起きた。
3時。でも結構寝た。起きて書き物をして、今日の準備を始める。
今日はある意味今回の旅行の中で一番大変で、一番不安な、そして期待の1日。
これまではずいぶん快適な旅だったが、それほど無茶はしない行程だった。しかし今日はかなり無茶な行程。旅行代理店の人に今日の日程を伝えたら、「ま、ま、まあがんばってください。なんとかなるでしょう。」と言われた。
1日でベルガモとクレモナを回るのである。ベルガモはミラノから50キロほど離れたところに、クレモナはミラノから100キロほど離れたところにある。それぞれ別の路線上にあるので、まずベルガモに行っていったんミラノに戻り、またミラノからクレモナに行く、という行程である。東京から日光東照宮に行って、横浜中華街も行く感じか。大阪から有馬温泉に行って奈良の大仏も見る感じか。名古屋から犬山城に行って浜松のうなぎを食べに行く感じか。往復時間が長いこと、電車がそんなに通っていないことからかなりタイトなスケジュール。電車が遅れたりしたらかなりやばい強行軍である。
・・・しかし今回の旅行の目的は、イタリア・バロックから古典派への最大の源流となった北イタリアを肌で感じること。そのためにはすでに当時の面影のない現代の都会を回るのではなく、田舎街を散策する必要があった。そうした昔のイタリアの雰囲気を今でも持つ小さな街を実際に体感したかったのである。
ということで用意万端にして6時に出発!
しかし6時というとまだ真っ暗。しかも中央駅近辺はドゥオーモ以上に怖い人が多い。ここは相当気をつけていかないと。今日の目標(?)のひとつは・・・無事に生還すること。夜の9時に無事にホテルにたどりつけるか。
地下鉄に乗って中央駅へ。人はまだまばら。そんなに危険な人もいない。悪い人は早起きしないか?
2階の列車ホームへ。昨日も来たがでかい。このミラノの中央駅は歴史あるホームで、よく映画とかでも出てくる。でも今は大規模改修工事中。
ちょっと早く来すぎた。まだ出発時間まで1時間もあるよ。
出発電光掲示板にもまだベルガモ行きの電車は掲示されてない。イタリアの電車は出発直前まで何番線から出発するかわからないのだ。最悪出発の10分前とかいうこともあるので、じ〜っと掲示板を見てないと乗り遅れてしまう。でも1時間前から見てる必要もない・・・。
けど、変にうろうろするのも怖いし、とにかくひたすらじっとハチ公のように掲示板の前でベルガモ行きの電車が掲示されるのを待つ。
危ない連中も少しずつ増えてきた。物乞いや路上パフォーマンスの人も出てきた。
店主もヴァイオリンと空き缶でもあれば、時間もあるし、そのへんで日銭でも稼ぐのだけど。ただ残念ながらヴァイオリンはない。それにもっと残念ながらヴァイオリン、弾けない。
さて、出発の15分前、ようやくベルガモ行きの電車の詳細が出る!15番線!
列車の前に列車番号、ベルガモまでの駅名、それぞれの到着時間とか書いてある。ベルガモは終点だから何も迷うことはない!大丈夫!
ということで電車に乗って無事出発!!
天気は残念ながら曇り。雨が降ってもおかしくない。今日は高台に上がるので晴れると良かったのだけど・・・残念。
天気が良くないというのもあるけど、昨日の路線も今日の路線も、それほど素敵な車窓が拝めるという感じではない。
電車は普通列車。まあ可もなく不可もなく。
斜め前に白人カップル、斜め後ろに黒人3人親子。途中通学時間にぶち当たったらしく高校生軍団がどどどっと押し寄せる。その彼らがどどどっと降りてからしばらくして、いよいよベルガモに到着。
あらま、思ったより都会。しかも通勤時間。駅の構内も駅前もすごい人。観光都市という風情はない。
ちょっとイメージと違うな。
いずれにしてもこのラッシュが終わらないとバスのチケットが買えそうな状況じゃない・・・。
ちょっと待って人がすいてきたのでようやく落ち着いてタバコ屋で1日バス・チケットを買う。これさえあればバスも、それからフニコラーレというケーブルカーも1日乗り放題。
さて、ここから「アルタ」という高台の街に向かうのだ。
ベルガモは変わったところで、このあたりは普通の半・都会で観光的に見るものはあまりないのだけれど(探せばいろいろあるらしいけど)、バスで20分ほど行ったところにある高台の「アルタ」地区は、城壁に囲まれた、中世の雰囲気をそのまま残した街。まさにタイムスリップしたかのような街らしい!
そこでドニゼッティも生まれたが、古きイタリアを肌で感じるのにこれほど好都合な場所はない。最近では空港もできて、他のヨーロッパからもたくさんの観光客が来るようになったらしい。
ということでさっそくそのアルタに向かいましょう!バスは1番線か2番線に乗れば漏れなく着けるはず。
アルタのふもとで降りて、そこからフニクリフニクラ・・・じゃない、フニコラーレというケーブルカーに乗って上まで行くのだ。なんか素敵。
バスに乗ると運転手さんに「フニコラーレ?」ときいて、確認。そうだよ、と優しく教えてくれる。運転手さんの隣に座って、暗に「着いたら教えてよ」というアピール。
10分ほど行くと大分町外れに。そのずっと先の山腹にアルタらしき城壁が見えてきた。おお。ここまではちょっとくたびれた街だったが、ようやくにぎやかなところが見えてきた。
で、そのにぎやかなところにバスは停まる。
ん?ここかな?フニコラーレ乗り場停留所。
・・・でも運転手さんは何も言わないし、違うか。
ブーンとバスは出発。
すぐにまたさびれたところに。
・・・でも・・・今の停留所、やっぱりフニコラーレ乗り場の停留所だったんじゃないのかな??
