあくなき作品解釈の意識の高さから「ショパンやベートーヴェンの知っていた“当時のピアノ”」というのがどういうものか見極め、本来どおりの音使いでその魅力を明らかにしようと研鑽を積み、時にはバーゼルやデン・ハーグ、パリといった古楽器教育のメッカに留学、着実に実績をあげている人も少なくありません。
 本場のオリガ・パシチェンコも、まさにそうした新世代型のロシア人ピアニストのひとり——ちょっとYoutube など探してみるとわかると思うのですが、21 世紀に入ってからロシアのフォルテピアノ奏者は驚くほどの快進撃で西欧勢を圧倒しつつあるところ、このパシチェンコも同国随一の鬼才アレクセイ・リュビモフ(いわずとしれた「ネイガウス門下→古楽器演奏のパイオニア」の異才)に師事、さらにR.エガーやA.シュタイアー、M.ビルソンといった音盤界でも屈指の個性派才人たちについて腕を磨き、このとおり、デビュー・アルバムは19 世紀オリジナルの銘器2台を使い分けての、古典派からロマン派にいたるピアノ音楽の変化をたどる興味深いプログラムにぱもちろん、ここでのポイントはベートーヴェンの作風変化が軸になっていること。
 初期のバガテルは、古典派ソナタの通念をくつがえすデュセックの「哀歌」(フランス革命期、パリとロンドンをまたにかけて活躍した巨匠ぱ)と同じ1812年製楽器(モーツァルトも愛した名工A.ヴァルターの親族によるもの)で、チェンバロ前提の18世紀風音作りの時代には考えにくかったであろう、まろやかな(“月光”ソナタにも通じる?)表現が鍵盤芸術の世界にもたらされはじめた時代のみずみずしい息吹を、ありありと“いま”に甦らせる名演にぱそして最後のソナタはもちろん、ベートーヴェンが亡くなる前まで所有していた楽器の造り手、C.グラーフの銘器で——メンデルスゾーンの変奏曲もその楽器で、当時のままの魅力とともに立ち現れ、プログラム前半との楽音の対比も味わえる仕組み。
 解説充実日本語訳付、ピアノ音楽の真相へ、さらに一歩踏み込める名演です!

GRAMOLA


GRML98977
(国内盤)
\2800+税
ヨハンネス・ブラームス(1833〜1897):
 1. ピアノ三重奏曲第2番 ハ長調op.87(1883)
クララ・シューマン(1819〜1896)
 2. ピアノ三重奏曲 ト短調op.17(1846)
エックナー・トリオ ゲオルク・エックナー(vn)
フローリアン・エックナー(vc)
クリストフ・エックナー(p)
 同時代人との交流など本人の人物像もさることながら、一人の作曲家としてのクララ・シューマンと仮借なく向き合わせてくれるのは、こうした性差を越えての本格録音なのかもしれません。
 ブラームス後期の充実作の演奏もみごとなもの——ウィーン最先端のトリオの至芸、要注目!
 自ら稀代のピアニストとして活躍するかたわら、時代に先駆けた作風をみせる夫ローベルト・シューマンのよき理解者として、その多くの作品を演奏・披露してきただけでなく、自身も作曲家として作品を残し、同時代の音楽家たちとの交流も深かった——
 クララ・シューマンをめぐる物語は、夫ローベルトとの心の通じあいだけでなく、夫がその才能をいちはやく見抜いた若きブラームスとの長年にわたる交流もあり、何かと彼女自身に光があたる機会が多いようです。最近でも2009 年にヘルマ・サンダース監督映画『クララ・シューマン 愛の協奏曲』が日本公開されたほか、今年初頭には宝塚歌劇団の『翼ある人びと——ブラームスとクララ・シューマン』でもとりあげられるなど、そうした傾向はなお続いているようですが、やはり彼女自身がどんな音楽を綴る人だったのか、その点がもっと知られても良いように思うのです。
 それも、できれば女性か男性かという性差をぬきにして、可能なかぎり公平な舞台で...その意味で、男性の演奏家たちが深い作品解釈のもと録音までしてみせるクララ・シューマン作品の演奏には、それだけで耳を傾ける価値があるのではないでしょうか。それもとくに、その演奏結果が比類なく充実しているとなれば...!
 現在はcpo レーベルで再発売されているオランダの俊才ヨゼフ・ド・ベーンハウヴェルのCD3枚にわたるピアノ曲録音は、その意味で大いに重要な名録音だと思うのですが、シューマン夫妻にとっても独特の重要性をもつ音楽都市ウィーン出身のエックナー兄弟によるこのピアノ三重奏曲の最新録音は(やはりウィーンの作曲家である)ブラームスの壮大な第2三重奏曲をあえて併録することで、この後代の大家の感性にクララがどれほど影響を与えたか、についても改めて深く考えるきっかけを与えてくれるだけでなく、作曲家の人物像に左右されることなく、作品そのものの魅力とじっくり対峙できる、その確かな演奏が嬉しいところ。
 両者にまつわる話題も含め、作品について詳述されている解説(全訳付)も読みごたえがあるので、作品成立の背景(つまり、これはクララ・シューマンとの関係において、ブラームスの第2三重奏曲についても意味のあることなのですが)にもより理解を深められそうです。
 ブラームス作品の長大さをあざやかにさばき、各パートの音の流れが明確に浮かび上がる音運びで、兄弟ならではの阿吽の呼吸あればこそ、と思われる一体感をもって、交響曲第3番や第4番、やはりヴァイオリンとチェロが活躍する二重協奏曲などと同時期に書かれたこの後期の大作をじっくり聴かせてくれる演奏もまた、傾聴に値する充実度!
 ウィーン市街の只中に拠点をおくGramola レーベルは、数ある新譜群のなかにこういう逸品が混じっているので全く目が離せません。どうぞ、お見逃しなく!
 

GRML98984
(国内盤)
\2800+税
ベルク、ブラームス、ベートーヴェン、バティック
 〜ウィーンの作曲家たち、ピアニストたち 伝統と、新機軸と〜

 アルバン・ベルク(1885〜1935):
  ①ピアノ・ソナタ 作品1
 ローラント・バティック(1961〜):
  ②パトリツィアのためのワルツ(ワルツ・フォー・パトリツィア)
 ブラームス(1833〜1897):
  ③四つのピアノ曲 作品119
 ベートーヴェン(17701827):
  ④ピアノ・ソナタ 第32 番 ハ短調 作品111
ユウコ・バティック(ピアノ)
 ウィーンの名手ローラント・バティックのかたわら、日本の名手が鮮やかに織り上げるプログラム“音楽の都ウィーン”に息づく伝統の意外な側面を描き出す“B”の作曲家たちの至芸。
 隠れファンも多いベルクの名品やブラームス晩年の逸品、楽聖最後のソナタ、そしてバティック...!
 ヨーロッパに冠たる音楽都市ウィーンが、早くからピアノという楽器の歴史とわかちがたく結びつけられた場所でありつづけてきたことは、皆様もご存知の通り。古くはヴァルターやシュトライヒャーやグラーフ、そしてベーゼンドルファー...と折々に超一流のピアノ工房・ピアノメーカーを輩出するかたわら、彼らの楽器に刺激を受けた作曲家たち——ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ヴェーバー、ブラームス...——が続々、前の時代にはなかったようなピアノ曲を世に送り出し、この楽器の流行と普及の波に乗りながら、それぞれの存在感をひときわ強く欧州人たちの心に刻みつけてきたのでした。それだけではありません——巨匠・名手・名工たちのひしめきあう場所に、意欲あふれる新世代の天才たちも続々集まってきたからこそ、その水準の高さが常に保たれつづけてきたのです。
 プラハやベルリンでも活躍したグリュンフェルト、マーラーの師エプシュタイン、あるいはリリー・クラウスやイングリット・ヘブラー、“三羽烏”グルダにデームス、バドゥラ=スコダ、そして20 世紀末以来の新たな巨匠たち、ローラント・バティックやシュテファン・ヴラダー...しかし彼らウィーンのピアニストたちは、時として自ら作曲家でもありました。
 モーツァルトやベートーヴェンがそうであったように、19 世紀の才人らしく演奏時の即興的なセンスにもすぐれていたグリュンフェルトは、ウィンナワルツの傑作に基づくパラフレーズなど自ら多くの楽譜を世に送り出していますし、フリードリヒ・グルダやイェルク・デームスも、それぞれ個性ある作曲家としての顔を持っています。そうした系譜に連なるひとりが、日本でも稀代のモーツァルト解釈者として高い評価を博しているローラント・バティック。
 Camerata レーベルからリリースされてきたソナタ全曲録音への賞賛はもとより、日本での教育活動を通じて数々の門弟を育ててきた名教師でもあるこの名手、実はパートナー(連弾などのデュオ・パートナーでもあります)のユウコ・バティック氏もまたユニークな才人だったことが、Gramola レーベルからリリースされたこの1枚で明らかになりました。個性的な選曲にもその片鱗は窺えるかと思いますが、そこで演奏されてゆくのは、確かに「ウィーンのピアノ芸術」にほかならないのに、それぞれの意味で決してウィーンにとどまらない、音楽史に大きな足跡を残した独特の作品が続々——ブラームス晩年の、極限までむだをそぎ落としたようなピアノ芸術の至芸、ベートーヴェンが最後に手がけたソナタの壮大な内宇宙(プログラムの最後であの優美な調べにたどりついたときの、そしてその深い世界がどこまでも追及されてゆくときの、なんという充実感...)、あるいはやがて十二音技法へと向かう新ウィーン楽派の異才ベルクが残した、隠れファンも多い異色のソナタの形式感、浮遊感。そして、19 世紀以来ウィーンの代名詞である、つかのまの遊興に心を預けるための音楽、ワルツ...それを書いたのはほかでもない、現代ウィーン屈指のピアニスト=作曲家、彼女のパートナーたるローラント・バティックその人。みな、伝統の末にありながらそれぞれに未来を見据えていた作品の魅力を、細やかなピアニズムと美しいスケール感であざやかに描き出してゆくピアニズム、よく聴き究めてゆきたいものです。
 


GRML99038
(国内盤)
\2800+税
モーツァルト(1756〜1791):
 1. ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ヘ長調 KV377
 2. ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 変ロ長調KV454
 3. ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調 KV301
ダニエル・アウナー(ヴァイオリン)
ロビン・グリーン(ピアノ)
 ヴァイオリンは、クライスラーの小品を艶やかに弾きこなす、生粋のウィーンっ子...ピアニストは英国から来た、確かな存在感をしめす室内楽の達人。
 21世紀のいま、現代楽器で聴く絶品モーツァルト、しみじみ沁みわたる弦音とピアニズム...中期・後期、選曲もバランスよく。モーツァルトがフリーランスの音楽家として活躍し、忘れられ、死んでいった大都市ウィーン——
 そしてその後ふたたびこの作曲家を見出し、愛し続けている“音楽の都”ウィーン。そこはいまも活気あふれる音楽生活が営まれ、世界各地からすぐれた名手・巨匠たち、あるいは名手・巨匠になろうと志す腕前確かな若手演奏家たちが集まってくる場所でもあり——
 このとおり、ウィーンならではの演奏伝統が息づくなか、他の土地ではぐくんできた感性をもって、伝統とのあいだに自分なりの対話をつづけてゆく俊才たちも数多く。
 本盤では生粋のウィーン出身者であるヴァイオリンのダニエル・アウナーが、ああウィーン!と頬がほころぶような美しい弦音で綴るモーツァルトの調べ(さすが、クライスラーの小品などを絶妙のセンスで弾きこなす人ならではの高雅さ!)に、英国をおもなフィールドに数多の名手・巨匠たちと共演を重ねてきた室内楽ピアニストのロビン・グリーンが対峙、穏やかに耳なじみのよいタッチでありながら一本筋の通った、気持ちの良いピアニズムで対話をつづけてゆきます。
 ご存知の通り、これらの二重奏ソナタはみな今でこそ「ヴァイオリン・ソナタ」と呼ばれることが多いものの、本来はピアニストの方が主人公でヴァイオリンはあくまで“添え物”という立場——楽譜にも「ヴァイオリンの伴奏つきチェンバロ・ソナタ」(=当時の言い方では“チェンバロ”はピアノも含む“鍵盤楽器全般”の意)と書いてあるくらいですから、ピアニストの存在感なくしては希薄な音楽になってしまうところ。
 しかも当時のピアノとは違う現代のピアノで弾くとなると、あまりに主役的にガンガン鳴らしたのでは当然ながらきれいな対話にはなってくれません。
 ロビン・グリーンは常日頃アントワーヌ・フランソワーズというピアニストと連弾ユニットで活躍している人であるうえ、ロンドンでもクラリネットのマイクル・コリンズやゴルダン・ニコリッチ(Alpha レーベルのル・サージュによるシューマン室内楽全集でも活躍している大物!)といった名手たちと共演を重ねており、そうした室内楽奏者としての十全な素養をもって、確かな信頼でむすびついたウィーンのヴァイオリニストとのモーツァルト録音に臨んだ...という次第。
 他方、ダニエル・アウナーはすでに故郷ウィーンの中心に本拠をかまえるGramola レーベルでクライスラーやサラサーテなどの小品を集めた、まさにウィーンの名手クライスラーを彷彿とさせる惚れ惚れするようなアルバムをリリースしており、その流れで登場した「生粋のウィーン流儀のモーツァルト」は明らかに、古楽器演奏とはかなり違う、そして他の地域の現代楽器奏者たちとも一線を画した、じっくり聴き究めたくなる魅力を秘めたものとなっています。玄人筋にこそ聴いていただきたい魅力、ご注目を!
 


