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書籍新刊紹介

 ここ最近刊行された音楽書籍の中から面白かったものをご紹介します。
 基本的にここでは出版社に在庫があるものを紹介するつもりですが、書籍はCD以上に完売になるのが早いのでご注意くださいませ。



−第45号−
<2/6紹介>
オーディオ巡礼 [復刻版] 五味康祐 著 ステレオサウンド ¥2800


<1/30紹介>
クラシックを聴け!完全版 許 光俊/著 ポプラ文庫 630円
クラシックの魔法/スピリチュアル名曲論 西村朗 著 講談社 1260円

<1/22紹介>
クラシック新定番100人100曲 林田直樹 著  アスキー・メディアワークス
指揮者が語る
現代のマエストロ、29人との対話
ディター・ダーヴィット・ショルツ 著/
蔵原順子、石川桂子 訳
アルファベータ
エスクァイア日本版
2009年1月号
エスクァイア・マガジン・ジャパン

<1/16紹介>
1 新潮選書 証言・フルトヴェングラーかカラヤンか  川口マーン惠美著 ¥1365


<12/26紹介>
1 青弓社 これだ!オーディオ術 村井裕弥著 ¥2100
2 春秋社 朝比奈隆 すべては「交響楽」のために DVD付き  岩野裕一著 ¥3150

<12/19紹介>
1 神戸新聞総合出版センター ゆらむぼのクラシック音楽CD評論集 上・下巻 由良博英著 各¥1500

<12/12紹介>
1 新潮社 天才の父 レオポルト・モーツァルトの青春、ほか2冊 石井宏/著 ¥1890
2 ナツメ社 CDでわかる ヴァイオリンの名器と名曲 CD付き 田中千香士:編著 ¥2100


<2/6紹介>


五味康祐 著
オーディオ巡礼 [復刻版]
ステレオサウンド ¥2800

【出版社紹介文】
 約30年ぶり待望の復刻版が遂に登場。
 「音楽は私の場合何らかの倫理観と結びつく芸術である。私は自分のいやらしいところを随分知っている。それが音楽で浄化される。苦悩の日々、失意の日々、だからこそ私はスピーカーの前に坐り、うなだれ、涙をこぼしてバッハやベートーヴェンを聴いた。」────(本文より抜粋)
 季刊『ステレオサウンド』創刊号掲載の「オーディオと人生」や、「芥川賞の時計」「わがタンノイ・オートグラフ」など、五味氏のオーディオとレコード音楽に傾けた切実なる愛情、真摯な人生観が綴られたエッセイ集・復刻版、ついに刊行!
【店主駄文】
 五味康祐が好きである。で、この人の本を何かこのコーナーで紹介しようと思って検索したが、すぐに入りそうな音楽関係の本は一冊もなかった。信じられん。
 そうしたら、引き寄せたか、評論家の平林直哉氏からこんなメールが来た。
 「五味康祐の「オーディオ巡礼」(ステレオサウンド)ですがこれは面白い。五味に比べれば私は小鬼どころか屁みたいなものです。」
 どうやら最近復刊されたらしいのである。
 で、さっそく取り寄せて読んでからこのコーナーで取り上げようと思ったら、さきの平林氏から時々送られてくるメールマガジン「盤鬼のつぶやき第9回」にいきなりこの本のことが書かれていた。・・・自分も書きたかったが、平林氏の強烈な文には勝てそうにない。そこで今回平林氏のメールマガジンを全文まるまま紹介するものである。


メール・マガジン 盤鬼のつぶやき第9回 2009年2月6日号 (平林直哉氏)

五味康祐著、
『オーディオ巡礼』(ステレオサウンド)を読む

 これは1980年に出たものの復刊である。五味康祐(ごみ・やすすけ、1921−1980)は剣豪小説で知られ、1953年に『喪神』で芥川賞を受賞してる。オーディオにも造詣が深く、特にタンノイのスピーカーをこよなく愛したことでも有名だ。マージャン、手相にも詳しく、その分野の著作もある。しかし、五味は長く不遇な生活を送り、今で言うホームレスも経験している。金になるものはなかなか書けず、LPレコードを聴くことで空腹をしのいだ日々もあった。そうした彼の辛い日々を救ったのが音楽だったのである。
 五味はあこがれのタンノイを手に入れ、それを思い通りに鳴らすのに10年かかったと書いている。その試行錯誤はまさに格闘と言えるものだ。そうした格闘こそが尊いと彼は言う。だが彼は高価な装置を買えなどとはひとことも言っていない。それどころか、五味は成金趣味のようなオーディオ・マニアを「横っ面をひっぱたきたい」と嫌っていた。
 彼は常に「自分は本当に正しい音を聴いているのだろうか」と自問し、あちこちの家に出向いてオーディオを聴いた。むろん、その大半はごく一般的な装置のものが多い。五味は装置の総額が高いか低いかが重要ではなく、自分の出来る範囲で少しでも音を良くしたいと願い、それを実践することが大切と説く。その結果出てきた音は「その人の人生そのもの」と言い切っている。また彼は、「同じ装置でも部屋が違えば別物の音がする。部屋がオーディオを鳴らす」と部屋の重要性も指摘する。
 五味はある日、得意のマージャンで大金をかせいだ。これでオーディオが買えるぞと意気込んだが、次の瞬間に「こんなやましい金で音楽は聴けない」と思った。彼は「音楽は私の倫理観と結びつくもの」としていたからだ。この考えはブルーノ・ワルターが「音楽には道徳的な力がある」述べたことと似通っている。
 コレクションに関しても五味は以下のように言っている。「数ではない、その人にとって必要なだけのレコードがあれば良い。気に入らないものはさっさと処分せよ」、と。また彼は「若い時には装置に無理をせず、ひとつでも良い演奏、作品を聴いた方がよい」とも主張する。そして、「その人にとっての名盤は、聴きこめば聴きこむほど輝きを増す」と続ける。また、「LPが200枚あるとする。1日1枚聴いても、特定のLPにあたるのはせいぜい1年に1回」と記されているが、確かにその通りだ。これは当たり前のことなのだが、ためることばかりに夢中になっていると、こんなことまで忘れているのだ。また彼は「私は最近、音楽ではなく音質を聴いているような気がする」という一文には、我ながらはっとさせられる思いだった。
 ヒゲについてのこだわりもすごい。SPやLPはターンテーブルに装着する時、よくレコードのレーベル面を先端にあてて中心の穴を探ろうとする。この時、レーベル面にすじが入ってしまうが、これを俗に“ヒゲ”と呼んでいる。五味はこのヒゲを「一度ついたら永遠に消えない。私の300枚のコレクションにはヒゲはひとつもない」と断言し、「ヒゲをつけて平気な人は信用しない」とまで言い切っている。極端だと思う人も多かろう。だが、レコードや作品を大切に思うからこそ、こう言えるのである。こんな話もある。彼は評判の良い医者のオーディオ・ルームに招待されたが、五味はその音に失望し、「こんな医者には二度とかかるまい」と決心したという。
 LP世代の方はご記憶だろうが、ある時期にはノイマンSX68というカッティング・ヘッドがはやった。五味は「このノイマンSX68が音をきたなくした。これを褒めるやからは舌をかんで、死ね」とまで書いているが、この本を読み終えた2,3日後、私はあるエンジニアから「日本でノイマンSX68がはやるようになって、LPの音が変になり始めた」と聞いたのには驚いた。
 さまざまな作品に関して、五味は素晴らしさを讃えているが、その文章に何と深い愛情と痛切な想いがこめられているのだろうか。なまじの曲目解説よりも、ずっと心に響く。本書で彼が「ハイドンの中でも白眉の名曲」と記した交響曲第49番「ラ・パッシオーネ(受難)」、私はこれを持っていなくて、早速買いに行った。
 この本を読んで、私は恥ずかしくなった。このメールは盤鬼としているのだが、この五味に比べれば、せいぜい小鬼、いや鬼の域にすら入っていないと思った。読んで本当に良かったと思う。
 これは本とは直接関係のないことだが、ある音楽雑誌の編集者がこんなことを話してくれた。ある時、その人は五味宅に電話をし、このようなテーマで原稿を書いて頂きたいと言ったら、五味に「電話で原稿を頼むとは何事だ! 家に来い! 話はそれからだ!」と一喝されたという。電子メール全盛の今、お互いの声を知らなくて仕事を続けられる。しかし、本来書き手と編集者とは、五味が言うような関係でなくてはならないだろう。
 読了して、忘れかけていたものをたくさん思い出したような気がした。本書を送って下さったステレオサウンド編集部には謝意を記しておきたい。送って下さらなかったら、読むのはだいぶあとになったかもしれないし、読む機会すら逸したかもしれない。(平林 直哉)