運転手さんは何も言ってくれなかったけど、あのにぎやかしさは、松山のお城のロープウェー乗り場ととっても雰囲気が似てた・・・ということはやっぱりあそこがフニコラーレ乗り場だったんじゃないのか!?
ぐえ!!乗り過ごした!?
信号で停まったときに、おそるおそる運転手さんに聞く。
「さっきのフニコラーレ?」
そうしたら運転手さんが、ぎょっとお化けでも見るような顔をして、「うわ、おまえまだいたのか!」。
・・・あああ、やっぱりさっきのがフニコラーレ乗り場だったんだ。
でも運転手さんが言うには、このバスの終点はアルタだから、最終的にはアルタには行けるから心配しなくていい」とのこと。イタリア語なのでほとんどわからないが、目がそう言っている。そうか、なるほど、じゃあこのまま乗ってればいいか。
そうしてバスは運転手さんの言葉を裏打ちするように、城壁沿いに道を登り始める。景色がだんだん観光地っぽく変貌していく。
ぐんぐん緑いっぱいの古い坂を上がり、バスはついに終点へ。
ここがアルタだ!
運転手さんはさらに親切にあっち行ってこっち行ったら中心地に行けるよ、と教えてくれた。イタリア語なのでほとんどわからないが、目がそう言っていた。
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さて、アルタ。運転手さんが行ったように、アルタ地区の一番奥の外側が終点。そこからちょっと道を歩いてアルタの中に入る。
がらっと風景が変わる。
地面は石畳。家は中世の古い建物。曇りの天気が、中世の街の雰囲気を盛り上げる。
10分ほどその街並みを歩くと教会前の広場に出る。その奥に有名な礼拝堂や教会があるはず。
背の高いのっぽの建物を横手に見ながら、広場の奥へ行くと、そこにちょっとした礼拝堂が。
そして目の前にサンタ・マリア・マッジョーレ教会と横にドゥオーモがそびえている。もちろんミラノなどに比べると本当に規模は小さいのかもしれないが、街自体が小さいだけに荘厳に思える。 |
・・・と、教会の横に、数段の階段があり、その上に薄暗い入り口が見える。なんだ?何の施設だ?入っていいのか?
門もないし、入っていけない雰囲気でもないし、いいや、行っちゃえ。
階段を上がると、真っ暗な小部屋。別に何もない。でも奥があって、そこから通路が延びて、そこは近代的な建物につながっている。行っていけない雰囲気でもなさそうだし、行っちゃえ。
ドアを開けると、いかにも役所的な施設。
さらに奥へ行くと、事務所が出てきた。その事務所の前にショーケースがあって、ベルガモを紹介するようないろいろなパンフレットや書籍が並んである・・ということはひょっとして・・・ありました。CD。
何と書いてるのかわからないけど、とにかくCDだ。地元特産の貴重な演奏かもしれない。
で、いきなり事務所の窓口に行って、「あい・わんと・でぃす・CD」と、窓口のお姉さんに言う。
お姉さん、忙しいのか忙しいふりをしているのか、なかなか応対してくれない。5分ほどしてやっと話ができたと思ったら途中で電話がかかってきて、また5分ほど待たされる。ようやく電話が終わってやっと話を聞いてくれるが、「調べてみる」というようなことを言ったきり、また5分ほど待たされる。なんだかうまく通じてない感じ・・・。まあこっちも下手な英語ではあるけど、向こうもなんか言ってるがわからん。
「いや、わからないんだったらあきらめるよ、じゃあね」と言うのだが、でも「待て」、という。
ふと見ると何かパソコンに打ち込んでる。なんだ?
翻訳ソフト。
エ?
英語に訳している。
・・・ま、まさか・・・ひょっとして?
そう。英語が話せないのだ。
店主は、日本人以外の世界の人はみんな英語がしゃべれると思っていた。それは極端としても、ヨーロッパの人はみんな英語がしゃべれると思っていた。・・・しかし違うのだ。イタリアでもここまで田舎に来ると片言の英語も通じないのだ。
とすると下手な英語しかしゃべれん日本人と、英語がしゃべれないイタリア人とで会話が通じるはずがない。
でもまあここまでくると得意の宇宙言語とリアクションでもう一度説明する。「あのCDくださ〜い。」
すると、ようやく、「誰かに聞くからあと15分ほど待ってほしい」、と言っているのがわかった。なので、「あと30分したら戻ってくる」、ということを身振り手振りで話して、そこを立つ。
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さて、ではいよいよ本格的にアルタ探索。
まずは一番の見所であるサンタ・マリア・マッジョーレ教会とコッレオーネ礼拝堂。
どちらもほぼ無人。厳かで、でも親近感の湧く室内。あまり長居はできないのが残念だが、お祈りをして後にする。
続いてドゥオーモを見学。
これがまたどちらもひっそりとしていて、素朴な感性がなんともいえない。
こんな田舎の街でもここまでしっかりした教会がきちっと存在しているというのがまたすごい。
本当に時間に余裕があればいつまでもいたくなる感じなのである。 |
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そこから今度は裏手にあるドニゼッティ博物館に向かう。こうした博物館は、たいていひなびたがっかりするようなところが多くて、珍しいCDがあるということはめったにないのだが、でも何かあるかもしれない。
残念ながらやっぱり何もなかった。
展示物も残念ながら勉強不足でよくわからんかった。10分ほどで出てしまう。すみません。
ドニゼッティの生家ではないが、でもどういう雰囲気の家で、どういうような雰囲気の部屋で、当時の作曲家が活動してたかはわかったような気はする。 |
さあ、30分経ったので、さっきの事務所に行ってみましょう。
窓口でさっきの女の子に「戻ってきたよ」というと、中に入れといって、事務所入り口のオートロックを開けてくれる。
で、中に入る。
でもどこに行けばいいのかわからん。
窓口の子に「どこ行けばいいんですか?」と聞くと、電話しながら「あっち」と指差される。よくわからんが、「あっち」に行ってみる。
その「あっち」の部屋の扉を開けると事務所のオフィスに出る。
中に入ると、きょとんとした顔のイタリア人が4人ほどぽかんと口をあけて店主を見ている。・・・窓口の女の子が彼らに何の説明もしていないのは明らかだった。
そしてその4人の前で、「私は事務所前のショーケースの中に入っているCDがほしいのデース」というのを5分ほどかけて説明する。最初はピエロでも見ている顔つきだったが、ようやく一人の人がハタとひざを打って、どこかからそのCDを持ってきてくれた。まるでほとんど連想ゲーム。
お金を払って、念願のCDをもらい、ようやくコトを果たしてその不思議な建物を出る。
なんだか釈然としない気持ちもあるが、まあこうしてCDが手に入ったからいいか。
でもいったい何のCDなんだろう。作曲家や演奏家は知っている人なんだろうか。
ん・・・・?CD−ROM??