GRML99044
(国内盤)
\2800+税
ブルックナー(1824〜1896):
 交響曲第3番 ニ短調 WAB 103
  〜1873 年第1稿による演奏〜
レミ・バロー指揮
ザンクトフローリアン・アルトモンテ管弦楽団
 整然として端正、おどろくべき鑑賞体験!近年発見された資料にもとづき、ブルックナー自身の企図を忠実に反映させるかたちで演奏陣がたどりついた、驚異の遅さがもたらす圧倒的感動。テンポ設定に確かな説得力を与える、本場ザンクトフローリアンの才人たちによる作品愛!
 ブルックナーの交響曲の新録音といっても、確かに世の中にはこれまでに数多くの有名・無名の傑作盤が送り出されてきているわけですし、日本のクラシック・ファンにはこの作曲家のことなら何でもご存知の方が(おそらく世界で一番?)多いのですから、そうそう簡単に注目を集める新譜が出てくるものでもないだろう...と思いますが、この「第3番」の初稿版による演奏はそんな現状のなかでもちょっと際立った異色名演と言えそうです。
 巨星チェリビダッケ門下に学んだ(!)レミ・バローという異才フランス人指揮者が、ブルックナーとゆかりの深い聖フローリアン修道院で1996 年いらい行われている夏季ブルックナー週間に昨年出演したさいのライヴ録音なのですが、なにしろそういう由緒ある音楽祭でブルックナーの交響曲をとりあげるというのに、フランスから来た指揮者が話題性もなしにおめおめやってくるわけがない——
 演奏機会が確かに少ないものの、ブルックナーが本格的に交響曲作曲家として歩み出すうえでの重要なステップのひとつ、交響曲第3番の(作曲家自身は後年あまり気に入らなかったという)“原型”ともいえる初稿版を引っ提げてきた...というくらいでは、耳の肥えた本場・地元のブルックナー・ファンが納得するわけがない、演奏会評もありきたりな地方音楽祭のひとこまくらいにしか扱ってもらえないだろう...という“読み”がバローにあったかは何とも言えませんが、彼がここであらためて提案してみせたのは「テンポ」。作品解釈のうえで音楽史的検証ということが叫ばれるようになって久しい今、すでにノリントンによる「第3番」の驚くべき“快速”古楽器解釈さえ20 年近く前のものになったところ、レミ・バローはなんと——まさしく彼の師匠チェリビダッケの底知れぬ風格を思わせるような——驚異の「遅さ」でこの作品の初版を演奏してみせたのです!それは決して、ロマン主義的な巨匠的・主観的解釈からそうなったのではなく、ブルックナー自身の証言が論拠としてある、れっきとした歴史的アプローチであり、作品そのものを見据えようとする試みであり(詳細は添付の解説日本語訳参照)。
 そして何より驚かされるのは、演奏時間全89 分(!)もの遅いアプローチにもかかわらず、その演奏に不自然さがいっさい感じられないこと——ひたひたと忍び寄るような、あのブルックナー特有の繰り返しを静かに丁寧に心で反芻してゆくような展開が、どれほど遅くともまるで作為的に感じられない、学識ぶったところも、勿体をつけようという不自然さもなく、ただひたすら音楽的に自然に続いてゆく——まさにこういう曲だったか!と強く思わされる、驚異の解釈なのです!ザンクトフローリアンに拠点を置くオーケストラの、作曲者愛あふれる本気の一体感も実にみごと!指揮者の精妙な作品解釈を幾倍にも増幅させるその演奏は、日本のブルックナー・ファンにもぜひ体感していただきたい内容です。
 本場から届く新録音たるもの、こうあっていただきたいもの——
 

GRML99034
(国内盤)
\2800+税
ヤーヴォルカイ弟/グリーグ、ブラームス:チェロとピアノのためのソナタ
 ブラームス(1833〜1897):
  1.チェロとピアノのためのソナタ 第1番ホ短調 op.38
 グリーグ(1843〜1907):
  2.チェロとピアノのためのソナタ イ短調 op.36
アダム・ヤーヴォルカイ(チェロ)
クララ・ビールマス(ピアノ)
 北欧情緒をさりげなくしのばせた、ドイツ流儀の傑作ソナタ——グリーグの思わぬ傑作をウィーンに来て間もなくのブラームスが書き上げた、あのみごとなチェロ・ソナタと対置させて。
 ひたすらしなやかに、そして深く——来日公演も超・人気のヤーヴォルカイ“弟”、躍進す!

 ピアノではバドゥラ=スコダやイェルク・デームス、ヴァイオリンのヴェルナー・ヒンク、ファゴットと指揮のミラン・トゥルコヴィチ...と、ウィーン楽壇には押しも押されぬ大ヴェテランがいつまでも君臨しているかと思いきや、最前線で旺盛な活躍をみせているのはやはり、より若い世代の名手たち——それもとくに、20 代前後の若手にも活躍の場はどんどん与えられ、「音楽の都」の名に恥じない腕を競っているからこそ、この町の音楽伝統は決して途絶えず、色褪せないのでしょう。
 そうした若手世代の演奏家たちは必ずしもオーストリア人だけではなく、なかにはヨーロッパ中、世界中からウィーンに勉強しにきた演奏家たちが、そのままウィーンになじみ、ウィーンも彼らを喜んで迎え入れる...というパターンも少なくないようです(こうした懐の深さもまた、昔からのウィーン楽壇の特徴かもしれません——ボン出身のベートーヴェン、ハンブルク出身のブラームス、あるいはフランス人アントルモン、フランス系アメリカ人マゼール...)。
 オランダから来たピアニストのクララ・ビールマス、そしてハンガリーから兄シャーンドルとともにウィーンにやってきて、2008 年にはオーストリア銀行が指名する「今年の最有力若手プレイヤー」に兄と一緒に選ばれたチェロのアダム・ヤーヴォルカイもまた、そうしたウィーンの活況を支えている最前線の演奏家のひとり!
 ここ数年は定期的に来日公演も行っており(6月も兄弟デュオで大好評を博し、ワンコインコンサートでもCD が売り切れる勢い!)、ステージ栄えのするパフォーマンスは今後も間違いなく話題を呼びつづけることと思われますが、今回のチェロ・アルバムはそうした派手さとは打って変わっての、王道そのもののソナタを深々と掘り下げた、どこまでも聴き深めつづけたくなる正統派の頼もしさ!冒頭から雄大なスケール感とただならぬ深みを感じさせるブラームス解釈もさることながら、注目したいのは意外に新録音がそう多くは出てこないグリーグのチェロ・ソナタ——『ピアノ協奏曲』や『ペール・ギュント』などで大成功をおさめ、ノルウェーの民俗文化を音楽の世界にあざやかに織り込んでみせた巨匠と目されるようになった齢40のグリーグが、若い頃にライプツィヒで学んだドイツ語圏の古典派ソナタの伝統をふまえ、そうした自らのルーツともいうべき民俗音楽のエッセンスをそこにどう組み合わせてゆくか...?という新機軸をねらったこの意欲作を、ヤーヴォルカイとビールマスの二人はぴたりと息の合った精緻なデュオで縦横無尽、民俗的リズムもあざやかに、至高の完成度を誇る解釈で仕上げてみせています。
 解説(全訳付)で「この作品がいま、どれほどノルウェー的に聞こえる必要があるか?」と思わぬ切り口の問いが投げかけられているとおり、彼らの演奏はグリーグの世界的・普遍的才覚を圧倒的に印象づけてやまない充実したものとなっており、真正面から圧巻の解釈で弾きおおせてみせたブラームスとのカップリングなのもなるほど、と頷ける内容。
 価値ある新録音、見過ごせません!

INDESENS!


INDE063
(国内盤)
\2800+税
パリのサクソフォン 〜クラシックか、それとも...?〜
 ギヨーム・コヌソン(1970〜):
  ①テクノ・パラード(2s-sx, p)
 グレアム・フィットキン(1963〜):
  ②ハード・フェアリー(s-sx, 録音トラック)
 マウリシオ・カーゲル(1931〜2008):
  ③リード〜『Rrrrr…五つの小品』より(a-sx)
 長生 淳(1964〜):
  ④パガニーニ・ロスト(2a-sx, p)
 フィリップ・ガイス(1961〜):
  ⑤サックス・ヒーロー(a-sx)
 ジョゼフ・ホロヴィッツ(1926〜):
  ⑥コン・ブリオ〜『ソナチネ』より(s-sx, p)
 クロード・ボリング(1930〜):
  ⑦よどみなく〜『ジャズ組曲』より(s-sx, p)
 ティアリー・エスケシュ(1965〜):
  ⑧朝闇の歌(s-sx, sx-orc)
 ドィミトリ・チェスノコフ(1982〜):
  ⑨トッカータ〜『ソナタ』より(s-sx, p)
 吉松 隆(1953〜):
  ⑩ラン・バード〜『ファジイバード・ソナタ』より
  (a-sx, p)
 ジャン・フランセ(1912〜1997):
  ⑪パンビッシュとメレンゲ〜
   『五つのエキゾチックな舞曲』より(a-sx, p)
 クロード・ドビュッシー(1862〜1918);
  ⑫狂詩曲(a-sx, p)
 チャーリー・パーカー(1920〜1955):
  ⑬マイ・リトル・スウェード・シューズ(a-sx, p)
ニコラ・プロスト(ソプラノ&アルト・サクソフォン)
①アンヌ・ルカプラン(s-sx2)
④ジャン=イヴ・フルモー(a-sx2)
①④⑥⑦⑨馬場みさき(p)
⑩−⑬ローラン・ワグシャル(p)
⑧エリック・オービエ指揮
パリ・サクソフォン・アンサンブル
 「管楽器の国」フランス最前線!スーパープレイヤーが奏でるソプラノ&アルトの流麗さ。
 いわゆる現代音楽さえ何ら怖くない、ひたすらスタイリッシュに、センスあふれる洒脱なブロウ。
 アートでもあり、そして何より「音楽」であり。
 ドビュッシーに吉松 隆に...まずはご一聴を♪

 フランスが世界に冠たる管楽器王国なのは今に始まったことではありませんが、こういうアルバムがひょいっと出てくるとなるとやはり「そもそも基本的なレベルが違う!」と舌を巻かずにはおれません。
 そもそもこの国、どのジャンルの管楽器奏者でも世界的な名手が続々とあらわれるうえ、隣国ドイツや英国、アメリカに渡って活躍した人々も多々。フルートのランパル、ラリュー、パユ、ガロワ、リュカ、オーボエのピエルロ、ブールグ、ガテ、バソンのアラール、ファゴットでさえトレーネル...そうした活況は「アメリカの」「ジャズの」楽器としても世界で愛されているサクソフォンにおいても、まったく変わることがありません。
 佐渡裕指揮コンセール・ラムルー管のサクソフォン奏者で、トゥルーズ・カピトゥール管などでも活躍するニコラ・プロストはここで、意外にもソプラノとアルトばかりを使い、ドビュッシーの傑作「狂詩曲」に始まり、フランセをへてコヌソン、エスケシュら存命中の作曲家たちにいたる、聴き手を絶対に排除しない、確実に耳になじむクラシカルな作風を忘れないフランス近代系の作曲家たちの系譜をあざやかにたどりながら、あるときはウクライナ系の作曲家チェスノコフ、あるいはアルゼンチンの名匠マウリシオ・カーゲルら注目すべき作風の異才たちの作品もさわりつつ、J.ホロヴィッツ、フィットキンなど英語圏の作曲家たちの名品、世界クラスのセンスの良さをみせる長生 淳や吉松 隆のすでに定番になりつつある名曲、そして〆には偉大なジャズのレジェンダリー、チャーリー・パーカーの素敵なメロディでアルバムを閉じる...と、実にハイセンスなフランス管楽器サウンドのひとときを演出するプログラムを提案してくれています。
 ところどころ2本サックス曲があったり、無伴奏曲があったり、はたまたトランペットの巨匠エリック・オービエが振る凄腕サクソフォン・アンサンブルが登場したり…超絶技巧なパッセージをまるでこともなげに吹きこなしてしまう、そのうえでどこまで芸達者に、深みある音を「歌い」「語れる」か?!
 

INDE062
(国内盤)
\2800+税
フランス近代の傑作フルート作品集
 〜ボーナストラック付・増補版〜

 ガブリエル・フォーレ(1845〜1924):
  ①フルートとピアノのための幻想曲 作品79
 クロード・ドビュッシー(1862〜1918):
  ②シランクス(無伴奏フルートのための)
  ③「牧神の午後」への前奏曲
   (フルートとピアノ/ギュスターヴ・サマズイユ編)
 シャルル=マリー・ヴィドール(1844〜1937):
  ④フルートとピアノのための組曲 作品34
 フランシス・プーランク(1899〜1963):
  ⑤フルートとピアノのためのソナタ
 フィリップ・ゴベール(1879〜1941):
  ⑥幻想曲 〜フルートとピアノのための
 オリヴィエ・メシアン(1908〜1992):⑦黒つぐみ
 アンドレ・ジョリヴェ(1905〜74):⑧リノスの歌
 ジェオルジェ・エネスク(1881〜1955):
  ⑨フルートとピアノのためのカンタービレとプレスト*
ヴァンサン・リュカ(fl)
エマニュエル・シュトロッセ(p)
クラウディア・バーラ(p)*
 無伴奏作品集でますます評価を高めつつあるパリ管の名手、ヴァンサン・リュカ——ピアノに稀代の俊才シュトロッセを迎えての室内楽集、無念のプレス切れから増補&新装丁で再登場!あざやかなピアニズム、玄妙かつ濃密な「管の国」最前線の妙技...
 エスプリを感じる1枚です。