<1/30紹介>

 
クラシックを聴け!完全版
許 光俊/著
ポプラ文庫 630円
【出版社紹介文】
 推理小説を読んで、サラダを作れば、クラシック音楽がわかる——チャイコフスキー、モーツァルト、ベートーヴェンなど基本の五曲でクラシックのキモを解説する痛快な入門書。お勧めのCD、演奏家、コンサートホールなど役立つ情報も満載。
【店主駄文】
 人気評論家の許光俊氏の新刊が文庫で出た、と思ったら10年前に青弓社で出た同名の本の文庫再発売だった。
 10年前、世の中に初めて本音系・毒舌系クラシック評論家が登場して音楽界をあっと言わせてたとき、その先鋒を務めた許光俊氏。その許さんが自由自在・自由奔放・自由気ままにクラシック・ファンの初心者に向けて書いた「入門書」。
 出た当時、HMVで店長をしていた店主も、まあ随分思い切ったことを書く人が現れたもんだなあ、と驚いた。
 ギラギラとした目をした狼のような許さんが、子羊のように純真な初心者クラシック・ファンを本当の骨太のクラシック・ファンにするために、サディスティックにしかも全身全霊でクラシック音楽のすべてをあるがままに語る。クラシック音楽の歴史から、作品の鑑賞方法、作曲家、演奏家、オーケストラ、コンサート、評論家(実名で出てきます)、と、ここまで内容たっぷりにしなくても、というくらいぎっちりがっちり書き込まれている。しかもすべて一刀両断。許さんの世界観ですべて語られる。
 しかしこれは、これまで多くの評論家が本当は言いたかったけどここまで露骨には言えなかったことばかりではないか。
 つまり、これは「入門書」という形を借りた、当時のなまぬる〜いクラシック出版業界に対する警告書・啓発書でもあった。「ほんとのところは、こうなんだろ?本音で言えよ」という・・・。
 とはいえ、最初に刊行されてからすでに10年。文庫化されて世に出るというのはさすがにちょっと情報的に古くなってるんじゃないかな〜、と思いながら今回文庫化されたものを読んだのだが・・・全然古くない。というか、今の時代だからこそようやくちゃんと理解されるんじゃないかと思った。出た当時にはちょっと過激で斬新過ぎてちょっと拒絶反応を起こす人が多かったかもしれないが、いま読むと、この当時許さんが書いていることは素直に受け容れられると思う。時代の認識が、ようやく10年前の許さんの考えていたことに追いついたのである。
 「今、いわゆる一流演奏家、有名演奏家が聴かせてくれる音楽は、クラシック音楽ではない。それどころか、彼らはクラシック音楽が何かということすら知らないかもしれないのだ!」
 うわ・・・こんなこと10年前によく書いたな・・・。おとろし。でもこんな調子で作曲家や演奏家や評論家のことをバッサバッサと切り倒していくのだが、読んだ人はきっとこう思うだろう。「実はそうなんだよね、本とかでは書かれなかったけど・・・」。
 幸せな時代のあとの波乱の10年を経て、ようやく読む側も冷静に許さんの言葉を受け容れられるようになったのだ。




クラシックの魔法/スピリチュアル名曲論
西村朗 著
講談社 1260円
【出版社紹介文】
 クラシックの〔感動〕とは、スピリチュアル体験だった!あなたの耳が変わり、音が変わる究極の名曲ガイド!スピリチュアルな140曲リスト付き!
 ここから、別世界の扉が開く——究極の24曲、感動は、「永遠」につながる!
 クラシック音楽とは、非日常的な感動を喚起させる「魔法」の世界!現代音楽作曲家の西村朗が、創造者の視点で、天啓のようにきらめく、スピリチュアルな名曲たちの聞きどころを伝授します。