ゲ、こ、これは・・・ベルガモの観光用PRのCD−Rだった。ぎゃー!だまされた!!!金と時間と労力を返せ〜!!
・・・はぁはぁはぁ・・・。
でもまあこれはこれで珍しいし記念になるからいいか。
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ということで、気を取り直して、街一番の高さを誇る市の塔を探す。
どこだろう?街一番の高さというからわかりそうなものだが。
結局わからないのでガイドセンターのところに行ってそこにいるきれいなおばさんに聞く。すっごい親切に教えてくれる。でも「市の塔に行きたい」と説明するのに3分くらいかかる。いや、何をするにもなかなか大変。
ようやく伝わって地図で説明してもらうと、あら、なんだ、さっきいた広場ののっぽの建物だった。しかも地図に大きく書いてる。なんじゃ。
で、そこまで行くが今度はその建物の入り口がわからん。
2階に上がる階段があって、その上に地元っぽいおじちゃんがたむろしているので、階段を上がって「市の塔、どこですか〜」と聞くといっせいにみんなが教えてくるが、みんながいっぺんにしゃべるからよくわからん。満面の笑みを浮かべて「グラッチェ」とお礼を言いながら階段を下りるが・・・全然わかってない。あはは。
なんだか1階がどうのこうのと言ってたが・・・。 |
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あ、なんかそれらしい入り口が奥にあるぞ!
そこに行くと、おお、あったあった、塔の頂上に上がるエレベーター乗り場。何がしかのお金を払って、エレベーターに乗る。ウィーン・・・・。
ほおほお、アルタ一帯が見渡せる眺望。高いとこマニアにはたまらん。
そして曇り空なのが残念だったが眺めを堪能すると、次なる場所へレッツ・ゴー!
次は・・・サン・ヴィジリオの丘!
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アルタの街から出て城壁を抜け、またもやフニコラーレに乗って到着するとそこがサン・ヴィジリオの丘というところなのである。その名のとおり丘。そこまで登るとアルタはもちろん、ベルガモ市街まで見下ろすことができるという!
アルタの街を出て、しばらく歩き、さっき乗れなかったフニコラーレというケーブルカー(登山電車)に乗り、5分ほどかけてぐんぐん丘を上っていく。緑の急斜面の雰囲気は、日本の観光地のケーブルカー周りと同じ。
フニコラーレを降りると、アルタの街とも違う、高級別荘地という雰囲気。広々としてゴージャスな感じが漂ってる。ここまで来るとほとんど人もいないし。ただ、残念なのはせっかくここまで来たのに曇り空であまり遠くまで景色が見渡せないこと。これが晴天だったらさぞかし美しいだろうなあ・・・。
さて、ここからさらに徒歩で10分くらい行くと城跡がありちょっとした展望スポットになっているとのこと。さっそく行ってみよう!
・・・と探すこと15分・・・どこまで行ってもそれらしきところはない。そこはそこで美しいところだが、城跡らしきものはない。
地図をもう一回見てみると、どうやらまた一番最初に踏み出した方向が間違っていたらしい。
あはは。 |
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何もなかったような顔をしてもと来た道を戻って、駅の反対方向の道を歩いていくと、なんてことない、すぐにそれらしい城跡公園が。
ちょっとした階段を登ると、おおお、頂上は素敵な広場。確かにベルガモ全体が見渡せるような按配。天気が良ければ。・・・でも今でも十分素敵な景色。
少し一休み。
さて、帰りの時間が気になってきた。そろそろ帰ろうかな。
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広場をぐるりと一周して、もと来た道を帰ろうとしたら・・・あやや、なんか不思議なちょっと怪しい階段が下に下りている。なんか下にお墓でもありそうな雰囲気・・。でも変なところに出て戻ってこられなくなったらもう時間がない・・・。
・・・けど行ってみたい・・・。
ここで行かなかったことを日本に帰ってから後悔するくらいなら、やっぱり行ってやろう!