 「管楽器の国」フランスの名門パリ管弦楽団でソロ・フルート奏者をつとめ、数々の協奏曲はもちろん、名指揮者たちが振る「『牧神の午後』 への前奏曲」の冒頭などで艶やかなソロを受け持つ俊才ヴァンサン・リュカは、おなじみIndesens!レーベルから昨今すばらしい無伴奏曲集(INDE057)をリリース、『レコード芸術』特選に輝いたのをはじめ、日本でもあらためて大好評をもって迎えられているところ。
 来日経験も少なくないところ、フランス派最前線の名手ますます存在感を強めつつあります。
 そんな折、残念ながらIndesens!で制作していたフランス近代作品集が、少し前にあえなくプレス切れ...これはもったいない話!と思っておりましたところ、この名盤をレーベル主宰者がいつまでも入手不可にしておくはずもなく。このたびジャケットも一新・Digipack 仕様になり(再版以降はジュエルケースになる可能性もありつつ)、さらに新たに1曲、当初収録されていなかったエネスクの充実作(エネスク作品集(INDE036)からの再録)も末尾に収録しての、より充実したヴァージョンになって戻ってきました(品番・バーコードが変更になり内容にも若干の変更があるため「新譜」としてご紹介しております)!このアルバムの素晴しいところは、それなりに録音物が出回っているようでいて、意外にフランス人の名手の演奏が見つかりにくい曲も含め、フランス近代の、巨匠たちがフルートという楽器の可能性に最も心奪われていた時代の傑作を、非常に的確に集めてくれていること——
 自らフルートの巨匠だったゴベールの名曲「幻想曲」やサン=サーンス、フォーレらの同時代人ヴィドールの組曲、プーランクのソナタやメシアンの「黒つぐみ」など現代のスタンダード系、そしてきわめつけはドビュッシーの「シランクス」と、20 世紀初頭の名匠ギュスターヴ・サマズイユによってピアノ+フルート独奏(!)に編み替えられた「『牧神の午後』への前奏曲」...フランス近代音楽の新境地の幕開けを飾る象徴的なこの曲が、冒頭のあの玄妙なフルート独奏にどれほど大きく依拠した作品だったのか、この名録音を聴けばよくわかることでしょう。
 解説は増補されたエネスク作品(これもかなりの充実作...オーケストレーションの達人は、たいていこのとおり管楽器の扱いに長けているものなのですね!)の部分もきちんと補い訳出。
 フランスのフルート楽派というものの活躍を知るうえで、この1枚は今やまず外せない名盤といってよいと思います。
 


INDE061
(国内盤)
\2800+税
フランス19世紀末、ピッコロのための音楽
 〜ベル=エポック期のパリで ジュナン、ダマレ、マイユール〜

 ウジェーヌ・ダマレ(1840〜1919):
  ①白つぐみ op.161 ②鬼火 op.378
  ③ピッコロのための奇想曲 op.174
  ④酔狂な女(ラ・カプリシューズ)op.270
  ⑤ピッコロ・ポルカ op.157
  ⑥つむじ風 op.212 ⑦キジバト op.119
  ⑧タランテッラ op.391
 ポール・アグリコル・ジュナン(1832〜1903):
  ⑨「雨だ、雨だよ、羊飼いのお嬢さん」による幻想曲
  ⑩ヴェルディの歌劇『仮面舞踏会』による幻想曲
 レオン=ルイ・マイユール(1837〜1894):
  ⑪鳥の巣〜2本のピッコロのための変奏曲*
ジャン=ルイ・ボーマディエ(ピッコロ)
ジャン・ケルネール(ピアノ)
マクサンス・ラリュー(第2 ピッコロ)*
 ピッコロこそ、19世紀末の華やぎを象徴する楽器だった!マネの『笛吹きの少年』をジャケットに時代の息吹を感じさせる、さながらオッフェンバックやガンヌ、ワルトトイフェルを思わせるような軽快な調べと、一抹のロマン。ピッコロの大御所ボーマディエによる名盤、ついに国内流通!

 時代はフランス19 世紀末—-ドイツとの戦争に負けたフランスで、サン=サーンスやフォーレが「フランスならではの音楽を」とフランス国民音楽協会を発足させ、巷ではワーグナーの音楽が日増しに理解されるようになってゆくかたわら、フランクの門弟たちや若きドビュッシーが新しい響きを模索していた時代...という見方はあくまで、世界中にドイツ発の音楽史がしっかり根付いた20 世紀以降の目線で、19 世紀の「音楽だけ」をふりかえったときの語り方にほかなりません。たしかに19 世紀末にはフランスでも“芸術音楽”とよぶべきものが注目されはじめ、オーケストラ音楽や室内楽の演奏会など「オペラでもない、教会の祈りでもない、ましてや舞踏会や軍楽とも関係ない」音楽を楽しむ人が増えてきたのは事実——
 しかし、それはあくまで限られた音楽通・芸術愛好家たちのあいだでの話。巷に音楽を提供していたのはむしろ、この時代に続々と結成され、すぐれた名演によって“管楽器の王国”フランスの名声をますます高めつつあった吹奏楽団(やブラスバンド)だったのではないでしょうか?
 コルネットの名手アーバン(アルバン)が指揮する吹奏楽団でピッコロを吹いていたウジェーヌ・ダマレの作品を中心に、ここに集められているのは、そうした19 世紀末のフランス都市生活の華やぎをありありと伝えてくれる、ピッコロのために書かれた名曲の数々!ピッコロは町中や屋外などでも音が遠くまで届きやすいため、公共の場に音楽を供する楽団では必ず主役に近い活躍をみせていたのだそうで、この楽器で驚くほど多彩な音世界がこの時代に追求されていたことが、本盤を聴けばあらためて理解されることでしょう。
 超絶技巧の名曲もあれば、高い音域ならではの色彩感をあざやかに使いこなした小品も多く、しなやかな美音はヴォリュームを下げ気味にして聴いていても独特の魅力があり、折にふれ聴き込んでしまう...吹き手は20 世紀以来、“管楽器の王国”フランスのピッコロの第一人者として活躍してきた名手ジャン=ルイ・ボーマディエ!パリ管のソリストたちの名盤を続々と出しているIndesens!レーベルからの発売ですが、もとは(2年前にIndesens!のオーナーが買い取った)Calliope でLP時代(1978〜80 年)に録音され、長くピッコロの名盤として親しまれてきていたアルバムのひとつ(解説にはボーマディエの躍進に寄せられた名匠ランパルのコメントも!)——
 解説日本語訳つきの国内流通網に乗るのはおそらくこれが初めてではないでしょうか?ピッコロやフランス音楽への理解がひとしお深まる逸品、ご注目を!
 


INDE059
(国内盤・2枚組)
\4300+税
ゴベール:フルートとピアノのための主要作品全集
フィリップ・ゴベール(1879〜1941):
《CD I》
 ①フルートとピアノのための組曲(1921)
 ②子守唄(1907)③水の上で(1910)
 ④2枚のスケッチ(1914)⑤マドリガル(1908)
 ⑥シシリエンヌ(1914)
 ⑦ギリシャ風ディヴェルティスマン 〜
  2本のフルートとピアノのための*(1909)
 ⑧ロマンス(ルデュク社刊)
 ⑨ロマンス(エノック社刊/1908)
 ⑩夜想曲とアレグロ・スケルツァンド(1906)
 ⑪幻想曲(1912)⑫バラード(1927)
《CD II》
 ①フルートとピアノのためのソナタ 第1番(1917)
 ②フルートとピアノのためのソナタ 第2番(1924)
 ③フルートとピアノのためのソナタ 第3番(1933)
 ④フルートとピアノのためのソナチネ(1937)
  * バスティヨン・プラ(第2フルート)
ヴァンサン・リュカ(フルート)
ローラン・ヴァグシャル(ピアノ)
 フランス・フルート楽派の大立者...といいつつ、本場フランスのプレイヤーが真正面からその魅力を全面的に解き明かしてくれる2枚組というのは、意外にもめったにない僥倖!
 躍進めざましいパリ管弦楽団の名匠リュカ、俊才ヴァグシャルと、濃密なフルートを聴かせます。

 ラヴェルより4歳年下で、亡くなったのもちょうどラヴェルの4年後。1900〜30 年代が活躍のメインフィールドで、つまり他にはフランス六人組やラフマニノフ、ファリャ、コルンゴルト...といった作曲家たちと同じ時代を生きた人——稀代のフルート奏者として知られ、フランス音楽院管弦楽団や「管楽器のための室内楽協会」の大立者として、指揮活動でも確かな足跡を残したフィリップ・ゴベールは、同時にフルートや管弦楽のためのさまざまな作品を書いた作曲家としても知られています。
 フルート奏者たちにとってのハノンかバイエルか、というような練習曲集の書き手ということもあって、アマチュア演奏家のあいだでもよく知られ、とにかくフランス近代ど真ん中の実にセンス抜群&ロマンティック&繊細な作品を数多く書いているのですが、ここ10 年ほどの間に、その魅力はいつしかCD コレクターたちのあいだにもすっかり定着してきた感があります。オーケストラ音楽があれほど色彩感あざやかに発展したフランス近代で、ましてや“管楽器の王国”たるフランスで、管楽器のための室内楽に名品ができなかったわけがない!と思いきや、巷には意外とフランス六人組(というか、事実上プーランクのみ)や多作家フランセのものがちらほら...という程度なところ、近代式のフルートの魅力を誰よりもよく知るゴベールの作品はフルート奏者たちも比較的熱心にとりあげるため、徐々に音盤も充実してきたためでしょう(たとえばオーボエやバソンには似た現象を呼びさます単体の作曲家がいるわけではないところ、これはフルートとゴベールに固有な幸福な現象かもしれません)。
 しかし実のところ、フランスならではのエスプリが何よりも問われる近代ものであるにもかかわらず、意外にフランス人の演奏家が正面きってとりあげることがなく、外国人たちの名演に頼らざるを得ないのも、音盤面でのゴベール事情...という状況をみごとに覆す新譜を送り届けてくれたフランスIndesesns!は、さすがパリ管のソリストたちから絶大な信頼を得ているレーベルだけのことはありますね!
 先日も驚くべき無伴奏アルバムで『レコード芸術』特選や『日本経済新聞』の文化欄を賑わせたヴァンサン・リュカは、ベルリン・フィルでも活躍をみせつつ、パリ管弦楽団ソリストとして、玄妙なフランス作品の名演はもちろん、ドイツのロマン派〜近代作品にも確たる適性をみせるいかんなきフランスの名手...深く濃密な音色はグラデーション豊かな味わいで、ゴベールのソナタ系作品にみる親ドイツ的堅固さも、一連の小品を魅力あるものにしている風雅さや細やかなエスプリも、みごとなもの。
 ピアノはローラン・ヴァグシャル——そう、室内楽への適性抜群なこのソリストもまた“ニ重奏”盤であるこの録音のもうひとりの主人公。隅々までぬかりない傑作2 枚組なのです!


旧譜
ヴァンサン・リュカ(フルート)、無伴奏


INDE057
(国内盤)
\2800+税
パリのフルート、さまざまな無伴奏
 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
  ①無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV1013
 アルテュール・オネゲル(1892〜1955):
  ②山羊の踊り 〜無伴奏フルートのための
 クロード・ドビュッシー(1862〜1918):
  ③シランクス 〜無伴奏フルートのための
 ウジェーヌ・ボザ(1905〜1991):
  ④幻像 作品38 〜無伴奏フルートのための
 フランシス・プーランク(1899〜1963):
  ⑤廃墟に向けて子守唄を吹く、笛吹きの像
 ジャック・イベール(1890〜1962):
  ⑥無伴奏フルートのための小品
 ピエール=オクターヴ・フェルー(1900〜1936):
  ⑦無伴奏フルートのための三つの小品
 ロジェ・ブールダン(1923〜1976):
  ⑧傷ついた牧神 〜無伴奏フルートのための
 パウル・ヒンデミット(1895〜1963):
  ⑨無伴奏フルートのための八つの小品
 ジークフリート・カルク=エーレルト(1877〜1933):
  ⑩無伴奏フルートのためのソナタ・アパッショナータ 作品140
 カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714〜1788):
  ⑪無伴奏フルート・ソナタ イ短調
ヴァンサン・リュカ(フルート)
 パリ音楽院、ベルリン・フィル、そしてパリ管の首席として名をあげ、今やフランス随一の名手に。
 才人リュカが満を持して世に送り出した、傾聴すべき「ひとふでがき」の音響世界。大バッハから「記念年」の次男バッハまでのあいだ、近代の巨匠たちの技芸、深々と...
 無伴奏のフルートで1枚のアルバムを作るというのがどれだけの決意を必要とするか、想像するだにあまりあること...
 ましてやパリ管のトップ奏者として、この“管楽器の王国”を代表する世界随一のオーケストラの顔役のひとりになっている人物とあれば、なおのこと。
 大指揮者が振る「牧神の午後への前奏曲」や気鋭名手が弾くメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲でも絶妙の吹奏を聴かせる立場にあるヴァンサン・リュカが、オーケストラとも、あるいは室内楽の共演者ともいっさい無縁の状態で、音楽史上、無伴奏フルートのために書かれた傑作と目される重要作品をことごとく網羅した、きわめて傾聴に値する1枚のアルバムを満を持して世に問うてくれたことは、21世紀のいま、どれほどかけがえのないことでしょう...
 パリ音楽院で腕を磨いてきた生粋のフランス人だけに、フランス六人組やボザ、イベールといったフランス近代ものはもちろんお手のもの——
 嬉しいのは、36歳で早世しながら、両大戦間のパリで諸外国からやってきた同世代の気鋭作曲家たちと、ユニークな活躍を続けたオクターヴ・フェルーの逸品まで収録してくれていること。さすがパリの名手、センスが違います。しかしリュカは決して、母国フランスに縛りつけられている演奏家ではありません——
 無伴奏フルート作品の白眉ともいえる、ドイツの名匠カルク=エーレルトの「ソナタ・アパッショナータ」、管楽器作品の多いヒンデミットの名品など、ドイツ方面の骨太の逸品にも確かな適性を感じさせる充実解釈を打ち出してみせる...そして彼の才覚が一面的でないことを何より強く印象づけるのが、このアルバムの冒頭と末尾に配された、バッハ父子の傑作。父バッハの、あの「佳品」というにはあまりにも充実度の高い逸品を、リュカのしなやかで濃密、倍音成分をゆたかに感じさせる音でじっくり聴けるのも嬉しいところですが、アルバムを締めくくる作品として、本年生誕300周年を迎えるエマヌエル・バッハの、父の作品と同じ調性で書かれた無伴奏ソナタを配すなど、実に周到なアルバム構成ではありませんか。
 刻一刻と移り変わる人の心の機微をみごと翻案してみせた、あのエマヌエル・バッハの至芸をフルートひとつでじっくり聴き確かめながら、この楽器の可能性の広さに改めて思い至る…無伴奏盤の新たなる至宝、お見逃しなく。