第1部 いちばんひたれるオススメ作曲家の作品
第2部 語らずにはおけない破天荒で独創的な作品たち
第3部 ぜひ聴いてほしいこの作曲家のこの一作
第4部 ひとこと語っておきたい素敵な作曲家たち

西村 朗
1953年大阪市に生まれる。東京芸術大学作曲科卒業・同大学院修士課程修了。国内外において、オーケストラ曲を中心に多数の作品を発表。日本作曲界で最も名誉ある〈尾高賞〉4回受賞をはじめ、受賞歴極めて多数。現在、東京音楽大学教授。NHK‐FM「現代の音楽」パーソナリティ

「クラシック音楽はまさに「聴覚の魔法!」、異界から響いてくる魅惑的な「光」であり、「香り」でした。それは僕にとって、まさにスピリチュアルな体験です。日常性を超越し、魂の奥に宿り眠っている感性を目覚めさせるスピリチュアル・アート、それこそがクラシック音楽です。」(本文より)

★モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトなど日本人にはおなじみの作曲家たちの名曲に焦点を当て、スピリチュアルな音楽体験がいかに人生を豊かに彩るかを西村朗氏が明言
★世界に誇る日本の現代作曲家として、クラシック音楽の勘所を突いたコラムを書き下ろし(「名曲の条件」「天才の条件」「名演の条件」)
【店主駄文】
 東京音楽大学教授であり作曲家でもある西村朗が神と天使の使者であることをカミング・アウトして、読む人聴く人を天国の世界に連れて行ってくれる究極のスピリチュアル・ミュージック本・・・かと思ったら、そうではなくて極めて素朴な初心者向けの優しいクラシック・ガイド・ブックだった。ただ、いまからクラシック音楽を聴く人に噛んで含めるように、平らで丁寧な口調で語られる口調は、それだけでスピリチュアル。それにエッセイ風に書かれたコラムからは、もっとスピリチュアルなことを書きたい、というような思いも透けて見える。なんにせよこれだけの権威ある人が、真っ正面から「クラシック音楽は神から人へのスピリチュアルな魔法のギフト」・・・なんて書けるような時代になったことが嬉しい。今から20年前にそんなことを真顔で言っていた店主は、よく同僚や先輩から白い目で見られた。いい時代になった。店主も、常人が読んだら気が狂ってるんじゃないかと思われるであろう常軌を逸したような天啓・いたこ系・完全スピリチュアル・クラシック・ガイド・ブックを出してから、死のう。
 ちなみにこの本で取り上げた曲がhttp://moura.jp/culture/nishimura/で聴ける。これまたありがたい時代になった。


<1/22紹介>


クラシック新定番100人100曲
林田直樹 著 
アスキー・メディアワークス 880円
【出版社紹介文】
 クラシックの作曲家100人と、その代表作1曲を厳選して紹介。有名作曲家はもちろんのこと、人気が高まる中南米の作曲家や、バロック以前の古楽から、現代曲まで網羅。かつてないラインナップで、クラシックの地平を広げる事典的読み物です。
 パレストリーナの「教皇マルチェルスのミサ」に始まり、定番的名曲を含みつつ、セヴラック「セルダーニャ 5つの絵画的練習曲」、フィンジの「エクローグ」といった秘曲、そしてタヴナーの「奇蹟のヴェール」など現代の名曲まで網羅したなかなか心憎い選曲。2008年12月10日〜1年間の予定で、刊行記念特設サイトから100曲すべて試聴できるという画期的なタイアップ企画もあり、初心者にも中級者、いやいやマニアにも嬉しい内容。

刊行記念特設サイト http://go.ascii.jp/?classic100

指揮者が語る
現代のマエストロ、29人との対話

ディター・ダーヴィット・ショルツ 著/
蔵原順子、石川桂子 訳
アルファベータ 3360円
【出版社紹介文】
指揮者、これほど輝かしく、多面的な職業は他にない。
[世界をまたにかける旅人、グローバルな音楽のヒーロー、黒衣に身を包んだ神、一匹狼、高い報酬を得る看板、理想主義者、独裁者、司令官、調教師、アナーキスト、ビジネスマン、スタイリッシュな宣伝モデル、音楽産業における磨きぬかれたラベル]
本書は1996年から2002年にかけて、29人の指揮者にインタビューしたもの。その指揮者たちが縦横に語る、現代のクラシック音楽界の諸問題。
[古楽をどう考えるか、現代音楽はなぜ嫌われるのか、商業主義はやむをえないのか、オペラの新演出は必要か、故郷、政治と音楽の関係、師から学んだこと…]
たとえば、
アーノンクール
Q 「歴史的奏法」という概念をどう評価しますか。
A 評価ゼロです。まったく馬鹿げた概念ですよ。歴史的奏法なんて存在しませんから。いったい歴史的奏法とは何でしょう。どういうものだというのでしょう。この概念を分解したら何も残りません。愚にもつかないものの残骸の山だけですよ。
ゲオルグ・ショルティ
Q オペラ界で演出家の役割をどうご覧になりますか。
A 彼らは、本来果たすべき役割を果たしていないと思います。二十世紀初め、演出家とは常に指揮者と音楽に従う存在でした。もちろん舞台には新鮮な風が必要でしたが、現在では、舞台による挑発ばかりを追求している場合も多い。今日、多くの演出家が舞台上で平然と披露する悪趣味や愚かさには、怒りを覚えるし気が滅入ります。

エスクァイア日本版
2009年1月号
特集:指揮者のチカラ。CD付録付き

エスクァイア・マガジン・ジャパン ¥700
【出版社紹介文】
 ベートヴェンの時代周辺にその基礎が生まれ、現代も進化し続けるオーケストラによる音楽。
 その独特な「響き」は、指揮者、楽団、そして楽曲の三位一体で生まれる、唯一無二のアートなのだ。
 時代とともに、変化し続けるオーケストラ音楽の最前線へ。

●カラヤンという名の遺産。
●ベルリンそしてベルリン・フィル。
●時代の音を生んだ、指揮者の系譜。
●新世紀指揮者たち。
●オーケストラ音楽を知る、作曲家&作品。
●街のオーケストラに行こう!
●特別付録CD:SOUND OF IMMERSEEL アニマ・エテルナ—「永遠の魂」の響き。インマゼールが自ら編集した14曲70分のCD付き。