ということでその怪談っぽい階段を下りる・・・。
と。
城跡公園の入り口に着いた。あはは、近道だった。
よし、じゃあ、フニコラーレ乗り場に急ごう。
5分ほどでフニコラーレがやってくる。わずか30分ほどの滞在だったけど、なんだか不思議な体験。素敵なところだった。また来られるかな、サン・ヴィジリオの丘! |
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サン・ヴィジリオの丘から下りてきたら、今度はまたアルタの道を横断闊歩。
見慣れた中世の街並みを抜けて、行きに乗られなかった、ベルガモ市街とアルタを結ぶフニコラーレ乗り場に向かう。途中、普通の人なら絶対間違えないだろう、というような道に迷い込んだりするが、もうそれも慣れっこで、ようやくフニコラーレ乗り場に着く。
イタリア人母子2組のにぎやかな集団も乗せて、フニコラーレはスイーっと順調に降りていくと、もうそこでベルガモ行きのバスが待ってる。駅までバスでベルガモ市街を通っていくが、さっきも言ったようにアルタを出てしまうと本当にただのすすけた街。日本の中小都市とまったく一緒。
そして無事駅に到着。
ミラノ行きの電車が出発するまでもう少し時間がある。
ベルガモには有名な名物料理があるらしいが、それを食べてる時間はない。でもここで何か食べておかないと、今日のスケジュールには食事の時間は一切含まれてないのである。じゃあ、今の間になんか食べよう。なんか売ってるところは・・・あ、マックが。・・・いや、でもそれはあんまりだ。
と、そこにトルコ系の屋台が。シシカバブとかそういうやつだ。いいじゃない。
とくに椅子とかないから屋台のすぐ横で食べる。おいしい。ベルガモで、シシカバブに、かぶりつく。なんか語呂がいいね。
さて食べつくして駅に戻る。手がべとべとなのでトイレで手を洗って構内へ。
ベルガモは始発なのでもう電車が来てる。2階建て電車なのでせっかくだから2階に!本当はビールでも飲みたいところだけど、今日はチョンボは許されないので最後にミラノのホテルに着くまでは我慢すると決めたのだ。えらいでしょう??
そして電車は定刻通りベルガモを出発。定刻でないとクレモナに行けなくなるから助かった・・・。
ああ、ベルガモ。
中世や近世の香りをそのまま残す不思議な街。ドニゼッティが育った、というのも重要だが、それよりもああいう街並みで昔の人たちが生活し芸術を生み出していたということが肌で感じられたというのは大きい。ベルガモは大昔はロンバルディア同盟のひとつの自治都市だったが、その後ミラノと同じヴィスコンティ家に支配された。そしてその後、遠く、あの強国ヴェネツィア共和国の支配下に置かれる。イタリアの田舎街とはいえ、街全体に落ち着いた高貴な雰囲気があるのはそのせいだろう。
数時間のタイムトリップ、でも数百年前のイタリア地方の街の空気を味わうことはできた。うれしい。
それから1時間・・・電車の心地よい揺れにちょっとうとうとしたころ、ミラノに到着。またもや雑踏と混沌の灰色の街。
さあ、でもこれからまた異空間へ出発。気分を入れ替えて、クレモナである。
クレモナ。
いわずと知れたヴァイオリンの聖地!弦を愛する人なら一度は訪れてみたいであろう街!街には今も数多くのヴァイオリン工房があり、日本人も含め現代の名匠たちが日々名器の製作に励んでいる。今回は工房をめぐる予定はないが、いつかそういう機会があってもいいかも。
さて、ミラノの中央駅で、おなじみの電光掲示板を見上げる。クレモナ行きの電車の掲示はまだない。そろそろ掲示されてもよさそうなものだが、いつまでたっても掲示されない。おかしいなあ・・・。
あ、そうか!クレモナは終点じゃないから、ここの掲示板には「クレモナ行き」とは表示されないのだ!えっと、すると、クレモナの先というと何の駅だろう・・・あ・・・これだマントヴァ。
マントヴァ。
あのリゴレットの舞台。15,6世紀はマントヴァ公国としてそれなりの存在感を放った北イタリアの地方都市。
芸術文化を愛した支配者ゴンサーガ家の庇護の下、多くの芸術家が活躍した。
実はマントヴァ、今回、最後の最後まで行くかどうしようか迷ったが、訪問を断念した街である。ベルガモ同様今でも中世・近世の雰囲気を色濃く残すという。
場所的にいうと、東から、ヴェネツィア・マントヴァ・クレモナ・ミラノとなる。だからミラノからマントヴァ行きの電車の途中にクレモナがあるわけである。ちなみに行きに通ったヴェネツィア〜ミラノ路線とはちょっと違う路線である。
ということでマントヴァ行きの電車を探す。あ、あった、あった。
・・・おっと・・・15分遅れ。しかもなかなか出発ホームが決まらん!!出発の5,6分前にようやく決まって、ひいひい言いながら、危険な連中をかき分けてホームへたどり着く。ホームの一番前に、ベルガモのときと同様、クレモナまでの駅名、それぞれの到着時間とか書いてある。今回は終点じゃないから、停車駅の名前と到着時間をメモしておく。そうしておけば、もし到着時間が遅れても、クレモナに着く前にある程度心積もりができる。
さて、時間もないし列車に乗り込もう。普通列車なのでわりと危なそうな人も多い。安全そうな旅行客っぽい人が多い車両を探して乗り込む。
さあ、出発!
少し天気が回復してきた。それに、窓からの眺めがベルガモ行きの電車よりも格段ヨーロッパの田舎の村って感じでいい。素敵な草原や、ひなびたいい感じの村々、果樹園、谷川・・・。
ところがこのあたりからいくつかの問題が頭をよぎり始める。
何回か駅に停車したんだけど、なぜか自分が乗っている車両のドアからは誰も乗ってこないし降りていく気配がない。
初めは偶然かと思ったが、ある駅ではホームから乗ろうとしたご婦人がそのドアから乗ろうとしてあきらめてわざわざほかの入り口に回っていった。
ひょっとしてあそこのドアは「開かずのドア」なのか!?これは確認しておかないと。降りようとしたら開かなかった、降りられなかった、では済まされない!