NCA



NCA60159
(SACD Hybrid)
(国内盤・訳詞付)
\3000+税
モーツァルト:レクィエム(R.レヴィン補筆版)
 〜モーツァルトが『レクィエム』で目指した音楽とは...?〜

  モーツァルト(1756〜1791):
   死者のためのミサ曲(レクィエム)ニ短調 KV626
    〜ロバート・レヴィン補筆版
ラルフ・オットー指揮
マインツ・バッハ合唱団、
Ens.ラルパ・フェスタンテ(古楽器使用)
ユリア・クライター(S)
ゲルヒルト・ロンベルガー(A)
ダニエル・ザーンス(T)
クラウス・メルテンス(Bs)

 即興演奏の達人でもあるフォルテピアノ奏者レヴィンの補筆版は、モーツァルト晩年の真意をできるだけ自然に反映させた、消えゆく天才の命の燃え上がりも感じさせる内容...
 ドイツ西部の合唱陣・古楽陣の水準の高さあればこその、血の通った名演をいま、日本語解説付で。

 2010 年頃から徐々に取り扱うようになってきたNCA レーベルですが、経営体制変更直後に仕様変更でリリースされたアルバムや、その流れのなか新規リリースされたアイテムなどのなかには、国内でしっかり紹介がなされていないものの内容の充実した、ドイツ楽壇の水準の高さをあらためて印象づけてくれる名盤がちらほら——
 このモーツァルト『レクィエム』の録音も、演奏陣が日本で知られていないというだけの理由からか今ひとつ注目度が高まらないままだったところ、かねてから国内仕様流通を検討していた1枚でした。

 天才最後の未完の傑作「レクィエム」、モーツァルト作品研究の権威であり、かつてはホグウッドやガーディナーとともに数多くのピアノ協奏曲の古楽器録音を残し、来日時にも観客から主題旋律をつのって古典派流儀で即興演奏をくりひろげる…といったことまでやってのけるユニークな音楽学者、ロヴィート・レヴィンによる補筆版ぼ彼は広く通用している、モーツァルトの門弟ジュスマイヤーが補筆したヴァージョンにみられる様式的な齟齬などを整理し、あくまで1791 年のモーツァルトが考えていたような教会音楽のあり方をふまえたうえで、いわばジュスマイヤー修正版というような独自のヴァージョンを提案してみせたのでした。

 「涙の日」に配されたフーガ楽章は、その最たる例——しかし、なにしろ古典派流儀で即興演奏ができるということは、つまり古典派のスタイルと心で作曲ができる、ということでもあり、その意味でレヴィンはいわば、ジュスマイヤーと並んで立ちうる補筆者でもあったと言えるのです。
 アメリカの古楽団体や合唱団がいちはやく着目しただけでなく、近年は欧州勢もこのヴァージョンを意識的に取り上げるところが増えつつあるようですが、ここでは大戦直後から西ドイツの合唱界で確かな歴史を築いてきたマインツ・バッハ合唱団と、教会音楽に通じたその指揮者ラルフ・オットーを中心に、古楽器演奏の世界で着実にその存在感を強めてきたラルパ・フェスタンテの共演を得て、ゲストにも大御所古楽歌手でもあるバスのクラウス・メルテンスはじめ名歌手が揃う...という素晴しい布陣で、モーツァルト作品の精髄をありありと伝える血の通った作品解釈をぞんぶんに味わえる名演に仕上がっているのが頼もしい限り!

 解説充実全訳付、教会でのDSD 名録音も雰囲気抜群なSACD ハイブリッド仕様——あらためてじっくり向き合いたい1枚、お見逃しく!
 

PAN



PC10278
(国内盤)
\2800+税
ルクレールの好敵手たち
 〜フランス18世紀のヴァイオリン音楽

 ルクレール、ギニョン、ギユマン...〜
 ルイ=ガブリエル・ギユマン(1705〜1770):
  ①ソナタ 第4番(1734 年ディジョン刊)
 ジャン=バティスト・カルドンヌ(1730〜1792):
  ②第3ソナタ ホ短調(1765 年パリ刊)
 ジャン=ピエール・ギニョン
  (本名ジョヴァンニ・ピエートロ・ギニョーネ 1702〜1774):
  ③第1ソナタ ハ短調 作品1-9
  (1737 年頃?パリ刊)
 ジャック・デュフリ(1715〜1789):
  ④『クラヴサン曲集 第3集』からの3編
   〔序曲/ラ・ド・マリ(優美なロンド)/シャコンヌ〕
 ジャン=マリー・ルクレール(1697〜1764):
  ⑤ソナタ 第12 番 ト長調(第3集、1734 年パリ刊)
ライラ・シャイエーク(バロック・ヴァイオリン)
イェルク・ハルーベック(クラヴサン)
 バロック末期に花ひらいた、フランス独自のヴァイオリン楽派。古典派型の弓ができる前の、18世紀フランスのヴァイオリン奏法を縦横無尽にに解き明かす。“当時の響き”の追求はバーゼル仕込み——才人シャイエークとハルーベック、さらなる高雅な領域へ...

 ジャック・ティボー、ジネット・ヌヴー、オーギュスタン・デュメイ...「フランスのヴァイオリニスト」と聴いて、誰を思い浮かべるでしょう?この国ならではの高雅な、フォーレやドビュッシーから馥郁たる香りの響きを引き出してやまない、他国のそれとは一線を画した“フランス独自の”ヴァイオリン演奏というものは、実は18 世紀にはすでに存在していたようです。その源流はヴァイオリンの祖国イタリアに行き着くものの、たとえばルクレールは——トリノの宮廷で、コレッリ門下の名手ソミスにレッスンを受けたあと——フランス人ならではの感性で、この国特有の音楽様式をイタリア流儀のヴァイオリンの歌心とうまく結びつけてみせた才人として、ひろく名声を博したものでした。しかしそのルクレールとして、抜群の感性と技量を誇る音楽性の高さひとつでは、フランスを征しきれなかった——なにしろ当時のフランスは、王室楽団からして腕利きのヴァイオリン奏者に事欠かず、ギニョンやギユマンといった(同じくソミスに学んだ)凄腕の名手たちが続々あらわれ、ルクレールの人気や台頭を脅かしつづけ、時には彼を外国にまで追いやったほどだったのですから...
 そんな活況あふれる当時のようすを、私たちはてっきり、現存する彼らの作品からでしか味わえないと思っていましたが、“古い音楽は、作曲者が知っていた当時の楽器と奏法で”を旨とする古楽器演奏の達人たちの卓越した技量とあくなき好奇心は今や、当時のヴァイオリン奏法をあざやかに甦らせようという領域にまで迫りつつあるようです。
 古楽教育の牙城バーゼル・スコラ・カントルムで、弟子たちの積極的な研究姿勢にも柔軟に耳をかたむけ、クラス全体で古い弦楽奏法の再発見に力を注いできた名教師キアラ・バンキーニのもとで学び、彼女のアンサンブル415 でもコンサートマスターを何度もつとめてきたライラ・シャイエークもまた、そうした古い時代の演奏法の細かな機微を徹底して追い求め続けている名手——気心の知れたデュオ・パートナーのハルーベックとともに、マレやクープランの同時代、あるいはその直後の古典派前夜のフランスで、どのようなヴァイオリン芸術が花開いていたかをあざやかに解き明かしてゆきます。
 題して「ルクレールの好敵手たち」—-艶やかなガット弦の至芸の交錯、じっくり耳を傾けたい秀逸古楽盤が、またひとつ...!
 


PC10310
(国内盤)
\2800+税
ウィーン×バロック×ヴァイオリン
 〜17世紀オーストリア、作者不詳の傑作さまざま〜

 ウィーン・フランチェスコ会修道院写本XIV-726より
  1) 第94 曲:トッカータ イ短調
  2) 第87 曲:ソナタ
  3) 第74 曲:ソナタ ヘ長調
  4) 第68 曲:音楽による時計 イ短調
  5) 第4曲:ソナタ ニ長調
  6) 第77 曲:ソナタ イ長調
  7) 第73 曲:ソナタ イ短調
  8) 第69 曲:郵便馬車の角笛 ロ長調
グナール・レツボール(バロック・ヴァイオリン)
アルス・アンティクヮ・アウストリア(古楽器使用)
 作曲家名を知らなくても“演奏者で選ぶ”が正解、それがバロック盤の世界...鬼才レツボールのさらなる超絶技巧ガット弦アルバムは、なんと「作曲者不詳の傑作」ばかりを集めた注目盤!
 心そそる歌心、胸のすくようなテクニック、標題、ソナタ...オーストリアこそ、弦楽器の天国だった!

 オーストリア随一のバロック・ヴァイオリン奏者にして指揮者でもある天才グナール・レツボールは、“音楽の都”ウィーンやハプスブルク皇室だけにとどまらない、オーストリア全体のバロック音楽のありようを生々しく「当時どおり」に再現しつづけることに意欲を燃やしてきた人—-合唱が必要なら高音部は少年歌手に任せるという、当時のオーストリアで最も一般的だった「修道院スタイル」を徹底させ、時にはストイックなまでに弦楽編成の員数も減らすなど、当時の現状をふまえた演奏条件のもとで最大級の説得力ある名演をくりひろげてゆく...そうしたことが可能なのも、ひとえに彼自身が凄腕の名手であればこそ!だったことを、あらためて痛感させてくれる久々待望の新録音が(レコード・アカデミー賞受賞のビーバー盤(PC10245)がお気に召した方にはぜひぜひ!な内容です)!

 21 世紀のいま彼が新たに乗り出したのは、ウィーンのフランチェスコ会修道院に伝わる17 世紀の手稿譜集(管理番号XIV-726)に記されている驚くべき超絶技巧のヴァイオリン音楽群を最初の切り口に、17 世紀のオーストリアにおけるヴァイオリン芸術の粋をあらためて縦横無尽に読み解いてみせる、3作のアルバムからなる連作企画——
 その第1弾となる本作で、彼はあえて楽譜上に作曲者の名前が記されていない曲ばかりを8曲集めてみせています。
 そう、この時代は作曲家の技量もさることながら、なにより演奏者が当意即妙、その場でどう音楽を豊かなものにするか?が大きく問われていた頃——作品を誰が書いたか?よりも、どう演奏するか?に焦点が当てられていたところ、この手稿譜は書き写した人物がそもそも手練のヴァイオリニストだったらしく、作曲者の記名がある曲ではビーバー、シュメルツァー、ヴァルター...と、17 世紀のドイツ語圏きっての超絶技巧派が残した難曲ばかりが出揃っていて。
 畢竟、記名のない作曲者不詳の作品もまた、まさしくヴァイオリンの演奏技巧のむずかしさを易々と乗り越えてみせる名手のテクニックがきわだつであろう、聴きごたえあるヴィルトゥオジテ満載の充実作ばかりなのです!これだから古楽の世界は面白い——そう、作曲者の名前なんぞに縛られていては、ほんとうにすばらしい音楽をみすみすスルーしてしまうことが多々。演奏者やレーベルを手がかりに見つけてゆくのがいちばんの早道だとしたら、このとおり、Pan Classics レーベルが提案してくれる古楽盤、とくに弦楽器もの(レツボールのほか、ガンバのグイード・バレストラッチの盤も傑作揃い!)というのはまさに「絶対にはずさない!」と断言してもよいくらい、逸品ばかりが揃っているところ。
 今回もそうした信頼を上書きしてくれる名盤になっていて嬉しい限りです。標題つきの楽曲でも、レツボールの芸達者ぶりがタイトルのニュアンスをよく伝えてくれる——超絶技巧の炸裂とのメリハリも魅力的!羊腸弦の至芸を堪能しつくせる逸品、お見逃しなく...!
 

PC10302
(2CD)
(国内盤)
\3400+税
ロテム『ヨセフとその兄弟』
 〜初期イタリア・バロック様式による新作オラトリオ!〜

エラム・ロテム(1984〜):
 『ヨセフとその兄弟』〜初期イタリア・
 バロック様式によるヘブライ語オラトリオ
エラム・ロテム(Bs 独唱・cmb・総指揮)
Ens.プロフェティ・デッラ・クインタ(古楽器使用)
ドロン・シュライファー、ダヴィッド・フェルドマン(男声高音)ディーノ・リュティ(男声アルト)
ダン・ドゥンケルブルム(テノール)エラム・ロテム(バス)
器楽合奏:ヴァイオリン2、キタローネ/バロックギター、バス・ガンバ/リローネ、オルガン/レガール、チェンバロ
 古楽解釈には、即興演奏がつきもの——否、即興とは「その場での作曲術」にほかならない。
 聖書のことばをそのまま用い、オラトリオ全編を1600年頃の様式で「新たに作曲」!
 バロック初期の「歌射ながら語る」様式をそのまま伝える、最前線の古楽奏者たちの快挙!
 バッハ以前、つまり17 世紀以前のバロック音楽というものが、基本的に「即興」をとても大切にしていたということは、古楽ファンなら誰しもよくご存知でしょう——
 バッハの鍵盤楽曲でも、くりかえしがあるところでは必ず最初とは違う弾き方にして、演奏者のセンスを示さなくてはならなかったのです。そういう“当時の奏法”を専門的に学んでいる古楽奏者たちは、おのずと17 世紀以前の音楽がどういうしくみで組み立てられているか、つまり当時の作曲理論とはどういうものかを学ぶことになるのですが、その技芸をふかく追求すれば、17 世紀以前のスタイルで完全に新しい作品を新創作できることになるわけです。
 と書くのは簡単ですが、じっさいに作品を書き上げるとなるとそう簡単にはいかない——しかしヨーロッパ古楽演奏の最前線では、すでにそうしたことは夢物語ではなくなってきているのだ、ということが、この驚異の2枚組オラトリオ・アルバムではっきりすることでしょう。
 即興をとても大切にしているイタリアの異才古楽ユニット・アッコルドーネのブレーンである鍵盤奏者=アレンジャーのグイード・モリーニも、自らの創作でオラトリオを書いていますが、そちらは古楽に必ずしもこだわりすぎない、より幅広いパースペクティヴでの作曲様式が使われていたところ(MCYP1656・日本語解説付にて発売中)、ここでは古楽教育の中心地バーゼルで活躍する異才チェンバロ奏者=歌手エラム・ロテムが、なんと全編を1600年前後のイタリア初期バロック様式そのままで作曲したオラトリオが聴けるのです!
 題して『ヨセフとその兄弟』—-旧約聖書「創世記」に出てくる感動的な物語を、アンサンブルの主宰者エラム・ロテムが全編、カヴァリエーリ流儀の作曲手法で、5人の歌手と器楽合奏のための作品として仕上げたその音楽は、なにも予備知識なしに聴いたら決して21 世紀の新創作とは思われないであろう、みごとな完成度を誇る、完全にバロックそのままのサウンド!さながら新作連作マドリガーレというか、モンテヴェルディのマドリガーレ集がお好きな方にはぜひ体感していただきたい驚異の音世界がそこに広がっているのです!
 ロテム曰く、17 世紀以前の音楽を演奏解釈するうえでは決して作曲家の生の声と対話するわけにはいかないけれど、現代の「新作古楽」であれば、個々の演奏者の技量をよく理解したうえで曲も書けるし、演奏してみた結果が逐一フィードバックされる、その意味でも17 世紀以前の音楽創作のありかたそのままだ...とのこと。
 そして本盤でもうひとつ注目すべきは、歌い手たちがイスラエル出身ということもあり、聖書の言葉であるヘブライ語がそのまま、話しことばのような流暢さで歌い上げられている...という点!その意味でも、本盤はまさにイタリア初期バロックの「歌いながら語る」様式が完全再現されているわけです。「古楽」のあり方に大きな一石を投じる問題作、ぜひ深くご体感いただきたい逸品!