エスクァイア日本版 既刊
「エスクァイア日本版」
2008年3月号
エスクァイア・マガジン・ジャパン
¥700
特集:ピアノ300年 音楽の真相
 CD付録「イヴ・アンリ(P)ショパン:「24の前奏曲」より抜粋」
 第40号でお知らせした「エスクァイア日本版」、2008年3月号は「ピアノ特集」。で、それがけっこう楽しめたという話をお客様から聞いてさっそく買ってみた。特集名は、ズバリ「ピアノ300年 音楽の真相。」
 「真相」とはいえ、さすがに一般の人に向けての特集なので、ピアノ・マニアの人にとっては軽い読み物と思うかもしれない。しかし、原稿執筆者は、あまり一般向けというつもりでは書いていないみたいで、結構コアな話しがポンポン出てくる。思った以上に本格派で、深い。クローズアップされるピアノもスタインウェイやベーゼンドルファーやヤマハではなく、プレイエルやファツィオリといった、いかにも通好みの、店主も大好きなピアノだったりするのが嬉しい。またおしゃれなピアニストということでやはり登場するグールドにしても、音楽誌とは違ったアプローチで面白い。

 「フィレンツェのクリストフォリが、ハンマーで弦を打つ楽器を生み出して約300年。以来同様のメカニズムを持つ鍵盤楽器は「ピアノ」として、世界のすみずみにまで行き渡り、そのサウンドは、ある時は傍らで、ある時はステージ上から、私たちを魅了してきた。いまだ音楽にとって最重要の器機であるピアノ。「こころ」を動かす何かが、そこにある。

●東京鍵盤めぐり。
●老舗と新興、現代のピアノの匠を訪ねて。
●世界のピアノ、名器たちのプロファイル。
●タカギ・クラヴィアの挑戦。
●グレン・グールドに見る、ピアニストの実像。
●系譜で辿る、ピアニストの流れ。
●現代を彩る個性、ピアニストたちの肖像。
●クラシックからポップスまで「ピアノを体感する」CDガイド 」

 ということで、ピアニストのインタビューも、アファナシェフにヒューイット、アンデルジェフスキにアレクサンドル・タロー、さらにデヤン・ラジッチ、と永遠の鬼才から今が旬の若手まで、悪くない人選。メジャー・レーベルに肩入れしていないところが嬉しい。
 そしてとくに驚いたのが、特別付録CD 新旧プレイエルで聴く、ショパン「24の前奏曲」 というCDがついていること。CDがついてこの値段。これは安い。しかし値段ではない。収録内容は

   イヴ・アンリ(P) ショパン:「24の前奏曲」より抜粋(12曲)

 ということで、前半の6曲を1838年製のプレイエルで、後半の6曲を2004年製のプレイエルで演奏している。ショパン自身が「プレイエルを前にすると才気がみなぎり、私自身の音を奏でることができるのだ」と語った、そのプレイエルの弾き比べ。1台は、ショパンが弾いたというプレイエル。もう一台は現代の最新型プレイエル。これは確かに興味深い。
 そして演奏はイヴ・アンリ・・・。パリ国立音楽院ピアノ科教授であり、演奏家でもあるという。・・・が、全然知らない。だが、演奏はいい!ただの企画先行演奏ではない。それぞれのピアノの特性を生かしながら、曲をたくみに操る。しかもそれぞれ、個性的で面白い。イヴ・アンリ、達者である。
 ということで「エスクァイア3月号」、ハイセンスな記事を読むのもよし、異色のCDを楽しむもよし。持ってて損なし。



<1/16紹介>


証言・フルトヴェングラーかカラヤンか
川口マーン惠美/著  新潮選書 ¥1365

【出版社紹介文】
 ベルリン・フィル全盛時代の猛者たちが初めて語る、二大巨匠、真実の姿!
 ベルリン・フィル全盛時代の猛者たちが、初めて答えてくれた本格的インタビュー集。プロ中のプロが語る芸談義の真髄、共同作業した音楽家でなければ分からないマエストロの秘密。臨場感溢れる語り口は、音楽ファンならずとも惹き込まれること請け合い。二十世紀最大の巨匠は、果たしてどちらなのか!?
 評論家の平林直哉氏が、面白い本があるよと教えてくれた。
 川口マーン惠美氏が書いた「証言・フルトヴェングラーかカラヤンか」。

 「あなたは、カラヤンの才能を認めないのですか?」
 「認めません。音楽において一番大切なのは、感情を表現することです。感情のない音楽は、音楽ではない。カラヤンの音楽では、感情は立ち止まったまま動かない。そういえば、カラヤンの得意だったのは、オペラです。オペラの指揮はよかった」

 おっと、いきなり過激。
 これはフルトヴェングラー・ファンならご存知の「フルトヴェングラーかカラヤンか」(音楽の友社/現在入手不能)を書いて物議を醸した元BPOティンパニ奏者テーリヒェンに川口氏がインタビューしたときに出てきた言葉である。
 ティーリヒェン氏は、例の「フルトヴェングラーがホールに入ってきただけでオーケストラの音色が変わった」という有名なエピソードの情報源となった人で、その著作「フルトヴェングラーかカラヤンか」もフルトヴェングラーとカラヤンを冷静にてんびんにかけつつ、結局思いっきりフルトヴェングラー賛美になっている本である。
 で、今回の本は、「証言・フルトヴェングラーかカラヤンか」」とある。
 つまりテーリヒェン氏の書いた本をもとに、川口氏がベルリン・フィルの団員に突撃インタビューを試みるということ。いいじゃないの!誰でもできそうで、でも誰もやらなかった。何せ早くやらないとみんな死んじゃう。最高齢は96歳!結局川口氏はご老体の元団員11人にフルトヴェングラーかカラヤン、あるいは両方の思い出を語ってもらうことに成功した。
 もちろんそれぞれの団員にきわめて個人的な思い出はあるわけで、それを聞いたからといって偉大な指揮者2人の優劣など決められるわけもない。しかし著者もそのことに決着をつけようという気はさらさらない。猛烈なファンの中には、掘り下げ方が甘いとか思う人もいるかもしれない。いや、それはそうかもしれないのだけど、かといって有名で博識で学者っぽい音楽評論家がしかめっつらをして訪れてもこんな面白い話は聞けなかったと思う。著者近影でご覧のとおり、川口氏はなかなかの美人。東洋女性に弱い西洋人が、美人の日本人に尋ねてこられて嬉しくないわけがない。こわもての音楽評論家にはおそらく話さなかったようなかなり危ない話を、この川口氏にはついつい喋ってしまうわけである。また向こうは奥さんがマネージャーのように付き添うことが多くて、その奥さんが川口氏に気を許して嬉しそうにベラベラ喋ってくれる。カラヤンにくどかれたけど落ちなかった、とか。
 なのでこれは、フルトヴェングラーとカラヤンのどちらが20世紀最大の指揮者か決着をつけるべく音楽的・政治的・人間的・哲学的に両者に鋭く突っ込む音楽大書・・・とかいうのではなく、フルトヴェングラーとカラヤンの巻き起こしたチン騒動を覗き見に行く「隣の晩御飯」的な軽くて楽しい書なのである。これは絶対に川口マーン惠美氏でないとできなかったし、だからこそこの本は面白い。