そこで次の大きそうな駅で、降りるお客さんに混じってその問題のドアの前で待機してみた。
そうしたら、駅に着いて、みんなが降りようとしたらやはりドアが開かない!「ウープフ!」と言いながら全員がドタドタと隣の車両を突っ切って、そのドアから降りていった。
・・・・あぶないあぶない・・・やっぱり開かないドアだったのだ。気がついてよかった・・・。
ただ、どうもドアは「自分で開ける式」のドアみたいで、うーん・・・もし自分ひとりだったらうまく開けられるかな・・・ちょっと心配。
そして電車は遅れることなく素敵な車窓を見せながらどんどん進む。・・・のだが、またひとつ問題が。
クレモナの一つ前の駅を定刻どおり出発したので早めにドアの前に行って待機していたら、クレモナには3時23分に着くはずなのに、3時15分にどっかの駅に着いたのである。クレモナかと思ったが、なぜか駅名看板がない。ここはどこの駅?クレモナ??だって、ほかに駅はないはず・・。しかし、なんとなく「降りちゃいかん!」、という声が聞こえて、降りなかった。
するとたまたまドアが閉まる直前に乗り込んできた青年がいたので、「クレモナ?」と聞くと「ノー、なんちゃらかんちゃら」と教えてくれた。ふー、よかった。降りなくて。
でもそこで心配が。
そうなってくると自分の知らない、掲示板には表示されていなかった駅が存在するということである。うーん・・・。
今まで細かく停車駅をチェックしていたのに、掲示板に乗っていない駅なんて停まらなかったのに。
と、思って電車の壁を見ると、新幹線とかにもよくある「電車路線図」が!
おお!
で、見てみると、クレモナと、クレモナの前の駅と思っていた駅の間に、なんと5つもの小さな駅がある!!
5つ!さっきのはそのひとつだろう・・・。
でも次の駅にたとえば3時21分に着いたとしたら、そこがクレモナかどうかわからんじゃないか!!その5つの駅に全部停まるとは限らないし!それに駅、看板ないし!!
しかもその路線図にはもっと衝撃的な事実が・・・。
なんとベルガモとクレモナを結ぶ路線が存在していたのである。
じゃあ、わざわざミラノに戻って出直した意味は!!ぎゃー!!
ま、まあ、いいか、終わったことは忘れよう・・・それより今は確実にクレモナで降りることだ。(幸か不幸かベルガモとクレモナを結ぶ路線に、ちょうどいい時間帯の電車がなかったことが精神的動揺を収めてくれたというのもある・・・)
そうしたらそこにちょっと酔っ払い風のイタリア人のおじさんがやってきた。もうすぐ降りる、という感じだ。
ちょっとこわいが、まあ聞いてみよう。
「あなたはクレモナでおりるのデスカ〜!?」
すると、「いやいや、自分はクレモナでは降りない」と言ってきた。で、「次はクレモナですか?」と聞くと、「よくわからん」というようなことを言っている。
言ってることはちょっといい加減だが悪い人ではなさそう。よかった。
そうしたら「あんたはアーティストか」と聞いてきた。クレモナにわざわざ来る日本人は、まあヴァイオリニストかヴァイオリン製作者ということなのだろう。
で、「CD屋だ」というと「ほほーん」、と言って、急に歌を歌いだした。
ひょっとしたら歌手としてスカウトしてほしいのかもしれない。
不合格。
でも性格は良さそうなのでやっぱり合格。いつかデビューさせたげます。
そうこうしているうちに、4,5人の乗客が集まってきた。中にはヴァイオリンを持った、いかにも「クレモナで降ります!」という人も!おじさんに「次はきっとクレモナだね」とささやくと「きっとそうだね」といってウィンクしてきた。
次の駅に到着。大きい。これは間違いなくクレモナだな!おじさんも「クレモナ〜」と歌っている。
どやどやとみんなと降りる。おじさんも降りてきた。おい!あんたクレモナでは降りんと言っとったじゃないかー!?
けど、親切にしてくれたから、ホームに降りてから「チャオ〜グラッチェ〜」と言って別れる。ひょっとしてついてきて悪いことするつもりなのか、とほんの一瞬頭をよぎったが、まったくそんなことはなかった。ただのイタリア風寅さんだった。
さて、クレモナ。ようやく到着。
クレモナの街は、ベルガモより全然こじんまりとしていて、街というより町、という感じ。田舎。好感が持てる。
ストラディヴァリウス博物館や、塔やドゥオーモなどがある観光の中心地には、駅前の大通りをまっすぐ行けば着くはず。
ところが距離にして500メートルほどで博物館に着くはずが、なかなか着かない。おかしいなあ・・・道間違えたかなあ・・・と思いながら歩いていると、突然反対側の歩道を歩いていた3人の高校生風の男の子の一人が突然声をかけてきた。
「ヘーイ」てな調子で。
で、ざわわざ車道を横切ってこっちまで来た。
なんじゃ?因縁吹っかけてきたにしてはずいぶん優しそうだ。なんか一生懸命説明している。例によって英語が通じない。で、向こうが言っていることもほとんどわからない。だが熱心に何か言っている。どうやら駅からバスに乗ったほうがいい、というようなことを言っているらしい。確かに楽器製作学校まで行くのであればバスのほうがいいと思うが、こっちは博物館に寄って塔やドゥオーモに行くので、わざわざバスに乗ることはない。・・・と説明しようと思うのだが、なかなか通じない。結局お互いに苦笑いを浮かべながら別れる。
さて、ところがそういいながら、お目当てのストラディヴァリウス博物館が見当たらない。
ここらじゃないかな、というところで「左に曲がれ」という看板があって左折
したのだが、そこには学校のようなところがあって自転車はいっぱい停まっているものの、博物館らしきものはない・・・。そのまま通り過ぎて次の通りまで行ってしまうが、やはり見つからない。そこでその学校のようなところまで戻ったところで、工事しているおじさんがいたので地図を見せながら、「ストラディヴァリウス博物館ドコデスカ〜」というと、3,4人のおじさんが集まってああでもない、こうでもない、と言いながら結局「あっち」のほうだろう、と教えてくれた。でもなんとなく違うんじゃないかな・・・と思いながら「あっち」のほうに向かう。やっぱり違うじゃないかな、と思ったのでおじさんたちの姿が見えなくなったところで、赤ちゃんを連れた地元の人っぽいおばあさんに聞くと・・・やっぱり・・・さきの学校のところが博物館だった。