PASSACAILLE


PSC953
(国内盤)
\2800+税
ヨーゼフ・ハイドン(1732〜1809):
 1.オルガン協奏曲 ニ長調 Hob.XVIII:2
 2.ヴァイオリン協奏曲第4 番ト長調 Hob.IIIa:4
 3.ヴァイオリン、オルガンと弦楽合奏のための二重協奏曲 ヘ長調Hob.XVIII:6
 4.オルガン協奏曲 ハ長調 Hob.XVIII:10
ロレンツォ・ギエルミ(org・指揮)
ラ・ディヴィナ・アルモニア(古楽器使用)
ステーファノ・バルネスキ(vn)
 音楽院がない時代は、教会の聖歌隊こそが音楽家を育てる場だった——ハイドンの「心のふるさと」、小規模編成によるオルガン協奏曲こそ、この作曲家のたまらなく面白い音運びの原点。
 18世紀の演奏習慣と楽器を使う精鋭集団ならではの、めくるめく作品美探求の旅...巨匠ギエルミ、大活躍!

 オルガンという楽器は、ひとつであまりにも多くのことが出来てしまうため、オルガン独自の世界を突き進み濃密な世界を探求している名手も多いところですが(聴くべき孤高の名匠だけも枚挙に暇がないほど)、通奏低音奏者として好んで他の演奏家たちとアンサンブルを組み、多角的な演奏活動に乗り出している名手も少なくありません。とくに古楽の世界では、そうした名手が時として自ら主役に立つ「オルガン協奏曲」を披露することも——
 かつてイタリアの伝説的古楽集団イル・ジャルディーノ・アルモニコで通奏低音奏者をつとめ、年の離れた弟ヴィットリオ(ガンバ奏者)とのデュオ活動も広範に行ってきたオルガン&チェンバロ奏者ロレンツォ・ギエルミは、ミラノのサン・シンプリチアーノ教会にあるアーレント・オルガンの正規奏者であり、かつ古楽教育の拠点バーゼル・スコラ・カントルムのオルガン科教授をつとめるかたわら、同じイタリアの俊英たちを中心にアンサンブル「ラ・ディヴィナ・アルモニア」を主宰、時には合唱団まで動員する大規模な作品も含め、自ら指揮者=ソリストとして多角的な演奏活動を展開している多芸派の名手。その活動の面白さが端的にあらわれているのが、Passaaille レーベルでのオルガン協奏曲録音なのだと思います。
 ヘンデルのシリーズもすでに大好評を博しているところ、ここで彼が弾いているのは古典派の巨匠、ハイドンの作品群——オルガンを独奏にした協奏曲というのは(ヘンデルの名曲群を除いてしまうと)作例があまりないのかと思いきや、実はまったくそうではなく、チェンバロも初期ピアノもオルガンもおおむね分け隔てなく愛奏されていた18世紀半ばの英国ないしオーストリア(なかんずく、余暇に教会音楽に限らずさまざまな音楽を楽しむ機会に事欠かなかった修道院の世界など)では、ヴァーゲンザイル、ロイター、ツェヒナー...といった地元の名匠たちをはじめ、多くの作曲家たちがオルガンを主役に据えた協奏曲を書いていたのです。
 そうした伝統をひくハイドンもまた、オーストリア人音楽家たちの常として、若い頃には教会の聖歌隊で音楽の手ほどきを受けた人。オルガンはいわば彼にとってひとつの「心のふるさと」でもあり、初期にはこの楽器を独奏に据えた協奏曲を数多く書いていたのです。
 ここでは各パート少人数に絞り込んだ(ヴァイオリン各3のほかは各楽器ひとりずつ...まさに18 世紀の教会奏楽隊のよう!)アンサンブルで、小回りの利く編成によく合うハイドン初期〜中期の魅力ある音作りを精彩あざやかに伝えてくれる、イタリア古楽界はらではの溌剌とした名演をたっぷり味わえるのがうれしいところ!しかもイル・ジャルディーノ・アルモニコでも大活躍をみせてきた俊才バロック・ヴァイオリン奏者バルネスキとのヴァイオリン協奏曲や二重協奏曲まで聴けるプログラムの多彩さも大きな魅力のひとつ。大音量で圧倒するのではない、機敏で愛らしいオルガンの響きこそハイドン作品の粋…見過ごせない1枚です。
 

PSC966
(国内盤)
\2800+税
フレスコバルディ『リチェルカーレ集』(全10曲)
およびその他の鍵盤作品

 ジローラモ・フレスコバルディ(1583〜1643):
  『リチェルカーレ集、およびさまざまな固執音型にもとづく
  フランス風カンツォーナ』(1615年ローマ刊) 他 より
  ①第6トッカータ ②第1リチェルカーレ
  ③第2リチェルカーレ
  ④第1カンツォーナ
  ⑤第3リチェルカーレ
  ⑥第4リチェルカーレ 〜
   ミ・レ・ファ・ミによる
  ⑦第2カンツォーナ
  ⑧第5リチェルカーレ
  ⑨第6リチェルカーレ 〜
   ファ・ファ・ソ・ラ・ファによる
  ⑩ルッジェーロの調べにもとづく主題によるカプリッチョ(1624)
  ⑪第3カンツォーナ
  ⑫第7リチェルカーレ 〜
   ソ・ミ・ファ・ラ・ソによる
  ⑬第8リチェルカーレ 〜
   オクターヴによる
  ⑭ラ・パストラーレの調べによるカプリッチョ(1637)
  ⑮第9リチェルカーレ 〜四つの主題による
  ⑯第10 リチェルカーレ 〜ラ・ファ・ソ・ラ・レによる
  ⑰アリア「バレット」
  ⑱(サン・ペトロニオ大聖堂の鐘の音)
リウヴェ・タミンハ(オルガン)
使用楽器:ボローニャ サン・ペトロニオ教会
ロレンツォ・プラート1475年建造&
バルダサーレ・マラミーニ1596年建造
 イタリア中の巨匠たちが、この大家を手本にした——そして北方のバッハやヘンデルさえ...!
 バロック鍵盤芸術の「原点」、綾なすメロディの交錯があまりにも美しい整然たる傑作曲集の美質をボローニャの歴史的銘器であざやかに「いま」に伝える巨匠タミンハ、満を持しての金字塔的録音!
 オルガン芸術の大家バッハにいたる、17 世紀以前の鍵盤音楽の歴史を振り返ってみたとき、ルネサンスとバロックのはざまで誰よりも重要な貢献をはたしたのはやはり、バロックはなやかなりし17世紀初頭の“永遠の都”ローマにあって、ローマ教皇のもとサン・ピエトロ大聖堂のオルガニストをしていたフレスコバルディではないでしょうか——
 バッハにしても、また彼のオルガン音楽に大きな影響を与えたブクステフーデ、パッヘルベル、ケルル...といったドイツ語圏の巨匠たちにしても、“本場イタリアの音楽”として手本にしていたのは、いつもローマの巨匠フレスコバルディとその系譜に連なる音楽家たちの技芸にほかなりませんでした(もちろんバッハもこの名匠の作品をさまざまに勉強していたようです)。チェンバロ奏者たちにとっても、この作曲家のトッカータはひとつの原点——
 そして、それはオルガン奏者たちにとっても同じこと。とくに、幾筋かのメロディラインを同時進行させながら心地よい響きをくずさず曲を織り上げてゆく技芸=対位法の粋をおいもとめてゆく「リチェルカーレ」という作曲形式の音楽は、メロディの流れが追いやすいという意味でも、音がすぐに消えてしまうチェンバロより、鍵盤を押しているあいだ音が出つづけるオルガンのほうが、その造形美がわかりやすいものです。
 音楽学と歴史的オルガンに通暁し、さまざまなアンサンブルとも共演をつづけてきたイタリア屈指の巨匠リウヴェ・タミンハは、有名・無名にかかわらずイタリア音楽史上のありとあらゆる名匠たちの名品群を録音してきた末に、いま満を持してこの大家の作品を録音しつづけていますが、これはそのシリーズの輝かしいスタートを飾る、1615年に楽譜出版された『リチェルカーレ集』を軸とする傑作盤!Passacaille レーベルが弊社取扱になる僅か前にリリースされ、仏Diapason 誌も金賞(ディアパゾンドール)を惜しみなく捧げた名盤です。
 堂々たるタッチは構えすぎず泰然自若、それでいて古色蒼然とした威厳がおのずと漂い、耳に心地よいボローニャの歴史的銘器の美音がしずかに心になじむなか、多声の綾が静かな交錯をみせてゆく...これぞ「超一流」とため息さえ出てくるような名演中の名演なのです!
 当該曲集からのリチェルカーレ全10曲だけでなく、パルティータやカプリッチョなど「聴き比べ」のできる曲種の作品も併録されているのがまた憎いところ。充実した日本語解説とともに、フレスコバルディという大家の至芸に改めて浸りたい...
 

PSC986
(国内盤・訳詞付)
\2800+税
バロック時代のクラリネット
 〜神聖ローマ皇帝の作曲家たち、シャリュモーからクラリネットへ〜

 皇帝ヨーゼフ1世(1678〜1711)
  ①アリア「涙にぬれて、心は乱れ」
   (ズィアーニの歌劇『キロンディア』への挿入歌)
 皇帝レーオポルト1世(1640〜1705)
  ②アリア「恋の神よ、もっと鎖を!」
 アッティリオ・アリオスティ(1666〜1729)
  ③アリア「この玉座に座し」と
  ④ジーガ(歌劇『プラチディア』より)
 ヨハン・ヨーゼフ・フックス(1660〜1741)
  ⑤アリア「見捨てないでください」
   (歌劇『軍神マルスに捧げられた三月』より)
  ⑥シンフォニア ハ長調(歌劇『ヤニチャラ』より)
  ⑦アリア「この心に感じます」
  (歌劇『エルコーレ(ヘラクレス)の第10の偉業』より)
 ジョヴァンニ・ボノンチーニ(1670〜1747):
  ⑧アリア「ああ、だめ、戦いに行かないで!」
  (歌劇『アブドロミーノ』より)
 アントニオ・カルダーラ(1670〜1736)
  ⑨レチタィーヴォ「去れ、イーリオで勝ち誇るのは」/
  アリア「勝利が待っている、ああカルロ」
  (歌劇『アウリーデのイフィゲニア』より)
 ゲオルク・ムファット(1653〜1704)
  ⑩クラントとサラバンド
 フランチェスコ・バルトローメオ・コンティ(1682〜1732):
  ⑪アリア「やさしき愛が」
  (カンタータ『麗しの鳥たち』より)
 作曲者不詳:
  ⑫前奏曲
   (アマリア・ヴィルヘルミーナの楽譜帳より)
  ⑬2本のクラリネットのための
  エール1と⑭エール2
   〔※曲順は①⑬③⑤⑥⑧⑨⑦⑫②⑩④⑪⑭〕
エルンスト・シュラーダー、
マルクス・シュプリンガー
(バロック・クラリネット、ソプラノ・シャリュモー、バソン・ド・シャリュモー)
ミヒャエラ・リーナー(ソプラノ)
カラムス・コンソート(古楽器使用)
 「クラリネットは古典派から」と思いきや、歴史をひもとけば「1700年頃に発明」。
 では、最初の頃はいったい誰がどんな音楽を書き、それらはどんな響きがしたのでしょう?
 欧州古楽シーン最前線、経験ゆたかな気鋭奏者があざやかに伝える、皇帝たちを喜ばせた「ウィーンのクラリネット事始め」。

 クラリネットの音楽というと、古楽器を使う演奏でもモーツァルト、ないし前古典派のヨハン・シュターミッツやモルターの協奏曲あたりが最古の例で、基本的には「古典派以降の楽器」というイメージがあるかもしれません。しかしものの本をひもとくと、多くの著書で「ドイツのデンナーという楽器職人が1690 年頃発案」などと書かれています。
 最近の研究で、さすがに17 世紀末までクラリネットの歴史をさかのぼるのは無理なようだと判ってきたものの、少なくとも最古のクラリネットの作例が、やはりこのデンナー一族によって1710 年頃に完成されていたことは事実なよう。
 そして音楽史をよく調べてゆくと、クラリネット以前にシャリュモーという同種の先行楽器があって、この楽器のためにグラウプナーやヴィヴァルディら、バロックの作曲家たちも曲をつけていたことに気づかされるのです。デンナー一族はシャリュモーを改造するかたちでクラリネットを発案したようですが、それではいったい、どんな音楽がこれら「最初期のクラリネット」で奏でられていたのでしょう?
 その謎を解く鍵は、神聖ローマ皇帝の楽団に...フックスやカルダーラなどの巨匠が活躍したウィーンの宮廷では、ちょうど1700 年頃からなぜかシャリュモーのためのパートを伴う声楽曲がとみに増えていたばかりか、ご存知の通り、ウィーンはその後モーツァルトの時代までにクラリネット先進地にもなっているのです。発明されて間もない初期の「バロック・クラリネット」を適宜シャリュモーと使い分け、時にはバス・クラリネットの祖先ともいうべき「バソン・ド・シャリュモー」なる銘器でも美音をくゆらせながら、アルノンクールやレツボールらの活躍で知られるオーストリア古楽界の俊才、Gramola レーベルでもソロ録音のあるE.シュラーダーらが結成した欧州最前線の室内楽ユニット「カラムス・コンソート」が、そうした最初期のクラリネット芸術をあざやかに「いま」に甦らせてくれました。
 ちょうどバッハのカンタータにある「オブリガート楽器つきアリア」のようなかたちで、繊細な歌手の歌声と艶やかな交錯をみせたり、2本の楽器でデュオを聴かせたり...解説充実全訳付、耳にやさしい発見の連続です!
 