<12/26紹介>

これだ!オーディオ術
村井裕弥著 青弓社 ¥2100

【出版社紹介文】
 たかがオーディオ、されどオーディオ——。オーディオ自体への愛だけを語るのではなく、オーディオを使いこなして豊かな音楽生活を送るために活用できるワザを軽快な文章で披露して、オーディオとの付き合い方をとことん伝授する秘伝の書。
▼目次
第1章 オーディオは、高価な機器を買って自分をなぐさめる趣味ではない
 オーディオ機器の完全なハズレは3割弱、 パソコンオーディオがミニコンポを駆逐する理由、 絶対間違いがない音質比較法、ほか
第2章 超ビギナーの質問に答える
 超低予算で、最高の音を!、 最短距離を教えてほしい!!、 雑誌の「組み合わせ特集」にだまされた
 これだけはやめよう! オーディオのタブー、 いちばん好きなCDをチェック用ソフトにしてはいけないワケ
 大きいスピーカー、ユニットがたくさん付いているスピーカー、 村井さんのお薦め機器を、ハッキリ書いてください、ほか
第3章 オーディオ人に会いたい!
 江川三郎実験室の記録
 高島誠さんを偲ぶ会 よみがえった高島サウンド!!
 第5回真空管オーディオフェア(1999年)の思い出
 菅野沖彦氏のお宅訪問(2002年8月26日)
 オーディオFSK物語、ほか
第4章 村井裕弥のオーディオ巡礼改めオーディオ探訪
第5章 現在使用中の機器とは、こうやって出会った
 聴いた! 惚れた! 買った! ルーメンホワイト導入記
 番外篇・海外ブランド開発者インタビュー「ルーメンホワイト」
 一生付き合えるアンプを探すために、気になる製品すべてを徹底自宅試聴
 SOULNOTEのCD専用プレーヤー、それもショップによるチューンドモデルを購入!、ほか
第6章 音をよくしたあと、なにを聴くかも肝心だ
 村井にとって、優秀録音盤とは
 2003年、次世代フォーマットの状況
【店主駄文】
 オーディオは難しい。
 CDだとそのアイテム単体のことについて話せば終わりだが、オーディオの場合だと、組み合わせ、セッティング方法、場所、アクセサリーなどほとんど無数といっていいさまざまな要素が絡んできて、そうなってくるともう語ることは不可能に思えてくる。
 おまけに金がかかる。なんと言ってもこれがつらい。駄目でもともとと、CD1枚2000円投資するのとは訳が違う。少なくとも店主は、駄目でもともとと20万円のCDプレーヤーに投資できるほど裕福ではない。オーディオを買うというのは生きるか死ぬかの一歩手前の大問題。人生の中でも、結婚と家と車の次の大問題である。しかも嫁さんと家と車は、失敗したらこれも人生と諦めるしかないが、オーディオの場合諦めきれない中途半端な金額だけに余計たちが悪い。そして一度気になると「問題点」がドンドン気になり、他の機種がドンドン気になり、他の人のオーディオの音がドンドン良く聴こえてくるようになる。
 そしてまた小さくない投資を試みる。しかしそれでも・・・。
 もうその繰り返し。
 CDは失敗だろうが成功だろうがその1枚の中にすべての問題が収束する。しかし・・・くどいようだがオーディオはそうはいかない。泥沼といっていい苦闘を延々と続けることになる。
 そこでそんな人たちのために、さまざまなオーディオ雑誌があり、指南書があり、ホームページがある。
 今回ご紹介する本も、突き詰めていってしまえばそんな本の一つである。
 しかし一ついえるのは、著者の村井氏は自分で足を運び、多くの人たちの取材をして、自分の耳で聴き、そこで起きたことを率直にとてもわかりやすい言葉で表現してくれること。その熱い様子はまるで少年のよう。本を読んでいると、まるで「オーディオ探索」の旅に一緒に同行しているかのような気がしてくる。その純粋一途でひたむきな求道精神には本当に頭が下がる。
 この本にはいろんな人が出てくる。狂ったようなマニアックな人から、著名なオーディオ評論家まで。またいろんなオーディオ製品が出てくる。もう読んでいるだけではらはらどきどき。どれも試したくなる。
 しかし著者が一貫して語っているのは、自分で行動して決めろ、ということ。この本を読んで決めるな、これを読んで行動して決めろ!ということ。
 こういう熱い本を読むと、一度収まっていたオーディオ熱がまた湧き上がってきそうになる。




朝比奈隆
すべては「交響楽」のために
岩野裕一著 春秋社 3150円
【出版社紹介文】
 生誕100年記念出版。指揮者を志した理由、ハルビンでの出来事、シカゴでの奇跡的成功、フルトヴェングラーとの邂逅、師弟の友情など、朝比奈研究第一人者にしか書けない、真の生涯。新日フィルとの名演DVD付。
2008年は生誕100年となり、それを記念してレコードファン向けのソフトが続々登場しています。生涯をバランスよく知ることができる王道の一冊。第一人者による決定版です。