博物館に向かうが、さっきの工事のおじさんに見られると気まずいのでこそ泥のように忍び足で前を横切る。見つからんかった、よかったよかった。どうもイタリア人、間違いなく優しく温かい人が多いのだが、ちょっといい加減なところがある。まあ、それもいいか。
ということでストラディヴァリウス博物館!!クレモナ市博物館の奥。まずはクレモナ市博物館。あまり期待しないで観て回ったが、美術品はなかなか素敵で、中でも今回のイタリアの絵画の中でもっとも印象的なものはここにあった。作者名をメモしたはずなのにどっか行った!一体誰のなんという絵なの。「天使と骸骨」?むちゃくちゃっこいい。
さて、いよいよストラディヴァリウス博物館。
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洗練された陳列台の中に、ヴァイオリンの製作工程、そしてさまざまな珍しい楽器が展示されている。
みなさんもご存知のように、アマティという人が現れてクレモナをヴァイオリン製作の第1の街にのしあげ、さらにストラディヴァリという人が現れてその栄光の頂点を迎えた。その後世界中に名工の街は現れたが、今でもヴァイオリン製作といえば、やはりクレモナの名が最初に出てくる。
そうした歴史が博物館に飾られている。ただ、世界最高級のヴァイオリンそのものは、ここではなく、塔やドゥオーモと同じところにあるコムーネ宮というところに別室として展示されている。
さて、市博物館のロビーに、売店がある。入ったときからチェックしていたがCDもある。
日本でも手に入るMV CREMONAレーベルがメインだが、それ以外にも見たことのないCDがいくつかある。それに今は廃盤で手に入らないDYNAMICの「クレモナの栄光」の豪華版CDもある!!さっそくいくつかみつくろって購入。これから先はまだ長いので帰りに買っても・・・という気もしたが、しつこいようだがとにかくその場その場で買わないといけない、というのが輸入盤の鉄則。疲れた、とかあそこのほうが安かった、というのは1週間で忘れるが、買いそびれた記憶は一生残る。ということでCD数枚を会員の方へのおみやげに、ヴァイオリンの本、そしてかばんと絵葉書を自分用に買って帰る。
思った以上に充実した博物館でした。 |
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続いて観光メッカ、塔やドゥオーモ、そしてコムーネ宮に向かおう。
そこへ向かう道は、ちょっとしたブランド・ストリートになっていて、クレモナ銀座、という感じになるのだが、これが優雅でこぎれいで上品。街の古さにうまく溶け込んでいてまったく毒々しさがない。非常に落ち着いているのである。これが世界的楽器を誇る街の自信の表れなのか?
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そしてそのこじゃれた通りを抜けたところに、歴史的建造物が集まるコムーネ広場がある。
正面に洗礼堂、左に塔とドゥオーモ、右手にコムーネ宮。コムーネ宮の1階は大きなカフェ。観光客も多いが、なんとなく広場全体が市民の憩いの場、という感じである。
それではまずはコムーネ宮のヴァイオリン展示室へ行きましょう。1階のカフェの横を抜けていくと、「ストラディヴァリなんたらはコチラ」という看板があってそっちのほうへ行くが、全然そんなところは見当たらない。なんだ?もう一度戻ってカフェの奥のオフィスのようなところに入って、そこにいたおばさんに「ストラディヴァリウス、ドコデスカ〜?」と聞くと、わざわざ外まで出てきて場所を教えてくれた。ちなみに看板の指している方向とは全然反対方向。
さて、その建物の2階に上がっていくと、また市の小さな博物館っぽくなっている。入場料を払って一応それも先に見学して、いよいよヴァイオリン展示室へ。ひとつ何億とかいうとんでもないお宝名器とご対面である! |
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1566年A.アマティ、1658年N.アマティ、1715年ストラディヴァリウス、1734年ガルネリである。
部屋に入ると、受付のお姉さんがついてくる。悪さするといかんでね。で、かばんを指差して何か言っているがよくわからんので、荷物重かったらどっかに置いていいよ、と言っているのかと思って「おー、お気遣いなく、グラッチェ」とにっこり笑っていると、その女の人もにっこり笑いながら一言、「ユー・ドント・アンダスタンド」。
あ、見学する前に荷物はここへ置け、ということだった。あはは。
さて、気を取り直して名器とご対面。もう二度と近くでは見られないかもしれない。年代を感じさせる風格と、その一方で人の心をひきつける妖しい光沢。ああ、聴いてみたい。もし許されるならばふたを開けて取り出して一瞬でもいいから弾いてみたい。
でももしふたが開いていても、ヴァイオリン、弾けない。
二人の受付の美しいお姉さんに見守られながら、遠慮がちに10分ほど観察して、部屋を出る。ときおりコムーネ宮の責任者の人がこのヴァイオリンを使って実際に試奏するのを聴くこともできるらしい・・・テレビでやってた。いいなあ・・・。
ちょっと名残惜しいが、さあ、次へ行こう。
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次はロマネスク様式の洗礼堂。とても上品で、落ち着いている。
続いて隣のドゥオーモへ。ドゥオーモ、ドゥオーモとミラノのときから何度も言っているが、これは大聖堂のことらしい。
ミラノのドゥオーモはもちろんものすごくでかいが、クレモナのドゥオーモも結構大きくて、広場を見渡すような感じでどっしりしている。建物の前の怪獣の像では地元の子供たちがはしゃぎ、若いお母さんたちが日本の公園よろしく楽しそうにおしゃべりしている。日常なのだろう。