PSC980
(国内盤)
\2800+税
シューベルトの晩年、ウィーンのピアノ
フランツ・シューベルト(1797〜1828):
 ①性格的行進曲 第1番 ハ長調 D968b/Op.121-1 Lg
 ②ハンガリー風アレグロ ハ短調 D 916c(補筆:J.デームス)
 ③アレグレット ハ短調 D900
 ④ロンド ニ長調 D 608/Op.138 Lg
 ⑤アレグロ イ短調「人生の嵐」D 947(歿後出版 Op.144)Gl
 ⑥グラン・ロンド イ長調 D 951/Op.107 Gl
 ⑦性格的行進曲 第2番 ハ長調 D 968b/Op.121-2 Lg
  Lg:リュビモフ第1奏者
  Gl:グロッツ第1奏者
  無印:リュビモフ独奏
アレクセイ・リュビモフ、
アレクセイ・グロッツ(フォルテピアノ)
使用楽器:ウィーンのヨハン・シャンツ1828 年製作オリジナル
 ロシアは急速に「新たな古楽器演奏の拠点」にもなっている——否、古楽器演奏はもはや世界の一流ピアニストの「ひとつの常識」になりつつある?! 異才リュビモフがモスクワ音楽院で教えた新世代の才人グロッツと、作曲者歿年に造られた楽器でくりひろげる、繊細にして真摯な音世界。

 古楽先進国ベルギーのさまざまな古楽バンドで活躍する古楽フルート奏者であり、ブリュッセル王立音楽院の教授もつとめている名手ヤン・ド・ヴィンヌが主宰するPassacaille レーベルは、この古楽の拠点に集まってくるさまざまな俊才たちのすぐれた演奏を厳選、続々音盤化しつづけてくれていますが、なにしろその着眼点の良さには何かと驚かされることばかり——
 古楽演奏の現場は今や、かつてベルギーやオランダ、スイス、英国、フランスなどといった古楽教育の先進地で勉強してきた世界各地からの俊才・異才たちが、それぞれの国で新たな古楽教育や演奏活動の拠点を少しずつ育み、そうした動きが芽を出し、花ひらき、すでに実りをつけている時代。ポーランドの古楽祭は今やフランスやオランダのそれにも比しうる活況を呈していますし、チェコやイスラエル、アルゼンチンなどの古楽アンサンブルが世界各地を賑わせている時代...ワルシャワのショパン協会さえ「ショパンが知っていた当時のピアノ」に関心の軸が移ってきて、はや10 数年——
 かたや由緒正しきモスクワのチャイコフスキー音楽院にも、いつしかネイガウス門下の名匠アレクセイ・リュビモフが教える「歴史的鍵盤楽器」のクラスができ、かつてはフランスやドイツ、オランダなどに行かなくてはフォルテピアノ奏法を学べなかった若き俊才ロシア人ピアニストたちも、自国にいながら「作曲家たちの知っていた音」と向きあえる環境が整っている、一時代前からは考えられない理想的な状況がいつのまにかできあがっていたようです。
 そうした動向への敏感な反応をPassacaille がみせ、このとおり「モスクワの古楽器演奏の最先端」を私たちに伝えてくれるというのは、なんとありがたいことでしょう...!
 ゲンリフ・ネイガウスやレフ・ナウモフといったロシア・ピアニズム往年の名匠たちに学び、傑作そのものと直接向き合う解釈姿勢を育んできたアレクセイ・リュビモフは、かつてはErato やWarner/Teldec 、近年はおもにZig-ZagTerritoires、Alpha と、折々に古楽器演奏に敏感な反応をみせてきた最先端レーベルで名盤を綴ってきた異才。その門下で学ぶ1988 年生まれ(!)のロシアの才人グロッツは、現代ピアノでもロシア近現代作品を得意としながら、同じく師匠リュビモフのデュオ・パートナーとして昨今飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍をみせているユーリ・マルティノフにも歴史的ピアノの教えを受けているとのこと。
 本盤ではリュビモフが第2パートにまわる大曲もあり、師匠の絶妙なパートナーシップのもと「シューベルトの知っていた音」に肉薄する繊細なタッチでフォルテピアノを綴ってゆく技量に「古楽器演奏の未来は明るい!」と唸らざるを得ません。使用楽器はシューベルトと同じ年に亡くなった名工J.シャンツが最晩年に完成させていた、19 世紀オリジナルのフォルテピアノ——
 ハイドンも高く評価したというこの名工の楽器が、それぞれ傑出した音楽性を誇る「ロシア・ピアニズムの古楽器奏者」二人によって奏でられることで、若くして亡くなる直前、シューベルトがかいまみた深い闇、強烈な希望や憧れといったものが、作曲家自身の思い描いたであろう“当時の楽器”の響きで、いかに克明に描き出されるのか...解説全訳付、見落とせない充実盤!
 


PSC905
(国内盤)
\2800+税
フックス:四つの序曲(管弦楽組曲)
 〜ハプスブルク皇帝の楽長、後期バロックのあざやかさ〜

 ヨハン・ヨーゼフ・フックス(1660〜1741):
  ①序曲(管弦楽組曲)ニ短調
  ②序曲(管弦楽組曲)変ロ長調(I)
  ③序曲(管弦楽組曲)ト長調
  ④序曲(管弦楽組曲)変ロ長調(II)
パウル・ドンブレヒト(バロック・オーボエ)指揮
イル・フォンダメント(古楽器使用)
 バッハの「管弦楽組曲 第1番」は、このような音楽世界の流行のなかで生まれたのだった!
 並ぶ者なきハプスブルク皇帝の楽長フックスは、ウィーン古典派の巨匠たちも学んできた教本の著者、かつセンス抜群のオペラ作曲家...洗練された様式、絶品の古楽器演奏で!

 古楽大国ベルギー随一の小規模資本レーベルPassacaille には、欧州古楽界の昔と今とを代表する桁外れの名匠が数多く名盤を寄せていますが、そのなかでもとくに注目すべきは、かつてはレオンハルト・コンソート、近年でも18 世紀オーケストラのトップ奏者として、20 世紀の古楽復興の大立者である故グスタフ・レオンハルトやフランス・ブリュッヘンといった大御所たちとともに名演を紡ぎ続けてきたバロック・オーボエの大物、パウル・ドンブレヒトが指揮するイル・フォンダメント——
 他にもラ・プティット・バンドやレザグレマン、レ・ムファッティ、コレギウム・ヴォカーレ・ヘント...といったベルギー随一の古楽集団でも活躍する多忙な名手たちが集い、弦楽器10〜15 人規模の少数精鋭編成で、バロック本来の魅力を端的に伝える名演をくりひろげている彼らの録音が、Passcaille には数多く集められているのです(一部は別レーベルで制作されていたものからの移行盤)。

 とくに注目すべきは、ハイニヒェン、ゼレンカ、アーベル、フックス...といった、音楽史上によく名前があがる作曲家ひとりひとりに光をあて、バッハやテレマン、ヴィヴァルディら日本でも人気の高い大家たちと同じ頃のヨーロッパ楽壇を賑わせた彼らそれぞれの個性が良く伝わってくるアルバム作りをしてくれている点。
 すでにいくつかは国内仕様でのリリースが好評をいただいていますが、このたび新たにお届けするのは、音楽好きで作曲もこなしたというハプスブルク皇帝レーオポルト1世のもと、30 代の若さで(並居る“本場”イタリアの巨匠たちをさしおいて)やおら宮廷楽長にとりたてられた天才、J.J.フックスの管弦楽組曲——オーボエ2本とファゴットが弦楽合奏と対置される、序曲につづけて多彩なリズムが華やかな交錯をみせる舞曲が続くフランス式組曲形式で、当時のヨーロッパ最先端をゆくファッショナブルな宮廷音楽として楽しまれていたであろう名品を4編も集めた、充実したアルバム作りになっています。
 ヨーロッパにおける古楽復興の波は今や限られた国に閉じ込められてはおらず、本場オーストリアでもフックス復権に尽力する精鋭奏者が徐々に増えてきているところ、大がかりなプロジェクトで声楽作品が取り上げられることも多いなか、ここまでフックスの器楽作品に光をあてたアルバム作りをしてくれる演奏団体というのは意外に少なく、とくにウィーンにおけるフランス音楽とイタリア音楽の交錯をここまでわかりやすく、センス抜群の選曲で味わえるアルバムはめったにないと思います。

 ドンブレヒトとベルギー古楽勢による演奏は、オランダ語圏古楽器奏者たちの深みある解釈を愛してやまない日本の古楽愛好家の方々にもぜひ聴いていただきたい充実度——解説訳付、声楽曲に抵抗ある方にもフックスの魅力を端的に味わっていただける名盤なのです。
 

RAMEE


RAM1304
(国内盤・訳詞付)
\2800+税
皇帝のトロンボーンと、歌
 〜18世紀ウィーン、ハプスブルク皇室の
  トロンボーンを伴う声楽曲・器楽曲〜

 ◆ヨハン・ヨーゼフ・フックス(1660頃〜1741):
  ①アリア「彼らはあなたを呼んでいるのです」(オラトリオ『庭園のイエス・キリスト』)
  ②③④3声と通奏低音のための三つのソナタ
   (②K.68・③K.365・④K.379)
 ◆マルカントニオ・ズィアーニ(1653頃〜1715):
  ⑤モテット「贖い主の愛しき母君」
 ◆アントニオ・カルダーラ(1670〜1736):
  ⑥アリア「このとおり、かたく凍てついた川を前に」(オラトリオ『ヨアス』)
  ⑦レチタティーヴォとアリア「やつれ、死ぬとは」
   (オラトリオ『キリストの死と埋葬』)
 ◆イグナツィオ・マーリア・コンティ(1699〜1759):
  ⑧アリア「この心のうちに、神のみわざを感じます」
   (オラトリオ『イスラム巡礼の崩壊』)
 ◆フランティシェク・イグナーツ・トゥーマ(1704〜1774):
  ⑨2挺のヴァイオリン、2挺のトロンボーンと通奏低音のためのソナタ
 ◆ジュゼッペ・ポルシーレ(1680〜1750):
  ⑩レチタティーヴォとアリア「永遠の女王は」
  (オラトリオ『ジュディッタ[=ユディト]の勝利』)
 ◆ピエトロ・カザーティ(1684〜1745):
  ⑪モテット「サルヴェ・レジーナ(ごきげんよう、皇后さま)」
 ◆フランチェスコ・バルトローメオ・コンティ(1681頃〜1732):
  ⑫アリア「わたしは逃げる、別の森へと」
  (オラトリオ『サウルに付け狙われるダヴィデ』)
   ※曲順は①⑤②⑥③⑧⑨⑦④⑩⑪⑫
アレックス・ポッター(カウンターテナー)
キャスリーン・モートゥズ、
シメン・ファン・メヘレン(バロックtb)
Ens.ラ・フォンテーヌ・ヴィンタートゥーア
(古楽器使用)
 バロック末期。いろいろ異色だった神聖ローマ皇室の宮廷楽団では、トロンボーンのソロが大活躍!
 モーツァルト『レクィエム』でのユニークなソロ・パートにも通じる、この独特な伝統の来し方を欧州古楽の中心地・スイスに集う俊才たちが、しなやかな技芸で「いま」に伝えてくれる充実企画!なにげなくクラシックを聴いている私たちが、ふだんめったに意識しないような領域にも耳をすませ、思わぬところから「ぜひ聴きたい音」をみつけてくるセンスが抜群のRAMEE レーベル。
 今回のアルバム、一見したところ単なるバロック後期のアリア集かと思いきや、さにあらず——なんと、ここで歌い手アレックス・ポッターと同等以上の存在感を放っているのは、アルトとテノールのトロンボーン奏者なのです!
 17 世紀いらい桁外れの音楽愛と潤沢な予算をもって豊かな音楽活動をはぐくんできたハプスブルク家の神聖ローマ皇室では、当時の他の宮廷楽団とはやや違った楽器編成で、独特の音楽が愉しまれていたのですが、そこでは後年ウィーン古典派を介して「クラシックのフルオーケストラ」にも採用されてゆく楽器がいくつか特徴的な存在感を発揮していました。
 シャリュモー(クラリネットの前身)やリュートなどのユニークな活躍もさることながら、トロンボーンは1700 年前後の時点で腕利きのソリストが常駐(“何でも協奏曲を書く”ヴィヴァルディやテレマンでさえソロではまず使わなかったのに!)、1世紀後にベートーヴェンやブラームス、ブルックナーらが交響曲で使うことになる下地はこの時代から着実に準備されていたのです。ウィーンに限らず、18 世紀のオーストリアではアルト・トロンボーンをソロで使うという習慣があり(ザルツブルクにいた“父”レーオポルト・モーツァルトや“弟”ミヒャエル・ハイドンがトロンボーン協奏曲を書いているのもそのため)、本盤ではそういうトロンボーンのソロが活躍するさまざまな名品をよりぬき、すでにゼレンカの独唱モテット集(Pan Classics)など着実な活躍をみせているカウンターテナー歌手アレックス・ポッターのかたわら、アムステルダム・バロック・オーケストラ、バッハ・コレギウム・ジャパン、コンチェルト・パラティーノなど一流団体で活躍を続けてきた実力派キャスリーン・モートゥズ、シャンゼリゼ管弦楽団やウェルガス・アンサンブルなど同じく欧州最前線のグループと共演あまたのシメン・ファン・メヘレンらがトロンボーンのソロをつとめ、ふくよかで逞しいバロック楽器の美音と的確な演奏編成で曲の魅力を十全に引き出してゆきます。
 この時代の音楽では、そもそも作曲家の知名度は音楽内容の充実とまったくむすびつかないのが常ですが(つまり、知らない作曲家に尻込みするのが全くナンセンスな領域)、ここではバロック通なら「なるほど!」と思うに違いない当時の凄腕作曲家たちが続々。とくに二人のコンティや「グラドゥス・アド・パルナッスム」の著者フックス、イタリアの超実力派カルダーラなどは他にも名盤の多い往年の巨匠。例によって解説充実(歌詞ともに日本語訳付)聴けば聴くほど内容の深い1枚です!
 