目次
第1章  朝比奈隆を知る   1.朝比奈隆小伝
2.朝比奈隆と日本のオーケストラ
3.朝比奈隆と海外のオーケストラ
第2章  朝比奈隆と旅する 1.音楽の都・ハルビン再訪
2.シカゴの奇蹟
第3章  朝比奈隆を聴く 1.ベートーヴェン 2000年 大阪フィル「ベートーヴェン・チクルス」
2.ブラームス 2000−01年 新日本フィル「ブラームス・チクルス」
3.ブルックナー
4.マーラー
朝比奈隆フォトアルバム
第4章  朝比奈隆を想う 1.「交響楽」に捧げた人生 朝比奈隆氏を悼む
2.名文家として『楽は堂に満ちて』解説
3.三冊の本
4.まぼろしのフルトヴェングラー
5.フェスティバルホールへの旅
6.近代日本最良の具現者 朝比奈隆再考
第5章 朝比奈隆と語る(粟飯原眞氏、小石忠男氏))
第6章  朝比奈隆の跫音 1.林元植 朝比奈隆唯一の弟子
2.もうひとつの手兵・新日本フィル
3. 実相寺昭雄と新日本フィルの日々
4.朝比奈隆の名盤十選
あとがき、略年譜、初出一覧
付録DVD(116分) 朝比奈隆&新日本フィル名演集 1989-1994
ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」第1楽章 1989.4.6
ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」第2楽章 1989.2.5
ベートーヴェン 交響曲第7番 第4楽章 1989.3.11
チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」 第1楽章 1994.2.3
ブラームス 交響曲第3番 第4楽章 1990.5.1
ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」 第3楽章 1992.5.13
ブルックナー 交響曲第7番 第2楽章 1992.9.8
指揮 朝比奈隆
管弦楽 新日本フィルハーモニー交響楽団
演出 実相寺昭雄

【店主駄文】
 朝比奈ファン待望の一冊。
 実相寺昭雄の朝比奈映像作品を再び世に出したいという熱意から始まったDVDブック企画。しかしその貴重な映像ももちろんファン垂涎だが、晩年の朝比奈を熟知する著者が情熱と尊敬と愛情を込めて書き上げた朝比奈伝も非常に読み応えがある。ときにドキュメンタリー風に、ときに物語風に、巨人朝比奈の魅力をいろいろな側面から語りつくしてくれる。また第5章の対談も生々しくもユーモアたっぷりで最高。次々と超有名アーティストとの共演話が出てきて痛快この上ない。
 とにかく朝比奈の話を読んでいるつもりが、いつのまにか日本の西洋音楽演奏の歴史を読んでいるような錯覚にとらわれる。返す返すも朝比奈という人が、戦後日本の西洋音楽演奏史そのものだったのだと気づかされた。



<12/19紹介>

ゆらこめ
〜ゆらむぼのクラシック音楽CD評論集〜
由良博英著
上巻460頁 下巻452ページ 各巻¥1500
神戸新聞総合出版センター 刊

ゆらむぼのクラシック音楽CD評論集 上巻
            〃          下巻

【ホームページでの紹介文】
 ネット上で話題を呼んだ『ゆらこめ』が遂に単行本化。2007年に急逝した“ゆらむぼこと由良博英を偲び、HP『ゆらむぼの部屋』に遺したクラシックCD評論を作曲家別に再編集。
 著者紹介  由良博英(ゆら ひろひで)
 1962年、兵庫県氷上郡(現・丹波市)生まれ。パソコン通信、インターネットの時代を通じ、一アマチュア・ライターとして、クラシック音楽CDの評論や書評活動に力を注ぐ。
 2007年11月くも膜下出血により急逝。享年45歳。
【店主駄文】
 HP『ゆらむぼの部屋』での飄々としたクラシックCD評が人気だったホームページゆらむぼの部屋”。作者はプロの評論家ではなかったが、「独特の洞察力」とでも言ったらいいのか・・・、常にユーモアと厳しさと愛情、その3点セットを武器に並み居る名盤を斬っていく。その様はまさに痛快だった。
 その“ゆらむぼこと由良博英氏が亡くなったと聞いたのはいつだったろう。ちょうど1年前か。会員の方から教えていただいた。
 由良氏はアリアの会員でもあったので何度かメールでのやりとりもさせていただき、中にはCDのことから離れたバカ話もあったような気がする。日常でもやはりユーモアと愛情にあふれる人で、でもときにギラリと厳しいことを書いてくる、あのホームページのままの人だったことを覚えている。
 その由良氏が亡くなったと聞いて初めは何が起きたか良く理解できなかったが、ホームページにご家族の方のコメントが掲載されようやく事実と認識した。現実の、ある部分が切り取られたような、哀しい思いをした。当たり前だが、その後「ゆらむぼ」のクラシック評が追記されることはなかった。

 しかしその突然の死から一年、家族の人たちの手によって「ゆらむぼ」氏の文章が2冊の本として蘇った。1年前のときもそうした計画があるとは聞いていたが、今回ついに発刊されたのである。ご家族の方の熱い思いとともに、ホームページの熱烈なファンの人たちのさまざまな応援があったに違いない。今回もこの本が出版されたことを複数の会員の方から教えていただいた。本当に愛されていたのである。あの飄々とした、きわめて切れ味鋭い「音楽話」がこうして「形」として残って、本当によかった。

 それではこの本の紹介のホームページから、いま読んだら極めて暗示的で思わず胸が締め付けられた一篇を。


●No.466 テレンス・ジャッドのリスト:ロ短調ソナタ。 (2002/11/02)

 「太宰や芥川が若くして亡くなったのに、常から夭逝の美学を謳うあなたは、こうして生き長らえている」三島由紀夫に、若干の揶揄を含ませたそんな旨のことを、ある対談のなかで学生が述べていたのを、読んだことがあります。それに対して、三島が何とこたえたか私は忘れてしまいましたが、このあと昭和 44年(1969年)、44歳のとき、三島は割腹して果てます。大義のための死であったろうけれども、同時にまた文壇に遺したものとの「対照の美の完遂」としてもあったものかもしれません。