さてそのドゥオーモ。
入り口のところには定年退職して切符売りをしている感じの紳士と、暇で遊びに来ているそのお友達数人が、これまた日常っぽく楽しげに団欒している。
入場料を払って、ぎぎぎと重い扉を開ける。
おおお・・・。
素朴ながら品がよくて、とても落ち着きがあって、奥行きがある。そしていつまでもいたくなるような温かさと親近感を感じる。そして優しさと。
なんとなく、穏やかで心優しい女神に見守られているような、そんな気にさせてくれる。 |
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この大聖堂や先ほどの礼拝堂に流れる落ち着いた優しい親近感は、クレモナの駅に降りてきたときから感じる安心感とほぼ同じ感覚。なんとなく、街全体にそういう雰囲気があるのである。
そしてその、女神や神様に見守られているような温かい安心感は、神の場所と自分たちの場所とを違和感なく直結してくれる。そんなクレモナの人の心に美しく荘厳な芸術を生み出す礎が芽生えてもまったく不思議ではない。
つまり中世の昔からこの街にはこうしたゆったりとした安心感に満ちた芸術的感性が流れていたのではないか・・・。ミラノと戦っているときも、やがてミラノの支配下になってからも。
そしてその優しく穏やかで温かな街の雰囲気が、多くの芸術家をはぐくみ、そしてあのヴァイオリンの名工たちを産んだのではないか。
ヴァイオリンの名工が現れてクレモナがクレモナとなったのではなく、クレモナがクレモナだったからこそ、あの名工たちが育ったのではないか。
おそらくこの推測は間違ってない。
クレモナはヴァイオリンの街ではなく、ヴァイオリンが生まれるはるか昔から、豊かで芸術的感性にあふれた神に見守られた街だったのだ。それがあの名器を生んだのだ。それがこの地に来て初めてわかった。
ちょっとした疲れもあってしばらくドォーモで時間をつぶしていたが、入り口の受付のところを見ると、田舎っぽいがあまり見たことのない古いCDがある。地味で目立たないCDだが、おみやげに2,3枚買って帰ろう。荷物がずいぶん増えてきた。
さあ、まだ時間はある。
最後はお隣の塔(トラッツォ)。クレモナのシンボル。
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111メートルの高さで、487段の石段があるという・・・しかし階段しかない。後で聞いたが、イタリアでは一番高い塔だった。
だからそうとう高い。しかも荷物は重い。さらに足はかなりガクガク。
どうする?
・・・って、行かないわけがない。
受付に行くと、おにいちゃんが、あと30分で閉めるけど、登って降りられるか?みたいなことを半分笑いながら言ってくる。「ガンバリマス!」と言って、一気に駆け上がる。
・・・最初の50段くらいは。
そこからもうへろへろ。疲労困憊。足はがくがく、頭は朦朧。まだ400段近くあるのにすでにリタイア寸前。
半分くらいまできたところで真剣にもう帰ろうかと思った。
せめてこの重い荷物を受付で預かってもらえばよかった・・・ああ、もうだめだ・・・もう帰ろう・・・。
しかし、ここでくじけたら一生後悔する。
ほんとによろよろしながら一段ずつ上がっていく。
400段くらいのところで石段から鉄の螺旋階段に変わる。が、これが結構怖い。
当然だがそうとうに高いところまできている。踏み外したら、ちょっとまずいことになりそう。足はかなりふらふらだし、そうなってもおかしくない状況。
・・・しかし恐怖心よりももうただひたすら頂上にたどり着くことしか頭にない。もうただの取り付かれた亡者である。 |
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どんどん螺旋階段が細くなって、頭上にいよいよてっぺんが見えてきた。
手すりにしがみつきながら、一段5秒くらいのペースで鉄板を踏みしめながら上がっていく。
そしてついに登りきった・・・。
いきなり360度の大パノラマが現れた!
すごい。
本当にすごい。
今回のイタリア旅行で何が一番すごかったかと言われれば、この光景。クレモナのトラッツォからの眺め。
はるか遠くの町まで一望でき、穏やかなクレモナの街が眼下に控える。そして、これだけの高さで回りに並ぶものがないので、街並みよりも天国のほうが近い。
気持ちのよい風がからだをくすぐる。
ああ、なんてすばらしいんだろう。いま、クレモナを独り占めしている。神様が優しく抱いてくれている感じ。
あはは、よく来たなばか者、と。
涙が出る。 |
あはは、それにしても疲れた。暑いし。脱げるだけの服を脱いで、涼む。さすがにもう誰も来ないだろう。
時間は・・・おお、まだ大丈夫。
あと5分ほど神様の懐で休んでから、降りていこう。
神の街クレモナにあいさつをして、階段を下りる。足がばかになったみたいにがくがくしているが、下りはさすがに楽。トントントンと数を数えながら降りていく。
487段ということだったが、自分が数えたら、事務所の受付のところに降りたところでちょうどぴったり500段だった。どっかで数え間違えたんだろうが、なんか嬉しかった。
受付に戻っていくと、お兄ちゃんが「おお、早かったな」とうれしそうにいっている。「えへへ」と笑うと、「どうだった?」と聞いてきたから、ただ一言「エクセレント!」というととても嬉しそうな笑顔を返してくれた。
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さあ、では名残惜しいが、クレモナを後にしないといけない。
すぐ横のローマ広場をくぐり、近くの3,4件のヴァイオリン工房を通りから見学して、早足で駅に向かう。
帰りはスムーズだったのでちょっと早めに駅に到着。まあ手荷物がぐちゃぐちゃなので待合室で整理してコンパクトにしましょう。 |
で、ごちゃごちゃやってちょっと落ち着いてぼーっとしていると、隣にイタリア人青年が。
なんかいやに近い。
もうちょっと向こうに座ってもいいと思うのだが、なんだか肩が当たっている。その至近距離はやっぱりちょっと変でしょう?