RAM1305
(国内盤・2枚組)
\4300+税
バッハ:鍵盤練習曲集 第3巻
 〜オルガンのためのさまざまな前奏曲、フーガ、手鍵盤のための二重奏曲〜

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750):
 『鍵盤練習曲集 第3巻
  〜オルガンのためのさまざまな前奏曲』
  (全曲・BWV552/669-689/802-05)
レオン・ベルベン(オルガン)
使用楽器:グラウホーフ=ゴスラール(ドイツ中部)
聖ゲオルク教会、
トロイトマン1737年建造)

 何よりもまず鍵盤奏者=つまり「オルガニスト」だったバッハが、鍵盤芸術の全てを注ぎ込んだ傑作曲集——
 待望の新録音を、異能集団ムジカ・アンティクヮ・ケルンで最後まで通奏低音をつとめた鬼才ベルベンが!

 曲集の出版とほぼ同時期に作られた、ドイツ中部の歴史的銘器の響きも美しい、物語性ある絶美の名演...
 美麗ジャケットと、その美しさ以上にすばらしい音楽体験を約束してくれる古楽系専門レーベル、Ramee—-彼らが未知の作曲家ではなく、有名な巨匠、たとえばバッハ作品のアルバムを出すときには、たいていきわめて高水準の内容で自信満々...ということが多いようで。とくに修辞法の達人パスカル・デュブリュイユ(cmb)のパルティータ全集(RAM0804)、バッハ・コレギウム・ジャパンでもおなじみのペーター・コーイが指揮するモテット集(RAM0906)、そして伝説的古楽集団ムジカ・アンティクヮ・ケルン最後の通奏低音奏者レオン・ベルベンが、オルガンとチェンバロを使い分けて臨んだ2枚組のトッカータ集(RAM0903)…このベルベンという異才が意欲的な企画を形にしようとするとき、他のレーベルではなく必ずRAMEE を選んでいるということも、このレーベルの主宰者(もとラ・プティット・バンドやリチェルカール・コンソートのバロック・ヴァイオリン奏者)がいかに信頼されているかを物語る証左といえると思います。そうした名手とレーベルとの信頼あればこそ、のバッハ盤が、またひとつ——1730 年代、齢40 を過ぎた頃から徐々に書きためていた、自らの鍵盤技法のすべてを総括しようとする自費出版曲集シリーズの第3集目「鍵盤練習曲集 第3巻」を、上述のトッカータ集を成功させたレオン・ベルベンの演奏による歴史的銘器の響きで!

 バッハの時代、専門職の鍵盤奏者といえば、それはたいていの場合(貴族社会という、限られた勤め口しかない職業に従事する音楽家よりもむしろ)津々浦々に無数にあった教会の専属オルガニストのこと——オルガン芸術の粋をきわめることこそが鍵盤奏者の誇りであったとすれば、チェンバロのための「パルティータ」BWV825-830 や「イタリア協奏曲とフランス序曲」など、鍵盤練習曲集シリーズを2作自費出版したあと、バッハが満を持して出版したこの「第3巻」こそは、彼にとってはいわばシリーズのクライマックスを飾る、最も気合の入った曲集になっていた...と考えられます(その後出版されたもうひとつの「鍵盤練習曲集」である「ゴールトベルク変奏曲」は「第○巻」とはしておらず、当初からシリーズの一環として構想されていたわけではなかったらしい…とも言われています)。
 ルター派プロテスタントの礼拝を踏まえ、ミサの式次第をたどりながら、そこに数々のコラールも交えつつ、さらに1曲の「前奏曲とフーガ」BWV552と、足鍵盤を使わず手鍵盤だけで演奏できる「オルガン独奏による(右手と左手のための)四つの二重奏曲」も含め、古風な伝統様式から最新のイタリアン・スタイルまで多種多様なオルガン芸術を網羅したその音楽を、レオン・ベルベンはさながら一続きの物語のようになだらかに、元歌の詩句さえ感じられるような演奏で聴かせ、つい1曲、また1曲...と2枚のアルバムを聴き進めてしまうほど。
 音色選択、コントラスト、タッチ、さながらオルガンによるオペラのようです。しかも使用楽器はバッハの活躍地からもそう遠くないところに現存する、当の曲集とほぼ同時代に作られた歴史的オルガン!古雅な響きは聴き手を圧倒する荘厳さよりもむしろ、オーガニックな温もりをたたえて心地よく響き、ベルベンの音栓選択の妙とあいまって、聴き疲れることなく深みに引きずり込まれてしまいます。
 

RICERCAR



MRIC343
(国内盤・訳詞付)
\2800+税
ジェズアルド『5声の教会音楽作品集 第1巻』
 〜見過ごされてきた、奇才晩年の「聖なる音楽」〜

 カルロ・ジェズアルド・ダ・ヴェノーサ(1566〜1613):
  『5声の教会音楽作品集 第1 巻』(1603年ナポリ刊・全19曲)
 オルガンによる独奏3編〔ジョヴァンニ・マリア・トラバーチ(1575 頃〜1647):
 酔狂なる協和/
 ジョヴァンニ・ド・マック(1548〜1614):
  オルガンによる導入曲(イントラータ)、酔狂なる協和〕
 ルッツァスコ・ルッツァスキ(1545〜1607):
  めでたし、海の星(モテトゥス)
パオロ・ダ・コル指揮
Ens.オデカトン(古楽声楽集団)
リウヴェ・タミンハ(オルガン)
アンドレア・デ・カルロ指揮
Ens.マーレ・ノストルム(古楽器使用)
 「新譜が出れば必ず売れる」の作曲家のひとりジェズアルド、さらなる新譜は昨今名盤あまた、パレストリーナ『教皇マルチエルスのミサ』でも大成功をおさめたオデカトン!
 しかもめったに録音されない「レスポンソリウム以外」の、1603年の曲集...精鋭器楽陣も交え、奇妙・玄妙に。

 高貴な身分の家に生まれ、不貞の妻を浮気相手ともども惨殺せしめたあと、晩年は強迫観念にとりつかれて怯えながら過ごしたという天才肌の貴族作曲家、カルロ・ジェズアルド——驚異的なまでに和声学を知り尽くし、他の作曲家がおいそれと手を出せなかったような驚くべき転調も大胆に盛り込んで、時には逸脱ともいえるほど奇妙な音使いもいとわず、痛烈な情感表現を体現しつづけた異才。
 もはやルネサンス末期の天才というより、バロック最初期の開拓者と言っても過言ではないこの謎めいた芸術家、昨年はその歿後400 周年ということで、かの名匠ヘレヴェッヘによる『聖週間のためのレスポンソリウム』全曲録音(LPH010・『レコ芸』特選)や失われた『教会音楽作品集 第2巻』録音の試みなど、音盤シーンにもひそかに再評価の革新がもたらされつつあったところ、イタリア古楽界でもとりわけルネサンス期のハイ・ポリフォニー芸術の再解釈ですぐれた実績をあげつづけている声楽集団アンサンブル・オデカトンが、思いもかけない新名盤を世に送り出してくれました!

 『教会音楽作品集第1巻 Sacrarum Cantionum』…そもそもジェズアルドは上記のような話題性に事欠かない生涯とあいまって、ひとの主観的な心に切り込んだ俗世向けのマドリガーレの数々(なにしろ全6集もあります)と、罪深い人生を悔い改める内容の教会音楽「聖週間のためのレスポンソリウム」だけが飛びぬけて有名で(後者もまた、ジェズアルドの人生と切っても切り離せない“俗世的な物語性たっぷりの”曲集としてどこか特別扱いです)、ルネサンス期ならではの多声芸術の主要ジャンルだったはずの教会音楽全般について、まとめて着目される機会はあまりないところ。しかしそもそも16 世紀イタリアの作曲家は「教会音楽を書きこなしてこそ」、つまり教会音楽は礼拝のための音楽だった一方、知識人たちが最も高度な音楽知をぶつけ、味わいつくすためのジャンルでもあったわけで、作曲家たちはこの分野でこそ、自らの至芸の最も深い部分を託してきたのですから(いわば、後代における交響曲や弦楽四重奏曲のようなジャンルだったわけですね)、教会音楽にこそジェズアルドの真髄が発揮されている!と考えてもよいはず。
 事実、そこには彼ならではの不協和音ぶくみの痛烈な音楽が、教会の祈りのさいに歌われたら誰もが正気を保てないのでは?と思えるほどの表現力とともに織り上げられているのです。現存する手稿譜史料と徹底して向き合い、独自の演奏譜を起こしたパオロ・ダ・コルは、信頼のおける共演者として実力派集団マーレ・ノストルムのガンバ合奏を折々に頼り、教会というよりもジェズアルド自身のプライヴェート空間で行われていたであろう演奏を念頭に置きながら、その本来の姿を「いま」に甦らせてくれました。
 しかもオルガンにはさりげなく巨匠タミンハの名が…解説(全訳付)まで含め、隅々まで妥協のない本格古楽盤なのです!

SONARE



SONARE 1025
\2400+税
ヴォルフガング・ダヴィッド&梯 剛之 デュオ ・リサイタル2013
 モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ト長調 K.397 (373a)
 シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ イ長調「二重奏曲」 イ長調 Op.162 D.574
 ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 Op.47「クロイツェル」
ヴォルフガング・ダヴィッド(ヴァイオリン)
梯 剛之(ピアノ)
 今、再注目されている梯 剛之と俊英ヴォルフガング・ダヴィッドがヴァイオリン・ソナタの名曲に挑む!

 録音:2013 年12 月18 日/JT アートホール アフィニス(東京)/DDD、60’17”

 今、再注目されているピアニスト梯 剛之。その研ぎ澄まされた耳で、繊細かつ独創的なタッチで演奏し、その音色で聴衆を虜にします。2014 年6 月に発売された「梯剛之 ピアノ ・リサイタル2013」(SONARE 1023)では、レコード芸術2014 年8 月号で特選盤となり、ショパンのバラード全曲、リストのピアノ・ソナタの熱演ライヴで高い評価を得ました。
 注目の新譜は、世界の著名なオーケストラと共演しソロのリサイタルも積極的に行っているヴァイオリニスト、ヴォルフガング・ダヴィッドとの共演盤です。ウィーンに学び長く暮らした梯と、オーストリア出身のダヴィッドは2013 年にオーストリアで出会い、お互いの音楽性に感銘を受けすぐに意気投合。まるで古い知り合い同士のような緊密なアンサンブルを織りなします。今回収録した作品はクロイツェル・ソナタを主軸にモーツァルト、シューベルト、ベートーヴェンの各作品の本質に迫る演奏を披露しております。今後、このデュオの活動にも注目と言えましょう。

 梯 剛之(ピアノ)
 1977 年8 月2 日、音楽家の両親のもと東京に生まれる。90 年ウィーン国立音楽大学準備科に入学、Elisabeth Dvorak=Weisshaar 教授に師事。94 年チェコの盲人弱視者国際音楽コンクール、ドイツのエトリンゲン青少年国際ピアノコンクール(B カテゴリー)で参加者中最年少で優勝、豊かな音楽性を認められる。 95 年アメリカのストラヴィンスキー青少年国際コンクール第2 位。97 年村松賞受賞。98 年ロン・ティボー国際コンクール(パリ)第2 位およびSACEM 賞(リサイタル賞)、シュピオンボノー財団賞を受賞。 99 年都民文化栄誉章、出光音楽賞、点字毎日文化賞をそれぞれ受賞。
 2000 年ショパン国際コンクールワルシャワ市長賞受賞。現在までにプラハ響、国立サンクトペテルブルク響、フランス国立管、ドレスデン歌劇場室内管、ザルツブルク・モーツァルテウム管、マーラーチェンバーオーケストラ、スロバキア・フィル、仏国立ロワール管、オストロボスニア室内管、ロイヤル・ストックホルム・フィル、N 響、読響、新日フィルなど数多くのオーケストラ、小澤征爾、ジャン・ フルネ、ガリー・ベルティーニ、ユベール・スダーン、アラン・ギルバート、小林研一郎、ゲルト・アルブレヒト、ファビオ・ルイージ、ダニエル・ハーディン グら数多くの指揮者と共演した。またライプツィヒ弦楽四重奏団とも重ねて共演している。

ZIG ZAG TERRITOIRES



ZZT060501
(国内盤)
\2800+税
シューベルト フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ(ソナチネ)4編
 シューベルト(1797〜1828):
  1. ソナタ イ短調 D 385/Op.posth.137-2
  2. ソナタ ニ長調 D 384/Op.posth.137-1
  3. ソナタ ト短調 D 408/Op.posth.137-3
  4. ソナタ イ長調 D 574/Op.posth.162
ヨス・ファン・インマゼール
 (fp/ウィーンのJ.フリッツ1814 年製作モデル)
ミドリ・ザイラー
 (vn/ウィーンのF.ガイセンホーフ1814 年製作)
 作品ができたばかりの頃、同じウィーンで作られていたピアノとヴァイオリンで。
 「ピアノとヴァイオリンのための」と題されていることと、シューベルトならではの「うた」の感覚。
 異才ファン・インマゼールとザイラーが徹底的に作品と向き合ったみずみずしき名盤、再上陸!