 「夭逝」という語には、いたく「芸術心」をくすぐるものがあるようです。私のむかしの同僚の国語科の教員が、「ボク、絶対、早死にすると思うなあ」と、明るい声で言うので、「○○くん、何も書いてへんやないか!」と苦笑したことを、懐かしく思い出します。しかし、そういう私にも「夭逝」に魅せられた時期があった。いえ、誤解を招く表現ですね。「夭逝」した芸術家の遺したものに、惹かれたころがありました。カンテルリ、カペル、ヌヴー(すべて、飛行機墜落事故ですね)などを、よく聴きましたよ。

 イギリスのピアニスト、テレンス・ジャッド(Terence Judd 1957-1979)も、そうしたなかのひとりでした。このひとについては、10年まえにも私は書いたことがあります。いま読み返すと、衒気くさい、また青くさい文章ですわ。国際的なコンクールで入賞、抜群の才覚を高く評価され、前途に活動の場の開けているところに、突然、22歳という若さで自らの生を閉じてしまった。そのジャッドの少ない録音のなかから、リストのロ短調ソナタを含むものが、最近になってCD化されました。

 硬質なタッチ、緻密な造形・・・演奏について感想を書くのは、10年まえの反復になるので、端折ります。若い優れた才能が、その飛翔する美しい形として留められる。ジャッドの年の倍、三島の年を超えても、私は生をつづけるでしょう。そうして、いまのこの覚え書を、また恥ずかしく読み返しているかもしれません・・・。才気なくいたずらに馬齢を重ねる、そういう者の妬みに聞こえたでしょうか? いいえ、彼らの遺した音楽を長くこれからも楽しめる生の与えられていることに、私は感謝しているのです。

(http://music.geocities.jp/yuracome/index.html より)
 




<12/12紹介>

新たなる伝説!
天才の父 レオポルト・モーツァルトの青春
石井宏/著  新潮社 ¥1890

【出版社紹介文】
 時はフランス革命前夜であるも、まだまだ貴族制度の華やかなりし頃。貧しい家の生まれながら、真面目で勤勉、勉強でも何でも一番、歌もうまければ、ヴァイオリンも堪能——ついにはエリートコースまっしぐらのはず……だったが、誰の陰謀か封建社会の最底辺へ真っ逆さま、さえない楽士風情に身を落とすハメに。さあ、どうする?
【店主駄文】
 『反音楽史—さらば、ベートーヴェン—』、『誰がヴァイオリンを殺したか』、『帝王から音楽マフィアまで』など、センセーショナルな題材を圧倒的な調査量と強引なまでの筆致で書き綴ってきた石井宏氏の最新作。
 だが、今回の著作は氏のライフワークともいうべきモーツァルト関連のもの。壮大な4部作となる「モーツァルト・サーガ」の第1弾ということである。
 で、第1弾は父レオポルドが主人公。秀才レオポルドが貧しい平民でありながらいかにして故郷アウグスブルグを離れザルツブルグの超一流大学に入ったか、そしていかにして没落し、平和な小市民的生活に身をやつしたか。残された資料を基にレオポルドの新たな伝説が精密に描かれる。
 どこまで史実に基づいていて、どこからが著者の空想かは読むものにはわからないが、歴史小説とはそういうもの。そう、これは音楽資料そのものではなく、レオポルドに関して残されたわずかな資料を元に、石井氏が豊富な知識と経験を元に肉付けした「伝奇小説」なのである。だから肩肘張らずに、「そうだったのかもなあ」とか、「きっと黒幕はこいつだ」とか、自由に気ままに読んでいけばよいと思う。
 実際本格的音楽評論とかとは違って、とても読みやすいノヴェライズのよう。「モーツァルト・サーガ!」というとちょっと身構えてしまいそうだが、実際は「モーツァルト・ホームドラマ」という感じなのでどうか気楽に楽しんでみてください。
 でもそのわりには当時の時代についての情報量は多いので、とても参考になること請け合います。

 そして石井宏氏といえばやはりこの2作。

反音楽史−さらば、ベートーヴェン
石井宏/著  新潮社 \1995

【出版社紹介文】
 小学校で習った音楽史が、嘘だったとしたら……。今、明かされる歴史の真実!
 モーツァルトの名前はアマデウスではなく、アマデーオである。誰が、何のために、名前を書き換えたのか。ヴィヴァルディは十七世紀には最も著名な作曲家だったが、彼の『四季』を世界が知ったのは一九四九年であった。二百年以上にもわたって、音楽史から消されていたのだ。なぜ。クラシックを巡る様々な謎をスリリングに解き明かす!
【店主駄文】
 まずは『反音楽史—さらば、ベートーヴェン—』。
 ドイツ中心の音楽史の考え方を根底から覆し、真実の音楽史の姿を明らかにする。
 確かに過去の音楽史本を踏襲するだけの教科書的ななまぬるい音楽史書籍しか読んでいなかった人間にはそうとうショックなはず。ドイツ音楽至高主義のものの見方をこれでもかこれでもかと打ち崩していき、本当の音楽の歴史とはどうだったのか、えげつないほどの強引さで読者をぐいぐい引っ張っていく。
 実際店主もこの本を読んで音楽史観が丸っきり変わり、ドイツ一辺倒の考え方が一掃された。その偏見の瓦礫の向こうに、平たく広い、本当の音楽の歴史の姿が見えてきた気がする。ドイツ音楽は大好きだが、それがすべてではないことを知った。新しい音楽史観を得るためにも、いや、得られないとしても一度は目にしておきたい奇書。



誰がヴァイオリンを殺したか
石井宏/著  新潮社 ¥1575

【出版社紹介文】
 かつて“悪魔の楽器”と呼ばれ、その音色は多くの者の人生を狂わせた……。
 パガニーニの時代、隆盛を極めたヴァイオリンの魅力とは如何なるものだったのか。現代の歌を忘れたヴァイオリンの行き着く先は。はたまた、楽器商達が数億の値を付けるストラドやデル・ジェズの本当の価値は? 過去に連綿と続いた美しく歌う演奏の系譜を興味深いエピソードで追い、ヴァイオリン芸術の変貌と末路を描く。