ということで、気づいていないふりをして席を立ち、ホームに出る。
すると、しばらくするとその青年が出てきて、また1メートルくらい横に立った。おいおい。それは変だよ。
間抜けな日本人と思ってるかもしれんが、おれ、けっこうそういうの鋭いです。
で、10メートルほど移動する。ミラノ行きを待っている人は結構多いので、10メートルも歩けばもうさっきの青年からは離れられる。
でも、ふと気づくと、人と人の隙間から自分のほうを見てる。
いや・・・これはまずいね。
ということで、今度は思いっきり2、300メートルほど離れたところへ移動。ものすごい恐怖感、ということはなかったが、今日の行程がほとんど終わってちょっと緊張感が途切れそうなときだっただけにかなりあせった。
さて、もうすぐミラノ行き電車が来る。掲示板を何回も確かめたし、近くのお姉さんに「ミラノ?」と確認したので間違いない。これに乗り込めば、もうあとは帰るだけ。ミラノはもちろん終着駅。もう行きのような訳のわからないことになる心配はない。
ただ、さっきの兄ちゃんがもしついてくるといけないので、近くにいる一番怖そうなおばさんを探して、そのおばちゃんの近くに座ることにする。このおばちゃんなら危ない兄ちゃんも追い返してくれそう。
電車が来た。怖そうなおばちゃんボディガードの前に座る。
さあ、出発。クレモナ。最後にちょっと怖かったけど、でもとても素敵な街だった。ありがとう!!来てよかった。また来られるかな!?
電車は夜の北イタリアをするすると走っていく。クレモナでは結構混んでいた車両だが、ミラノの手前あたりからどんどん人が少なくなってきた。
ミラノに着いたら9時。
さて、どうするか。
ホテルに荷物を置いて、どっかミラノの中心街に繰り出すか?
いや、今夜はやめておこう。
疲労もピークというのもあるが、ホテルのレストランで気兼ねなくゆっくり食事をして、我慢していたお酒をガブガブ飲みたい。ほかのところで食事をしたら、結局そこから帰ってくるまでの間気を使わなくてはいけないし。
考えてみればイタリアへ来てから一度もまともなディナーを食べてない。
一日目はバーカロ、二日目はサンドイッチ、三日目もサンドイッチ、4日目もサンドイッチ。今夜はまさにミラノだけに「最後の晩餐」。ホテルのレストランでミラノ名物料理を食べましょう。
地下鉄はさすがにお手のもので、中央駅からホテルまでまるでトラブルのほうから逃げていったように何事もなく、無事ホテルの部屋に到着!おおお、今日の第一目的、無事に帰る、というのは達成。いやいや、ご苦労さん。
シャワーを浴び、服を着替えて1階のレストランへ。
まずは何はともあれビール!!ずっと何も飲んでない。のど渇いた・・・。ああああ・・・・おいしい。5秒で飲み干す。優しいボーイさんがすぐ飛んで来て、飲み物のお代わりを催促してくるので、今度は赤ワイン!ちなみにレストランのボーイさんもほんと優しい。ミラノの男はナイスです。
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さて、食事。まったくミーハーながら、やっぱりミラノといえばミラノ風リゾット(リゾット・アラ・ミラネーゼ)。黄金色が重宝されたミラノ貴族を楽しませるために作られたという料理。黄色は卵ではなくサフランの色。そしてもうひとつは・・・えっと、なんだっけ・・えっとえっと・・・と探していると、ボーイさんが「ミラノ風カツレツ(コトレッタ・アラ・ミラネーゼ)でしょ?」と教えてくれた。外国人観光客にはやはり人気定番メニューなんだろうなあ。子牛のカツレツです。
やー、出てきた。まずはミラノ風リゾット。黄金色に輝くその料理、見た目はきれいだが、特段味はないので正直飽きる。何かと一緒に食べるのが普通なんだろう・・・。
続いてカツレツ!・・・こちらもまずくはないが、デリシャスでたまらん!!というほどではない。でもまあどちらも食べたと言う記念にはなる。もう一食食べる機会があれば、本当においしいミラノ料理というのが味わえたと思う。まあ、それはまたいつかの機会に。
赤ワインも飲んでしまったのでお酒のメニューを見ていると、あ、グラッパがある。グラッパは北イタリアのお酒で、ブドウの搾りかすを発酵させたアルコールを蒸留して作る。度数は50くらいで結構高い。でも日本ではあまり飲めないので早速注文。
うーん。これはおいしい。カツレツとあう。
ああ。おいしかった。 |
でもまだなんか飲みたい。最後に白ワインを頼んで、体を引き締めましょう。ゴクゴク・・・・。
すっかり酔っ払いました。これもあとはただエレベーターに乗ればいいという安心感から。グラッツェ〜!!
ということで最後の最後にエスプレッソを飲んで席を立つ。
おお、案外足には来てない。大丈夫。
しかし部屋にたどり着くなり、服を脱いだことさえ覚えてないくらい、バタンキュー!!
うーん・・1日よく動き、そして最後によく食べて飲みました。おやすみなさい!
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