 Zig-Zag Territoires の過去の名盤のいくつかはすでにプレス切れで再プレス未定・・・、臍をかんでいたアルバムもいくつかあるのですが、幸い一定の在庫量が最近また確認されたタイトルのなかに、この決定的名盤があることに気づかされました。
 ムソルグスキー『展覧会の絵』(ZZT343)。
 古楽器演奏のさらなる限界を突き抜けたところを立証、ライヴでもドビュッシーやガーシュウィン、プーランクなど20 世紀作品を続々“当時の楽器”で手がけてきた古楽器演奏の才人ヨス・ファン・インマゼールが、もともとフォルテピアノ奏者として古典派〜初期ロマン派の作品解釈にも桁はずれの適性をみせる本物の古楽器奏者だったことをあらためて印象づけてみせた、ひそかに革命的ともいえる名盤でございます。

 否、このアルバムはファン・インマゼールひとりの功績ではなく、彼の楽団アニマ・エテルナやベルリン古楽アカデミーなどでコンサートマスターを張ってきたバロック・ヴァイオリンの名手、ミドリ・ザイラーの存在あればこそ、の快挙——シューベルトの作品のなかでもあまり光の当たることのない、ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(近代以後の楽譜では「ソナチネ」としてある例がほとんど)と真正面から向き合った傑作盤!
 なにしろ使用楽器はヴァイオリンもピアノも1814 年製、つまりこれらの作品が書かれる1、2年前に、シューベルトが暮らしていた街ウィーンきっての名工が手がけた楽器なのです。
 まだ「歌曲王」として名をはせる直前、学生時代に兄フェルディナントの弾くヴァイオリンと室内楽を愉しむために書かれたであろうと推察されているごく私的な曲ながら、そこにはすでに、ハイドンやモーツァルトの交響曲などウィーン古典派の傑作群に親しんでいた彼ならではの、ソナタ形式の粋をよくとらえた堅固な曲作りがみられるだけでなく、後年の歌曲群にも通じる「うたごころ」を、ヴァイオリンという楽器のありようにうまく合致させた、みずみずしい音の流れがあふれかえっています。
 ミドリ・ザイラーが使っているのは、ストラディヴァリの模作にもすぐれた手腕を発揮した「19 世紀の古楽器製作家」ガイセンホーフの銘器。ガット弦の使い方や当時のヴィブラート(古楽器演奏だからといって全てヴィブラートをかけない、というわけではないことはいまさら繰り返すまでもありません)の使い分け、運弓の妙技など、この演奏に比類ない存在感と説得力を与えている当時のヴァイオリン奏法についても含め、解説も充実(もちろん日本語訳付)。

 そして当時のヴァイオリン・ソナタがみなそうであったように、これらの曲の「主役」はあくまでピアノのほう——この時期のウィーンにいた人たちが「これがピアノというもの」と理解していたであろう音を念頭に置いてシューベルトが作曲したとすれば、ファン・インマゼールが1814 年製の楽器から導き出す音の妙こそ、まさにこの作曲家の若き日の霊感そのものではないか...と思えてなりません。曲の優美さ、心情表現の光と影とあいまって、本当に深く傾聴しつづけたい1枚です!
 


ZZT060301
(国内盤)
\2800
モーツァルト ザルツブルクの管弦楽の彩り
 〜セレナータ・ノットゥルナ、カッサシオン第1番、コンチェルトーネ〜

モーツァルト(1756〜1791):
 1.セレナード第6番 ニ長調 KV239
  「セレナータ・ノットゥルナ」
 2. カッサシオン第1番 ト長調 KV63
 3. コンチェルトーネ(大協奏曲)ハ長調 KV190
  〜2挺のヴァイオリン、オーボエ、チェロと管弦楽のための
キアラ・バンキーニ(vn・指揮)
アンサンブル415(古楽器使用)
アマンディーヌ・ベイエール、
ダヴィド・プランティエ(vn)
ガエータノ・ナジッロ(vc)
ジル・ヴァンソン(ob)
 古楽器演奏の一大拠点、バーゼルに集う名手集団アンサンブル415が残した隠れ名盤!
 ヴァイオリン独奏の艶やかさ、ティンパニがもたらすアクセント、演奏する喜びをひしひしと感じるアンサンブルのクオリティ。バンキーニ、ベイエール、ナジッロ...名手たちと、名曲と秘曲とを!

 世界各地から、本格的な古楽器演奏を学ぼうと腕利きの俊才たちが続々と集まってくるバーゼル・スコラ・カントルム。そこで2010年までヴァイオリン科の主任教授をつとめながら、すぐれた門弟たちの意見にも積極的に耳を傾け、通念を常に疑い続ける新鮮な古楽器演奏を提供しつづけてきたスイスのバロック・ヴァイオリンの名匠キアラ・バンキーニ率いるアンサンブル415——バンキーニのバーゼル退役後、20年来幾多の名演をくりひろげてきたこのアンサンブルは活動を終えましたが、その最後の数年のあいだにZig-Zag Territoires レーベルに痛快な名盤をいくつか残しておいてくれたことは、音盤シーンにとってたいへん幸せなことだったのではないでしょうか。

 何より喜ばしいのは、このモーツァルトの思わぬ3曲を集めた1作がまだ注文可能だったこと(とはいえプレスが切れるのはすぐでしょうから、お早目の確保をお勧めいたします)——
 モーツァルトがまだザルツブルクで大司教宮廷の楽団に仕えていた頃、この故郷の町で作曲した3曲の(それぞれに比較的大規模な)合奏曲を、少数精鋭の引き締まった古楽器合奏で聴ける喜びぱ弦楽合奏と四つのソロ弦がティンパニとともに盛り上がりを作る「セレナータ・ノットゥルナ」、2挺のヴァイオリンにチェロとオーボエがソロをつとめる「大協奏曲」、そしてヴァイオリン独奏楽章だけが単独で演奏されることもある、11歳の少年モーツァルトが書き上げた充実合奏曲「カッサシオン」KV63...いずれも古楽器録音は(競合盤がなくはないとはいえ)めったに出ない作品だけに、これほど気合の入った充実解釈、名手揃いの楽団の演奏で聴けるのはたいへん嬉しいかぎり(本当にプレスを絶やしてほしくない1枚)。

 主宰者バンキーニの「さすが」と聴きほれずにはおれないソロもさることながら、すでに自身のアンサンブル「リ・インコニーティ」を立ち上げている俊才アマンディーヌ・ベイエール、名盤あまたの多忙なバロック・チェロ奏者ナジッロら、他のソリストも俊才揃いぱ作曲当時のようすを的確に伝える解説も充実(全文日本語訳付)。

 痛快なナチュラルホルンの響きやティンパニのアクセント、弦音の交錯など聴きどころ満載の名演、じっくり向き合い続けたい逸品。
 


ZZT050502
(国内盤)
\2800+税
※輸入盤発売済
インマゼール/シェヘラザード
 リムスキー=コルサコフ(1844〜1908):
  ①組曲『シェヘラザード』op.35
   ミドリ・ザイラー(ヴァイオリン独奏)
  ②序曲『ロシアの謝肉祭』op.36
 ボロディン(1833〜1887):
  ③交響詩『中央アジアの平原にて』
  ④歌劇『イーゴリ公』〜ポロヴェツ人の踊り
ヨス・ファン・インマゼール指揮
アニマ・エテルナ管弦楽団(古楽器使用)
 「チャイコフスキーやヨハン・シュトラウスとも明らかに違う、新たなオーケストラ」とインマゼールが驚き、そしてその全貌を古楽器演奏できわめつくした19世紀ロシア音楽の傑作名盤、解説付仕様で待望の復活。
 やがて『春の祭典』にいたる足跡、圧倒的な求心力で...ムソルグスキー&ラヴェルの『展覧会の絵』を、20 世紀初頭の楽器や演奏スタイルをふまえた“古楽器演奏”でとてつもない名演に紡いだ最新盤も大好評のアニマ・エテルナ・ブリュッヘ。他方、同じくピリオド楽器を用いて1900 年前後の音楽をばっさばっさと脱構築しつづけるレ・シエクルによるストラヴィンスキー『春の祭典』も痛快なまでに話題をふりまいているところ、折しも東京では『バレエ・リュス展』などという音楽好きも垂涎なイベントが開催され、大好評を博している2014 年夏——
 そんな折に、この決定的名盤を埋もれさせておくわけにはいかないひと、ここに『シェヘラザード』をはじめとするロシア国民楽派の決定的作品群を集めたインマゼールの痛快盤を完全日本語訳解説付でお届けする次第でございます。
 そもそも20世紀のうちから他の誰よりも早く『冬の旅』やドビュッシーのピアノ作品などを“当時のピアノ”で録音、自ら信頼できる演奏家仲間たちとモーツァルトのピアノ協奏曲の古楽器録音にも乗り出し、さらに21 世紀に入るやヨハン・シュトラウス、チャイコフスキー...と、それまでまさか“当時の楽器”で演奏されるようなことがあろうとは多くの人が全く予想もしていなかった19 世紀後半のレパートリーを続々古楽器録音するなど、インマゼールはつねに“作曲家が知っていた当時の楽器やオーケストラの響き”を追求しつづけてきたわけですが、その彼が(欧州の経験ゆたかな古楽器奏者たちともども)苦戦を強いられ、時にはまったく先入観にとらわれない新しいアプローチも工夫するなどしてきたのが、このロシア国民楽派アルバムだったとのこと。解説にも「私たちは全く新しいオーケストラ(語法)をそこに見出し、新たな課題をいくつもクリアしなくてはならなかった——
 そしてそれをやりとげた、と自信たっぷりに書いているくらいですが、実際そのサウンドの圧倒的な求心力ときたらひ艶やかなガット弦で綴られる「シェヘラザード」のヴァイオリン独奏はいうまでもなく、管楽器のソロの玄妙さ、強烈なリズムを整然と刻みながら、端正であるのに驚くほどエモーショナルな「曲そのものから漂う民俗情緒」をさりげなく鮮烈に浮き彫りにしてゆくその演奏には、まったく息をのむばかり。インマゼール自身のプログラムノートも含め、解説日本語訳も読みどころたっぷり…よく知っていたはずの名曲の魅力のありようを一新する、19 世紀そのままの響き!
 今こそ聴き深めたい1枚なのです。
 


ZZT090501
(国内盤)
\2800+税
ダングルベール:クラヴサン曲集
 〜太陽王ルイ14世のもとで フランス・クラヴサン楽派の精髄〜
ジャン=アンリ・ダングルベール(1629〜1691):
 『クラヴサン曲集』(1689)より
 ①組曲 ト長調
 ②組曲 ニ短調
 ③組曲 ト短調
ローラン・ステヴァール(cmb)
使用楽器:
リュッケルス1638年製プチ・ラヴァルマン・モデル
 フランス流儀のクラヴサン(チェンバロ)音楽”の精髄が、最も端的に示された傑作曲集——
 フランス古楽界の最先端で多忙な活躍を続ける名手ステヴァール、コントラスト鮮やかな名演でその真価をみずみずしく「いま」に甦らせる。Zig-ZagTerritoires古楽系の見過ごしがたい1枚!

 丁寧なアルバム作りで「小規模レーベルの革命」と絶賛されたAlpha レーベルの創設者が、21 世紀初頭のインタビューで「いま一番気になる同業レーベルは?」との質問にさいしZig-Zag Territoires をあげていたのが、今から10 年ほど前のこと——それから時は過ぎ、このレーベルは今やharmoniamundi france にも追い迫らんばかりの勢いで、インマゼール、リュビモフ、ベルチャ四重奏団、F-F.ギィ...とシーン最前線の異才たちの傑作盤を数々と世に送り出し、小規模制作の最先端をゆく、押しも押されぬ強力レーベルになってしまいました。
 そんな躍進の一因には、このレーベルが21 世紀最初の10 年間、とりわけ欧州のすぐれた古楽系の演奏家たちを熱心に支えつづけたこともあったに違いありません。なにしろフランスは2000 年前後くらいから欧州随一の古楽先進国となり、歴史ある批評誌『Diapason』の特選盤(ディアパゾンドール)の8割近くが古楽系アイテムで占められることも珍しくなかったところ、Zig-Zag Territoires は古楽系の俊才が集うサブレ音楽祭とも連動しながら音盤制作を進め、シーン最前線の名手の企画をいくつも音盤化し、高評価を勝ち得てきた実績があったのです。
 そうした快進撃のさなか、フランス・バロックの歴史の核ともいえるレパートリーがいくつか、注目度の高い新旧世代の演奏家によって丁寧に音盤化されているところ、今回ここにご紹介するのは、フランスとベルギーを中心に通奏低音奏者としてさまざまなアンサンブルから引っ張りだこの多忙な活躍をみせるフランスの俊才、ローラン・ステヴァールのダングルベール・アルバム。
 ダングルベールはルイ14 世のオーケストラで初めて本格的にイタリア風の通奏低音奏法をこなせる人材として重宝がられ、古来の弾き方にこだわった先輩シャンボニエールを追い落として王室の寵を得た「たたきあげ」の実力者—-フランスものを弾く古楽鍵盤奏者が必ず通る重要な作曲家のひとりですが、ステヴァールほどの腕利きが、心ある鍵盤製作家によって丁寧に再現製作された名器で綴った録音は実に魅力的、決然とした調べもしなやかな歌心も思いのまま、音量変化のないクラヴサン(=チェンバロ)という楽器での演奏なのを忘れさせるほど繊細なニュアンスの妙がたまりません。
 解説日本語訳付、フランス・バロックの魅力をあらためて思い知る、本格派の1枚なのです!



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