【店主駄文】
 『帝王から音楽マフィアまで』。それは日本のバブル最盛期に出てきた、「金」と「権力」と「音楽」を喝破した衝撃の1冊。そんな暴露本を日本で書く人がいたとは。残念ながら現在は廃版だが、あのときの音楽界のこの本に対する衝撃はすごかった。
 その石井氏が、今度はベールに包まれた神秘のヴァイオリンの世界に足を踏み入れた。時価数億円の名器は本当にそれだけの価値があるのか?というおそれおおい疑問に始まり、続いて「真」のヴァイオリン演奏とはどんなものなのかというこれまた恐るべき疑問に挑んでいく。
 発刊当時マンゼの「悪魔のトリル」と、イザイの自作自演集が狂ったように売れた。・・・すべてこの本のせいである。

HMU 907213
¥2600→¥2390
タルティーニ:悪魔のトリル〜ヴァイオリン作品集
 (1)ヴァイオリン・ソナタ ト短調「悪魔のトリル」
 (2)「運弓法
   (コレッリの作品5からのガヴォットによる
    50の変奏曲)」より(10曲)
 (3)ヴァイオリン・ソナタ イ短調
 (4)スコルダトゥーラ・ヴァイオリンのためのパストラーレ
アンドルー・マンゼ(Vn)
レコード芸術特選の名盤。石井宏氏の「誰がヴァイオリンを殺したか」という本で唯一悪魔が宿る演奏として紹介して大ベストセラーとなった。

「 およそこれまでにもろもろの演奏家の弾いたタルティーニの「悪魔のトリル」の凡百の演奏には、音楽の精気らしいものを感じさせるものはひとつもなかった。彼らが演奏してきたものはすべて音楽の形骸の部分で、いわばダシガラであった。だがマンゼの「悪魔のトリル」はダシがらではない。生きて人の心を掴みにくる”音楽”であり、生命体である。・・・悪魔がタルティーニの枕元にもたらした音楽は、マンゼという一個の天才的音楽家の出現によって、三百年の時空を超えて、ここに再び姿を現したといえよう。」(本文より)
録音:1997年5月27‐30日、カリフォルニア





CDでわかる
ヴァイオリンの名器と名曲
田中千香士:編著 ナツメ社 
CD付き¥2100

【出版社紹介文】
 ヴァイオリンの魅力を、豊富な写真や図版とともに、オールカラーで紹介する1冊です。Part1では世界の名器を写真で比較、紹介します。Part2は監修者である田中千香士先生(元N響コンサートマスター)の魅力的な語り口による、ヴァイオリンに関する秘話です。Part3では名曲と名ヴァイオリニストの魅力に迫ります。付録CDには名曲の数々だけでなく、ヴァイオリニスト漆原啓子氏による、ストラディバリウスと他メーカーのヴァイオリンの弾き比べを収録します。
【店主駄文】
 で、上記でヴァイオリンの名器の伝説をぶち破る本を紹介したので、それでは逆に定説に基づく定番的一冊もご紹介しましょう。
 いや、それが、この本結構読ませてくれる。カラー写真満載の初心者向きのようで、かなりコアなクラシック・ファンの要求も満たしてくれるヴァイオリン本なのである。
 オーソドックスな紹介になってしまって恐縮だが、

 PART1
  第1部:ヴァイオリンの名器と名工・・・みんながよく知っているストラディヴァリウスからガリアーノやバレストリエーリまで、きれいな写真付きでそれぞれの特質をしっかり紹介してくれる。なかなか嬉しいです。
  第2部:楽器のしくみ・・・これも知っているようで案外知らないヴァイオリンの楽器としてのしくみを豊富な写真と絵で図解してくれる。
  第3部:ヴァイオリンの誕生・・・ここはヴァイオリンの歴史。これも案外知らないことが多い。
  第4部:ヴァイリンのファミリー・・・ここはまあ常識的に。

 PART2
  元N響コンサートマスターの田中千香士氏によるいろ〜んなヴァイオリンについてのエピソード。さすが経験豊かな方だけに、PART1ではちょっと頭に入りきらなかったことを面白おかしく生々しく話してくれる。コンマスの話や、ヴァイオリニストになるための話や、名器の話など、どれも面白い。

 PART3
  第1部:ヴァイオリンの名曲を聴こう・・・ここでは8曲の名曲を以下のような名手たちの演奏で実際に聴ける。結構しっかりした人選で悪くない。
1 メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲第1楽章 パールマン
2 チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲第3楽章 コーガン
3 ヴィヴァルディ:四季「冬」第2楽章 ソネンバーグ
4 バッハ:G線上のアリア サラ・チャン
5 ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番第1楽章 ズッカーマン
6 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番第1楽章 メニューイン
7 ドヴォルザーク:ロマンティックな小品第1曲 チョン・キョンファ
8 サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン ギトリス

  第2部:これだけは押さえておきたいヴァイオリンの名曲・・・第1部以外の15曲について解説。お奨めCDも掲載してる。
  第3部:ヴァイオリニスト名鑑・・・15人のすでに亡くなった大ヴァイオリニストを紹介
  第4部:聴き逃せない!世界で活躍するヴァイオリニスト・・・現役で活躍している大ヴァイオリニストから若手の日本人ヴァイオリニストまで16人を紹介。まあこのあたりはCDファンには少し物足りないところも。

 PART4
  クイズ!ヴァイオリンの名器聴き比べ ストラディヴァリでの演奏はどっち? 
 そう、これがこの本最大のお奨め。いくら「やっぱりヴァイオリンはストラディヴァリ・・・」とえらそうに言ったところで、この聴き比べをクリアできなかったらちとまずい。
 クイズの内容は、
  (1)タイスの瞑想曲をストラディヴァリ(1667年製)とヴィットリオ(1992年製)で聞き比べる。
  (2)パガニーニのカプリースの1曲をストラディヴァリ(1667年製)とガッダ(1971年製)で聞き比べる。
  (3)ラヴェルのツィガーヌをストラディヴァリ(1667年製)とヴィットリオ(1992年製)で聞き比べる。
  (4)バッハのシャコンヌをストラディヴァリ(1667年製)とヴィットリオ(1992年製)とガッダ(1971年製)で聞き比べる。
 しかも演奏者はすべて漆原啓子がこのために録音したもの。(曲は一部です)
 もし聞き分けられなければ、・・・それはそれで開き直って「ストラディヴァリなんて関係ない!」と豪語すればいい・・・かな??




第44号書籍紹介はこちら




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